僕は号泣した。
「……うぅ!ひぐぅ!みんな……こんな僕みたいなヘタレなんかのために……ありがとう、ほんっとにありがとうっ!僕はもうこの世に思い残す事は何もないよ……」
僕は寮の皆を前にして号泣した。
もう……耐えられなかったんだ。嫌なことがあったらすぐ、ツンデレキャラに見立てて現実逃避していたあの頃の僕。それは今でも変わっていない。そんな人間的に残念な僕に……ずるずるずるぅー!やだんっ、鼻水が口に入っちゃったわ!お行儀の悪い子!春明ちゃまは何てお行儀の悪い子でござんす!あー、ごめんなさい。何かあまりの嬉しさに変なテンションになった僕です。
「アハハ……そんな辞世の句じゃないんだから、早く春明もこっち来て食べよ♪」
明美ちゃんは何処かご機嫌の様子で僕の手を取り、皆のいるバーベキューのところまで引っ張ってくれる。何て柔らかいおててなのだ……ゴクッっていかんいかんっ、やらすぃーことは一切考えちゃいかん!純真な明美ちゃんを汚すな僕っ!
「……………………肥溜めに落ちて溺死すればいいのに」ボソッ
何か不穏なワードが雫ちゃんのいる方向から聞こえてきたような気がするけど。ごめんね、雫ちゃん。君は僕みたいなエロガッパなんか生理的に受け付けないと思うけど……僕ここで頑張るよ。そして、変わるんだ今までみたいなダメ人間から脱却するんだ!
「よぉー春明よー。あんま、雫ちゃんの言ったこと気にすんーなよ。コイツ、クーデレだから♪アッタクしちゃえば案外簡単にお股開いてくれるかもよ♪ヒューヒュー♪春明君ヒューヒュー♪」
海斗は笑いながらそんな事を言う。何なのその初っ端からの変なテンション。もしかして既に出来上がってんのかこの人。
「うふぉおお……もぉ~、春ちゃんの助平!どうせ今もあたしのア●ルも虎視眈々と狙ってるんでしょ!?…………これが終わったら一階の奥のあたしの部屋に来なさい」
ゲンさんは何故か頬を染めてワケのわからない事をのたまわっている。ごめん、この人の台詞は解読できない。でも何かさり気に誘われている気がしないでもないけど行かないし、絶対行かないし。ホモセックルの餌食になるのは嫌だっ!
「ちゃっ、ちゃう!ちゃうもんっ!ちゃうで!ちゃうねんで海斗!ウチ、クーデレなんかやないでっ!あんなウンコクズ蟲のこと何か好きちゃうで!ウチが好きなんは海斗だけやっ!」
「「「…………」」」
……あれ?何かおかしくない?雫ちゃんは何かかなり僕に対して暴言をポロッと吐いた気がするけど……まぁそれはいつもの事だし別にいいや。それより、もっと大きな違和感。呆気に取られているのは僕だけではない。明美ちゃんとホモセックルさんも同様にポカーンと口を開けてあっけらかんとしている。
「ほらぁー♪簡単に雫ちゃんの牙城が崩れちゃった♪そんな普段からクール宅急便な振りしても無駄だって、お兄ちゃんはごまかせないぼよよ~~~ん♪」
「ちゃっ……ちゃうぅ!海斗いぢわるや!海斗のいぢわる!いぢわるぅ(///)」
雫ちゃんは真っ赤な顔して涙目で海斗に抗議する。ますますえぇ~~~~????な感じなんですけど。
「ダンディ海斗は雫ちゃんの心をゲッツ!アンドターン」
「いや、兄さんはちょっとうるさいから黙ってて。……雫?いきなりどうしたの?その、何ていうか、えっとその……」
明美ちゃんは雫ちゃんに対して何か言いにくそうにしている。分かる、君の気持ちは分かるよ明美ちゃん。しかしなんだな、橘姉妹の会話は今まで見たこと無いから何か新鮮だなー。
「うぅ、おねぇもウチをいぢめるん……?」
雫ちゃんは涙目の上目使いで明美ちゃんを見つめる。当の明美ちゃんは「うっ……」と唸り、押し黙ってしまう。そりゃ、そうですよねー戸惑いますもの。今まで見てきた妹がこんなに豹変するなんて。
「う、うぅ~~~許さへん、絶対許さへんで間宮春明……いつかお前をぶち殺す!」
……あるぇー?
何でこういう僕が可哀想な展開になるの?え?好感度ますます減少?バッドエンド直行中?
「兄さん、知ってたんだ。雫の豹変性癖」
「お、おねぇ!ウチのこと豹変性癖とか言わんといて!変態見たいやん!どこかの某春明みたいな!」
「おうよ、知ってたぜぇ~~あと、春明の汗フェチも」
海斗は雫ちゃんの関西弁に豹変する癖を前々から知っていたようだ。どうやら感情が昂るとさっきのようなバリバリの関西弁になるようだ。しかし前のクールで無口などこぞの某長門さんを思い出すようなキャラからは考えられない変化だ。ところで雫ちゃん、『どこかの某春明』それって明らかに僕しかいないよね?あと、海斗。根も葉もないとんでもない嘘を平気で吐くな。
「えっ、え……は、春明って、そういうの……採集しているの……の、飲んでるの?」
「う、うわっ、こいつないわー!きたなー!やっぱり今すぐ死ね!どうせ『女の子の脇の下の汗をクンクンペロペロしたいです』とか思ってんねんやろー!やらし!鬼畜!死ね!」
「ち、違うよ明美ちゃん!そんな……採集?飲むぅ!?ゲッー!想像したくないっ!やめて!僕がそんなマジキチな行為するわけないじゃない!あと雫ちゃんも何でそんな具体的に僕を貶めようとしているの!?ないよっありえませーんっ……!」
「……くんくん。……春明ちゃんも嗅ぐぅ?」
「結構です」
ホモッセックルさんの脇の下とか悪魔が住み着いてそうだ。
「そ、それよりさっきから気になっていたんですけど……礼二さんは、その……どうしたんですか?」
僕は意を決してさっきから気になっていた事を誰に尋ねるわけでもなくその場で口にした。あれから僕は礼二さんと気まずくなってしまい会っていないが…………どうしたんだろう。や、やっぱりまだ怒っているのかなぁ……未だに何に怒っていたのかわからないけど。
「「「「…………」」」」
……え、何この空気。誰か何か言ってよ、ねぇ、ねぇ?ねぇ!ねぇったらぁ!
「…………あのね、春明」
「は、はひっ!な、何かな明美ちゃん?」
「実はその……礼二さんね、合「死んだんだ」……え」
…………
「し、死んだ?う、嘘でしょ!?嘘だといってくれ海斗!何でだよ海斗!?一体何があったんだ海斗!?」
「いや、話せば長くなるが……実は魔界村からやって来たナメック星人に連れ去られてそれから……」
「…………」
「いや、春明?兄さんの話なんか真剣に聞いても意味無いよ。どうせいぢめてくるだけだし」
……うん、まぁそうだと思ったよ。でも一回でも真剣に海斗に尋ねた自分が情けなくなったよ。
「やーいw春明きゅんのぼかぁーw」
ごっさ殺したい、ごっさ殺したいよこの人。
「うん、実はね。礼二さん、今夜から剣道部の合宿で留守にしているの。大会で今、忙しいから……多分、明後日には帰ってくると思うけど……」
「そ、そうなの……な、なぁんだ」
何だろう……礼二さんがいなくてホッとしている僕がいる。あぁ、そうか……逃げてるんだ、僕。……ダメだ、まだまだ僕はダメ人間だ。
「まー春明よ。あいつはああ見えてもツンデレなんだ。男のツンデレとかちょーキモーだろー?礼二に言っといてやるよ春明が『礼二さんキモスだおw』とか言ってたって」
「こ、こるぁあああああーーーーーー!!!!!!なんちゅー爆弾を起爆させるつもりだ貴様はぁ!?や、やめろよっ!?ぜっ、絶対だぞ!?じゃないと僕今度こそ死んぢゃう!」
「今すぐ死ねやー!」
「雫ちゃん!?さっきから僕に対して死ねとしか言ってないよね!?それは僕の気のせい!?」
こうして。
僕の怒涛の高宮学園ライフ二日目は幕を閉じた。
あっ、もちろん用意されたバーベキューは皆で美味しく頂きましたー。