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大正令嬢探偵叶花 ― 歴史とミステリーと四神に溺愛される ―   作者: 奏楽雅


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1/3

第1話:七五三木叶花本人です

大正三年十二月…


激動の年だった。


第一次世界大戦が始まり日本もその激流に巻き込まれ、協商国として青島では対独戦にも参加した。


国内では、東京駅が開通し西への玄関口が新橋から東京に移ることになる…


「こんなところに子供が…」


日本人なので黒目黒髪、髪は長く先端で一つに纏めている。

私は、七五三木叶花しめぎかなか

女の身で探偵をしている…

探偵…正確には違うのだけれど、家の責務として負わされている仕事の隠れ蓑としている。


仕事を終えて事務所へと帰るところだった。

既に辺りは暗くなっていて、12月に入って身を斬る寒さになっている。

開業直前の東京駅に差し掛かったところで三人の子供が死にかけていた。


まだ幼子というより乳飲み子に近い…


「このままでは死んでしまうわ…」


官警に連れて行ったとて碌なことにならないのはわかっている…

「安心して、もう大丈夫よ」

私は連れて帰ることにした。

深く考えたわけではないが、そうすることが自然に思えたからだ。


◇◇◇


「叶花探偵事務所…」


モダンな建物に掲げられた看板の前に若い男は立っていた。


男は切羽詰まった顔をしていて、仕草にも余裕がない。


ここでいいんだよな


男は意を決してビルの扉に手を掛けた。


カランカラン


扉に設えた鐘が鳴る。


探偵事務所というものがどんなものか知らないが、入った第一印象は本屋だった。


四十畳ほどの室内を見渡す。


装丁のしっかりした書籍が本棚に綺麗に収まり、それが壁中、部屋中を埋め尽くしていた。


日本語以外の文字が書かれた背表紙が多く、男は何の気なしに本に手を出していた。


「何か御用ですか?」


本に指が掛かったところで、棚の奥から声がした。


ここの主人は、紹介してくれた人の話では29歳の美しい女性で、帝都で起こる不穏な事件を解決しているとのことだった。


“女が?”男はそう思ったが既に頼る場所は他になかった。


男は、奥の棚へと向かった。


「いらっしゃい。どうぞお座りください」


そう促す女性は…


十代半ばを思わせる、とても美しい少女だった。


男は自分の鼓動が速くなるのを覚えた。


◇◇◇


大正四年十二月…


昨日までの事件が解決し。

アンニュイな気分でその日は過ごしていた。


大戦景気で造船や海運会社、紡績などさまざまな企業が湧いているが、個人レベルでは関係ないし物価の動向のほうが気にかかる。


「叶花さん。もうすぐ飛び込みの依頼者が訪れそうですよ」


黒服を来た長髪で切れ長の目をしている端正な顔立ちの二十歳前後の男性が、テーブルにティーカップを置くと、私の髪を掬い上げてそういった。


「白嶺…今日はもう終わった気分なのに…」


「CLOSEを出してこようか?」


ウルフカットの、黒服を少しだけ着崩したワイルドさのある男性が本棚に本をかたしながら振り向いた。


「武史。そうもいかないわ」


「真面目ですね。ちっちゃいのに」


黒い女中服を来たフワリとした長髪でモデルのようなスタイルの妙齢の女性が笑った。


「ち、ちっちゃいは余計です、朱緋!」


カランカラン


すると、表の扉が来訪者を告げる鐘が鳴り響いた。


来訪者は中に入ると立ち止まった気配がする。

部屋を見渡し戸惑うののだろう、ここに来た人間はみんなそうだから良く解る。


私は声を掛けた。


足音が近づく。ソロリとこちらを覗き込まれた。


本棚の陰にいた私と目を合わせた男は、軍服を来ていた。


短髪の端正な顔立ちの優男だ。

軍服の階級章は、襟章は萌黄色。星一つに二本線。肩章には1の文字。

陸軍騎兵隊少尉、騎兵第1連隊…

エリートね。


優男は私に見惚れたように何も話さない。


(?)私は首を傾げる。


「どうされましたか?」


「あ、いえ。仕事をお願いしたいので、七五三木叶花さんをお願いできますか?」


「それは私です。お仕事のご依頼はどのようなことでしょうか?お伺い致します」


あれ?

男は怪訝な顔を隠さない。


「29歳の女性と聞いてきました?」


「はい、その聞かれ方は嬉しくありませんが29歳です」


「しかし、どう見ても…」


「私の叶花さんに失礼ですね」白嶺の目つきが鋭くなる。


「俺の叶花だ!」武史が白嶺に噛みつく。


「貴方達に叶花様はあげないわよ」朱緋の目が細くなる。


「やめなさい!依頼人の前ですよ」


(はあ、もう…)


「証明は出来ませんが、私が七五三木叶花本人です。もし信じて頂けないようでしたら、どうかご依頼せずお帰りください」


「…申し訳ありません。私としては問題が解決できるかどうかが大事でした」


私の言葉に、男はしばし視線を斜め下に移して考え込むとそう答えた。


「どうぞ、おかけ下さい」


私は反対側のソファに座ることを促した。


***


男の家は旧家のようで、麹町に建つ西洋風の大きな館だった。


男の名は西園寺侯彦さいおんじきみひこといった。


豪奢な鉄柵の門をくぐる。

日本に似つかわしくない前庭を歩いて進む。

「家を出るだけでも一苦労そうだな」

武史が漏らす。


「申し訳ありません。馬車で伺えばよかった」

そう、馬の手綱を引き自分の脚で歩く侯彦が申し訳無そうにいう。


偉ぶるでない、好感の持てる青年だった。


「どうぞ。此方です」


若い女中が扉を開いてくれた。

そのままの足で二階の奥へと案内される。



私への、依頼は妹君の奇病とのことであった。


「それは、お医者様の領分では?」


「高名な医師や。海外から戻った医師にも見ていただきましたが」

西園寺は首を振った。


「私は、探偵ですよ?」


「近衛様から紹介を頂きました」


「ああ、そういうお繋がりで…」


事務所でのやり取りはそんな感じで、直ぐに伺うことにした。


絨毯の敷かれた長い廊下の先。

両開きの扉の前で立ち止まる。


「なあ、気づいているか?」

武史が、白嶺と朱緋に問う。


「もちろん」

「今頃気づいたの」

「…ちっ」


「如何しましたか?」

侯彦が訝しがる。


「いえ、問題ありません」

私は、三人を制してそう答えた。


扉をノックすると、内側から女中によって扉が内側に開かれ中を覗かせる。


頭を下げた女中の前を通り過ぎて部屋へと入る。

大きな天蓋付きのベッドに誰かが寝ていた。


「白嶺、武史は部屋の外で待っていて」


「なんでだ…」

「かしこまりました。外でお待ち致します」

「お、おい。なんだよ…」

文句を言いかけた武史を白嶺が連れ出してくれた。

流石に男性に見られるのは嫌だろうという配慮だった。


「妹さんと言われてましたよね?」


「そうです、歳の頃は叶花さんと同じくらい、17歳です」


(んー私は17歳じゃないのですけどね…)


ベッドに寝ていたのは、初老を過ぎ天寿を全うしそうな老婆だった。


お読みいただき有難う御座います。

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