れんちゃんの逆襲
便せんをテーブルに広げて、鉛筆を握ってうんうんと唸るれんちゃん。キツネたちをテーブルに並べて、時折撫でながら考えてる。
やがて、満足する文章を考えられたのか、書き始めた。ちょっと独特な握り方で鉛筆を握って、少しずつ。
ちなみに、独特といっても変な握り方じゃない。持ち方を教えたら多分すぐに修正できる程度だ。だからまあ、今はまだ急いで修正する必要はない、かな?
「かけた!」
むふう、と自慢気な妹がとてもかわいい。
「どれどれ?」
見てみると、とても短い文章だった。でも、なんでかな。なんとなく、すごく気持ちは伝わってくる。一生懸命考えてたのを見てたから、かもしれないけど。
「うん。いいと思うよ。明日渡しておくね」
「うん!」
れんちゃんは笑顔で頷いて、キツネたちのもふもふに戻った。眼福眼福。
翌日のお昼休み。私は秋本さんの席の前に立った。
「秋本さん!」
「え、あ、うん。な、なに?」
「え? いや待って。なんでそんなに引いてるの?」
「気付きなさい未来。圧がすごいから。殺されそう」
「そんなことしないよ!?」
何故か付いてきた菫がすごく失礼なこと言ってくるんだけど。失礼すぎないかなこいつ。
「ごめん、大島さん。初めて殺気を感じちゃって」
「え」
そんな、圧も殺気も心当たりなんて……。なんて……。
あー……。
「ごめん。ちょっとだけ嫉妬してたかも」
「ええ……」
「ちょっとだけ。ちょっとだけだから」
個人的なものだから、許してほしい。私もぬいぐるみ作り、頑張ってみようかな。
「それよりも。これ、れんちゃんから」
鞄に入れていた封筒を取り出す。れんちゃんが書いたお手紙を丁寧に折り畳んで、綺麗な封筒に入れておいたのだ。もちろんちゃんと、れんちゃんの前で入れたよ。これに入れて渡すねって。
秋本さんは目を何度か瞬かせた後、手紙を受け取ってくれた。
「えっと……。読んでいいの?」
「もちろん」
むしろ秋本さんが読まなくて誰が読むというのか。あ、いや、私は中身を知ってるけど。
秋本さんが封筒を開けて、便せんを取り出す。文章そのものは短いからか、すぐに読み終わったと思う。秋本さんは薄く笑っていた。
「あはは……。うん。まっすぐ、だね。でも、うん。だから、気持ちは伝わるかな……」
それなら良かった。短いから、どう感じるかは不安だったから。
れんちゃんの手紙の内容はこうだ。
『かわいいキツネさんをありがとう! だいじにします!』
たったそれだけ。でも、たったそれだけの文章を、れんちゃんは頑張って考えて書いていた。その気持ちがちゃんと伝わったのなら、姉としてはとても嬉しく思う。
「ありがとう、大島さん。また作ってきてもいいかな?」
「もちろん。むしろ是非お願いします」
私がそう言うと、秋本さんは嬉しそうに頷いた。
さてさて、今日も面会です。いつものようにれんちゃんの病室へ。扉を開けた私を待っていたのは、
「んふー!」
ベッドに広がる数十のぬいぐるみたち。そのベッドの中央でご満悦のれんちゃん。かわいい。
側の子を手に取ってはもふもふして、また別の子を手に取ってもふもふして、の繰り返し。至福の一時ってやつだね。
「れんちゃん」
「あ、おねえちゃん」
れんちゃんはぱっと顔を輝かせて、あ、と周囲のぬいぐるみを見回して。よいしょ、とベッドから下りて片付け始めた。一個ずつ、丁寧に棚に戻していく。
「手伝おうか?」
「んーん」
たっぷりともふもふして、丁寧に棚に戻していく。れんちゃんの頬は緩みっぱなしだ。邪魔しちゃったかなとは思うけど、拗ねられるよりはましだよね。
最後、二つのキツネは戻さずに、れんちゃんはベッドに戻った。今日のお供はキツネさんらしい。
ベッドに座ったれんちゃんの隣に私も座る。白いキツネを手にとって、れんちゃんのほっぺたをキツネでぷにぷにする。
「わわ……」
れんちゃんはすぐにキツネさんで応戦してきた。キツネでもふもふぷにぷに、もふもふぷにぷに。
「ん」
しばらくそうして遊んでいたら。れんちゃんが白いキツネを求めてきたので渡してあげる。れんちゃんはキツネ二つをまとめて抱いて、ふにゃ、と笑った。かわいいなあ。
衝動に駆られてれんちゃんを撫でる。優しくゆっくり、髪を梳くようなイメージで。
「んー?」
れんちゃんは首を傾げていたけど、何も言わずに気持ち良さそうに目を閉じた。
うん……。よし。こっそりと。
れんちゃんに光が当たらないように気をつけつつ、スマホを操作。見慣れた配信準備画面を経て、配信開始。しばらくすると、すぐにコメントが流れ始めた。
『れんちゃんのお部屋配信と聞いて』
『お部屋(病室)』
『やめてくれ……』
いい加減慣れろと言いたい。
れんちゃんをゆっくり撫でながら、スマホで写す。キツネ二匹を抱きしめて、気持ち良さそうに頭を撫でられてるれんちゃんだ。ひいき目なしでかわいいと思う。ふふん。
『無言だなw』
『れんちゃんだ!』
『あ、なんか新しいぬいぐるみが増えてる。かわいい』
『ぬいぐるみがかわいい。でもれんちゃんの方がもっとかわいい』
『それな』
ふふん。さすがれんちゃんだ。そんなことを考えてにまにましてたら、
「あれ? おねえちゃん、配信してる?」
れんちゃんに気付かれてしまった。
「うん。してる」
「もう……。別にいいけど、一言ほしいなあ」
「れんちゃんがかわいすぎてつい。反省もしてなければ後悔もしてないけど」
『この姉はwww』
『正直なのはいいことだけどさあw』
『取り繕うこともしないのは草』
「おこるよ?」
「ごめんなさい、反省します」
『はえーよw』
れんちゃんに怒られたくはないからね!
もう、とれんちゃんがそっぽを向いてしまう。そんなれんちゃんもかわいいです。
『頬を膨らましてるれんちゃんがかわいい』
『そして頬をつついてぷすぷすする姉』
『さすがミレイ! そこにしびれないし憧れない!』
「うるさいよ」
「おねえちゃんの方がうるさいよ」
「あ、はい。すみませんでした」
『うるさいよカウンター』
『怒ってるように見えるけど、あんまり怒ってないって分かるようになった』
『いつものじゃれ合いだな』
さすがに本気で怒るラインは私も分かってるつもりだ。そこまでしないよ。
れんちゃんの頬をぷすぷすし続けていたら、れんちゃんがおもむろにキツネさんをテーブルに置いた。何するのかな?
「てい!」
「うひぇ!?」
『おおっと!? れんちゃんが飛びかかった!』
『なんだなんだ、ついにマジギレか!?』
『早くスマホを拾えよミレイ! 天井しか映ってないぞ!』
いや、そんなこと言われても……! れんちゃんが私のお腹の上で馬乗りになってるから、身動きできない。あ、まってれんちゃん、嫌な予感が……。
「こちょこちょこちょ」
「わひゃあ!」
『れんちゃんの逆襲が始まった(らしい)』
『くすぐり攻撃かな?』
『かわいいw』
「こちょこちょこちょこちょ」
「あ、ははは、やめ、やめてれんちゃん……! あかん! あかんて!」
『お前はどこのエセ関西人だw』
『てえてえ』
『てえてえ……?』
いや、これ、きっつい! 私がれんちゃんをよく知ってるように、れんちゃんだって私のことはよく知ってる、はず。いやつまり何が言いたいかって言うと、私のどこが弱いかも知ってるってことで……。
「こちょちょちょちょ」
「……!」
『画面が激しく揺れるぅ!』
『どうなってんのこれ?』
『多分、れんちゃんを押しのけるわけにはいかないから、ベッドを叩きまくって耐えようとしてる』
『把握。無駄な抵抗だな』
う、うるさ、いやまってれんちゃんそろそろ許して……!?
「れんちゃんに許してもらう代わりにチョコレートを献上しました……」
「もぐもぐ」
『れんちゃん、買収されちゃったかw』
『チョコレートなら仕方ないw』
『もぐもぐれんちゃんかわええ』
とりあえず今はちゃんと許可をとってれんちゃんを映してる。れんちゃんはキツネさんをなでなでしつつ、チョコレートをもぐもぐ。うむ。かわいい。
「今日の夜はスライムに会いに行く予定です。時間はいつも通り、かな?」
『告知助かる』
『まあいつも同じ時間だから、告知なくても見るんだけどな』
『楽しみにしてる』
「いつも通り行き当たりばったりだけどね。それじゃあ、れんちゃん。私もそろそろ帰って準備を……」
そう言って立ち上がったら、れんちゃんに服の裾を掴まれた。振り返ると、じっと見つめられる。心なしか、瞳が潤んでるような……。
『いなくなると寂しいんだな』
『あれだけ大騒ぎした後だと余計にだろうなあ』
「うん……。あと三十分で面会時間も終了だから、それまでだよ?」
私がそう言うと、れんちゃんは嬉しそうに頷いた。うん、まあ、ちょっとぐらい遅れても、いいかな? いいよね。
「配信、ちょっと遅れたらごめんね」
『気にすんな』
『配信よりもれんちゃん優先。みんな分かってる』
『ここの人ら、民度高すぎじゃね……?』
「ほんとにね。私としてはとても助かるけど」
本当に、優しい人たちばかりで、とてもありがたいことだ。運営がブロックしてるだけかもしれないけど。
残り三十分はれんちゃんを膝にのせて、のんびりまったりな時間を過ごした。満足。
壁|w・)こちょこちょ。こちょちょちょちょ。
少し長くなりました。書いてて楽しかったです。こちょこちょ。
またレビューをいただきました。ありがとうございます。
のんびりまったり、癒やされるお話にしていきたい、ですよ。
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書く意欲に繋がりますので、是非是非お願いします。
ではでは!