第25話 勘違い
ルイ様への恋心を自覚してから、任務を一緒に遂行する機会も増え、報告会などで会う機会も増えた。
それは、嬉しくはある、んだけど……。
ルイ様が私に向けてくれる微笑みが、よりまぶしくなったような気がして、私はルイ様に微笑まれるたびに落ち着かない気持ちになっていた。
挙動不審になっていないと良いのだけれど……。
もともと輝いて見えていたルイ様が、今はもっともっと美しく、まばゆくみえる。
こ、恋って恐ろしいわ……。
密かに想っている分には許されると思いたい。
とはいえ今日は、そのルイ様に中庭に来てほしいと呼びだされていた。
〈客間〉ではなく中庭……? と不思議に思ったけれど、私は花壇に花々が一面に咲きほこる、あの空間が好きだった。
私が妨害魔法を張れば即席の〈客間〉みたいなものは作れるし、まあ問題は無い。
任務についてかな。何にせよ、お顔が見られるのは嬉しいな。
はっ、邪な気持ちで行ったら駄目かな……!?
私は恋心を持て余していて、かなり浮かれているんだと思う。
朝からアレクシアが気合を入れて準備をしてくれて、きらきらのドレスを着せて、髪もつやつやにしてくれて、自然と気分が上がる。
アレクシア、気合入れすぎじゃない……?
別に、で、デート、ってわけじゃないんだし……。
でも、ルイ様とデートができたら、なんて幸せなんだろうな、と思う。
最近、 どんどん欲深くなってきている気がする。
粗相が無いように、気を引き締めなくちゃ。
気合いを入れ直したところで、ちょうど中庭に到着すると、ルイ様が先に待っていらして、私は驚いた。
先にいらしていたことにではなく、彼が変装魔法を使わずに、そのままの姿で立っていらっしゃったことに。
「ソフィア様、こんにちは」
素顔の彼は、私を見るとぎこちなく微笑んでくれる。
何か、緊張していらっしゃる……?
何でだろう。
わ、私も緊張が移ってしまった。
「る、ルイ様。こんにちは」
緊張しつつも、しっかりと背筋を伸ばし、貴族らしくカーテシーをする。
彼が私に気づいたとき、すぐに妨害魔法を張ってくれたことには気づいていたので、ご身分を隠しているルイ様にも、普通に話しかけた。
ルイ様が妨害魔法も張れることに、もう驚くこともない。
「来てくださって、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
どこか緊張した面持ちのルイ様は、今日も一段と輝いていて、どうしようもない。
「あの、今日は任務のご相談、です、か……?」
一応言ってみたものの、任務などの物騒な話をするには、華々しいこの場所は似つかわしくない。
自信がなくなってきて、途切れ途切れになってしまう。
彼は無言で、固くなった身体をほぐすように、ゆっくりと息を吐く。
意を決したように、彼が口を開いた。
「……ソフィア・キャルロット嬢」
え……?
れ、令嬢をフルネームで呼ぶときなんて、求婚のときか苦言を呈するときくらいじゃなかったかしら。
「は、はい」
フルネームで呼ばれる意味が分からなくて、緊張しながら返事をする。
ルイ様は、ゆっくりと口を開いて、何度か声にならない声を発したあと、少し赤らんで見える頬を動かした。
「お、付き合い、……いただけませんか……?」
「へ?」
……お、付き、合い?
何を言われたのか理解できなくて、ぼんやりとした頭でこの単語の意味を考える。
……あぁ、どこかに魔物討伐に行くから着いてきて、ってことか。
危ない危ない。浮かれてるからって、自分に都合が良いように勘違いしちゃだめ、私。
「……おあいにく、私はこの後殿下に呼ばれておりまして……申し訳ありません」
この後は殿下に〈客間〉に呼び出されているので、討伐にお供することはできない。
「……そ、うです、か……」
事実を伝えれば、ルイ様はものすごくショックを受けた顔をしていた。
ん? 何で?
何故かショックを受けたらしいルイ様は、暗い表情で、何とか言葉を絞り出す。
「ソフィア様は……。アル……アルフレッド王子殿下のことが、好き、なのですか……?」
……? 何でそんな当たり前のことを聞くんだろう。
「ええ、好きですけど」
私は迷い無く即答する。
殿下のことを嫌いな人なんているのだろうか。
そもそも、嫌いと言ったら不敬罪に当たるかもしれない。そんな命知らずな人はまずいないだろう。
まあ、殿下は気にしなそうではあるけれど。
ルイ様は、さらに悲しみを深めた表情になって、苦しそうに顔を歪める。
ど、どうしたのかな。ルイ様、何かいつもと様子が違うわ……。
「だ、大丈夫ですか……?」
「……………………いえ、お気遣いなく」
大丈夫だと肯定はしてくれなかった。
体調でも悪いのかと心配になったけれど、これ以上踏み込まないでほしいみたいな雰囲気を感じて、口をつぐんだ。
あ、でも、これは言っておいたほうが良いかな……?
私はルイ様の安全のためにも、進言することにする。
「あと、恐れながら申し上げますが、そのような言い方をなさると、私以外のご令嬢は勘違いなさると思いますよ。お気をつけくださいませ」
はっきり言うのは失礼かと思って、少し曖昧な言葉をわざと選ぶ。
「お付き合い」なんて言われたら、普通告白されたと勘違いしちゃうよね。
勘違いした令嬢どうしで争いになったり、ルイ様に大勢で詰め寄ったり、何かルイ様に被害が及んだら大変だ。
「勘違い、ではないですが」
ルイ様は、驚いたように顔を上げて、少しだけ首をかしげている。
「え? そうなんですか?」
どういうこと?
勘違いでないなら、告白されたと思われても構わないってこと……?
それって……。
私は一つの可能性に思い当たって、驚きと動揺で下を向いてしまう。
ルイ様は、一夫多妻をお望み……?
貴族では、大昔には側室がいる場合も多かったと聞くけれど、現代ではほとんどの人が一夫一妻を基本としている。
とはいえ密かに側室がいる貴族も、それなりにいるらしい。
ルイ様は、多くの妻を持ちたいと思っているのだろうか。
その瞬間、黒々とした気持ちが駆け上ってくるのを感じて、思わず顔をしかめる。
……泣いては駄目。
「……そうですか。では、殿下に呼ばれておりますので」
どうしようもないくらい悲しくて、今にも泣き出しそうで、声が震えないように必死に自分を奮い立たせ、素早く踵を返す。
「あ、ま、待ってくだ――」
ルイ様が呼ぶ声が聞こえたけれど、振り返るわけにはいかない。
こんな顔は見せられないもの。
……涙、見られてないよね?
私は痛む胸を押さえながら、殿下が待ついつもの部屋に向かって、逃げるように中庭を後にした。




