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第七話 優しさと遠慮

 俺たちは、視界にいた新人たちの所に近づく。

 俺たちと同じ青々しいトレイを自分たちの前に置いて、楽しそうに談笑していた。


 もちろん、新人はそこまでなじめていないようだ。

 周りが壁を作っていると言うよりも、自分から壁を意識しているのが問題なんだよな。ない壁を感じている。


「よお、アーテーども。元気だったか?」


「あ、クソガキですわ! 一緒に来ているのになぜ一度も会いに来ないのですか」


 いや、だって会いたくないし。会うだけ無駄だし。

 現にこうやって俺は、早々に罵倒を受け取っている。丁寧に一言目で。


「お姉ちゃん、だからそうやって人に指を指しながら文句を言うのはやめなよ。この前それで騎士団の先輩に殴られたでしょ」


「無理よ!私は、私ですの!これでこそ、リンカ・シミラルですわ!」


 一度この態度で騎士団員から殴られてるのかよ。

 よく見ると、うっすらと傷があった。傷が残っているのにやめないとは、良くも悪くも意志の強い奴だな。


 問題児たり得る存在だ。

 無駄で誇りを持っていて、弱い。厄介者になれているのだろう。


 ニーカさんがわざわざ別の部隊を新たに編制した理由が分かる。

 隊の規律を乱す存在をわざわざ入れたくないよな、しかし、だからといって放置できるわけでもないし。致し方ないしでこうなったのだろう。


「こんな性格の奴がよくもまあ騎士学園を卒業できたものね。案外騎士学園って簡単?」


 ゼンはそんな一部、というかほぼ全員を敵に回すような発言をする。

 ここにはその騎士学園の卒業生で溢れているのだが、どうしてこうも敵を増やすような発言をほいほいとするのか。


 いつかそれで身を滅ぼすぞ。

 厄災でも降りかかっとけ。


「厄災って美味しいの?」


「ふりかけじゃねぇよ!!!」


 会話が、会話が絶望的に進まない。

 コイツに話をいちいち振ってはダメだ。ただでさえ進まない物語の速度がさらに遅くなり読者が離れていく。


「それで、俺たちも一緒に食べて良いか?」


「はい!大丈夫ですよ!」


「ボルダンさんは少し静かにしましょうよ。さっきから目立ってますよ」


 いつも通りというか、さっさとやめてほしいボルダンの熱い元気に対して、新人がツッコミ(少し違うかもしれない)を入れる。

 どうやら、新人も新人なりに壁を乗り越えようしているらしい。俺的にはさっさとぶち壊してほしいけどな。


 ぶち壊すよりも乗り越える方が、時間がかかってしまう。

 化け物の件もあったんだしさっさと仲良くしてほしいな。


「じゃあ、失礼するぞ」


 ここまでえらく時間がかかったが、俺たちはなんとか座る。


 机と椅子はかなり長く設計されていて、ボルダンと新人の方に行くには少し時間がかかるので、俺は近いシャーミーの隣に座る。

 リンカの方には絶対に座らない。座りたくない。


 この中で安全なのはシャーミーの隣と新人の隣……は、ボルダンが熱いのでなし。

 結果的にシャーミーの隣だけになってしまった。四つもあるのに安全圏が一つしかないとは……。


「ギャルゲーみたいね」


 お前は少し黙っとけ。

 話が進まないし、思った事をすぐに口に出すな。


「新人、騎士団の食事はいつもこんな感じなのか?」


「は……はい、いつもこんな感じ……です。一応栄養には配慮していて、肉付きがよくなるようにそれっぽい計算はされてい……ます」


 俺との会話が少し辛そうなのは置いておいて、はたしてこんな薄っぺらい野菜だらけの料理たちで日々の鍛錬に耐えきれるのだろうか。

 俺の隣に座ったゼンの顔色が一口目を食べてから一気に青白くなった。


 果たしてそれは野菜が好きではないからなのか、いや、まあ、野菜しかほぼ出ない衝撃の事実を知ったから以外ありえないのだが。

 ゼン的には、野菜だけの食事はいやらしい。


「母さんに頼んでなんか作ってもらうから、その顔をどうにかしろ」


 と、俺がボソリと言うとゼンの顔色が元に戻り美味しそうに野菜を頬張り始めた。

 なんだ、この単純な生き物。体の構造が全て一個で作られてそうだ。


「それで、毎日これなのか?」


「いつもと言ってもさすがに同じ食事が出ることはめったないですが、今回のような食事が基本ですよ」


 ふーむ。

 騎士団は財政難らしい。


 と、他人事のように俺は処理を下す。

 俺がどれだけ頑張ったところで彼がこれで十分暮らしていけるのなら特にする必要はないだろう。


 俺が手を出して「解決」なんて言葉を使うほど問題にもなっていないようだし。

 これが彼らの日常なら、この野菜だらけの食事にも慣れていかなければいけないしな。


「シャーミー。アナタのソーセージ寄越しなさい。私まだお腹が空いてるの」


「い、嫌だよ」


「俺のをあげるから、黙っとけ」


「アナタのなんかいりませんわ!アナタのソーセージを食べるんだったら、私は虫でも食べてやりますの!」


 なぜ俺にまでそれほど拒否反応を示すのか?

 全く理解できない。どちらかというと俺、お前のためにものすごく頑張った方だと思うんだが?


 悲しさを野菜にのせて、俺は大きく口を開けて野菜を食べる。

 恩を仇で返すとはこのことだな。


 消化できない悲しみを感じて、俺は視線をボルダンに移す。


「ボルダン、この部隊の今後の行動は何か言われているか?」


「いえ、悲しいですが何も指示はありません。直轄な以上何か指示がほしいのですが、特に何もないのでその内聞きたいと思っています。それまでは休暇ということで各々の自由にさせています……」


 ボルダンは、何かまだ言いたいことがあるかのように視線を下に向ける。

 まあ、色々あったしな。今だって空気に少しの無理を感じられる。


 全員が全員に配慮して、今のような空気を作っていることを理解しながらこうやって過ごしているのだろう。

 心の傷を癒やすのに時間が必要。ということで、少しの休暇をせっかくなので設けた。きっとそんなこれもまた配慮からきたものだろう。


「もし俺が聞けたら聞いておいてやるよ」


「本当ですか?それならお願いします」


 ボルダンはそう言って頭を下げる。

 こういう真面目なところがあるから、ボルダンはいつものテンションでもみなから認められているのだろう。やるときはやる男、そんな感じだ。


(カチンッ


「ん?」


 フォークを野菜に刺したら変な音がしたので見てみてら、もう皿の上に野菜がなかった。 

 俺はそんなに話にふけっていただろうか。


「あ、あの」


「ん?」


 突然、シャーミーが話しかけてきた。


「私の良かったら、どうぞ」


「いや、いいよ。俺、全部食べたから」


 と言って、俺が拒否───と言うと聞こえが悪いので、遠慮すると。


「いえ、あの……いや、なんでもありません」


 そう言って、シャーミーはリンカの方を向いてしまった。

 何かあっただろうか。


「じゃあ、俺たちは食べ終わったから行くわ。あとがごゆっくり」


 そう言って、俺は立ち上がる。

 彼らの時間を作ってあげるのも、年長者の仕事だろう。


「ゼンも行くぞ」


 まだもぐもぐと口を動かしていたが、もう皿には乗ってなかったので良いだろうと思い俺は席を立った。

 まあ、ゼンならその場で最初に皿に乗っていた物を全て口に含むこともできたと思うので、乗っていても立っていた。


 さっさとトレイを片付けて俺は食堂を出る。

 長居は無用だ。アーテーの周囲からの評価に突如団長に注目されたなんてことのない一般人。


 この二つが長時間一緒にいて周囲はどう思うか。

 あざ笑うかも、怒りをためるかも。はたまた、今までの怒りをぶつけてくるかも。


 アイツらにはその辺の配慮が足りないな。

 自分たちのことで一杯一杯になってしまっている。しょうがないようにも思えるが、周囲がそんな事を───配慮───してくれないのだ。


「ゼンのせいで腹が減ったよ」


 ビクッと、気配を消していたゼンの体が動いた。

 コイツ……罪悪感はあったのか。


「まあ、良いけどな」


 俺たちは、部屋に向かう。

 それは自分の意志なのか、はたまた誰か───配慮しての行動なのか。


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 もちろん、感想等も送っていただければ自分が大変喜びます!!


 それではまた次のお話で会いましょう。

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