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僕は痙攣した。

「やっぱり夢か」

現実に引き戻される幾度と無く味わったこの感覚、僕はこれからの人生でどれだけ味わうのだろうか。妄想という名の夢からログアウトした僕は辺りを見回すとそこは真っ暗な部屋だった。明りは窓から覗く東京の濁った空に浮かぶ三日月の僅かな光のみ。

「……今何時だろ」

僕は今の時刻を知りたくてポケットをまさぐり……って、携帯持ってなかった。今更携帯持ってないとか終わってるとか思ってるでしょ?でもね、僕はこれからレトルティーな人間になるって決めたんだ。だからそんな文明の機器は必要ナッシング。

「……ん、なんだこれ」

暗闇に目が慣れてきた僕はふと自分の寝ていた真横に目をやると何やら白い角封筒が置かれていた。……白いその角封筒は赤いハートのシールで封がされていた。……恋文?まさか『好き好き春明君大好きなのですですぅ~』とかそういう系の?

「ハハハ……ナイナイ、ありえないよそんなの絶対。うんうんありえないありえない…………そんな、ねぇ……?まぁ、100%無い、とは言いきれないけれど……ねぇ?」

僕はありえないありえないと思いつつも少しドキドキしながら封を切り、中にあった1枚の便箋を震える手つきでゆっくりと開いた。

『好き好き大好き春明君ぶっちゅぅうう』ビリッビリビリッ、ポーイ

僕は便箋を破り、手で丸めて部屋の隅っこのゴミ箱にポーイした。最初の一文の途中で誰が書いたかすぐ分かったよ。うん、でもね。僕は分かってたよ、そんな都合の良いドキドキドキンちゃんな展開なんか無いって事くらい。でもいいもぉんっ、そんなラブコメデェーな展開妄想ならいくらでも見れるもんねーだっ!

「……はぁ、すごく空しい。ちっぽけな自分がすごく空しいよ」

こんな一人妄想で嫌な事を忘れようとしている自分がすごく恥ずかしい。所詮自分は妄想の中でしか生きられない人間なんだ。二次元へようこそ、三次元アデュー。

「あぁ~……だめだっ、だめだっ!こんな陰鬱とした部屋に閉じこもってたらネガティヴなシンキングしか考えられないっ!」

もう良い子はおねんぬの時間、だと思うけどお生憎様中途半端に寝て起きた僕はばっちり目が覚めてしまい、その上思考が主に負の方向にしか働かないので気分転換に僕は部屋の外へ出ることにした。






「……何か昔の校舎みたい」

ボロッちぃ外装ではあるけど内面はメルヘン、というわけでもなくその外装から想像できる木造の様式の廊下だった。でもいいよね、情緒があってさ。何か歩くたびに足元がギシギシいっちゃってるけど。

「部屋数は結構あるのに寮生が少ないんだな……」

僕はそんな事を考えながら夜の寮の二階の廊下を徘徊している。……うん、この1枚のうす~い壁を隔てた向こう側にすやすやおねんねしているお姫様がぁ……た、たまらん。って、だめだだめだっ!何で僕はすぐにこう、桃色な妄想しか出来ないんだっ!

「僕は不純だっ、不潔ですっ、不埒れすっ、えっちぃのですっ、えっろえろれふっ、エロピーですのよ~~~!!!煩悩撲滅、付和雷同!!!」ガンガンガンガンッ

僕は土下座の体勢から床に額を何度もぶつけた。くそっくそっ、今すぐ消え去れえっちな僕!この頭が悪いのかっ、えぇい!静まれ静まれぃ!僕の脳内インスピレーションんんんんーーーーーー!!!!!!

「……は、春明?そ、そんなところで何しているの……?」

何やら聞き覚えのある声に反応した僕は顔を上げた。

「……はっ?!うっ!あ、明美ちゃん!?ど、どうしてこんな所に……!?」

「どうしてって……それはこっちの台詞だよ。春明こそ……こんな所で、な、何を……?」

明美ちゃんの僕を見る目が若干戸惑いの色を帯びている。やだっ!どうしようっ!僕の恥ずかしい声を聞かれちゃったのか!?い、いやっ……まだ分からないもん、もしかしたら奇跡的に僕のヴォイスは神の計らいで明美ちゃんの耳には届いていないのかもかもー!

「春明がいきなり土下座して大声出すから私ビックリしちゃったよ……」

聞いていたのかもかもー!うっわぁあああああーーーーーー!!!!!!僕、アイタタタタタターーーーーー!!!!!!

「ち、違うよ僕は、その、アッラーに豊作の祈りを捧げていたんだよ……ハハッ」

「うん……いいよ、春明。……その、春明も、するよね。色々、うん……男の子だもんね、うん……」

明美ちゃんは若干僕から目を逸らして苦笑いしながらそんな事を言う。何っ!?色々って!?男の子だから何っ!?あるぇー!?何かさらに変な勘違いされてない!?

「ち、違うよ!明美ちゃんが今何考えているのかはっきりとは分からないけれど多分それは違うよ!?」

僕は明美ちゃんの両肩を軽く掴んで必死に弁解した!いやぁ!この子絶対変なこと考えてるぅー!

「あっ……は、春明?手……洗った?」

「汚くないよ僕の手はっ!?何?何でそんな微妙な顔してるの!?僕の手はバスロ●ンでぴっかぴかのつっるつるだよっ!?白い汚物なんかついてないよ!?ねばねばしたものもついてないよ!?」

「うん、分かったから落ち着いて春明?私は何も見てないよ」ニコッ

「僕は最初から今までずっと落ち着いているよ!?明美ちゃんこそ落ち着……うわっやめてぇ!そんな爽やかな笑顔で僕を見ないでぇー!僕と君の間に微妙な空気を醸し出さないでぇー!」

オワタ……色々な意味でオワタ……もう、だめだ。……いや、見られたもんは仕方ないよね。精一杯今を生きないと。

「……あ、明美ちゃん?」

「う、うん?な、何かな?」

……うわぁ、ほんとやだこの微妙な感じ。尾を引いてるよ……

「お、お風呂上り、かな?」

「う、うん……今上がったところだけど……」

「う、うん……そ、そうなんだ」

「…………」

「…………」

うわっ……来たよ沈黙タイム。ぐっ、つ、次はどんな話題を振ればいいのだ!考えろ間宮春明!考えるんだぁあああああ間宮春明ぃいいいいいーーーーーー!!!!!!

「え、えっと…………あ、明美ちゃんはお風呂の時、どこから洗うのかな……?」

「…………え」

えぇええええーーーーーー!?何言っちゃってんの僕!?うわっ、ヤヴァイ!どうしよ!これじゃあ只のセクハラど真ん中なクエスチョンだよ!うわっ、うわ……ど、どうする……!?






1.自分も宣言する「ハハッ僕はギャランドゥーから洗うよ。明美ちゃんはどう?ハハッ」


2.何事も無かったように振る舞う「じゃあ、僕、そろそろマイスイートルームに戻るね」


3.とりあえずうやむやにするために押し倒す。






「ロクなのない!」カッ!

「わっ……!な、何?ど、どうしたの春明?」

「やるせないよ!今の僕すっごくエロゲー並みにヤルセナイザーだよっ!」

「お、落ち着いて春明?ね?」

「……ハァハァ、ごめん明美ちゃん。今の無かったことにしてくれる?」

「今の……?お風呂の時にどこから洗うかって話?」

「うわぁああああやめてぇえええええ僕の黒歴史ぃいいいい」

違うんだ、違うんだよ……明美ちゃんっ!僕は決して、そのあれだよっ!変な事は全然考えてないと思うから!うんっ百パーじゃないけどっ、うんでも限りなくヒャクポァーに近くてほんとあれだよ……!煩悩撲滅、春夏秋冬!ごめんなさいごめんなさいごめんさないごめんなさい…………

「は、春明っ!?な、何か春明の頭から白い煙が出てるよっ!?大丈夫!?」

「……ごめん、ホントごめんなさぁい……そうだ、明美ちゃんお願いだ……こんなやらしい僕を踏み踏みしてくださぁい……どこでもいいよ。何なら首輪を着けたり手錠とか着けたり、蝋燭とか、鞭とか、注射器とか……何でもござれ」

「何を言ってるの春明!?しないよそんなの!?しっかりしてよもぅ!」

「……はっ、何だ今のは。ん?目の前にいるのは……明美ちゃん。そして……僕は誰だ?」

「苗字は間宮!名前は春明だよっ、何でいきなり記憶消失な子になってるの!?」

「明星ちゅるめら……何だか親近感の沸く名だ。で?僕と君は何を話していたのかな?」

「全然違うよっ!?まーみーやーはーるーあーきっ!春明はお風呂でどこから洗うかって私に聞いてきたの!」

「うわぁあああああんやめてくださいやめてくださいごめんなさぁあああああい」

「もうそれはいいよっ!……もしかして春明、今ので負い目感じてる?」

「ドキッ乙女だらけの三(略)」

「はぁ、別にいいよ。そこまで気にしてないし、ていうか春明にそこまで動揺されるとこっちまで恥ずかしくなるよ……」

明美ちゃんは少し頬を染め、口を尖らしてそう言う。そ、そうなのか……でも僕かなりセクシャルハラスメーントゥな質問したような気がするけど……

「……本音は?」

「えっち」

「うわぁあああああんごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃいいいい」

「あぁ~~もう!春明うるさいよ!もうそれはいいから…………ね、春明?今から私夜風に当たりに行くつもりなんだけど一緒に来ない?」

「えっ……あ、ハイ……えっちな僕は行きます……」

「んっ、じゃあ行こっ♪」

僕は明美ちゃんに手を引かれてついていった。……シャンプーのほのかな匂いにクラッと来たのは内緒。

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