戦いの始まり③④
俺は<五感リンカー>を持っていないので、リンから借りる。俺が借りたのは、リンがβテスターとして無料配布された初代の<五感リンカー>だ。初代の<五感リンカー>は持ち運ぶのに一苦労でしかも有線で繋がなければいけない。しかし、最近開発された最新の<五感リンカー>は見事にその問題をほとんど解決した。まずは、重量だが初代の10分の1の軽量化に成功したという。しかも、有線でしかできなかったのが、無線でできるようになっているらしい。
初代<五感リンカー>の扱いは非常に難しく、その複雑に入り組んだコードが数本繋がっている。リンに説明書をもらうのを忘れた俺は、リンに聞きに行こうとしたのだが、リンの部屋のドアに張り紙がしてあった。そこには、「お兄ちゃんへ。先にログインしてるからね!早く来てよ!」と書かれていた。聞く当てがいなくなった俺は、仕方なくwikiで調べながらどうにか電源を入れれば動くとこまでこぎつけた。リンがログインして20分後のことだった。こりゃ怒ってんな……。
俺は、バイクのヘルメットの一回りぐらい大きいβテスト用<五感リンカー>をかぶってから寝床に横になり、ちょうど右耳あたりにある丸い電源ボタンを押した。そして、俺は目を閉じた。
視界が真っ暗になってから数秒ほどで一部分が薄らと白く光っていっているのが分かった。そこに目を凝らしていると、徐々に文字浮かんでくる。<ディスカルド・オンライン>このゲームの名前が浮かび上がった。それは、まるで3D映画を見ているように立体的だ。そして、浮かび上がった文字が消え次第に明るくなっていった。
「おおお!!!」
思わず歓喜の声を上げてしまった。目の前には、緑の草原が無限に広がっている。草、花、鳥、虫……すべてが本物のように感じられる。科学は確実に進歩しているということが、つくづく思い知らされる。<五感リンカー>を発明した時点で、科学は一歩二歩も進んでいるのだが……。俺が目の前の草原に見とれていると、
『ようこそ!ディスカルドの世界へ!あなたを歓迎いたします!』
いきなりの声に、つい絶句してしまう。
『私、プレイヤー様の案内音声フィエと申します!どうぞよろしくお願いいたします』
「よ、よろしく」
『それでは、プレイヤー設定をします。そのあと、招待コードの入力、チュートリアルの順番で進めさせていただきますが、よろしいですか?』
ちょっとワクワクしている自分がいることに気付いてしまった……。俺は興奮を隠せないまま、
「は、はい!」
と返事をした。この後起こる悲劇も知らずに……。
◆
『それでは、プレイヤー設定に入ります。プレイヤー設定には大きく分けて四つあります。まずは、性別それから、顔、体系そして、肌の色になります。顔の設定は、自分顔をベースに好きなように設定をすることが出来ますが、身長を変えすぎると慣れるのに時間がかかる場合があるので、ご注意くださいね。以上でプレイヤー設定の説明を終わります』
説明が終わった途端、目の前に広がっていた草原が消えた。すると、性別の選択肢が映し出され、男性の方を選択すると、次に自分の顔が映し出された。自分の顔をベースにって……。
~5分後~
簡単に言うと、中の上ぐらい……かな?身長は178㎝ぐらい。5㎝しか変わってないよ。肌は色白と言われるぐらいの白さかな。ちょっとでもカッコ良くしようって思うのが普通だと思うのは俺だけかな……?
「できました!」
『了解しました。プレイヤー設定が完了しました。続いて名前入力となります。名前入力は音声での入力となります。滑舌が悪いと思われる場合は、手書き入力が可能になりますがどういたしますか?』
「いや、滑舌はいいと思うので音声入力で」
この決定が悲劇をうむことになる。
『了解しました。名前は他アカウントとかぶるとその名前は使えませんのでご注意ください。それでは、名前を入力してください』
んー名前か~。何しようか迷うがハジメにでもしとくか。
「ハジメ」
『使われてます』
まぁ、最もプレイされているゲームだしな。なんか適当に言ってくか。
(注:ここからだんだんとハジメがおかしくなっていきます)
「トウダイジ」
『使われてます』
「………トウダイジハジメ」
『使われてます』
ハジメ怒り度40%
「……ワン」
『使われてます』
「……ツー」
『使われてます』
「……スリー」
『使われてます』
ハジメ怒り度70%
「…………妹大好き」
『使われてます』
「……………妹LOVE」
『使われてます』
ハジメ怒り度は遂にMAXへ……。
「うおおおおお!!!何なんだよ!!!」
『うおおおおお様でよろしいですか?変更する場合は10秒以内に変更と言って……」
「ふっざけんな!!!おかしいだろコレ!!!妹大好きとか妹LOVEとか、俺のリアルネームまでいるのかよ!!!」
『うおおおお様に決定いたしました。』
「……ん?ちょっと待て!うおおおおおって誰だ?」
『プレイヤー様ですが?変更はもうできません』
………あ、うおおおおおって言ってた……。俺の怒りMAXで気づかなかった……。
やっちまったあああああああ!!!
『続いて、招待入力となります。一人だけこのゲーム内にいるプレイヤーの名前を入力すると、招待特典がお互いもらえます。招待特典には、ポーション一式(HP回復、MP回復、状態以上回復、攻撃力UP、防御力UP)が貰えます。招待されますか?』
「あ………はい………」
俺のかろうじて答えることが出来た……。そして、かろうじてリンの招待コードを入力することが出来た。名前も普通に手書き入力でいいじゃないか……。そんなショックを隠せない俺をおいてフィエは、
『次にチュートリアルを行うことが出来ますが、どうされますか?』
チュートリアルなんてやってられっか……。
「いや、いいです……」
『了解しました。すべての設定を終えることができました。それではディスカルドの世界をお楽しみください!≪始まりの町ビーナス≫に転送します』
俺は白い光に包まれ≪始まりの町ビーナス≫に転送されていった。
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