僕は昇華した。
ロマンチックな夜の一時を彼女と共に。
あの頃はそんな馬鹿な妄想に耽っていたそんな僕です。まさかそれが実現するなんて……さっきまでの東京の濁った空のような心境だった僕に神様は最後のチャンスを与えてくれたようです。
「……?春明?どうしたの?変な顔して」
「べ、別にっ……ど、どうもしないよ」
「?変な春明」
そうです、今の僕は変なのです。変な子のでふ。
ドキドキ、胸に来るこの感覚は今まで散々味わったはずなのに(主に妄想世界で)
リアルっ……!これがリアルっ……!圧倒的リアルっ……!エロゲー界の神は僕を決して見捨てていなかった!ビバッリアルっ……!イエスリアルっ……!
「~♪」
僕の知らない歌を口笛で奏でながら明美ちゃんは僕の手を引いて歩いている。一体、どどどこにいくのでしょうか……?あ、そ、そっちは寮の裏手……人通りの少ない裏手っ……!ましてや、今は真夜中っ……!皆無っ!圧倒的人皆無っ……!そ、そんな場所で男女がすることといったら……!
『春明……』
寮の裏手の廃れた木の前で明美ちゃんは僕に背を向け、聞き取りにくい声で呟く。その声の音色からは不安と、緊張と、後その他諸々の思春期の女の子特有の感情が覗けた。
『……な、何かな?明美ちゃん?』
そんな普段は表に見せない明美ちゃんの態度に動揺を隠し切れない僕は震える声で尋ねた。手に汗を握りジッとその場で背を向けている彼女の次の言葉を待った。
『…………春明に、見て欲しいものがあるの』
微かに彼女の身体は震えていた……泣いている?そして、僕は何故かその時全身に鳥肌が立った。お、おかしいな……こんな時に鳥肌が立つなんて。ぼ、僕は一体何を恐れているんだ……?僕の目の前にいる子は同級生で、クラスメイトで、同寮生で、普段は明るくてクラスのムードメーカーで、だからクラスの人気者で、成績優秀で、運動神経抜群で、かぁいくて、下の妹さんはお人形さんみたいな愛くるしい顔立ちの子で、趣味はお菓子作りとラクロスで、将来の夢は保母さんで、好きな男の子のタイプは『優しい人』で、有名人に例えるなら『TMのヴォーカルさんのタイプかな(本人談)』で、中学生の頃に着ていたスク水が胸のサイズがおっきくなちゃって着れなくなって、胸の下にあるほくろを気にしていて、『アノ日』がなかなか来ない事をかなり気にしていているそんな完璧な彼女が僕みたいな夢見るオナニスト(初段)に、なっ、何を見て欲しいのだろう……!?
『み、見て欲しいもの……?』
『うん……』
明美ちゃんはまだ振り返らない……僕に背を向けて向こう側に向いている彼女の表情はどんなのだろう……?高まる期待感と、ちょっぴりの不安で僕は何かに押しつぶされそうな気持ちになった。うっ、うぅ~~……こ、こんな時にオシッコなるオシッコがしたくなってきたぞ……!くぅ、し、静まれっ!僕の尿道!吸い上げろっ!僕の聖水!ふぬぬぬぬっ……!
『…………』モゾモゾ
せぐり来る放尿感に僕は身を投げぬよう、必死に腰を左右に動かす。はぁ、はぁ……は、早くっ、早く何かを言ってくれないと……僕は、僕は……もぅ……
『……春明、モジモジしてる』
彼女の声がさっきより鮮明に聞こえた。僕はすぐさま視線を上にやり、彼女の顔を見た。彼女の顔は……熟れた林檎のような色を帯びていた。ぎゃーんっ!み、見られたっ!?僕の恥ずかちぃところ見られちゃった!?
『あっ、あっ、あ……ち、違う。違うんだ明美ちゃん……!これは、そのコーフンしてたとかそんな思春期的な男の子の困ったちゃんな主に下半身に関する問題じゃなくてねっ……!?こ、このっ、鎮まるんだっ!僕のバナナマン!』ぺチッぺチッ!
『……いいんだよ?春明……』スッ……
『あっ……あぅ?』
視線を僕のニョイ棒から前に向けると至近距離に明美ちゃんの顔が映った。明美ちゃんはどこかトロンとした目で、しかしながらしっかりと僕の目を凝視していた。そんな僕は時が止まったかのような感覚に捕らわれて、その場どころか、瞬きさえもできなくなった。
『我慢……する必要なんか無いんだよ……?』
『あ、あけみちゃ……んむっ、むぅ……』
僕が名前を呼ぼうとした瞬間、口が塞がれた。彼女の濡れそぼった唇で……そして、口内に違和感。……舌、だ。彼女は僕の口内に舌を入れてきたのだ。僕は、受身で彼女の為すがままにされていた。……この誰もいない寮の裏手の月明かりの下で…………僕と、彼女の、『永遠の』夏休みが……今、始まる。
「ゴォルゴォルゴォルゴォルゴォルゴォルゴォオオオオオ~~~~~~ル!!!!!!イヤッフゥーーーーーー!!!!!!」
「……ビクッ、なっ、何!?は、春明!?いっ、いきなりどうしたのそんなサポーターみたいな大声出して!?」
「……はっ!?」
僕は気が付くと片手を夜の天空に向かって伸ばし、自分でも無意識に笑顔になっていた。な、何だこれぇ!?ぼ、僕はなっ何をしているのですかぇ!?
「だ、大丈夫……?春明……?」
明美ちゃんは口元に手をあて、少し僕から視線を外して、悲愴な表情で尋ねてきた。う、うぉー!な、何その気遣うよぉな全力ポーゥズ!?し、心配……!?は、果たして彼女のソレは心配なのだろうか!?いやっ、心配しているのだろうけど……!いやぁああ!だけどいやぁああ!深読みしたら死ぬる!主に精神的に!
「だ、大丈夫……だいじょぉーぶだよ明美ちゃん……僕は、君のためなら死ぬごふぅ」ダバダバ
「……ひっ、ととと吐血!?な、何で!?いっ、そうじゃない!だ、大丈夫春明!?」
「いい……気にしないで、明美ちゃんは前に進んで、未来は僕らの手の中なんだ……君が進まないと……だから行って……僕は、もうダメポ」ペコッ
「だ、ダメポって……もう着いたけど」
……クンクン、クンクン……何だこの香ばしいかほり……どこかで嗅いだ事のあるかほりだ。肉……バーべなキュ~、か……しかし精神的に死に際を彷徨う今の僕にはあの頃のおばあちゃんの焼いてくれたお肉が懐かしく見え……
「よぉー!春明に明美!三文芝居はそろそろいいのカナー?あっ、違った!夫婦漫才かぁ~~うっかりうっかりハチベエ」ニヨニヨ
……この声。
随分最近に聞いた事のあるふざけたチャラオヴォイス。僕の幻聴かな?うん、そうに決まってる。
「……気持ち悪い」
……この声。
随分最近に聞いた事のある心から嫌悪感を帯びた音色のヴォイス。僕の幻聴かな?うん、そうに決まってる。
「まぁ!春明ちゃんったら何て如何わしい!コン●ームは装着したかしら?使用後のコンドー●は裏返してアタシにプレゼンツ!……お願いね、デュフフ」
……この声。
思い出すのも憚るこの声。僕の幻聴かな?うん、絶対そうに決まってますぅ!!!
「えと……皆、静かにして、ね?」
そして僕は顔を上げる……視界には少し頬を染めた明美ちゃんが立っていた。……あっ、おぱんちゅ見えそう。
「その……春明?遅くなってゴメンね。ようこそ高宮学園へ!私達は貴方を歓迎しますっ!」
桜の木の下で、礼二さんを除く寮生が全員集まっていた。




