第六話 作戦準備
[私的には、もっと私にお金をかけて貰って─────」
「無理だな。一生お前はその籠だ」
「なんでよ!」
無理に決まってんだろ。
お金かけてって、そんな金どこにあるんだよ。
「ちなみに、どんな事を望んでいるんだ?」
[籠を金銀で作って貰って、お肉を毎日と─────]
は?
前言われたときは冗談として処理したが、コイツ本当に肉を食べるのか?
「おい、肉?お前肉を食べるのか?」
その口でどうやって肉を食べるんだよ。
冗談でも、あまり普通に面白くない。センスがないな。
[私は、真面目に言っているわよ。本当は教えちゃいけないんだけど。まあ、大丈夫でしょ]
蝶は、そう言って飛び上がる。
ふわりと重力を感じさせない。
[これ、開けてちょうだい]
真面目な声で、蝶は俺にそう言ってきた。
その声は、真剣味を帯びていて何か考えがあるようだった。
「……まあ、いいか」
俺は、こいつを信頼して籠の扉を開ける。
こいつは、そんな卑怯な手を使う奴じゃない事ぐらい、俺が一番分かってる。
蝶は、ふわふわと部屋の中心まで行き、そこでピタッと止まる。
[擬態人間]
そう唱えると、蝶が神々しく輝く。
俺は、それがあまりの光の量に直視できずとっさに手で光を遮る。どんな光よりも美しく、神々しく、鮮やかに。それは光った。
光が収まり、手をどけたそこに彼女はいた。
胸を張り、うれしそうに彼女は立っていた。
「私、復活!!!」
彼女は声高らかに、そう宣言した。
☆☆☆
彼女は、うれしそうに部屋を飛び回りベッドにドスッと座る。
「すごいでしょ!!」
「そうだな」
青い髪をかき上げながら優雅さを出しながら言うのだが、気持ちが言葉にまでにじみ出ていて意味をなしていない。
優雅さのかけらものない。
しかし、こいつ俺とおんなじ年頃だと、こんな見た目なのか。
空のように青く、海のように全てを飲み飲んでしまいそうな落ち着いた色の髪、雪のように白い肌、髪のように青く透き通っているが、髪とは違った美しさが瞳。
間違いなく。彼女は美人に分類される、はたまた、それをもそんな言葉では収まりきらないような容姿だろう。
そうだな。
性格以外は申し分ないだろう。
「はあ?性格も完璧ですけど???」
まったく、人間になっても冗談はそこまでうまくないようだ。
もっと面白い冗談を今後は言えるようになることを期待しておこう。
「真面目に言ってるんですけど!!!」
「そんなそうでも良い事は、またいつか話すとして」
「無視された!!」
だって、ほんとにどうでも良いし。
同情の眼差しすら向ける意味がない。
「それで、お前が人間になれるなら蝶じゃなくて、人間として我が家に入れるが……」
しかしどうしようか、一番簡単そうなのが……捨て子だが。
コイツにまずまず人間の生活についての知識が───いや、捨て子ならある程度の無知も許されるのでは?
「いや」
俺が真面目にコイツの設定について考えていると、突如そんな言葉を口にしてきた。
いや?何が?
「は?」
「絶対に嫌よ!捨て子役なんて嫌!」
嫌って……。
子供かよ。
まあ、見た目は子供だが。
「これ以外だと何があるんだよ」
嫌だったら、自分で案を出すんだな。
そしたら、彼女はベッドで横になり、黙ってしまった。
なにも考えてなかったのか?
「しょうがないから、その捨て子の案を受け入れてあげるわ」
「なんもねぇのかよ!」
「うるさいわね、そんなの事に私の頭脳を使う価値もないって事よ」
価値がないって……お前の未来を決めるんだが……。
結構大事だろ。
「じゃあ、作戦の概要としては─────」
俺は、作戦の大まかな流れをこいつに説明する。
ところどころ首をかしげていたが、大まかな流れは理解したようだ。
「そんな感じで、明日は動くからな」
「分かったわ。任せてちょうだい!!」
その自信が一体どこから生まれてくるのか疑問に残るが、こいつなら大丈夫だろう。
こんな作戦で、ミスをする奴では無いはずだ…………たぶん。
そうして俺たちは、特になにもない残りの半日を過ごした。
実際のところ、蝶とまたどうでも良い事でけんかをしたのだが、ほんとにどうでも良いので省略させてもらう。
☆☆☆
俺は、目を覚ます。
今日は残念ながら小鳥のさえずりはなしだ。体内時計の起床時間なのだろう。
「知らない天井だ」
[やめなさい。この世界にその作品はないわ。]
少しぐらい乗ってくれても良いじゃないか。
まったく、面白くないな。
「それにしてもほんとに夜の間、そこで寝れたんだな」
俺は、起き上がりながらそう言う。
こいつ、昨日ベッドで寝たいと言ってきたが、ばれたら大変なので止めた。
なので、今日はまだ鳥かごで寝ていたのだ。
[最近はここで寝てたし。それに、今日から私が寝るからね]
予定では、今日こいつが俺に拾われてなんやかんやで家の一員になった暁には、このベッドで寝かせてやるという話だ。
あまりにもうるさかったので、妥協案としてそういう案を出した。
[そうよ。今日からもう私のだから、今のうちに堪能しなさい]
ちなみに、絶賛後悔中だ。
昨日、早く寝たくて適当な事を言ってしまい、こんな約束をしてしまった。
前世なら、一ヶ月ぐらい眠りの状態が酷くても平気だったが、さすがに子供の体では無理だろう。改めて考えてみて思った。
もしも過去に戻れるのなら、昨日の自分をぶん殴っているだろう。
「まあ……約束だしな。今夜を楽しみに待っていてくれ」
[ええ、そうするわ]
そう言って着替えを済ませ、俺は部屋を出て階段を降りる。
最近は、この視野の低さや体の軽さにも少し慣れてきて、前まであったぎこちなさは、ほとんど無いと言って良いだろう。
「母さん、おはよう」
「おはよう、アイン」
母さんはもう朝食の支度を済ませていて、テーブルには朝食が並んでいた。
「いただきます」
いつもと変わらない朝食を食べる。
今日、森に行く事伝えていた方が良いか。
「母さん。今日、この後森に行ってくるね」
「分かったわ。でも、気をつけてね」
母さんは、顔色変えずそう言ったが、その声からは心配そうな気持ちが感じられた。
森の奥深くに行く予定は今日ないので、そこまで心配しなくてもいいのだがそこまで教えるわけにもいかない。あまり話しすぎて、あらぬ予想をされても嫌だからな。
「うん!」
その気持ちが、少しでも軽くなるように俺は力強く返事をする。
そんな事があったが、俺は蝶の入った鳥かごを持ち、家を出る。
母さんが運悪く畑の方にいたので、蝶の朝食は無しとなった。
[なんでよ!意味分からないんですけど!]
「しょうが無いだろ。今怪しまれるわけにはいかないんだよ」
それに、この作戦が成功したら飯もたくさん食べれるようになるだろう。
肉はないが、いつもの形の悪い野菜ではなくしっかりとして野菜にありつけるのだ。少しの我慢もしてほしい。
[ブーブー]
そんな感じの話をしながら、俺たちは森に向かって進む。
作戦が成功する前提で話す奴は、大体失敗すると決まってるよな。
[それ、今言うこと?タイミングおかしくない?]
「確かにな。まあ俺の作戦だし、大丈夫でしょ」
[どこからその自信がわいてくるのか謎だわ]
「はは」
この程度で失敗していたら、前世で作戦の立案やらはできない。
というか、さっきと立場が逆転している気がする。
[そういえば]
なんだ、藪から棒に。
何の前振りもなく、蝶は話を変える。
[この世界について聞きたいんだけど]
この世界について?
まあ、いいんだが。大雑把すぎないか?
この世界って言ったって国やら、歴史やら色々とあるぞ。
「どのあたりが知りたいとかあるか?」
[そうね~、今って神王暦何ね──]
「今は、神魔暦546年だ」
[えっ、神魔暦!?なにそれ!]
蝶は、かなり衝撃を受けようで、俺の方を見ながら聞いてきた。
やはり森に暮らしていると、そう言った事に疎くなるのだろうか。
「神魔暦っていうのは、初代異世界人が召喚された年から始まった暦だ。神王暦は、それ以前に使われていた暦だな」
神王暦は、もう使われなくなり、今が何年か知ってる人どころか、この暦を知っている人もほとんどいないと思う。
今の時代、こういった歴史が知れるのは、大きな街の図書館かお年寄りの昔話ぐらいだからな。
もっと細かく言うのなら、最初は神魔暦を異世界人が来てからも使っていたが。
世界に多大なる影響を与えた人物ということで、あとから暦がつけられたのだ。大体異世界人が来てからいなくなってから1・2年後に使われるようになっていった。
[そ、そうなのね。私はもう過去の存在なの……]
元気がなさげな声(実際にしゃべっているわけではないので声という表現は少し違う)で、そう溢す。
残酷な時代の流れに打ちひしがれているようだ。
「そこまで落ち込むか。別に今生きてるんだからなんとかなるだろ」
[そうよね!今からでも名声ぐらい取り戻せるわよね]
何のことか分からないが、おそらくこいつでは名声は取り戻せないだろう。
というか、こいつ過去に名声を得ていたのか。
この感じ的に、昔については知ってるようだ。
じゃあ、最近の(最近と言っても数百年程前だが)の話の方が良さそうだ。
「あと、神魔暦の時代の事だと……勇者の遺物についてか」
[ッ!!その話詳しく!!]
蝶は、食い気味で話を聞いてくる。
かなり気になっているようだ。
「そうか……でも、かなり長くなるんだよなぁ」
要約して話せば良いか。
「勇者の遺物というのは、俺が死ぬ原因になった奴の前にこの世界に来た異世界人の残した道具のことだ。呼ばれ方としては、魔神具と言われている。」
[魔神具……暦と間違えない?]
おそらく大体の人が間違える。
が、これも同じように伝承として残っているので、大体の人が知らない。
「誰も知らないから、問題としてはまだ出てきていない」
[へぇ~、いつか変わりそうね]
まあ、多分本の生産が安定する時代が来たら、分かりづらいので変わるだろう。
そんな時代が来るのかは、知らないが。
[で、その魔神具はいくつあるの?]
「魔神具は、今は8つあると言われているな」
[8つ?]
8つじゃおかしいか?
俺からしたら、これが普通だからこれ以上は知らないが。
本から得た知識なので本の著者が知らなかったら俺も知らないし、第一これのについて知っている人が少ないので正確性を確かめる方法がない。
これについては間違いないと思っているのだが。
[7つじゃなくて、8つあるの?]
「どうして7つなんだ?伝承では8つで間違いなかったのと思うんだが」
[いや、気にしないで。私の勘違いだわ]
それは、勘違いで済まして良いものだろうか。
俺が間違えたみたいで、不安になってくる。実は大事なことなのでは?
「あとなにかあるか?」
だが、コイツがそれを話さないというのなら俺にそれを問いただす事はできないのでおとなしく引き下がる。
俺としては、あとは必要があるとしたら国の説明とかに移りたいのだが、まだ気になる事があるのだろか?
[じゃあ、なんで魔神具なの?]
名前の由来か。
えっと、それはたしか。
「多分なんだが、『神をも殺す力』を持つから、だった気がする」
かなり大層な名前の由来だ。
神を殺すなんて、一歩間違えたら宗教との対立で問題が起こりそうだ。
[大丈夫なの?それ]
「まあ。この世界の宗教の信者は大部分が勇者召喚の術を教えた神を信仰してるし……いんじゃない?」
ちなみに、どこから魔が来たのかはどこにも載っていなかった。
魔なんて言葉、神様大好きな宗教が使うとは思えないのだが、それに付いての記述はもしかして宗教の圧力によって消されでもしたのだろうか。と、あのときの俺は考えた。
事実は、一体どうなのか分からない。
[テキトーね]
しょうがない、俺軍人という立場上どこかの宗教を信仰していると鍛錬の邪魔になると思って、信仰してないし。
宗教の深く成り立ちとか知らない。
「おっ、森が見えてきたぞ」
森の入り口が見えてきた。
この森は人が来ないので、整備はされていないし、危険な動物の討伐なんてされてないので本当は来ない方が良い場所だ。
隠れる上では、最高の場所だ。
少しの危険も必要だろう。安全で、安心のできる隠れ場所なんてそんなもの個人の妄言にしか過ぎない。
「その辺で変身して、着替えるか」
[そうね。そうしましょう]
そう言って俺たちは、森の中へと進んでいく。
初めて見たときは、かなり怖かったのだが今はなにも感じない。それと同じぐらいわくわくもした。
「これぐらいで良いか」
ここなら人は絶対にいないだろう。
まあ、まずこの森に人はこないんだが。
「オーケー、擬態人間(ミニクリ-ヒューマン)」
蝶は人間へと変身し、ふわりと地面に足をつく。
見た目だけなら、とても絵になるんだよな。
「絵って言うか、私なら本一冊になるでしょ」
どれだけ自意識過剰なんだよ。
こいつの圧倒的な自信の源は何なのだろうか。
「それに、残念な事にお前で一冊の本を出すほど、この作者に技量は無い」
「は?今からでも作者変えたら?」
「できるわけ無いだろ!そう言った発言は冗談でも問題になるんだぞ!」
俺は、必死にこいつの発言を止める。
いくら何でもその発言は、これを読んでいる読者に失礼だ。
この会話の元凶はお前だろと、誰かが囁いていうる気がするが気のせいだろう。
「もし、私の敵になったらチリも残さず消したやるわ」
「なにをだ!なにを消すんだ!」
読者の事じゃないよな!きっと別のなにかだよな!
「と、とりあえず。これを着てくれ」
俺は、持ってきていた手提げから布を取り出す。
少し汚くて大きな穴が一つ開いた、大きめの布だ。
「なにこれ?」
「今からお前が着るやつ」
「は?」
「は?」
なに言ってんだこいつ。
捨て子なんだから、汚い服ぐらい着るだろ。綺麗な服着て捨てられましたは、それは捨てられたんじゃなくて誘拐だ。
「い、嫌よ私。そんな汚い服着るの」
いや着ろよ。
お前がこれ着なきゃ、この作戦はほぼ確実に失敗に終わるだろう。ほぼというか、確実に。
「ほら、ご飯が食べたいんだろ」
「う、うん」
彼女は、怒られて元気のなくいなった子供みたいな返事をする。
なんだか、本当に子供に言ってるみたいだ。
性格的に見たら、傲慢なくそガキに分類されるがな。
「くッ、分かったわよ!はい!」
こちらに手を出し、布を要求してくる。
この感じが、もう少し丸くなればかわいげがあるんだけどな。
「はい、全部脱いで真ん中の穴に頭を入れてくれ」
「はいはい」
そうテキトーに返事をし、彼女は向こうを向く。
そして、服に手をかけ──脱ぐのではなく、こちらを向いた。
「ねえ、なんでこっち向いてんのよ!!」
「え」
なにを言っているんだ?
彼女が、一体なにに対して怒っているのかよく分からない。
「いたいけな淑女の裸を見る気!?」
「いや、お前の体で興奮するほど、俺はお前の事を意識していないぞ」
「なにそれ、だからって見て良い理由にはならないわよ!」
っていうか、いたいけな淑女ってなんだよ。
幼くて、上品な女性って。お前、どっちも当てはまらないと思うんだが。
「良いから、向こう向きなさい!!」
彼女は、そう言って俺を突き飛ばそうとする。
それをひらりと避け、彼女の後ろに立つ。
「チッ!」
「分かったから、ほら。これでいいだろ」
俺はそう言って、後ろを向く。
俺も紳士の心得ぐらい持ち合わせている。
「まあ、良いわ。絶対!絶対見ないでよ!!」
「分かったから、そんなに怒るなよ」
そう言って彼女は、着替えを始める。
俺も彼女も黙っているので、するすると布のこすれる音が聞こえてくる。
静かな森の中で、そんな音がずっと俺の耳に届く。
……こうただ黙っているのは、うずうずしてくるな。
少しでも体を動かして、気を紛らわすために体でも動かそうかな。
「終わったわ」
早いな。そこまで時間はかからなかったようだ。
脱いで、穴に頭入れるだけなら、そんなに時間かからないか。
「───ッ!!」
布は左右が縛られていないので、ひらひらとしている。
見えてしまいそうで、少し気が散るな。いや!なんでもない。何も思ってなんかいない。
「見えそうだから、そう激しく動くな」
「え?もしかして恥ずかしいの?」
恥ずかしい?この俺が恥ずかしがっているかだと?
ありえないな!
「そんなものは、家に置いてきた」
「案外近くにあるのね」
それは良いとして。
俺は、くるりと方向を変えて家の方角を向く。
「じゃあ、行くぞ」
「ええ、任せなさい。私の演技力であなたの母親を落としてあげるわ」
庇護欲的なものを、感じさせるのは良いのだが。
そこまで意気込まないでくれ。
母親の落とされる姿なんて見たくない。
「なんか、やる気に欠けるなぁ。まあ、いいか」
出鼻をくじかれて気分だが、しょうがない。
気分を切り替えていこうか。
そうして俺たちは、今後を決める戦場へと足を運ぶ。
その足取りは、確実に未来をつかもうとする決意に溢れている。
その日の太陽は燦々と照っていて、日光は俺たちが家に向かう道を照らしているようだった。
ここまで見ていただきありがとうございました。
面白いと思っていただけたらブックマーク・広告下にある評価をしていただけると大変励みになります。
もちろん、感想等も送っていただければ自分が大変喜びます!!
それではまた次のお話で会いましょう。




