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102話:わたくし腕が鳴りましてよ!

 セルディア宇宙自治区の最外縁に位置する、暗く静まり返った宙域。

 この一帯に凶悪なレイダーの残党が逃げ込んだとの情報がもたらされ、セルディア自警団とレタリアたちは、その掃討作戦のために現地へと向かっていた。


『今のところ、周囲に不審な機影はありませんね』


 先行するカスタムルード『エノメイル』のコックピットで、レーダー画面を凝視しながらアランドが通信を入れる。


『そうだな。ポイントまではまだ少しだけ距離がある。だが、光学迷彩やデブリに潜んでいる可能性もある、各自警戒は怠るなよ』


 通信回線越しに冷静な声で応じたのは、現場復帰を果たしたばかりの隊長、グレインだ。


『隊長、本当に身体は大丈夫なんですか? あんな大怪我だったんですから、無理は禁物ですよ!』


 後方を追従するステシアが、心配を隠せない様子で話しかける。


『心配いらんさ。暫くベッドの上で、ちょうど身体が鈍って仕方がなかったところだ。コイツの試運転と実戦テストを兼ねるには、ちょうど良い相手だろう』


 グレインが搭乗しているのは、シンセ・フィブラ本社より極秘裏に送られてきた次世代軍用機「リーズ」のプロトタイプ実機である。黒を基調としながら白いラインの入った美しい威容を誇っていた。


 この作戦に投入されたのは、レタリアのアーデン、グレインのリーズ、そしてステシアのラスタという、三機のプロトタイプ機を中核とした混成部隊だ。

 煌めく紫紺のアーデン、黒白のリーズ、鋭く光る白のラスタ。自警団が運用する汎用機ルードの隊列の中でも、その三機は圧倒的に際立ったシルエットを描いている。特にアーデンの外装は、ミレアたちによる調整を経て既に完全換装されており、その輝きを取り戻していた。


『それにしても、私、ラスタの専任パイロットに選ばれたときに、隊長までちゃっかり新型機に乗り換えるなんて聞いてなかったですよー!』


 不満げに口をとがらせるステシアに、グレインはフッと笑いながら返した。


『そりゃあ、お前に事前に話してみろ。次の日の朝には、自警団のハンガー前にマスコミが総出で押しかけてくることになるからな』


 その言葉に、アランドだけでなく、同行しているラジェルとヘルタ達他の隊員も通信越しに吹き出した。


『全くだ。ステシアの奴、ラスタの配備が決まった時も、嬉しさのあまり速攻で新型の話を漏らしてたからな~』


 ラジェルの容赦ない指摘に、ステシアは『うぐっ……!』と言葉を詰まらせる。


「ふふふっ ステシアさんも、少しはわたくしのように優雅で慎みを持つと宜しいですわよ?」


 レタリアが通信モニターの中で、勝ち誇ったように楽しげに微笑みかけた。


『うわぁ、レタリアさんにまでそんなこと言われたー! 悔しい~!』


『まあ……慎みという点においては、僅差でレタリアの方に分があるな』


 グレインがしみじみと呟いた言葉に、今度はレタリアが噛みついた。


「ちょっと! グレイン、その『僅差』というのは一言余計ですわよ! わたくしは慎み深い淑女ですわよ!」


 レタリアの抗議にグレインは笑いながら応える。


『悪い悪い。さて……諸君は既に頭に入っていると思うが、今回のレイダーは、隣のステーション「ニスタリオ」の宙域で暴れまわっていた連中だ。それが我がセルディアの宙域に逃げ込んできた以上、俺たちが責任を持って片付ける』


『要するに、ニスタリオの尻ぬぐいって事ですかね。全く、損な役回りだぜ』


 ラジェルが毒づくが、グレインは落ち着いた声でそれを窘める。


『まあそう言うな、ラジェル。こういう非常時の即応は、後々ステーション間での大きな「貸し」になるんだ。組織の運営としては、悪い事ばかりじゃないさ』


『ラジェル先輩はそうやって目先のことばっかり気にしてるー』


 ヘルタがすかさずいたずらっぽい口調でラジェルを煽り、それにラジェルが『なんだとー!』とムキになって応じる。


 そんな自警団らしい賑やかなやり取りを続けているうちに、一同の視線の先、暗黒の宇宙の彼方に、デブリを繋ぎ合わせて急造されたと思わしき浮遊建築物のアジトが見え始めた。


『さあ、そろそろ連中のネズミ小屋が見えてきたぞ。――作戦通り、俺とレタリア、ステシアの三機で正面から突入する。残りのメンバーは外周を包囲し、奴らの炙り出しと周辺宙域の警戒、および撃ち漏らしが無いように徹底しろ。外の指揮はアランドに任せる』


『了解!』


 アランドが即座に応える。


『よし、では行くぞ、二人とも!』


『はいっ!』


「ふふ、わたくし腕が鳴りましてよ!」


 三機の新型機は、それぞれの機体から爆発的な推進光を噴き上げ、賊の巣窟へと向かって一閃の矢のごとく突撃を開始した。


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