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騎士様の素顔  作者: 夜星ゆき
第1章 出会い編
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第25話 勘違い

 ルイ様への恋心を自覚してから、任務を一緒に遂行する機会も増え、報告会などで会う機会も増えた。


 それは、嬉しくはある、んだけど……。


 ルイ様が私に向けてくれる微笑みが、よりまぶしくなったような気がして、私はルイ様に微笑まれるたびに落ち着かない気持ちになっていた。


 挙動不審になっていないと良いのだけれど……。


 もともと輝いて見えていたルイ様が、今はもっともっと美しく、まばゆくみえる。


 こ、恋って恐ろしいわ……。


 密かに想っている分には許されると思いたい。


 とはいえ今日は、そのルイ様に中庭に来てほしいと呼びだされていた。

 〈客間〉ではなく中庭……? と不思議に思ったけれど、私は花壇に花々が一面に咲きほこる、あの空間が好きだった。

 私が妨害魔法を張れば即席の〈客間〉みたいなものは作れるし、まあ問題は無い。


 任務についてかな。何にせよ、お顔が見られるのは嬉しいな。

 はっ、邪な気持ちで行ったら駄目かな……!?


 私は恋心を持て余していて、かなり浮かれているんだと思う。

 朝からアレクシアが気合を入れて準備をしてくれて、きらきらのドレスを着せて、髪もつやつやにしてくれて、自然と気分が上がる。


 アレクシア、気合入れすぎじゃない……?

 別に、で、デート、ってわけじゃないんだし……。


 でも、ルイ様とデートができたら、なんて幸せなんだろうな、と思う。

 最近、 どんどん欲深くなってきている気がする。


 粗相が無いように、気を引き締めなくちゃ。


 気合いを入れ直したところで、ちょうど中庭に到着すると、ルイ様が先に待っていらして、私は驚いた。


 先にいらしていたことにではなく、彼が変装魔法を使わずに、そのままの姿で立っていらっしゃったことに。


「ソフィア様、こんにちは」


 素顔の彼は、私を見るとぎこちなく微笑んでくれる。


 何か、緊張していらっしゃる……?

 何でだろう。

 わ、私も緊張が移ってしまった。


「る、ルイ様。こんにちは」

 緊張しつつも、しっかりと背筋を伸ばし、貴族らしくカーテシーをする。

 彼が私に気づいたとき、すぐに妨害魔法を張ってくれたことには気づいていたので、ご身分を隠しているルイ様にも、普通に話しかけた。

 ルイ様が妨害魔法も張れることに、もう驚くこともない。


「来てくださって、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ」


 どこか緊張した面持ちのルイ様は、今日も一段と輝いていて、どうしようもない。


「あの、今日は任務のご相談、です、か……?」

 一応言ってみたものの、任務などの物騒な話をするには、華々しいこの場所は似つかわしくない。

 自信がなくなってきて、途切れ途切れになってしまう。


 彼は無言で、固くなった身体をほぐすように、ゆっくりと息を吐く。


 意を決したように、彼が口を開いた。


「……ソフィア・キャルロット嬢」


 え……?


 れ、令嬢をフルネームで呼ぶときなんて、求婚のときか苦言を呈するときくらいじゃなかったかしら。


「は、はい」

 フルネームで呼ばれる意味が分からなくて、緊張しながら返事をする。

 ルイ様は、ゆっくりと口を開いて、何度か声にならない声を発したあと、少し赤らんで見える頬を動かした。


「お、付き合い、……いただけませんか……?」


「へ?」


 ……お、付き、合い?


 何を言われたのか理解できなくて、ぼんやりとした頭でこの単語の意味を考える。


 ……あぁ、どこかに魔物討伐に行くから着いてきて、ってことか。

 危ない危ない。浮かれてるからって、自分に都合が良いように勘違いしちゃだめ、私。


「……おあいにく、私はこの後殿下に呼ばれておりまして……申し訳ありません」


 この後は殿下に〈客間〉に呼び出されているので、討伐にお供することはできない。


「……そ、うです、か……」


 事実を伝えれば、ルイ様はものすごくショックを受けた顔をしていた。


 ん? 何で?


 何故かショックを受けたらしいルイ様は、暗い表情で、何とか言葉を絞り出す。


「ソフィア様は……。アル……アルフレッド王子殿下のことが、好き、なのですか……?」


 ……? 何でそんな当たり前のことを聞くんだろう。


「ええ、好きですけど」

 私は迷い無く即答する。

 殿下のことを嫌いな人なんているのだろうか。

 そもそも、嫌いと言ったら不敬罪に当たるかもしれない。そんな命知らずな人はまずいないだろう。

 まあ、殿下は気にしなそうではあるけれど。


 ルイ様は、さらに悲しみを深めた表情になって、苦しそうに顔を歪める。


 ど、どうしたのかな。ルイ様、何かいつもと様子が違うわ……。


「だ、大丈夫ですか……?」

「……………………いえ、お気遣いなく」


 大丈夫だと肯定はしてくれなかった。

 体調でも悪いのかと心配になったけれど、これ以上踏み込まないでほしいみたいな雰囲気を感じて、口をつぐんだ。


 あ、でも、これは言っておいたほうが良いかな……?


 私はルイ様の安全のためにも、進言することにする。

「あと、恐れながら申し上げますが、そのような言い方をなさると、私以外のご令嬢は勘違いなさると思いますよ。お気をつけくださいませ」

 はっきり言うのは失礼かと思って、少し曖昧な言葉をわざと選ぶ。

 

 「お付き合い」なんて言われたら、普通告白されたと勘違いしちゃうよね。


 勘違いした令嬢どうしで争いになったり、ルイ様に大勢で詰め寄ったり、何かルイ様に被害が及んだら大変だ。


「勘違い、ではないですが」

 ルイ様は、驚いたように顔を上げて、少しだけ首をかしげている。

「え? そうなんですか?」


 どういうこと?

 勘違いでないなら、告白されたと思われても構わないってこと……?


 それって……。


 私は一つの可能性に思い当たって、驚きと動揺で下を向いてしまう。


 ルイ様は、一夫多妻をお望み……?


 貴族では、大昔には側室がいる場合も多かったと聞くけれど、現代ではほとんどの人が一夫一妻を基本としている。

 とはいえ密かに側室がいる貴族も、それなりにいるらしい。

 ルイ様は、多くの妻を持ちたいと思っているのだろうか。


 その瞬間、黒々とした気持ちが駆け上ってくるのを感じて、思わず顔をしかめる。


 ……泣いては駄目。


「……そうですか。では、殿下に呼ばれておりますので」

 どうしようもないくらい悲しくて、今にも泣き出しそうで、声が震えないように必死に自分を奮い立たせ、素早く踵を返す。

「あ、ま、待ってくだ――」

 ルイ様が呼ぶ声が聞こえたけれど、振り返るわけにはいかない。

 こんな顔は見せられないもの。


 ……涙、見られてないよね?


 私は痛む胸を押さえながら、殿下が待ついつもの部屋に向かって、逃げるように中庭を後にした。

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