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第二十四話 絡まる思惑 広がる絶望

 深い栗色をした廊下を『リガ・モク・オアフ』は、まっすぐ前を見て少し嬉しそうに歩く。

 所々に置かれた見た者を心の底から魅了しそうな調度品が、リガの視界に入るかそれがいつも通りだからなのか、はたまた今から会う人物に対して胸躍り見えていないのか、リガは全くそれらの気にもとめない。


 ただひたすらにある一室に向かって歩を進め、どんどんの一人勝手に期待に胸膨らませる。

 期待が詰まったその胸は今にもはじけてしまいそうなほどに膨れ上がっており、リガは我慢ができず早足になっていく。


 速い足音が廊下に響く中を気にせず進み続け、ある部屋の前で急に停止する。

 そして、大きく息を吸い、吐く。気持ちを落ち着かせるために胸に詰まった期待という名の焦りを落とすのだ。


 自分が落ち着きを取り戻して事を確認したリガは、ゆっくりと扉に手を近づけて三回中指の関節で叩く。

 すると、中から入室を許可する声が聞こえたのでリガは元気いっぱいにその扉を開いた。


「父さん!今日もたくさんの贈り物があったよ!」


 リガの入った部屋の先に男が一人座っている。

 そんな彼を、輝く瞳リガは見ている。


「それは良かった。今日も領民には感謝しないとな」


「うん!」


 彼は『バルト・モク・オアフ』と言い、椅子に座って机の上に乗っている金貨を数えている。

 丁寧に一枚一枚重ねて数えており、一枚の違いも起こさないように紙にしっかりと書き留めていた。


 その様子をリガはとても興味深そうに、そしてどこか嬉しそうじっと見つめる。

 それに気づいたバルト子爵は、チラリとリガの顔を見るとニコリとリガは笑った。


「こんなの見て面白いのか?」


 バルトは純粋に疑問に思ったことを問いかける。

 これはただ硬貨の数を数えているだけ、やっているバルトですら渋々なのにそれを見ているだけのリガは果たして楽しいのだろうかと、疑問に思ったのだ。


「見ててとっても楽しいよ。父さんの仕事は面白いから」


「そうか、じゃあ好きに見ていなさい」


 息子の発言に疑問を感じながら、バルトは仕事を再開する。

 今日は集めた税や、民からの貢ぎ物が集まる日なのだ。


 少しの時間も無駄にはできないが、息子との時間はもっと無駄にすることはできない。

 今の息子は今しかおらず、この数秒後には今とは違う息子でいるからだ。


 それを知っているから、バルトは息子───リガとの時間を大切にしようと考えている。

 どんなに仕事が忙しいときでもリガには優しく接し、遊びたいと言えば遊んでやっていた。


 そのおかげかとても心優しい良い子に育ってくれて、父の仕事にも興味を持ち積極的に仕事を聞いてくるため将来のためだと思い、バルトも色々と教えてあげているし、領地の重要施設などにも定期的にリガを連れて訪問している。


 たまにリガから意見することもあり、それのなかなか面白くいくつか採用され実際に今この時間に動いているモノもある。


 親子共々優秀で、領民に優しいと言う事もあり、領民や旅人、王国を練り歩く商人にはバルトの領地は広く知られており、たくさんの人々が集まる商売の重要拠点としての働きもしていた。

 そんなこともあり領地は急激な発展告げており、多方面に延びている道には常に人がたくさんいる。


 そのことをバルトは理解しており、人の増加による問題もいくつか報告を受けている。

 なので、今の金貨を数える仕事が終わったらそちらの問題へと対処する必要がある。


 忙しいことは良いことだが、忙しすぎることも問題だとバルトは分かってはいる。それを乗り切ったら楽ができると己に鞭を打って時間を無駄にしないように働いている。

 それに頃合いを見て息子であるリガにも仕事を割り振っていき、最終的には主な仕事を全てリガがやり、ゆっくりと暮らしたいとそんな思惑すら考えていた。


 今のうちにたくさん経験を積ませておいて、自分がいなくなっても領地を任せるためにたくさんの知識を与えていた。

 勉強熱心で、思慮深いリガはとても優秀な子に成長してくれたのでバルトは喜びを感じている。


 と、そんな事を思っているとバルトはあることを思い出す。


「そういえば、もうじき川の税金が届く頃だろう。リガ、見てきてくれないか」


 バルトは川の管理を担当している部門から今月分の税がそろそろ届くことを思い出した。

 息子との会話、そしてその息子の成長を実感していた忘れていたのだ。


「分かったよ。じゃあ、行ってくる」


 そう言って、リガは手を振りながら部屋から出る。

 父の仕事をこれ以上邪魔するのはいけないと思い、おとなしく指示に従った。


 再び静かな美しい廊下へとリガは戻る。廊下には使用人の一人もいなかった。

 バルトが言っていたとおりもうすぐたくさんの硬貨が届く予定なので、みな入り口の方に行っているのだ。


 コツコツと足音を鳴らしながら、リガは廊下を進む。

 その足取りは軽く、まるでそのまま浮いていきそうなほどだった。


「父さん、父さん。あぁ、本当にこの世の全てを詰め込んだような父よ」


 リガは───息子は不敵な笑みを浮かべながらそうつぶやく。

 その声は上ずっており、所々に笑い声が漏れている。


「アナタは本当に素晴らしい、尊敬に値する。私を育ててくれた父さんには感謝してもしきれないよ。だから、だから、だからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだから



 ─────僕は父さんを越えるよ」


 凄惨に、狂気的に、狂喜的に、そしてかわいげを残してリガは笑ってみせる。

 己に笑いかけてみせる。大丈夫だと、自分は才能に溢れた素晴らしい存在だと。


 このリガは、どこまでも予測し未来を見ることすら可能なのだ。

 このリガ・モク・オラフに支配できないモノはないと。


 少年は歪に笑いながら、心の中で声を大にして言い放つ。

 歪な心情を落ち着かせるために歪な感情をぶつける。


「はぁ、つまらない」


 少年は、今日も純粋な目をして、声を発して、体を動かして。

 狂気をまき散らす。


 純粋で、清水のように透き通った狂気を他者へ植え付ける。


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 それではまた次のお話で会いましょう

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