第13話 エスコート
殿下とアレクシアに見送られ、フォルト様のエスコートのもと殿下に一礼をして、廊下に出た。
アレクシアには早速簡単な調査任務に行ってもらうとのことだった。
……大丈夫かな。
調査だけなら、そんなに危険なこともないとは思うけれど、やっぱり心配だ。
何かあったらすぐに私に魔法通信で知らせるようにしてもらっているし、アレクシアを、殿下の言葉を信じよう。
フォルト様のエスコートはとにかく丁寧で、適切な距離を保ってくれていた。
「あの……、騎士様」
しばらく無言が続いて、不思議と居心地が悪いとかいうことはなかったけれど、おずおずと話しかけてみる。
「はい。ええと、騎士様という言い方は……」
フォルト様の顔が少し赤い気がするけど、嫌だったのかな? 申し訳ないな……。
「あ、失礼いたしました。何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「……どうぞ、ルイと」
あ、あれ? てっきり馴れ馴れしく呼ばないでほしい、みたいな。せいぜいフォルト様と呼べみたいな感じかと思っていたんだけど……?
「……あ、ありがとうございます、ルイ様」
戸惑いつつもその名を口にすれば、なぜかすごくなじむような心地がした。
私は貴族の方々と交流が多いとは言えないので、お名前でお呼びするのは殿下とローズ様くらいで、何となく気恥ずかしい。
「――」
フォルト様――ルイ様は、真顔で固まってしまった。
「あ、あの……?」
どうしよう、いきなりぐいぐい行き過ぎて嫌がられちゃったかな……? こんなことならアレクシアに止めてもらうよう頼んでおけば良かったな……。まあ、止められたところで、止まった気もしないけど……。
「も、申し訳ありません。粗相をしてしまいましたか……?」
「いいえ、粗相など。嬉しかったです」
私の言葉に、ルイ様は驚いてすぐに否定した。
とても綺麗な、やわらかな微笑みを向けてくださる。
綺麗だわ……。
「あ、ありがとうございます」
私は動揺してしまって、何とかお礼の言葉を絞り出した。
綺麗な顔は殿下で見慣れていると思っていたけれど、ルイ様はまた違った美しさがあるな……。いや、殿下も見慣れてはいないか。よく見惚れているし。
顔、赤くなってないといいな。
ちらりと隣を盗み見れば、ルイ様は顔を背けてしまっており、表情は読み取れなかった。心なしか耳が赤いように見えたのは、気のせいだろう。
「ソフィア様、お気をつけて」
扉を開ける際、かばうように前に立ってくれた。
殿下ならいたずらを仕掛けそうだと思ったのだろう。私も一応疑う。
「あ、はい」
何もかもがあまりにもスマートだわ……。殿下に負けず劣らず人気がすごそう。
扉は何事もなく普通に開いて、ルイ様にエスコートされるまま、中に入った。
さすがの殿下も、今はいたずらを仕掛けるときではないと思ったらしい。
ルイ様は部屋の中央にあるテーブルのところまで歩を進め、奥のソファに座らせてくれようとした。
「あ、あの、ルイ様」
ルイ様は、座ろうとしない私をいぶかしげに見ている。
「……何でしょう?」
「こちらは上座です。ルイ様がこちらに」
「いえ、私はこちらで」
ルイ様が下座に行こうとするので、思わず重ねた手を握ってしまった。
「いえいえいえ! ご身分も分かりませんし、騎士様ですから!」
「……では、私は立っておりますので」
固まってしまったルイ様は、絞り出すようにそう言った。
「そ、そんな!」
「お気になさらず」
ど、どうしよう。騎士様だから私より身分が高いかもしれないし、何より王子の側近だから、失礼があってはいけないのに……。
半ばパニックになっていた私は、よく分からないことを口にしてしまった。
「で、でしたら一緒に座りましょう!」
「……え?」
驚くルイ様の手を引っ張ってみると、びくともしなくて、私はバランスを崩してしまった。
「きゃっ」
「ソフィア様!」
ああ、こんなところでドジをするなんて……。
痛みを覚悟して、思わず目をつぶってしまう。
あれ……? 痛くない……?
背中にはがっしりとした腕の感触があって。
「大丈夫ですか……?」
ルイ様の心配そうな声に、そろりと目を開ければ、文字通り目と鼻の先にルイ様の綺麗なお顔があった。
「――!?」
「ソフィア様!?」
綺麗すぎる、近すぎる……。
ルイ様の美しさとかっこよさで完全にキャパオーバーになってしまった私は、真っ赤になりながら意識を失った。
ルイ様の声、どこかで聞いたことあるような声。落ち着くな、声まで素敵……。
なんて、思いながら。




