戦いの始まり①②
俺こと、東大寺 一。17歳。ゲームプレイ時間わずか20分にして、妹のリンに見捨てられました……。
なんてすがすがしい朝だろう。日差しが俺の顔を照らして眩しい。夏休みの宿題は昨日徹夜で終わらした。そして、大学受験という高校三年生の地獄も、夏休み前に、有名大学の推薦に合格している。合格が決まった時は一番乗りで受験が終わったということで、クラスのみんなから「クソがり勉!」やら「勉強教えろよ!」とか言われたモンだ……。
俺の取り柄というのも、そんなになく。運動も平凡なだけに、唯一の取り柄が勉強という始末だ。まぁ、確かに勉強が嫌いかと言われるとそんなこともないのが現状だ。
そんなこんなで俺は、だらけた日々を過ごしているのだ。
「あー!暇!暇すぎる!」
俺は、あまりの暇さに、思わずくちばしってしまった(独り言)のだが、これが俺の平凡な夏休みを、ある意味面白くする言葉になるとは、思いもしなかった。
俺が、大声をあげて10秒もしないうちに、ドドドドドドッと廊下を走ってくる音が聞こえてくる。その音は、俺の部屋の前で止まった。
「ねぇ!今暇って言った?」
そんな言葉と共にいきよい良くドアを開けたのが、綺麗な黒髪を二つに結んだツインーテールで、身長155㎝ほどの小さい女の子だ。名前はリン。身長が小さいとはいっても高校一年生だ。
「え?何のこと?」
俺の経験上、面倒くさいことに巻き込まれるであろうという予測がついたので、とぼけることにした。
「嘘つくな!」
無駄だったようだ……。ボカッ!リンの蹴りがみぞおちにクリーンヒットした。容赦なく暴力を振ってくるのがリンである。もちろん俺だけにであるが。
「ハイ……言いました……」
こいつの地獄耳は、今日も健在だな……。しかも、可愛い。
いちお言っておくが、俺は決してシスコンでもロリコンでもない。決してだ。
「暇だったらなんだっていうんだ!」
「ゲームしようよ!ゲームゲーム!」
「嫌だ!俺はそこまで暇じゃねぇ!」
この反論もむなしく、ボコッ!っとまたもやみぞおちに入った。
「ハイ……暇でした……だから……暴力反対!」
男ながら情けないが、女の子に手は出せない……。
「じゃあ、ゲームやる?少しぐらいなら、レベル上げ手伝ってあげるからさ!ね?いいでしょ?」
口調は疑問形だが、顔が命令形になっている。強制ジャン!
「は、はい!やらせていただきます!」
リンには勝てん……そう改めて感じた。
「やった~!お兄ちゃんだ~い好き~」
そう言って、ニッコリ笑うが俺にとっちゃあリンの笑顔は鬼でも見ているような気分だ。怖すぎる……。そう思ったものの、決して口には出さなかった。いや、出せなかった。
◆
「それで、俺は何のゲームをすればいいんだ?」
「えっとね、<ディスカルド・オンライン>ってゲーム知ってるでしょ?」
「あぁ」
<ディスカルド・オンライン>通称D・O。世界で最もプレイされているゲームだ。なぜ、人気があるのかと言うと、それにはハイテク技術が関係している。
『五感リンカー』今や人類最大級の発明とも言われたこの装置は、この装置を装着することによって、体を眠らせた状態で、脳だけが起きている状態にする。そこに、ゲームをリンクさせることによって、まるで別次元に行ったかのような感覚を味わうことができる。これぞまさしく、VRゲームである。このD・Oはその技術を最初に取り入れた、唯一のゲームなのだ。
人気があるのはそれだけではなく、通常のオンラインゲームというのは「課金をすれば強くなれる」という感覚が当たり前だ。しかし、このゲームは「やり込めばやり込むほど強くなる」というシステムになっている。だから、課金をする要素も一つもない。
<五感リンカー>の価格は約10万円と高額すぎるが、発売開始から1時間弱というわずかな時間で完売したということで、話題となった。
それは、ニュースで報道されるほどの人気っぷりで、俺も少しは興味を持っていたのだが、その金額で買う気には全然ならかった。そういえば、リンがこのゲームのβテスターに当たったと大騒ぎしていたな。
「ところで、お前<五感リンカー>もう一個あるのか?」
<五感リンカー>は一人で一つでなので、そのゲームをするには、二つ必要になる。
「あるよもちろん!パパに買ってもらっちゃった!」
こいつのおねだりも相当だが、俺の親父も相当な甘々な親なのだ。妹に対してだけだが……。異常といってもおかしくはないほどだ。
例えばこんなことがあった。俺が12歳で妹が10歳の時のことだ。俺たちは親父と買い物に行っていた。リンは異様にでかいぬいぐるみを欲しがっていた。リンが買ってもらうなら自分も買ってもらおうと、一つのプラモデルをおねだりした。リンおもちゃの約10分の1ほどの値段だ。しかし、言われた言葉は、
「ダメ」
俺はすぐさま言い返した。
「でも、リンあんなでかいの……」
「ダメ」
「え……でも……」
「ダメ」
俺は諦めきることができず、ついにはこんなことまで言った。
「でも……男女平等って憲法で制定されて.......」
「子供がそんな知らなくいい!」
逆に怒られた……。
まぁ、こんな経験を何回もしたわけだ。今考えても本当に可哀想だ俺……。
俺は、ちょっとふてくされながら、
「ハハハ……さすが……」
としか、言い返すことができなかった。
今も昔も変わんねぇなバカ親父!リンに甘過ぎだろうよ!!!
「それで……何をすればいいんだ?」
「えっとね、ゲームする時に招待ネームっていうのを入力するところがあるからその時に私の名前を使ってほしいの」
と言って、紙切れを渡す。そこには、リルカと書かれていた。これがリンのゲーム内での名前か。
「招待特典狙いか……」
招待特典とは、すでにプレイしているプレイヤーが、まだプレイしていないプレイヤーに、自分の招待コードを入力させることによって、レア武器などを手に入れることができる。課金制ではないこのゲームにとって、招待するというのは、課金と同じような意味になるという。
「分かった……」
「今すぐだからね!」
「朝ごはん……」
「今すぐね!」
俺は、妙に嫌な予感がしていた。
目を通していただき本当にありがとうございました!




