エピローグ ―次の案件は来る―
帰還翌日。
報告書を書きながら、蓮は少し時間をかけた。
勇者三名の契約内容を更新。坂本ケン:海底農業技術指導員、白石サキ:文化交流大使、鷹野リョウ:哲学顧問。邪竜ゴルム:名誉顧問(弊社史上初)。条約再締結により現地の平和的安定を確認。なお「武力が必要な場面は一度もなかった」という事実を記録しておく。
「ゴルムが名誉顧問に」と室田社長がメモを見て言った。
「鷹野さんが勝手に任命しました」
「……まあいいか。報酬は?」
「読書と食料の定期供給を希望しています」
「安上がりだな」と社長が珍しく笑った。
「宮下さんは今後も継続的に使えそうですか」
「お孫さんの誕生日以外は対応可能とのことです」
「良い人材を見つけたね」
蓮は特に返事をしなかった。「見つけた」というより、「見つかった」に近い気がしていた。自分が何かを探していたわけではなく、案件がそこに連れていっただけだ。
そういうことが、この仕事には多い。
蓮は報告書の最後にこう書き足した。
追記:宮下氏より「良い仕事とは、みんなが動ける状況を作ることだ」という言葉をいただいた。今後の業務方針として採用したい。
書いてから少し迷ったが、消さなかった。報告書に私見を書くのは珍しいことだったが、今回だけは残しておきたかった。
デスクに新しい書類が落ちてきたのは、その五分後だった。
【緊急案件】派遣先:天空浮遊都市ノアリア 担当勇者:橘ミズキ 問題:当該勇者が「勇者を引退して革命家になる」と宣言。住民の三割が支持している。なお本人は「革命を起こすことが今の自分の仕事だ」と主張。
「革命家」
蓮はため息をついた。ため息は三秒で終わり、上着を取った。
問題がある。理由がある。話し合える余地がある。
ならば行く。それだけだ。
誰かの仕事が、誰かの生活を作っている。それがどこの世界でも変わらないのなら、自分の仕事もその一部だ。
それが、神崎蓮の仕事だった。




