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139 頑張る筋肉と震える声

誤字報告ありがとうございます!

毎度恐縮です。

 

「ふー。やっぱ部屋はいいなあ。落ち着くよ。ダンジョンも別に悪くはなかった。でもいくら結界やら仕切りやテント? いや天幕ってのがあるといっても大勢の中にいるのは緊張するよなー」


 ダンジョン都市に来てからお世話になっているいつもの高級宿の部屋に戻ってきた。

 ソファーに落ち着いて誰に言うでもない、それとも誰かに聞かせたい独り言を、割と普通に人としゃべる程度の声で発する。

 ちょっとした現実逃避だな。

 ああ、一人だったら独り言言わないのになー。


 ◇


 ダンジョン。あれからちょっと大変だった。精神的な方面で大変だった。


 ダンジョン村の全員がばーちゃんの国に行くことになったので、引っ越し準備が終わったやつから順次ばーちゃんの国に行くように【聖女の願扉】で送り届ける。まあ、送り届けるといっても俺はただスキルを使ってただつったってただけですけど。扉の先ではばーちゃんの国の人たちが受け入れ準備をしていて、どんどん受け入れていった。


 ロイヤルキッズはばーちゃんの国の優しそうなエルフのお姉さん2名と鬼人族のお姉さん1名が面倒を見てくれることになった。最初は嫌がっていたくせに、お姉さん達に軽くヨシヨシされ、お菓子をもらって抱っこされたらコロッと意見を変え、ばーちゃんの国――妖精さんの国でお世話になることにしやがったよ。

 ダメダメ言う俺よりヨシヨシ甘やかしてくれるお姉さんは最高だろうよ。たぶん。


 村人達と入れ替わりに数名がばーちゃんの国からダンジョンに、というかばーちゃんの下にやってきた。

 ばーちゃんはもう少しダンジョン都市に残るんだそう。この都市をもっと上手に活用するとか言ってるよ。こわいねー。


 ばーちゃんの準備が終わったので


「じゃ、せーちゃんっ。ダンジョン都市のあの貴族の館までお願いねっ」


 ダンジョン都市の貴族の館と聞いて一瞬あの落とし穴部屋を浮かべたがそれを振り払い、玄関ロビーに【聖女の願扉】をつなげた。

 全員で貴族の館に入って、ダンジョン側をよく確認してから【聖女の願扉】を閉じ、ようやく一段落ついた感じ。


 ばーちゃんや俺たちに気づいた貴族の館の人たちがぞろぞろとお出迎え。

 あの貴族がいない。でもなぜかハルトやダンジョン都市に一緒に来た北大陸の冒険者達までいる。

 そしてさらになぜかばーちゃんの前に横一列に並び


「「「サー・マム! 無事のご帰還何よりでございます!」」」


 ビシッと敬礼をしてなんか言ってる。

 サーって何。マムって……。


 俺がドン引きしていても会話は普通に流れていく。


 え、何が起こってる?


 なぜかばーちゃん、ハルト達のことをすっかり統率している?


 いったい何があった……いや、興味を持つのをやめよう。下手に突っ込んで藪から蛇だか棒が出てきてはこっちに飛び火する。ここは流す一択だな。知らないふり、もしくは見なかったことに、あるいはこれが普通で日常だ、……ということにしておこう。


 ……あー、ダメだ。なんかうっかり聞いちゃわないか不安! 何があったんだよ! 気になるだろう! けど我慢っ!


「ええ。それで、ダンジョン都市内の状況はどうかしら?」


 このそろった敬礼からの堅苦しい報告を当然のように受け、さらに普通に? 会話を始めるばーちゃん。そこに笑顔はない。統治者の顔だ、たぶん。

 え、笑わないの? ここ、笑うとこじゃないんだ……。


「安定方向に落ち着いております! 一部暴徒化しましたが速やかに制あ……鎮圧完了いたしました!」


制圧も鎮圧もどっちも物騒な単語なんだからわざわざ言い直ししてまでそんなかわらんて。


 やばい。涙出てきた。

 呼吸が震える。うっかり声が漏れたら爆笑してしまう。

 我慢だ。聞き流せ! 無を感じろ!


「そう、ご苦労様。こちらは大体のことは終わったわ。あとはここを管理できる人材ね。うまくこの都市を運営できる文官や荒くれ者を押さえられる騎士かしら? それらが決まるまでしばらくわたくしがここに残るわ」


「「「イエス・マム!」」」


 そういうことらしい。


「ぶふごふっ……あ、えっと、こほっ、失礼。じゃあ俺はお邪魔になっちゃうのでこれで」


 ちょっと吹いちゃったけど、概ね我慢できた、セルフフォローも完璧。と、思う。

 でももうこれ以上は無理だ。それになんか関わるの恐いからここは速やかなる撤退だ。戦略的撤退ってやつだ。俺の口輪筋と腹筋がそろそろ崩壊しそうだもんで。


「あら、せーちゃん、どこいくの?」


 ぬるっと撤退したかったのにそれはできなかった。

 ハルト達の視線が痛い。

 その視線で突っ込み待ちなのがわかってしまった。俺が突っ込めば解放されると思っているのかもしれない。

 いやいや、普通に解散でいいじゃんか。何してんだよ勇者さん。


「ばーちゃん。俺はこのダンジョン都市にはただ莫大めな現金を稼ぎに来たんだ。その用事も終わったから次の場所に行こうかと思って」


「次の場所って?」


「まだみんなが行ってそうにない場所かなー? 南大陸とか?」


「……まあ、それは……。う、うん、そーよね! せーちゃんも男の子だものね! だいたいの男の子は冒険者に憧れて、冒険者になったら“俺は南大陸で大冒険するんだ!”って小さいときはみーんな言うのよ? まだ見ぬ大陸での大冒険に憧れるものだものね」


 ぬるく穏やかな視線を孫に向けるばーちゃん。

 なにその中二病よね。わかってる、おばーちゃんわかってるから。大丈夫だから……みたいな口調と眼差し。

 ふっ、そんな生ぬるい雰囲気出したってこっちは「えへへ、ぼく異世界から来たからよくわからないよ」的な雰囲気で乗り切れるんだからね!


「へー。ここではそんなふうに言われてるんだ。やっぱりばーちゃんトコの情報でも南大陸はまだ見ぬ果て大陸扱いなの?」


 孫として純粋な疑問と眼差しを祖母に向ける。

 ばーちゃんは「うっ」と後ろめたそうにまぶしげに呻いた。

 何やってんだよ。孫からかってブーメラン。普通に簡単に自爆じゃねえか。世界的に魔王とか影口叩かれてる人のやることかよ!


「え、ええ。そうね。……わかっているのは少なくともひと月以上海を進んでも陸は見えない。ふた月も進むと海流が変わって進むに進めなくなるということかしら?」


「ふーん。人魚とか魚人とかの行動区域に入ってけん制でもされたのかな?」


「え?」


「あっと、ほら、普人族が多い国の森に住むエルフとかがよく普人族が森にこれ以上進まないようにって迷いの森みたいな幻を作る魔法みたいなのかけるイメージあるんだけど、そんな感じで海に住む獣人がそういう感じのするんじゃないのかなーと」


「あ……」


 とても儚そうに気づき、驚きをみせるばーちゃん。

 え、なに。自分たちはリアル迷いの森とか作っといて他の種族はそういうのしないと思っていたのかな?

 すかさず俺は祖母にジト目を向けるよね。


「えーっと、うん。まあ、長く海の上にいるのも飽きるし、そもそもそこまで南大陸に興味あるわけでもないし? うん、そうなの。ほら、おばあちゃんこれでも王様だし、一つのことにかかりっきりになるわけにもいかないものね? 予算とかほら、あるじゃない?」


 ギャンブルは予算に入りますか?

 北大陸のカジノでずいぶんはっちゃけていらっしゃいましたが。


「うん。そうだよね。でも妖精族の中でもエルフ族は気長だって聞いたことあるけど。しかも海に強い憧れを抱く海エルフっての? あーゆーお方たちに頼めば……まあ今言っても過ぎたことはしゃーないか」


 北大陸の港で見た、すっごい頑張って日焼けしてめっちゃ頑張って筋肉つけてムッキムキになった暑くて熱くて厚い自称「海エルフ」。

 本来海エルフなんてモノはいないんだけど、ダークエルフの褐色の肌とガチムチの筋肉に憧れ、でも「自分らダークエルフになんか憧れてねーし、海エルフだし」って雰囲気を出してカラ回っているあの“海エルフ”。とくに若いエルフにそんな傾向があるとかないとか。定かじゃないけど。


「はうっ」


 ばーちゃんが撃沈した。

 大丈夫かな。ばーちゃんが王様してる妖精さんの国。

 生粋の妖精らしいばーちゃんがいろいろ途中で飽きるから妖精から派生した妖精族の真面目なエルフさんたちが割をくってそうだな。


「まあ、行ってみるよ。ダメだったらばーちゃんのとこ行くよ」


「え、ええ。そうね。あ、じゃあ一応こっちからも人を出すわ。外交とか必要かもしれないし」


 えー。

 気楽に仲間内で行こうと思ったんだけどー。

 知らない人とか気ぃ使うじゃん。

 やっとたくさん知らない人がいる状態(ダンジョン村での待機)から解放されたのに。

 いや、今はばーちゃんの国の人たちっていうこれまた知らない人たちが多くいる中にはあるんですけどね。なのでまだなかなか気が休められていない。


「……海エルフは嫌だよ?」


「……ごめん。何人か乗組員で入れさせて」


「あ、うん」


 なんか急に南大陸とか別に行かなくてもいいかなって思ってきたかも。俺の心は割とチョロ目にすぐ萎えるのさ。

 あと、視界の端にまだ直立して並んでいる知ってる人たち。うん。今ならなんだか心が温まりそうに……いや、ダメだ。直視するとまた笑いそうになる。


「んー、明後日くらいまでには人を揃えるから、それまでせーちゃんはゆっくりしててね」


 ということで、俺は久遠の騎士達(アーシュレシカ、シェヘルレーゼ、それからしれっと居たロボ型配下久遠の騎士ヒューイと妖精型配下久遠の騎士ピクシー=ジョーと小鳥型配下久遠の騎士シエナ)とシロネを連れてホテルに戻るのでした。


「っておいっ! いつまでオレ達を放置すんだよ?!」


 ってな感じでさっさと貴族の館から出ようとしたらハルトの方から先に折れたので、仕方なく俺はハルト達もつれてホテルに戻り、ソファーに落ち着いてから盛大に愚痴のような独り言をはいたのでした。

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