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第32話 俺は仲間に会いに行く!

 この大陸の北端には巨大なローヤン山脈があり、その向こうには魔族領が広がっている。

 ローヤン山脈の標高は一万メートルを超えており、頂上付近には一年中、豪雪が吹き荒れている。

 徒歩で通過するルートはなく、互いの侵入者を拒み続けている。


 今から二年後、魔族軍はローヤン山脈から押し寄せてくる。

 どういうルートを通ったのか? 今の俺でもわからない。

 ただ、数万の軍を引き連れ突然現れたという報告だった。


「考えても、わからない事だらけだ」


 だけど今やるべき事はそれじゃない。


「まずは貴族に対抗できる力を手に入れる」


 奴等は俺達を使い勝手の良い道具として使い倒してきた。

 王族や貴族はプライドが高い上に、自分の事しか考えていない。

 奴等を抑える方法として、裏から金を貸し付けて金の力で押さえる事も考えた。


 しかし奴等はずる賢い。

 抜け道を見つけて必ず難癖を付けてくるだろう。

 嫌がらせする情熱だけは高いので、余計にたちが悪い。

 特に自分以外の者が得していると妬みから必ず邪魔をしてくる。

 

 二年後、俺も勇者様と行動を共にする事になる。

 もしも俺がクロムニウムの利権を持っている事を奴等が知れば、必ず絡んでくる。


「やはり奴等が持っている権威に対抗するには、同等の力を手に入れるしかないよな」


 前から考えていた方法以外、有効な対応策は見つからない。

 俺は仕事部屋にノルンを呼び出した。


「商会長、ご用途と聞きましたが?」


 あれからメンタルが回復しつつあるノルンが部屋にやってきた。

 ノルンの隣には側近のダッチが付き従っている。

 ダッチと言うのはあのマッチョの事だ。

 ノルンは本当にあのマッチョを自分の側近にしてしまった。


 ダッチよ。

 お前は本当にこの残念エリートの側近でいいのか?


「新しい支店を作りたいから、手続きと準備をしてくれ」


「わかりました。ちなみにどの地域に支店を?」


 ノルンの問いに俺は机の上に置いていた地図の一点に指を立てた。


「聖法国ユグリアだ」


◇◇◇


 聖法国ユグリア。


 帝国と王国の間に存在する中立国家だ。

 この国を支えているのは、聖法教。


 大陸中から莫大な寄付を集める巨大宗教であり、王族や貴族ですら無視できない存在だった。

 聖法国ユグリアを敵に回すことは、そのまま民衆を敵に回すことに等しい。

 つまり聖法国ユグリアで騎士男爵の地位を得ることは、ただの爵位以上の意味を持つ。


 金では買えない権力。

 俺が欲しいのはそれだった。


「失礼します」


「職員が書類を持って部屋に入ってきた」

「ありがとう」


 書類を手に取り内容を確認する。


「なるほどなぁ、こんな事が起きていたんだな」


 俺が受け取ったのは調査報告書である。


 これから入国する予定の聖法国ユグリアの簡単な現在の状況を調べてもらっていた。


【次期教皇の座を巡る派閥争いが激化】


 それに関する情報が書き込まれていた。


「現教皇派と反教皇派ねぇ…… あと二年もすれば、仲間内で争っている暇なんてなくなるんだけどな」


 情報を読み進めている目がとまる。


「アイラ…… そうだよな。 いるに決まっている。この頃のアイラってどんな感じだ?」


 聖女アイラは勇者様の仲間の一人だ。


 出会った頃から感情に乏しく、自分から話しかけてくる事はなかった。

 言われたことはやるが、指示がなければ自分からは動かない。

 そんなアイラも魔族軍との激戦で命を落とした。


 今でもはっきりと覚えている。

 自分が死ぬ間際でもアイラは他人事だった。

 そして最後の言葉。


「私は何をするために生まれたのでしょうか?」


 そう口にしながら俺の前で命を落とした。

 あの言葉を、俺は今でも覚えている。

 あの時の俺は答えられなかった。

 今になって思い返せば、普通の人間が死に際に考えることじゃない。

 それだけアイラの中では大切だったって事になる。


(何をするために生まれてきた……)


 俺の知らないアイラは一体どんな生活をしていたのだろう。

 どうして、死に際にまで自分の存在意義を求める様になったのだろう。

 理由はどうあれ、過去に戻ってきたんだ。


(俺の知らないアイラに会いに行こう)


 あいつが欲しかったのは、励ましや、慰め、そんな答えじゃない筈だ。


「よし、アイラに会いに行こう」


 あいつが何を求め、何に苦しんでいたのか。

 今度こそ、ちゃんと知るために。


◇◇◇


 聖法国ユグリアに支店を出す準備を初めて1ヶ月。

 全ての準備を終え、俺はユグリアに向かう。


「わるいが、しばらくユグリアに行ってくる。工房の事は任せたぞ」


「任せて下さい。職人の数も増えて最近は余裕が出てきていますから、工房の方はもう大丈夫です」


 見送りに来ているハイドが力強く答えた。


 そして俺の隣で大きな旅行バックを持ったノルンが頬を膨らませている。

 俺は聖法国へ、ノルンを連れていく事にしていた。


「商会長、どうして私も一緒に行く必要があるんですか?」

 

 ふくれっ面のノルンが行きたく無さそうにしている。


「新規店舗を出すんだ。諸々の調整とかもあるだろ。お前はそういうの得意だろ?」


「何を言っているんですか!! こっちの仕事だって山のようにあるんですよ」


「甘いな。嘘をついたって、優秀な奴を大量に雇い入れて、今は余裕がある事くらい知っているんだぞ」


 ノルンが雇い入れた職員は優秀な人材が多く、通常業務程度なら問題はなかった。


「今までこき使われてきたんですから、少しは私も休ませて下さいよ!!!」


 ノルンは目に涙を浮かべながら、労働環境の改善を訴えてきた。

 ノルンが優秀過ぎて、仕事を大量に任せているのは間違い無い。

 俺の見た感じで言えば、まだ余裕を残している。

 ノルンには最終的にはエリス商会を任せるつもりだ。

 なので今は辛くても頑張って成長して貰おう。


「わかった。わかった。なら丁度アストレア商会と新しい商品についての打ち合わせがあったから、そっちに……」


「聖法国ユグリアに行きます!! 新規店舗の件、私にお任せ下さい」


 速攻で手のひらを返してきた。

 アストレア会長に植え付けられたトラウマは消えていないみたいだ。


「じゃあ、よろしく頼むよ」


 俺は得意げに笑って見せる。


「ぐぬぬぬ。嵌められた気がしてなりませんが、アストレア様に会うくらいなら仕方ありません…… ダッチ、貴方も一緒に行きますよ!」


 ノルンの側近であるダッチは無言で頷いた。


「どうしてダッチを巻き込むんだ?」


「私を守るのがダッチの仕事ですから!」


「本人の意思は?」


「それを貴方が言うのですか?」


 ノルンの鋭い視線が俺を突き刺した。


「まぁいい。それじゃノルンとダッチ、よろしく頼む」


「さっさと用事を終わらせて、早く帰ってきましょう」


 一応、リュックに必要な物は詰め込んでいるから、頼むことは何もないと思う。

 別れの挨拶をした俺は用意していた馬車に乗り込む。

 俺がリュックなどの収納具と接している間は【歩荷】のスキルが発動し、リュックの重さが軽減される。

 なので馬車などで移動も可能だった。

 スキルは何でも使い方次第である。

 

「聖法国ユグリアでアイラに会った後は、他の奴等の所にも行ってみよう。そうすればもっと仲間達とわかり合えるかもしれない」


 【最後の献身】の効果は【自身の命と引き換えに、対象者が望む結果へ至るための最適なサポートを行う】


 なので毎回過去に戻れるとは限らない。

 状況によっては違うサポート結果になると言う事だ。


「あんな後悔はもう二度と御免だ。だから今回は俺の思うようにやろう。仲間の信頼を勝ち取り、全員で魔王に挑む為に!!」


 俺の二度目の挑戦はまだ始まったばかりだ!

最後まで読んで頂きありがとうございました。


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