129 まぬけな運命
「中央大陸の聖王城くらいはあるんじゃないか?」
「たかがいち領主の住まいとしてどうなのでしょうね」
アーシュレシカの相槌が辛め。
ここの私兵も多いからかな。
ぐだぐだハルトに言い訳してましたけどもね、結局はやってきました領主城。
あれからすぐ、シロネから連絡があった。
すぐといってもハルトが自分の宿に戻って、アーシュレシカが夕方になって出先からこちらに戻ってからだから……まぁ、ハルトが来た当日中ということで。
あれだけ頑張ってここにこない言い訳したのに。
あのあとアーシュレシカのスマホに連絡が来たんだ。
『申し訳ありませんッス! 迷子ッス!』
意味不明ッス。
「ダンジョンに放り込まれたようです」
アーシュレシカが通訳してくれた。
こちらはアイラ経由で多角的に情報を得られているみたい。
なんか領主さま、思い通りにならないシロネをダンジョンに放ったらしい。
高レベルで多スキル持ちのシロネをダンジョンに放り込んだだけでもすごいな領主。
領主がシロネをダンジョンに放ってマウント取りつつ高みからニヤニヤしている間にアイラがアリストリアさんとアリストリオ商会の従業員さん達を救出。
申し訳ないことにアリストリアさん達を巻き込む形で領主とは全面戦争になりそうだ。
てかもしかしてまさかもう既になってたりする?
「問題ありません。どのみちこの領地がこの国に属している限り、ララリエーラ様の支配下に置かなくてはなりません。それが早まっただけのことです」
なんてアーシュレシカが言ってた。
物騒。
あ、しつこいかもしれないけどララリエーラってのは俺のばーちゃんの名前ね。一応ね。
この国は安定するまでしばらく、ばーちゃんの属国にするらしく、一応この国名義の領地であるここもばーちゃんの手が入る予定ではあったんだ。
でもここはあまり他種族にひどい差別はないからと後回しになっていた。
でも差別はあった。この国の他の地域よりはマシってだけだったけど。
獣人が種族として使い勝手がよかったから使い倒しているっぽいんだよな。ブラックな環境で。
でも獣人たちは仕事が欲しいから従ってる。
仕事が欲しい理由はお隣獣人国の食糧事情が関係している。
獣人冒険者は他国に出稼ぎに行くしかない程度には逼迫しているようだ。
というのを獣人国のマップ情報誌から得た。
あれ。これアレだな。
下手な諜報員よりマップ情報誌で全部いけちゃうな。
一応俺もただゴロゴロしていた訳じゃないんだよ。
次どこいった方がいいかなー、と周辺国のマップ情報誌買って読んでみたりしてたんだよ。
ゴロゴロしながら。ながら読み的な。
この世界どーなってんの?
もう詰みじゃね?
どこもかしこも食糧不足。かといって人で溢れているわけでもない。魔物がいる世界だから死亡率が高い。
そもそも異世界から聖女喚ばなきゃ回らない世界なんてどーかしてる。
異世界召喚なんていうものがあるくらい異世界人ありきの世界なのに異世界人を迎え入れる感じではないんだよね。
とりあえず俺達を召喚した国はもうトップのすげ替えや悪政排除くらいはされているだろうし。もう少し頑張って食事改善までやってほしいところ。
「はあ。関わりたくない」
城門前まで来て往生際が悪い自覚ありますよ?
率先してぐだぐだグチグチいいますよ。
「速やかなる武力制圧でセージ様のご負担を最低限にいたします」
そう、そういうとこだぞ、アーシュレシカ。
穏便というものを覚えようか。
アルカイックスマイルをたたえた眼差しでアーシュレシカをみやれば、キリッとした顔で頷かれた。
なんでだよ。
「穏便に、だぞ」
声に出して言ってみたら
「?」
首をかしげられた。
なんか、もういいかなって思った。
時には諦めることも必要だ、って言葉があることを思い出した。
「ほう、お前があの女狐の主か。ケモノ臭そうなナリよのう。ケモノ臭に加えて貧乏臭くもあるなあ。ああ、臭くてたまらん」
おお。言いえて妙とはこのことか!
違うか!
確かにシロネって狐の獣人だったね!
最近ヒトとか獣人とかなくてシロネという生き物として認識してたからなんか新鮮。
目の前には領主関係者らしきお兄さん。
領主本人ではないらしい。
息子とかそんな感じだろうか。
偉そうだし。
あ、偉いのかな。領主の息子。
アーシュレシカと二人で乗り込んだら客間に通された。
意外に待遇がいい。
お茶もお菓子も出ないけど。
粗茶すら出せない程度にはお金に困ってるのかな?
そのわりには兵士が多いし、城の内装も下品なくらいきらびやか。
……これ全部城ごと【異世界ショップ】のチャージにインしたらどのくらいなるかなー?
ただの興味として。
「セージ様、感動しているところ恐縮ですが、この失礼な態度の不届きモノ、ブッコロしましょう」
うん、たぶん失礼な態度取ってるのは乗り込んできたこちら側で、不届きモノもこっち。ダンスしましょうみたいな発音とノリと言い方でブッコロ言うんじゃありません。
ときに、ケモノ臭そうなナリとはなんだ?
アーシュレシカチョイスのネコミミ付きフードローブ着てるからかな?
だからってケモノ臭そうとはどういうことか。
「いや、こっちは朝晩現代洗浄液をガッツリ使用して洗髪洗顔洗体をへてからの入浴してるし、衣類もきちんと洗剤で洗濯してしっかり乾いているものを毎日朝晩着替えて清潔だし、においにも気を使ってるぞ? お宅より。あとカネもある。お宅より」
高校生に向かってにおいを話題にするんじゃありませんよ。
まったく。
必要以上に反論しちゃうじゃんか。
「さすがセージ様。相手の心を逆撫でる余計な一言、大変素晴らしいです」
やだ。俺ってば久遠の騎士にヨイショ風にディスられた?
俺の返事とアーシュレシカと俺のやり取りに、顔を真っ赤にしながらブチギレたっぽい仮定領主の息子が唾を飛ばしながらなんかよくわからないことを怒鳴っている。怒鳴りすぎてなにいってるかわかんない感じ。そんな感じで兵士をこちらにけしかけた。
あれを聞き取れた兵士すごい。
で、こちらに剣を向け、かかってきた兵士たちは、当然ながら結界に阻まれるわけです。
そしてこれまた当然、阻まれたからには兵士たちもたぶん主である仮定領主の息子共々わめき散らしております。
似た者主従ってやつかな? やだコワーイ。
「でもさー、ここまでホイホイついてきちゃってナンなんだけどさ、やっぱおかしいよなー」
今さら気づいたアホは私です。
「こいつらの頭ですよね。存じております」
久遠の騎士の俺への擁護がときにツライ。
「おい、火に油」
ツラさをバネにあえて仮定領主の息子を小馬鹿にした態度をとる。
こちら、なんとも思ってませんよ風を装う。
あえて罠にはまりましたよ、と強がるんだ。
大丈夫、鼻の奥がつんとして、鼻水が出そう。
そう、気づいちゃった。
なんでこの部屋の装飾品やチェスト類が仮定領主の息子が座るソファー側に片寄っているのか。
なぜこちら側の装飾品が壁にのみなのか。
「恐縮でございます」
コイツは気づいていたんだろうか?
気づいていたとしてもどうでもいいとか思ってそうだな。
久遠の騎士の身体能力ならどんなことでもなんとでもなるもんなー。
「……。こういう沸点低いやつがわざわざ俺達を応接室のような部屋に招き入れることが、だよ」
あー、「なんだか待遇いいな」とか思ってたちょっと前までのアホな自分が嫌になる。
「ふん、気づいたか。だが今更だ。もう遅い」
俺と仮定領主の息子の言葉がここにきてやっと噛み合った。
仮定領主の息子が、セリフと同時にやつが座っていたソファーのひじ掛けの細工をカポッとはずすと、そこにはレバーが。
そのレバーをやつが手前に引くと、俺達の足元の床がポッカリと消えた。
どうやら俺達はこれから座っていたソファーごと下に落ちる運命のようだ。




