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騎士様の素顔  作者: 夜星ゆき
第1章 出会い編
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第12話 魔法が

「殿下、そろそろ……」

「ああ、すまないね。楽しくてつい」

 アレクシアの言葉に、殿下はこちらに向き直ってくれる。

「とはいえ、ルーもソフィアも、アレクシアも忙しいだろう。本題に入ろう」

 私は殿下に比べたら全然忙しくないけれど、問題はそこではないので、頷いた。

「今日来てもらったのは、顔合わせのためだ、と言えばわかるかな?」


 やはり。

 このお方が、あの黒い甲冑の騎士様なのね……。


 私はソファから立上がって、護衛の方のほうに身体を向け、貴族令嬢としてカーテシーをした。

「あらためまして、ソフィア・キャルロットと申します。魔物討伐の際、そして先程、階段で落ちかけた際も、助けていただきありがとうございました」

 一度ならず二度までも、助けてもらったのだ。

 心からの敬愛の気持ちを込めて、深く頭を下げた。

 護衛の方も、私に応えるように、騎士の礼をとった。

「ルイ・フォルトと申します。キャルロット辺境伯令嬢にお礼を言われるようなことは何も。騎士として、務めを果たしたまでです」

 そう言って、優しく微笑んでくれた。

 少し安堵して、肩の力が抜ける。

「ありがとうございます、フォルト様。私のことはどうぞソフィアとお呼びください」

「駄目だ」

「え?」

「いやだ……ソフィアの名を呼んで良いのは僕だけだ……」

 いや、お父様もお母様も呼びますが。ご友人も。

「戦闘をともにすることもあるのでしょう。信頼関係が無くては、連携が取りづらくなります」

「ふむ、そう言われてしまってはな……」

 殿下は納得してくれたようで、名前で呼ぶことを許可してくれた。

「まあ、ルーだしね。仕方がないか」

「……ありがとうございます、殿下、……ソフィア様」

 護衛の方――フォルト様は、嬉しそうに微笑んだ。

 その笑顔に、胸の奥が温かくなるような心地がした。

「うん。一応僕も自己紹介しておこうか。僕はアルフレッド・ライト。この国の第一王子で、魔法と剣の腕はそれなりにあると自負している。きみたちの任務に同行することもあると思う。よろしくね」

 それなりどころか王国最強では……? と、たぶんその場にいた殿下以外の全員が思った。

 殿下は多忙だから、めったに前線に出ることはないが、任務の難易度が高い場合、必要に応じて戦場に赴くこともある。

 今回の魔物活性化についての任務は、それほど危険だということだろう。


 ……気を引き締めなくては。


「それから、アレクシア」

「はい」

 殿下がアレクシアにアイコンタクトを送ると、アレクシアは、

「アレクシアと申します。ソフィア様の専属侍女を務めております。よろしくお願いいたします」

と、美しく礼をした。

 フォルト様も会釈を返してくれる。

 侍女にも礼を尽くしてくださるなんて、やはりお優しい方だ。

「アレクシアも魔法の腕は申し分ない。ソフィアとルーの補佐に入ってもらうことになると思う」

「かしこまりました」

 アレクシアも任務に加わるのね……。

 彼女の腕に不安はないけれど、彼女を危険な目に遭わせたくない、という思いもある。

「大丈夫だよ、ソフィア。アレクシアにもソフィアにも、無理はさせない」

 私の思いを見透かしたように、殿下は微笑む。

「……わかりました」

 そう言ってくださるならば、大丈夫だろう。

 殿下の言葉はそれだけ信じられる。

「うん」

 殿下は満足そうに微笑んだ。

「簡単な顔合わせはこれで終わりだよ。何か聞きたいこととか、あるかい?」


 聞きたいこと……。


 私はおずおずと、片手をあげた。

「何だい? ソフィア」

「わ、私、騎士様にお会いしたらおうかがいしたいと思っていたことがございまして……」

 たぶん、私の頬は興奮で紅潮していると思う。

「き、騎士様……?」

 フォルト様は、私の言葉に驚き、なぜか頬を赤らめている。

「き、聞きたいこととは、何でしょうか。私に答えられることだと良いのですが……」

「それはもちろん、魔法についてです!」

「……え?」

 驚くフォルト様をよそに、私はあのとき見た魔法を思い出す。

「あのときの【創造】魔法は素晴らしかったです! 一瞬にして行われた膨大な魔力の放出、その魔力をまとめて新たな物体を生成する魔力のコントロール、そしてそれらを同時にかつわずかな時間で発動できる魔方陣の組み方、どれも本当に素敵でした!」

「あ、あの……」

「私にしてくださった魔力譲渡だって、できるものは王国にも数えられるほどしかおりません! それほど高度な魔法を、危なげもなく使いこなしていらっしゃいましたよね!」

「ソフィア」

「さきほど魔力を抑えておいでだったのも初めて見ましたし、いったいどこでどのように魔法を――」


「ソフィア」


 殿下の私を呼ぶ声に、はっと我に返る。

「し、失礼いたしました」

 私としたことが、ついまくしたてて聞いてしまった。

 ちらりとフォルト様のほうをうかがえば、とてもやわらかく微笑んでいる。

「いえ……、嬉しいです」

「え?」


 嬉しい?

 何故嬉しいのだろう。気を遣わせてしまったのだろうか。


「お優しいのですね」

 私の言動を許してくださるなんて、寛大なお心をお持ちの方だ。

 嬉しくて、フォルト様に笑顔を向ける。


「……魔法が、お好きなのですね」

 フォルト様は、優しい、慈愛に満ちたような目で、そう言った。

「……はい」

 私は、ふわっと花が開くような気持ちになって、満開の笑顔で答えた。


 フォルト様は、右手で口元を隠し、横を向いてしまった。目線は左下を向いていて交わることはなく、頬は赤い。


 ……? どうしたのかな……?


 殿下は何か分かっているのかな、と思って殿下のほうを見ると、そんなフォルト様を見てかなり驚いていた。

 殿下がここまで驚いているのは珍しいなと思って、何となく目が離せないでいると、驚いた表情を崩した殿下は、伏し目がちになって、少し寂しいような、嬉しいような、複雑な笑みを浮かべた。

 私は初めて見る殿下の表情にどうしていいか分からなくなって、ただ黙っていた。


「……ソフィア」

 顔を上げた殿下は、優しく微笑んで私の名を呼んだ。

「はい」

「ソフィア、この奥の空間でルーとお茶しておいで。今部屋を作ったから」

「え!?」


 今作った!? 何もない空間に新たな部屋を!?

 本当にこの人は……やることなすこと規格外すぎるわ……。


「で、殿下?」

 フォルト様は、突拍子もない殿下の提案に少しうろたえている。

「ルイ、良い機会だから、一流の魔法使いから学ぶといい」

「……!」


 一流って私のこと? 殿下、買いかぶりすぎではないかしら?


「ソフィアも、ルーはかなり特殊な感覚で魔法を使っているから、学べることは多いはずだ」

 もちろんだ。フォルト様に聞きたいことはたくさんある。

 殿下が場を用意してくれるなんて驚いたけど、すごく感謝したい。

「はい。ありがとうございます、殿下」

「うん。きみの笑顔が見られて嬉しいよ」

 いつの間にか私の左隣に来ていた殿下は、私の頭をそっとなでる。

「で、殿下。人前ですよ」

 不意打ちで至近距離に殿下の綺麗なお顔があって、子どもにするみたいに頭をなでられてしまって、恥ずかしさで顔が赤くなる。

「良いじゃないか、ルーなら気にすることはないよ。……ふむ、別の意味で気にしたほうが良さそうだ」

 殿下はそう言うと、にこりと笑って、さらに私の頭をなでる。


 わああ、フォルト様がどんな顔をしてらっしゃるかわからないけど、恥ずかしい……!


「殿下、お戯れもほどほどに」

 私がキャパオーバーになりそうになっていると、アレクシアが止めに入ってくれた。

「アレクシア、きみは本当に有能というか、タイミングが絶妙だね」

「とんでもございません」

 殿下の手が離れていって、安堵すると同時にちょっと寂しく思った。

「ふふ、褒めちぎって動揺するところが見てみたいくらいだ」

 いたずらっぽく笑う殿下も素敵だけれど。

「アレクシアをからかうのは、いくら殿下でも許せません」

 真顔で抗議すれば、殿下は芝居がかった動きで私の頬に触れる。

「おお、ソフィア、間違ってもやらないと約束するから、かわいい笑顔をみせて?」

 私は静かにその手を払いのけて、貴族令嬢として完璧な笑みを返しておく。

「ああ、その笑みも素敵だね。凜々しくて、綺麗だ。立派な貴族だね……」


 もう駄目だ。この人何を言っても駄目だ。


「ソフィア様」

「はい」


 フォルト様が私の右隣に来て、スッと左手を差し出してくれる。


「参りましょうか」

「……はい」

 私は返事をして、フォルト様の左手に、そっと自身の右手を重ねた。

 フォルト様の微笑みと重ねた手の温かさに、少し体温が上がった気がした。

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