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第三十七話 運命の部屋

 せっかく俺が現実を見ようとしないであげたのに、その努力をゼンはありでも踏むかのように踏みにじってくる。

 いや、俺もこうなることは分かってはいたが……あまり、俺は好ましくなかったから……。


「そんな事知らないわよ。私がマスターを作るって言うこときにアンタを頼らないわけないじゃない。あそこまで私を口説いておきながら、じゃあさようなら、なんてできないわよ」


「分かってたさ、いいだろう。俺がお前のマスターになってやる」


 俺は、決心する。

 どうしても逃げられないことぐらい分かっていた。コイツと一緒にいる時点で覚悟は決まっていたようなモノだが、今最後のひとかけらがはまった。パズルのピースのように中途半端だったモノが今、完成した。


 俺は、大きく空気を吸う。

 それですら、体が痛みを発信してくる。心と違い体は辛い現実に引き戻してくれる。


「じゃあ、始めるわよ。手、貸して」


 そう言ってゼンは俺に向けて、手を差し出してくる。

 俺は、体に痛みが走らないように注意しながらゆっくりとその上に手を乗せる。


「始めるわよ。目を閉じて集中して」


 ゼンは、真剣な眼差しでそう言った。

 俺も厳密に言って初めての契約ではないので、ある程度のことは知っている。詳しい仕組みなどは知らないが、この儀式のようなもので必要な行動などは覚えている。


 衝撃的な体験だったからな。

 鮮明に思い出せる。脳裏に焼き付けられている。


「それじゃあ、いくわ────我彼の者に我が身を、心を、真名を開示せん。我は彼の者に全てを許す、ならばその行いは必然と言えよう。祖、我が行いに寛大なる慈悲を分け与え、その叡智なる一部にさせたもう。祖、全てを知り得るならば、その行い承諾してもらおうぞ。我、祖に願う、彼の者との関係を我に与えたもう」


 ゼンを青々として、煌々と輝く光が覆う。

 その青さはゼンの髪色よりも青く、その光は太陽よりも輝く。部屋中を光で包み。幻想的な景色を創造する。


 いつ見てもこの契約を慣れない。

 まあ、慣れないなんて言っても二回目だ。こんなもの慣れられる訳がない。


 この契約で、俺が特に関わることはない。

 精々この後に大量に脳内に送り込まれる。ゼンの美味しい食べ物についての解説をゴミ箱に捨てる作業が残っている。


 これが、契約関係で一番面倒くさいことだ。

 逆に考えれば、これ以外とても簡単だ。


 そして、契約は唐突に終わりを告げる。

 この契約は、彼女ら魔神具の祖というモノに彼との契約の承諾をもらうのだ。いうならば、俺は娘さんを俺にください、とゼンの親に頭を下げているようなものだ。あくまで表現なので、全部ゼンが取り仕切っているがそんな感じだ。


 俺が、彼らの契約の儀式に介入することはない。できない。

 ちなみにだが、契約の言葉に規則はないらしく、あれが祖の気分を盛り上げるためモノなんだとか。やろうと思えば、許可して、で終わらせれるらしい。だから、ゼンは若干祖を煽っていた。


「我が祖の意志に感謝する。我は、彼の者のためにこの身、心、真名を全て使うことを厭わない。我がその決定に最大に感謝を申し上げまする─────はあ」


「終わったのか」


 俺は、全身汗びっしょりのゼンに声をかける。

 俺は全く分からないが、ゼンの力が俺に流れているらしい、なんの体感もないが、きっとそうなのだろう。


「ええ、疲れたわ。わざわざこんなかっこつけるためだけの言葉を言うとか、敬語なんて

使わないから、絶対どっか違うし」


 まあ、多分そうだろうな。

 俺も正しい敬語を学んでいるわけじゃないから特に言えることはないが、間違ってはいるだろう。


 そんな気がする。

 ゼンだもの。みつ───


「それで」


 俺が、固有名詞を出す前にゼンが話を切り出してきた。

 出したら怒られそうだし、助かった。


「私との契約が完了したのなら、それなりに身体能力的なモノが上昇しているはずよ。体の痛みとか取れてない?」


 そう言われて、俺は体を起こす、

 先ほどと違い、痛みを感じない。少し痛みが残っている訳ではなく、完璧に、完全に痛みが体からなくなっている。


 さすが魔神具との契約特典だな。

 前世ではこれが当たり前だったので忘れていた。当たり前のように使っていた能力の方が案外覚えてないかもしれない。もしかしたら、まだ何か忘れているかもな。


 まあ、これは体の痛みを取り除くのではなく、痛覚を鈍感にすると意味なので痛みを感じないから体を完治した。ということではない場合が多い。

 今回は、契約特典ということで完治しているが。普段は痛みを感じないだけなので、言うならば切り傷を負って血は出るが、痛みは全く感じないという感じだ。


「しっかりと痛みが取れている。ありがとな、ゼン」


「気にしなくて結構よ。これは私の意志で発生した事じゃないもの。副産物のようなものよ、副産物」


 副産物か、その副産物でこの能力だ。

 主役はもうそれはすごいのだろう。


 俺は、そんな事を思いながらまだ何かぼそぼそと言っているゼンの顔を見る。

 いつもと変わらない、魔神具の契約とかそんなモノを感じさせないいつものゼンがいた。やっぱり、マスターだの言ったってゼンはこうじゃなくちゃ、変な気分になってしまう。


 全ての人に対して見下すような目をして、己以外を下等なモノだと思ってこそゼンがここにいると言い切れるのだ。


「アンタ、なんかかっこいいこと言ってる風にしてるけど貶してるわよね。それ」


「そんな事ないよ。俺は心の底から思ったゼンを語っているだけだ」


 俺は胸を張る。

 ゼンについての発言には俺は自信を持っている。伊達にゼンのマスターを数十年やってないからな。関わりが少なくてもそれぐらいなら分かる。


「はあ、取りあえずここまでマスター、マスターって連呼してるんだもの。だったらそのマスターを使って盛大に一発やりますか」


 マスターを使って?

 なんだ、カフェでも開店する気か?いや、ゼンに限ってそんな平和的なことはないだろう。やるんだったら、もっと外敵を作るような……。


 ま、まさか。

 嘘だろ、あの作品に喧嘩なんて売らないよな……。


「アハハ!いくわよ───問おう!あなたがわたしのマスターか!!!」



───その日、少年は化け物に出会った、己の過去に出会った、ついでに発火材にも出会った。



 あまりにひどい終わり方だよ。それっぽくしておかなくは。


 傾いている夕日が、一人の少女を照らしながら一日の終わりを告げる。

 昼という空間から、日暮れを介して夜になる。


 それは、この世界の理と等しく。

 成した物は、いずれ失われるのと同じように。


 この世界の非情なる理と暗に、伝えているように感じられると。

 一昔前の人々は─────俺は思ったのだった。


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 それではまた次のお話で会いましょう。

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