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悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!  作者: くるっくる
わたくしに語り掛けるあなたは何者……!?
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44話:ミレアの調査ですわよ!

 シンセ・フィブラ・セルディア研究所。そこは、レタリアたちが日々出入りする整備用ハンガーや作戦司令室とは一線を画す、選ばれた研究員のみが入室を許される施設である。

 静寂が支配するその最深部、複雑な配線と端末に囲まれた一室に、ミレア・イチノセの姿があった。数日間まともな睡眠を摂っていない彼女の瞳は鋭く、しかし僅かな疲労の色を隠せていない。


「――イチノセ主任、すまんな。こんな時間まで」


 背後から響いた落ち着いた声に、ミレアは肩の力を抜いて振り返った。

 そこに立っていたのは、白髪の混じった壮年の男性、スティーブ・プラックだ。彼はミレアにとって研究者としての先輩であり、彼女がこの世界で数少ない「尊敬」と「信頼」を寄せる人物でもあった。現在は主任であるミレアが立場こそ上だが、若き日の彼女を導いたのは他ならぬ彼だった。


「スティーブ先輩……。何か、分かりましたか?」


 スティーブは手にしていた端末を中央のホログラム・テーブルに接続すると、重々しく頷いた。


「ブラングの駆っていたディエンのログを精査していたんだが、例のノイズまみれの通信記録から、一つ分かったことがあった」


「……あれは、暗号のパターン解析を何度かけても、意味のある文字列も波形も見つからなかったはずですが」


 ミレアは訝しげにモニターを覗き込む。彼女自身が何度も検証した結果、あれは単なる電子的なゴミ、あるいは強力な妨害による断絶の産物だという結論に達していた。

 だが、スティーブは静かに首を振った。


「ああ、単独の通信ログとして見れば確かにゴミだ。だが、これとディエンに搭載されていたブラックボックスの『受信プロセス』のログ、これを重ね合わせてみたんだ」


 スティーブの操作により、モニターには無数の波形が重なり合う。


「受信ログの方も高度に暗号化されていたが、先日レタリア嬢たちが持ち帰った無人機の中にある例の『ブラックボックス』の制御システムと照らし合わせると、特定のパターンが浮かび上がってきた。……これは、言語データじゃない。もっと直接的なものだ」


 ミレアの目が見開かれる。

 スティーブはかつて、介護用のパワーローダーやマキナの『トレースモード』における脳波制御の研究を専門としていた。人体の微弱な信号を機械言語に翻訳するプロフェッショナルである彼だからこそ、その「パターン」の正体に気づくことができたのだ。


「これ……命令コマンドではなく、神経同期のパルスですか……?」


「その通りだ。ディエンも無人機も、何者かに直接操作されていたような形跡がある。……とりあえず、分かったのはここまでだ」


 スティーブはカップに入ったコーヒーを一口含み、息を吐いた。


「これ以上の深追いは、私の古い脳みそでは時間がかかる。もう少し調べてみるよ。……だから、イチノセ君。君は今すぐ休みたまえ」


「先輩、お気遣いは嬉しいですが、私はまだ――」


「主任である君に『休め』と強制できるのは、この支部では私しかいないだろう?」


 スティーブは柔和ながらも、反論を許さない強さを込めた眼差しでミレアを見つめた。


「一日でいい、体を休ませなさい。コンディションを整えておくんだ。君の出番はこの後だ」


 ミレアはしばし沈黙したが、最後に小さく頷いた。

「……分かりました。お言葉に甘えます」


◆◆◆


 自室に戻ったミレアは、最低限の引継ぎ事項をまとめ、スティーブに送信した。後の業務の割り振りは、あの有能な先輩が完璧にこなしてくれるだろう。

 重い白衣を脱ぎ捨て、ベッドに倒れ込もうとしたその瞬間、パーソナル端末が電子音を鳴らした。


 発信元はグレイン。

 ミレアは溜息を吐きながらも、通信を繋いだ。


「……どうしたの、こんな時間に。何か緊急事態?」


『……すまん、休むところだったか?』


「良いわよ、この後しっかり休むから。手短に言って」


 通信越しのグレインは少しためらいがちに言った。


『……俺の機体の出力を、さらに一段引き上げてほしい。リミッターの解除率を上げてくれ』


「危険よ、グレイン。あなた、今はただでさえ試作型のフォトンライフルを使っているのよ? 機体への負荷がこれ以上上がれば、いつ空中分解してもおかしくないわ」


『分かっている。……何かがあった時に備えたいんだ』


 グレインの言葉には、決意が滲んでいた。ミレアはそれを聞き届け、しばしの沈黙の後、小さく吐息を漏らした。


「……検討しておくわ」


ミレアの言葉を聞き、グレインは更に口を開く


「もう一つ、君に頼みたいことがあるんだが――」


◆◆◆


 数十分後。

 グレインとの通信を終えたミレアは、今度こそ限界に達した体をベッドに投げ出した。


 彼女は重い腕を動かし、ホログラム・インターフェースを指先で操作した。今度は音声のみの、暗号化されたプライベート回線だ。


「……もしもし、スティーブ先輩。何度もすみません」


 通信の向こうで、スティーブの穏やかな声が返ってくる。


『どうした、イチノセ君。まだ休んでいなかったのか』


「ええ、もう寝ます。……ただ、仕事を押し付けてしまった上にもう一つ、お願いがあるんです」


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