03 執事のオレ -靖也Side-
もうすぐ、新年が訪れようとしていた。
一般家庭の正月ならば、家族でのんびり過ごすはずなのかもしれないが、生憎、俺が仕えている主人は大企業の一人娘。
新年早々パーティーやら何やらで、とてもそんな正月を過ごせそうも無い。
現に今、俺はパーティーの準備の真っ最中だった。
なのに・・・、作業がなかなかはかどらない。
疲れてる?
―――否、違う。
本当はその理由は分かっていたけども。
認めたくはなかった。
そう、そんなはず無い。
一度、休憩でもしよう。
そして、心を入れ替えてもう一度始めればいい。
そう思って時計を見ると、新年まで丁度あと十秒。
心の中で、カウントダウンをスタートさせた。
10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1
――――トントン
「明けましておめでとう。靖也」
年が明けると同時に開かれた扉に、見慣れた人影。
驚いた。正直、驚いた。
まさか、新年早々、しかも、ほんとに年が変わって一番に、まさか一番会いたい人に会えるなんて。
そんなこと、あるわけないと思っていたのに。
だからきっと、この時の俺の返事は、声が掠れていたと思う。
それくらい、気が動転していた。
「おめでとうございます、お嬢様」
「ごめん。明日のパーティーの準備中だった?私、邪魔?」
「いえ、今休憩しようと思っていたところです。お嬢様もお茶、いかがですか?」
「うん、貰う」
瑞穂様に椅子を出し、俺は一人紅茶を淹れに向かう。
一人になれてよかった。そう思った。
まだ、気が動転したままだったから。
早く落ち着かせよう。この紅茶を飲んで。
――俺はお嬢様の執事――
それだけだ。
それさえ忘れなければ、きっと準備も終わるし、明日のパーティーもきちんとやれる。
「お待たせしました。お嬢様、どうぞ」
そう言ってカップを置けば、「ありがとう」そう言って瑞穂様はそれに手を伸ばす。
その手には、高級そうな婚約指輪が填められていた。
「こんな時間にどうかされましたか?
いくら年明けだからと言って、今日はパーティーがあるのですから、早くお休みにならないといけませんよ」
「うん。でも、此処で過ごす最期の年明けだし!ちょっと起きとこうかなぁって」
もう直ぐ、瑞穂様はいなくなる。
結婚して、この家を出て行く。
その場合、彼女の執事である俺はどうなるのだろう。
主人がいなくなってしまうのだからクビかな。
そんなくだらない事を考えてみたりして。
現実逃避だ。
好きな人が他の人と結婚してしまうことからの。
「そうですね。今日は特別ですよ?
あちらの家に行ったらこんな風に夜中に部屋から出歩くのはお止め下さいね」
「もちろん。
あっちではちゃんと大人しく、如月財閥のお嬢様やるから安心して!」
嗚呼。本当は今会えて嬉しいのに。
出てくる言葉は執事としての小言ばかり。
嫌な奴だな、俺。
「お譲様なら、あちらの新しいメイドの方々とも直ぐ仲良くなられるでしょうし。
直ぐに美坂家の一員になれますね」
「だといいなぁ。今度も、靖也みたいな人がいると良いんだけど」
心に無い科白ばっかりだ。
本当は、あんなところになんて行って欲しくない。
この前のクリスマスも、本当は送り出したくなかったのに。そして今日のパーティーも。
婚約して、婚約発表して、結婚して。
本当は、全部壊してやりたい。何もかも。
――俺は、お嬢様の執事――
「あーあ。何か眠くなってきちゃった。部屋に戻るね」
「お休みなさいませ。お嬢様」
「お休み。靖也」
まだ、忘れてはいない。
でも、本当は誰よりも・・・
君を愛してる―――
絶対に貴女に伝えはしない、俺の本心。




