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第三十九話 本物の魔神具

 建物に戻った俺達は、向かい合うような形で椅子に座る。

 冷静にこの建物の中を見渡してみると、いくつも座った椅子と同じような椅子と机が並べられていた本当に店のようだ。


 掃除も行き届いていて、机の上はきれいな花瓶が置かれて赤い花が入っていた。

 少し良いところのお店なのだろうか。そんな事を周囲の環境に感じながら俺はゼンとの情報交換を始める。


「じゃあ、俺たちの方も作戦会議と行くぞ。どちらかと言えば魔神具についての話しかする予定はないが」


「で、私は何もやらないからとやかく言うつもりはないんだけど」


「ああ、だがお前の視点から見て感じる事もあるかもしれないしな。魔神具に俺の知らない制約があったらあれだから」


「そうかもね。いざってときに使えないんじゃそれはただのゴミだし。私はアンタと違ってゴミになりたくないわ」


 俺が懸念しているのは、主にそれだ。

 戦闘時に何らかの影響でゼンが魔神具としての力を発揮できないと俺の作戦はその場で即座に挫折する。失敗だ。


 俺の事をゴミと言ったのは置いておくとして。

 今の時間はその辺りの確認を主に話し合いたいと思っている。


 魔神具になっている間、ゼンとは全く会話ができなくなるので、緊急時の対応は俺の独断でしかできないのだ。

 できるだけ正しい対処ができるように、情報の共有は必要だ。


「俺の知っている部分も聞いて行くから、余計なことはなしで話してくれよ」


「はいはい、あんまり真面目なのは得意じゃないんだけど、がんばりまーす」


 どこまでも気だるげで、やる気の欠片も感じないが相手はゼンなので、特に気にはしない。

 いつも通りだ。


「魔神具に変身する条件は?」


「変身の指示があり、かつの指示を出した人物が己のマスターであることが条件よ。あとは……力の補給ができていること?」


「なんで疑問形なんだよ。それに、力の補給ってどうやってやるんだ?」


 疑問形にされると俺も不安になるからやめていただきたい。


「まあ、補給の方は気にしないでカラにならないようにいつもやりくりしてるから。次行きましょ」


 と、ゼンは次へ話題を変更することを進めてくる。

 知っておきたいが、ここでゼンの機嫌を損ねてもあれなので、ここは俺が折れるとしよう。


 それに力の事以外、俺の知っている事と違いは全くない。

 指示の言葉が必要な事は前世からそうだったので、変身は問題なくできるだろう。


 マスターの登録も先ほど済ませたので、問題ない。

 そんなに気になるのなら、やってみろよと思う方もいるだろう。しかし、魔神具は使うと周囲に激しい圧を飛ばす。小さな生き物とかならそれだけでショック死させることができる程度の圧だ。


 普通に派手だし、周囲からもどこでその圧の発信者がいるが一発でばれる。

 なので、ここでむやみやたらに魔神具を出すことはできない。練習がないのが不安だが、前世の経験があるのでその辺りの知識でどうにかしていくしかないのだ。


「魔神具の持続時間はどのくらいだ?」


「マスターの格によるけど、アンタなら10分が良いぐらいじゃない?少ないように見えるけど、アンタがまだ子供の体のことを考えると十分過ぎるぐらいの時間だわ」


 俺はあの化け物との戦闘に時間をかけるつもりはないので、今はそのぐらいの時間で十分だ。

 それに、いくら俺の身体能力が上がっていたとしてもあの化け物と10分以上戦える自信がない。一度限界は超えてるしな、無理に負担をかけすぎると早々に体が動かなくなる。


 脳が体の力を押える制限のような物はあまり外しまくるものではない。

 限界を忘れると、体を簡単に壊してしまう。なので、脳の制限を外す練習なんかは俺はやっていない。


「『技』の方はどうだ?あれが使えるなら一瞬で片をつけられると思うんだが」


 『技』というのは魔神具に備わった特殊技のようなものだ。

 剣術の技なんかを想像していただけるとありがたい。戦闘力は圧倒的にこちらが上だが、見た目はほとんど同じなので想像する分には大差はないだろう。


 絶大的な殺傷能力を誇っているが、その分一度使ったらしばらく使えないのがネックだ。

 周囲への影響も強いので使えたところで連発はできないが、できるとできないじゃ大きな壁があるからな。


「第一までなら使えるわ。それ以上は無理ね、アナタの器がまだ完全じゃないから使ったら圧に耐えきれずに爆発四散よ」


 ゼンは、そう言いながら手をギュッと握りパッと開いた。

 言葉に言い換えるのなら、力が体の中で暴走して内側から砕け散る。と、でも言いたいのだろう。


 注意としてはありがたいが、爆発四散はちょっとゾッとした。

 十分すぎるほどの注意だ。絶対にやめようという気になった。


「第一が使えるのなら一瞬で片をつけられるな。そこまで化け物との戦闘は長期化しないと考えてもいいか?」


「ええ、『技』をしっかりと当てられればの話だけどね」


 その辺りは大丈夫だろう。

 第一の『技』は直線の突っ込むような感じだ。刺突とでも考えれば良いので、あの化け物事態の俊敏性はそこまでだったので当たるだろう。


 さすがにアレを食らってまで生き残る生物なんていない。

 俺がそう確信するほどに、『技』の力というのは絶大で危険を伴うものだ。


「あと問題があるとしたら……」


「周囲の視線ぐらいじゃない。さすがに私の事がばれたらどうもできないわよ」


「お前って記憶を盗ることはできないの?」


 それができたら数人ぐらいならばれても問題ないんだが。

 俺は、少し期待してゼンをじっと見つめる。


「できるわよ。でも、その人間は人間じゃなくなるわよ」


「人間じゃなくなる?どういうことだ」


 残念ながら俺は前世のゼンにあまり要求ができる立場じゃなかったので、その辺りの能力は副作用には詳しくない。

 一からしっかりと聞いておかなくてはいけないのだ。何かあったあとじゃ、問題だからな。


「私の記憶を奪うことができる能力は奪うまではいいんだけど、その空いた記憶を勝手に埋めようとするのよね。それがかなりの苦痛になるの。だから、大体の人間はそれに耐えきれずに廃人になるってわけ」


 なんかえげつないことするようだ。

 その埋められた記憶が原因のか、それとも記憶を埋められる行為が原因なのか俺には分からないが、とりあえずなしの方針で進めていこう。


 最悪の場合はあれだが、基本的には俺が配慮して隠し通すことにしよう。

 わざわざそんな苦痛を与える必要はないからな。


「周囲への警戒を最大限にして───」


 バンッと、力強く扉が大きく音を立てて開かれる。

 そちらに視線を向けると、ボルダンがこれまたポーズを取って立っていた。さすがにもうポーズの名前は知らない。そこまで筋肉の見せつける事について興味がないからな。


「団長代理!準備ができたことをお伝えいたします!!!」


「え、うるさいんだけど。アイン、記憶盗って良い?」


「ついさっきの会話が意味をなしていない!? 自分で言ったのに痛み付けようとしているだと!?!?」


 ボルダンならビクンビクンしながら喜びそうだと、今すぐに頭の中から消してしまいたい想像が脳裏をよぎった。

 俺は全身に気持ちの悪さを感じたが、とっさに頭の中から消し去り、なんとか正気を保つ。


「ボルダンによって、俺が混乱に陥った……」


「はいはい、準備ができたって。そんなかっこつけなくていいから行くわよ」


「おい!かっこつけてないぞ!これはゆゆしき事態だろう!」


 俺は、ゼンにそう訴えかけるがこちらを少しも見ずにゼンはボルダンについていく。

 俺の事を全く気にもしていないようだ。


「待てって!」


 俺は置いてかれた子供のようバタバタとゼンの後ろを追って建物から出る。

 俺たちが使っていたから良かったが、この建物にはもう人はいない。きっとしばらくしたらこの建物の主人が帰ってくるだろう。


 思い出と言うには滞在時間は少なすぎるが、内容はとても深く、厚く、濃いものだった。

 契約に使われて時間も長く感じられたが、実際にしてみれば10分にも満たず、今思い出してみればあっという間だっただろう。


 まるで丹精込めて育てた花のように、それが開花するまでは長く愛らしいものだが、開花したそのときは一瞬で、気づいたときにはもう散っているように幻想的な契約の時間も終わってしまっていた。

 しかし、契約は俺の記憶にしっかりと植え付けられた。忘れようとしても忘れられないほどに、以前以上に。


 それなりに情報はいただいたので、戦闘に問題はないだろう。

 あとは───



─────あの化け物をぶち殺すだけだ


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 次話の投稿は10/12午後9時を予定しています。


 それではまた次のお話で会いましょう。

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