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チートを望んだ男の日記 2年目

「チート」それは人を惑わす甘い響き

ねえ?君のチートは君自身がチートなのかな?

6月29日

 異世界に来てからなんだかんだで、1年が過ぎた。

あれから魔王退治やらが忙しくて日記を書くのを忘れちまってたな。まあ、本当の所は書くのが面倒だったのもあるけど。

 

 あー、そういやその肝心の魔王だけど、魔王とか名乗ってた割には俺がデコピンでちょっとつついただけで死にやがった。流石に弱すぎて拍子抜けしたっけなー、いやまあ俺が強すぎたんだろうなとは思うけど。


 それから魔王を退治した後は、アンリやヘナと「世界の英雄」という称号までついて、国中を挙げてパレードが行われた。それから色々あったけど久々に日記のことを思い出して書いてみる。

 せっかくだし、またボチボチと書いてみますか。



6月30日

 日記を書いていなかったから文字にするのも面倒だけどまとめておく。


 俺達は魔王討伐の後、俺の力で王国の民に様々な技術を教えていったことにより今では王国や周辺の街も十分に発展してきていた。近々、アンリとヘナの指導のもとで魔法学院も造る予定だ。


 まあ、そんな俺の活躍に感動している国民の間では俺を新しい王様にしようという声がかなり大きくなってきてる。一応、謙虚に断っているが、どうやらそれがまた俺の評判を上げているみたいだ。

 いやー参ったね!



 あの偏屈な王様も立場ねえなー、可哀想に。



7月2日

 そういえば技術のことだが、ちょっと気になることがある。

 国の奴らに技術を教えているのは良いが俺が元いた世界並みの技術を教えようとしたら何故か出来ない。というより皆さっき教えたことを忘れてやがる。


 どういうことだ?元々の文明が低いから高度すぎたら追い付けないのか?

 何回かは試してみたが駄目だったので、もう少し考えてから他の方法を試してみるか。



7月6日

 今日は城からの使いってのが、訪ねてきた。なんでも王様が俺に直々に話しがあるとか。


 へっ、遂に俺の活躍を認めやがったのか!あの偏屈な王様め!


 まあ、せっかく王様直々のご指名だし、仕方ねえから明日はちょいと城に行ってきますか。

 日記はまた帰ってきてから書くことにするわ。




7月9日

 意味が分からねえ……。




7月16日

 落ち着いてきたので日記を書く。


 王城に着くと相変わらず王様は俺に厳しい顔をしていたが着いて来いと俺を自分の私室に案内してきた。正直、殺されるんじゃねえかと少し警戒したが……。

 警戒している俺とは違い王様は気にせず箱から宝石のような物を取り出した。


 なんでも記録を残せるクリスタルだとか。このクリスタルで世界の真実を見せようと言ってクリスタルが光り出して……。ああくそ!まだ落ち着かねえ、また明日に書く!



7月17日

 俺は見た……。

 クリスタルで見た光景は今まで俺が教えてきた技術よりも更に上の技術が国中で使われている姿を!

 

 魔法が使えないと言っていたアンリやヘナが!

 いや、それだけじゃない!国中の奴らが当たり前のように魔法を使っている姿を!


 クリスタルで見た国は、今よりも技術も何かもかも上で、今の国とは段違いの差だ……。最初は俺が教えた未来の姿かと疑ったが王様は俺を睨みながらこう言った。



     「これはお前が来る1年前の国の姿だ」




7月18日

 昨日の続きを書く……。

 王様は言った、お前が来る1年前に女神と名乗る女が現れ「これから異世界より勇者様が参ります。勇者様には、この世界で快適にお過ごし頂く為にも皆様には申し訳ありませんが、皆様の持つ文明や技術、知識を退化させます、また世界の人々は勇者様を褒め称える素晴らしい存在に致します」と。


 もちろん王様や国民は驚き反発した、しかし女神は、有無を云わさずに世界から文明の殆どを奪い去ってしまった。

 人々の記憶も書き換えられ、過去の記憶を残すのは奇跡的に記憶が残った王様ただ1人のみになってしまったと。


 はは、なんだそりゃ、つまり女神は勇者である俺が無双する為に、この異世界は俺に都合の良いように書き換えられたってのか……。

 そして王様は、たった独り記憶を保持して俺が来るのを待ち構えてただだと……?

 なんだよそりゃ?意味が分からねえ……。


7月19日

 あの王様は最後に言いやがった。

「お前はチートと言われるスキルやらで、この世界に技術を産みだし文明を発展させてきた。だがそれらは初めから我々が持っていたものだ。お前は誇らしかっただろうが我々からしたら元の技術や文明が元ある場所に戻ったに過ぎない.」


 そして王様は溜息をついて小声で呟いた後、哀れみのような怒りともとれる顔で俺を睨みつけ

 「お前の為に世界の全ては狂わされた、この苦しみは、お前には分からんだろう」

 

 そう言って王様は俺に城から出て行くように告げて何も言わなくなった。俺は反論したかったが頭が混乱して黙って従うしかなかった。


 でも、なんなんだよ!確かに俺は女神に異世界で無双して気持ちよくなりたいと言った!だがこんなの俺は知らねえ!

こんな事実を知らされたって、どうすりゃ良いんだよ!




7月28日

 暫く経って王様が死んだと聞いた。話によると病死らしい。

 でも真実は違う、それを知っているのはもう俺くらいだろう。

 



8月3日

 王様に世界の真実を知らされてから俺の日常は崩れていった。

 身近に居るあいつらは、いつもと変わらず俺を褒め称えてくれる、前の俺なら嬉しくて堪らなかった。


 だが今は冷静に考えてしっかりと見えるようになってきた。


 あいつらは笑顔で俺を褒めるが、そこには感情がない。目には生気という光が無いばかりか、まるで俺を褒めることが義務付けられている様だ。


 そうだ……、まるで機械の様に俺を褒めることしかしない。


 それを実感してからは褒められて過ごす日々に対して俺は段々と恐怖を感じてきた。



8月8日

 俺は遂に耐えられなくなり国の南にある最果ての森奥深くの洞窟に隠れている。

 もう関わりたくない!誰とも誰にも......、助けてくれ!



8月14日

 あれから6日が経ったが森のどこかでアンリとヘナや皆の声が聞こえる。

 俺を探しているのだろう。けど、言葉では心配しているが前のように声には感情がないのが分かる。

 それは俺個人を欲するのでなく、あくまで歯車が俺という機械を欲しているかのようだ。




月 日

 何日経ったんだろう?ろくに何も食べてない。それなのに不思議と腹は空かない……。

 これもチートスキルによる恩恵なのだろうか。はは、今頃、役立つのも変な話だな……。



月 日

 退屈でも良い、元の世界に帰りたい……。



月 日

 あーそうか!思い出した。

 俺は確かに「チート」と言った、最強じゃなく「チート」って……。

 つまり女神は俺の「チート」という言葉通りに世界を作り換えやがったんだ……。はははっ、本当に俺の言った通りだから、願いを叶えたあの女神は嘘は言ってねえ……。

 でもこんなんじゃない!俺が夢見てたのは、こんなんじゃないんだ!



月 日

 俺は最後の望みをかけて女神に呼びかけ祈ったが、遂にあの女は俺の前に姿を現すことはなかった。

               


        「何も出来なかった」



 そうだ。俺は城から帰った後に、国中の奴らの記憶を戻そうと何回か試してみた。だけど、今ある俺の スキルでさえも、あいつらには何も効果がなかった。

 __俺には何も出来ない、元の世界に帰ることも、この世界を元の姿に戻すことも。



月 日

 皆の声が聞こえない。俺を探すのをあきらめたのだろうか?

 ひょっとしたら俺が離れることで全てが元に戻ったのかもしれない。

 少し期待してみたが、何も変わっていなかったらと想像するだけで怖くて戻れない。

 もうここで過ごしていくしかないんだろうな。



月 日

 隠れていた洞窟の奥を見に行くと朽ち果てていた誰かの遺体があった。

 そいつも日記を書いていたので分かったがコイツも転移者だったらしい。


 日記の中身は――、俺と同じだった……。


 ああ、嘘だろ……。


 コイツも同じ様に恐怖を感じてここに居たらしい。


 俺が愕然としていると、ふと王様が俺に真実を話した時に小声で呟いていたのを思い出した……。

 

 「――あの時の再来だ」



月 日

 もう何日経ったか何ヶ月経ったかも分からない。もう怖さと寂しさともう訳が分からなくなってきた。

 チートなんて言うんじゃなかった!こんな異世界に来るんじゃなかった!


 助けて!女神様!チートなんて言いませんからお願いします!




月 日


 嫌だ!頼む!誰か助けて!!お願いします!お願い……!




月 日

 

 いやだいやだいやだいや



月 日

 

ごめん

         ごめん なさい


      ごめん


          許して




月 日

 さみしい 


    やだ




月 日

  

  おれ は


           つか れ た




月日

 もうなにも考えたくない 頭がぼーっとする

 おれはこのさきどうなるかも分からない 

 このにっきもこれで最ごにしようと思う  そういやこの にっ記になまえもつけてない 


 ははっ もう どうでも いい 

 でも でももし この日記に名前を付けるのなら 




「何でも出来るが何も出来なかった勇者の日記」





読んで頂きありがとうございました。

暗い話で批判もあるかもしれませんが、とりあえずこれにて完結です。

この話はチートを題材として、チートの意味であるプログラムを不正改造するみたいに、転移した世界や人が実は都合の良いように改造されていたらと思い書いてみました。

ジャンルはホラーにしよか悩みましたがそこまでインパクトも無いので、とりあえずハイファンタジーにしています。

*ホラージャンルに変更しました。

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