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第一章 予兆 第一話「探偵事務所の憂鬱」
第一話「探偵事務所の憂鬱」
多治見駅前の雑居ビル三階。「江戸川探偵事務所」の看板は、今日も少し傾いている。
江戸川勉、二十五歳。開業三年目、いまだに黒字を見たことがない。
「今月の依頼、また浮気調査キャンセルだってよ」
助手の安藤修、三十六歳、元刑事が、机の上に置かれた通帳を見せる。数字は寂しいものだった。
「安藤さん、そう毎回残高見せなくていいですから」
「見せなきゃお前、危機感持たねえだろうが」
安藤は多治見署にいた頃、地取り捜査の名手として知られていたが、上司との衝突で退職した経緯がある。今は江戸川の下で助手をしているが、実質的には現場を仕切っているのはこちらだった。
ドアが乱暴に開いた。
「よぉ、二人とも、元気そうだな!」
恰幅のいい男、ロドリゲス斎藤、五十二歳。バイヤー兼YouTuberを自称し、この地方をうろついては骨董や珍しい物を買い漁っている。
「斎藤さん、また依頼じゃなくて雑談ですか」
「いやいや、今日は違うぞ。ちょっとした情報提供だ」
斎藤がスマホを差し出す。写っていたのは、位山の祠付近で撮影されたという、見慣れない服装の男女数人だった。
「これ、観光客にしちゃ動きがおかしいんだよな。カメラ構えたら、こっちを一斉に見た。あの反応速度、素人じゃない」
安藤が写真を覗き込み、無言のまま眉を寄せた。




