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その後の多治見

「鳴海美佑、真相を知る」

「らくか」の隅の席で、鳴海美佑は、江戸川と工藤の話を、身じろぎもせず聞いていた。

「……つまり、杉原千畝さんの恩義が、七十年越しに、この町で果たされたってことですか」

「大まかには、そういうことです」工藤が頷く。「ただ、大使館関係者の名前や、詳しい経緯は、公にはできません。約束ですから」

美佑は、しばらく黙り込んだ後、ふっと笑った。

「正直、もっとキナ臭い話を想像してました。スパイ映画みたいな」

「実際、キナ臭い場面もありましたけどね」江戸川が苦笑する。

美佑はノートを閉じ、静かに言った。

「分かりました。この話は、私の中だけにしまっておきます。……でも」

「でも?」

「いつか、時効になったら――例えば三十年後とか――その時は、私に一番に教えてくださいね。おばあちゃんYouTuberとして、伝説の回にしますから」

江戸川と工藤は、思わず顔を見合わせて笑った。

「三十年後まで、この事務所、続いてますかね」

「安藤さんが元気なら、たぶん大丈夫でしょう」

美佑はスマホを取り出し、こっそり二人の後ろ姿を一枚だけ撮った。データは、公開しない「思い出フォルダ」に、そっと保存された。


「工藤と秋月、その後」

休養のはずが、半年経っても、工藤と秋月は多治見に居着いていた。

「秋月さん、俺、正式にこっちで事務所出そうと思うんですけど」

秋月は、缶コーヒーを片手に、呆れたように笑った。

「休養はどこ行ったんだよ」

「休養は……もう十分取れた気がします。それに」

工藤は、窓の外、多治見の町並みを眺めながら続けた。

「横浜にいた頃より、こっちの方が、性に合ってる気がするんですよね。事件の規模はでかいのに、なぜか町の空気はのんびりしてる」

秋月は、しばらく黙って工藤を見た後、小さく頷いた。

「まあ、俺はどこでもいいさ。お前が決めるなら、ついていくだけだ」

「監視役、卒業してもいいですよ」

「馬鹿言え。お前一人にしたら、また面倒事に首突っ込むだろうが」

数週間後、江戸川探偵事務所の隣室に、小さな看板が掲げられた。

『工藤探偵事務所』

江戸川と安藤が、開業祝いに顔を出した。

「まさか、隣に事務所構えるとは思いませんでしたよ」江戸川が笑う。

安藤が、少し照れくさそうに秋月と握手を交わした。

「まあ、これからは……同業者っていうより、戦友、って感じだな」

「悪くない響きだ」秋月が頷いた。

太田が「らくか」から出前の茶菓子を届けに来て、微笑んだ。

「凸凹探偵、正式に二事務所体制ってわけだ。この町も、賑やかになったもんだねぇ」

根古とヤマトも、ふらりと祝いに顔を出し、根古は湯呑みを掲げながら、静かに言った。

「これからも、あんたらには世話になりそうだな」

四人の探偵――いや、これからは「多治見の凸凹探偵たち」は、それぞれの事務所の看板を見上げながら、新しい日々の始まりを、静かに噛みしめていた。


番外編、二本書きました。美佑には「三十年後の約束」という遊び心のある落とし所を、工藤たちには「正式に多治見に根を下ろす」という形で、それぞれ短くまとめています。

他にも気になるキャラクターの後日談があれば、いつでもどうぞ。

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