~第33章 年上の余裕~
広場の静けさを破ったのは、ここにはいるはずのない私の年下の彼氏。
桐谷冬真だった。
「夏緒里さん・・・そちらの方は、どなたですか?さっきのはどういうことです?」
初めて聞く、怒りを抑えこんだような静かな彼の声。
その声に、私は自分が何をしたのか、ようやく把握できたのである。
「あ・・・桐谷くん・・・あの・・・」
彼の質問に、すぐに答えられない私の前に、すっと人影ができる。
「はじめまして。僕は、葉月さんの上司で、本社勤務の、一之瀬といいます。今日はうちと合同の飲み会で、彼女、少し体調が優れないようだったので、ここまで付き添いました」
私と桐谷くんの間に入って、自己紹介までしてくれている部長の背中がとてもたくましく見える。
そんな部長に桐谷くんは、少し嘲笑うかのような口調でこう言った。
「こちらこそはじめまして。僕は、夏緒里さんの彼氏で桐谷と申します。今日は、僕の彼女に連れ添っていただきまして、本当にありがとうございます」
「いいえ。あなたの噂は先ほど女子社員から聞いていますが、噂よりもイケメン、ですね」
「それは、ありがとうございます。そうおっしゃるあなたこそ、イケメン、だと僕は思いますが。僕のことをご存知でしたら、話は早い。ここで、ふたり何をしていらしたんです?」
変わらず穏やかな口調の部長に対し、苛立ちを隠せない様子の桐谷くん。
「なにって・・・ただ、愛を囁き合っていただけですよ。ね?葉月さん」
「・・・えっ?」
にっこりと微笑み、こちらを振り返る部長。
私を静かに見つめ、問いただす桐谷くん。
「本当ですか?夏緒里さん」
「え・・・あ、あの・・・」
そして、またもや答えられない、どうしようもない私。
部長が振り向いた位置から少し横にずれた為か、桐谷くんと部長、ふたりの顔が私から見えるようになり、さらに気まずい。
そんな私の様子に、再び部長は桐谷くんに話しかける。
「しかし、君の若さでは、彼女の気持ちを十分に理解することは難しいだろうね」
「それは、どういう意味ですか?」
「どうって、そのままの意味だけど」
そう言って、にっこりと微笑む部長に、桐谷くんは眉間に皺をよせる。
そんな彼に、部長はさらにこう続ける。
「桐谷くん。他の男に彼女を持っていかれたくなければ、もっと素直になることだな。彼女を不安にさせるなんてもってのほかだろ。僕なら今すぐにでも彼女を満足させる自信がある。もちろん心身共に、ね」
その部長の台詞に、悔しそうにギリっと唇を噛み締める彼。
そんな彼をよそに、部長はその大きな優しい手で私の頭をポンポンと撫でると、にっこりと微笑みこう囁いた。
「今日は邪魔が入ってしまったね。彼が君に素直になれずに君が苦しむ様なら、いつでも僕のところへおいで」
「部長・・・」
「じゃあ、またね。葉月さん」
そう言って、ひらひらと手を振り、去っていく部長だったが、突然足を止め振り返ると桐谷くんを見据えこう言った。
「そうそう、言い忘れてたけど、彼女は、つまづいて僕に抱きついてしまっただけだから。葉月さんを叱らないでやってくれよ?」
じゃあ、僕はこれで。
と、私にウインクしてみせると、部長はみんなのいるあのレストランへと戻っていった。




