表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
98/117

97話:ひっこし……?

 シンセ・フィブラのミレアのラボには、幾筋もの複雑なデータグラフがホログラムで映し出されていた。

 青白い光に照らされた画面を深刻な面持ちで眺めているのは、ミレアと、彼女が信頼を寄せる先輩研究員、スティーブ・プラックだった。


「先輩、これが『ゾダン』のデータですか」


 ミレアが端末を操作しながら問いかける。


「うん、これがルネクトプロトコルでブラング機に積まれていた、共振システムの解析データだ」


 白髪の混じった壮年の研究者は、眼鏡の位置を直しながら頷いた。提示されたデータを見る限り、それは脳波などの外的要因によって機体を制御するシステムであったことが克明に示されている。


「ある程度分かっていたことですが……やはり、レストフルからの信号と、ブラング自身の脳波を同調させて機体を制御していたという事ですね」


「ああ、その上でレストフルの信号がブラングの精神にまで影響を与えていた、確実な裏が取れたよ。まあ……一歩間違えれば脳を焼きかねない、実に危険な代物だね」


 スティーブの言葉に、ミレアはふむ、と顎に手を当てた。


「脳波システムの技術体系としては、かなり古いものですよね。一世紀以上前には、こういった脳波による直接制御の研究が盛んに進められていたと言いますが」


「そうだね、古い設計思想を今の技術でさらに強化して実験する――それがエスカドの技術者たちの考えだったのだろう」


 スティーブはグラフの一角を指差しながら言葉を続ける。


「しかし、アーデンシステムにはそういう危険な要素は無かった。あれは外部へ信号を放出、あるいは共鳴するものであり、強制的な受信によってパイロットを従属させるような仕組みではなかったからね。そういう意味では、あちらは頭の固いアプローチではなかったと思う」


「旧エスカド社の技術者たちも、決して時代遅れなどではない、侮れない方々だったようですね」


 ミレアは静かに息を吐いた。レストフル関係の機体や端末から残されたログから、旧エスカド社の科学者たちが過去に非人道的な人体実験を行っていたであろうことは、もはや確信に近い。技術者として決して許されるものではないが、そのあくなき探究心と遺された技術の高さについては、同じ開発者として一抹の敬意を抱かざるを得なかった。


「アーデンシステムの解析によって、『アレ』の前身、つまり次のプロジェクトはある程度進んだと言える。……次は、このゾダンのシステムを応用して組み込むことも出来るかもしれない」


 スティーブの何気ない言葉に、ミレアの眉が跳ね上がった。


「アーデンか、あるいは既存の機体にあのシステムを組み込むという事ですか?」


 ミレアは信じがたいといった様子で声を潜める。かつて自警団に捕縛されたブラングの錯乱ぶりを見る限り、あのゾダンの共振システムは使用者の精神を深刻に汚染しかねない。大切なパイロットに、そんな危険なものを背負わせるわけにはいかない。


 そんな彼女の危惧を察して、スティーブはすぐに両手を振って悪戯っぽく笑った。


「いやいや、流石にそんな無茶なことは考えていないよ。もう少し安全な形で解析を進めて、何かに応用できそうになったらまた相談させてもらうよ。大丈夫、君の『妹』を危険にさらしたりはしないさ」


 面と向かって「妹」という言葉を突きつけられ、ミレアは一瞬言葉に詰まり、わずかに頬を赤らめた。戸籍上、レタリアを自分の妹として登録したのは事実だが、こうして他人にからかわれると、どうにも決まりが悪い。


「先輩、茶化さないでください」


 ムスっと不機嫌そうに口を尖らせるミレアの、普段のクールさからは想像もつかない珍しい表情を見て、スティーブは楽しそうにほほ笑んだ。


 その時、ラボの電子インターホンが小気味よい音を立てて鳴り響いた。

 二人はすぐに仕事の会話を止め、ミレアがいつもの冷静な声に戻って声を上げる。


「どうぞ」


 ラボの入り口の重厚なドアが静かにスライドし、そこからダークパープルの長髪を揺らした少女が堂々と姿を現した。


「今日も来て差し上げましたわよ!」


 ふん、と腰に手を当てて得意げな表情を見せるレタリアである。しかし、室内の先客に気づくと、その美しい瞳をぱちくりと瞬かせた。


「あら、スティーブ様もいらっしゃいますのね」


 レタリアの言葉に、スティーブはフランクに片手を上げて挨拶する。


「こんにちは、レタリア君。私はちょうど用事が済んだところなのでね。あそこに差し入れのお菓子を置いておくから、二人で食べると良いよ」


 そう言ってスティーブは、作業スペースのテーブルを指差してから部屋を後にした。気前の良い先輩の態度に、レタリアも特に畏まることなく、軽く手を振って見送った。


 パタン、と扉が閉まるのを見届けてから、レタリアはミレアのデスクへと近寄る。


「何のお話をしていらっしゃいましたの? なんだか難しい顔をしていましたけれど」


「何でもないわ、ちょっと古いデータの整理をね。それよりレタリア、ちょうどあなたへの連絡が入ったわよ」


 ミレアはホログラムのグラフを消去し、代わりに管理局からの公的な通知画面を表示させた。


「なんですの?」


「引っ越ししなさいって」


「ひっこし……?」


 聞き慣れない単語に、レタリアは小さく首を傾げるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ