137 シロネ10 商談はダンジョンの中で 後編
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大まかな話し合いの一時間後には集落各所に集会所に集まるように通達され、二時間後にはおにぎりと、ついでとばかりに樽ワインを放出し、一人コップ一杯ずつが配られました。おにぎりはなるべく好みに沿うものを配ることができました。
えり好みして配れる程度には種類も豊富に持たせてくれたセージ様に感謝ですね。
「さて皆様。私は商人です。今回はご挨拶として皆様におにぎりとワインを提供いたしました。そしてここからは商売をいたします」
「こんなところで商売だと?」
「みなで分け合うべきではないのか」
「でしょうね。そうなると私だけが皆様に施しという形でおわけすることになるのですが、という言い争いに発展しそうなことはさておいて、皆様がお持ちの食べられないドロップアイテムをダンジョン都市の冒険者ギルドや探索者協会と同じ金額で私が換金します。そのお金で私から商品を買いませんか? という提案をさせてください」
強気、それはシェリちゃんから学んだことの一つ。
時と場合によるけど、今がその時と場合だと思うのです。
獣人は悪気なくなあなあになりがちですからね。
ここを出ても『あのときはああだったんだからいいじゃねえか』で済まそうとする癖があるのですよね。まあ、人族にも普通にいますね。
「適正価格で取引をしてくれる、と? それを信用しろと?」
「そうですね。私がギルドで聞いてきた取引金額を書き留めたものがありますのでそれを参考にお取引できればと考えております。なお、リストにないものでも交渉次第でお取引しますよ」
「ふうううむ……」
「それと、私を迎えに我が主が数日中にこちらに来る予定なのですが、そのときまで大事にとっておいて外で換金という手もありますね。どちらでもかまいません」
強制はしませんとも。
「はっ、迎えだと? こんなところにか。出口なんてあってないようなものだ。落とされた天井高くにある穴ともう一つの出入り口は先が見えないほど高い場所にある。迎えが来たところでどうやって出るって言うんだよ!」
え、そうなんですか?
先が見えないほどとは聞いてませんでしたね。
あとであの代表さんたちともう少し詳しくお話ししないとですね。
「我が主なら空飛ぶ乗り物も所有してますし、魔力も高いので出口まで道を作ることも可能だと思います」
セージ様、結界得意ですもんね。あの結界で階段作れたりしませんかね?
「こっちにだって魔力の高いエルフがいる。そのエルフですら魔力が持たずに出口までたどり着けなかった。無理だよ、あんたの主人がたとえ魔力の高いエルフだとしてもな」
「そうですか。ここからの脱出方法は我が主が考えると思います。そうでなくとも食えないドロップアイテムの換金には応じますし、食料は格安でお売りします、というお話です」
「みな、シロネ殿は食料を売ってくれるほか、ここにいる間はこの集落の周辺のゴーレムの討伐も行ってくれるそうだ」
集落はゴーレムが出にくい場所に作られてはいるけど、迷い込んでくるゴーレムもいる。
集落の人たちでゴーレムは倒しにくいのでなかなかの脅威になるらしいのだ。
集落内にある武器も限られているので、武器クラッシャーであるゴーレムはできるだけ避けたいもの。
「あ、あんた、ゴーレムを倒せるのか!?」
「ええ、ここに来るまでの間全てどのゴーレムも倒してきました」
だからワタシから食料を奪うようなことはしないほうがいいですよ、と暗に言っておきます。
「本当だ。俺たちが一緒にいたからな」
「そんな……」
「だったら本当に俺たちはここから出られるかもしれない、のか?」
「万が一、出ることがかなわない場合もあります。それも踏まえて換金するかどうかお考えください。こちらは物々交換にも応じる用意はありますが、これ以上無償で食料をお配りすることはありません」
「戦えないものもいる。手持ちにドロップアイテムがない場合はどうすればいい」
「普通にお金もないのですか?」
「ここに落とされたときすべて剥ぎ取られた者もいるからな」
あの貴族、ろくなことしませんね。個人の持ち物をとるほど逼迫した家計の事情でしょうか。
ああ、それかそこで働く者達が勝手に取り上げたか、ですね。どちらもありえますね。
「失礼ですが、戦えない方々はただただ戦える方々に養ってもらっているのでしょうか?」
「いや、食料をもらう代わりに雑用をしたり、だな」
「なるほど。それは――」
胸くそが悪くなるようなことがここでもおきているということですか。
あえての搾取か無自覚の搾取か。
集落全体で助け合って生活している?
戦えないものは戦えるものの小間使いとして使っていて食料だけ?
食料分け与えてるんだからそれでいいだろうということですか?
ドロップ品も分けるべきでは? はっ、こんなんでワタシに食料すべて皆で分けるべきだと。ほーん。やはりお話は必要ですね。
じろりと代表達の方へ視線を向けると、数人が目をそらします。
なるほど、わかってて搾取していた方もいる、ということですか。
「いや、そういうもの達の金は我々が出そう」
「いえいえ。よーくわかりました。そういうことなのでしたら仕方ありません。ここにいる間の食料は無償でお配りいたします」
「よろしいのか?」
「ええ。私にわけあえばいいとおっしゃるくらいなのですからてっきり私は食用外のドロップアイテムも集落内全員で分け合っているのだと勘違いしておりました。そうですか。戦えない代わりに村の雑用をしている方々には食料だけしか「与えて」なかったのですね」
にーっこり、笑顔で言います。
ここは長年閉ざされた集落です。すでに変な慣習ができあがっていてもおかしくはありませんね。
ああ、嫌な部分が見えてしまうと急に萎えますね。獣人としては強いものが偉いっていうのはわかりますが、ここでそれをしてしまうのですか。
一部、ワタシの雰囲気が変わったのを察した方達がわざとらしい笑顔の意図を察して目をそらしたり、ワタシの笑顔をそのままに受け取り、喜ぶ者とそれぞれ。
喜んでいる方々は搾取されていると気づいていないと思われる純粋な人たちだ。
こんな人たちを平気で「してやってる」風を吹かせて搾取していたのか。
まがりなりにもワタシは商人。怒りが出てしまわないように、営業スマイルを常に貼り付けておきましょう。怒らないようにスマイル、すまーいるです。
それから代表たちと改めてお話とお取引をしました。代表の方達が換金希望者分の換金をまとめてくれるそうなので、それを後でワタシが一括で換金。食料は毎日一日分をまとめて配布。魔法鞄から出してしまうと悪くなってしまうものもありますからね。特に今回はおにぎりを大放出する予定です。おにぎり好き増えたらいいな、とちょっと思っています。希望者にはお野菜も。種族的に必要な方もいますからね。飲料は近くに湧き水があるらしいので大丈夫そうです。
あと少ないですが布や衣料品もいくつか。これは子供や本当におんぼろでぼろぼろの服を着ている人にまず分けてくださいと念押ししました。
「それと、大変失礼ではあるのですが、我が主、セージ様には挨拶のみでとどめていただけないでしょうか?」
「……なぜだね」
「人と話すのが苦手なお方なのです。ご機嫌を損ねてしまうと私だけを回収してすぐにここから出てしまう可能性があるのです」
「そんなに気難しい者なのか」
「どうでしょう。子供と妖精族には大変好かれますよ」
「それは……」
「ああ、詮索はおやめくださいね。そういうものだと思ってください。それとセージ様の側仕えのお方達ははっきりと気難しいのでご注意を」
「む……」
ここまで意味深なことを言えば大丈夫でしょう。
実際セージ様はこの人達を見捨てるようなことはしないでしょうが、セージ様にぐいぐい近寄ったり、調子に乗って無茶なことを言わないでほしいですからね。なによりセージ様を困らせるようなことをしたらワタシが許しません。……ワタシ以上にアーシュ君がやり過ぎないか心配ですね。
そんなこんなで数日後、割と早くセージ様とアーシュ君がお迎えに来てくれました。
やはりセージ様のお側はほっとします。
そのすぐ後になぜかララリエーラ様とシェリちゃん達もお迎えに来てくれました。このダンジョンからの脱出、なんだか思った以上に大事になってしまいましたね。




