第二十八話 アーテー部隊
「改めまして、ボルダン・ハンナです!アーテー部隊の隊長を務めています!」
隊長のボルダン。筋肉を見せつけるような体勢でそう紹介する。
隊長らしいのだが、あまり信じられない。脳が筋肉でできていそうだ。
「私の名前は『リンカ・シミラル』ですわ。アーテー部隊の副隊長ですの。」
気が強いこの女性は、アーテーの副隊長だったらしい。
仲違いが多くありそうな性格だな
「私は『シャーミー・シミラル』です。副隊長の妹です。えっと……末永くお願いします」
最後言うことに困ってよく分からないことを言っているんだが。
末永くって、結婚かよ。
「新人の紹介……」
「え、なんで面倒くさそうな顔するんですか?なんでですか!?」
だっていらない気がするし、別に言っても言わなくても変わらないだろ。
ボルダンに任せれば俺、そこまで指揮を執らなくていいし。
「ねえ。俺そう思うんだけど」
「ねえ、じゃないですよ!アナタ心の中で言ってるじゃないですか!知りませんよ!」
「うるさいぞ!新人!だったら、さっさと言え!10秒だ!」
「短い!」
「いーち、にーい」
「あ、あ、あ。『コリア……ど、ドール・ムーア」です!』
へー、新人ってコリアって言ったのか……。
ドール? なぜ、コイツ名前と名字の間に余計な言葉を入れているんだ? 最初に紹介した名前と違う名前を言わないでくれ、読者が混乱するだろう。
と、俺は新人に冷ややかな視線を賞賛のように送っていると。
「えっと、これに関しては私の方から説明します」
すると、案山子の如く静かに立っているだけだったアーノさんが会話に入ってきた。
余計な事を付け加えて新人を叱る気だろうか。俺は気にしていないのでいいが、一体説明とは?
「彼は、伯爵家のご子息です。今回は見学ということで同行しています」
「き、貴族!?本物の貴族がこんなところに?よりにもよってこの部隊に?」
貴族のご子息だと!本物だったのか!?
そんなのがいたら、コイツらを下手に便利使いできないじゃないか。大けがでもさせたら俺がおそらく責任を取る必要が……いや、ないな。取るとしたらニーカさんだ、それか副団長。
いやいやいや、しっかりと問題だよ!
こんなところでニーカさんたちの騎士団が潰れちゃ問題だよ!
「う、うーむ」
「大丈夫ですか?」
新人が、心配そうな顔でこちらを見てくる。
大丈夫じゃないよ、君のおかげで大惨事だよ。第三次大戦だ、だよ。
さすがに貴族のご子息がいるとなると、彼らだけには任せられないだろうか?
「そういえば、ムーア君。君はこの部隊に所属していたんだね」
「はい。団長から直接指示をいただいて」
ん?
副団長は、新人がどこにいたのか知らなかったのか。
「アーノさんは、新人の動向を知らなかったのですか?」
「はい、最初はご子息の警護は私の仕事だったのですか、あまりにも多くの事件が起きたのでご子息の警護を外されました。そのとき団長は、こっちで対応しておく、といっていましたので」
そんな事が騎士団内で起きてたのか。
しかし、確かにこの状況じゃ副団長を新人に付けておけないよな。
団長自ら動く必要がある程の事件が起こるのだ。
副団長にもそれなりの仕事をしてもらった方がいいだろう。
新人が貴族だと知ったところで、俺も副団長を彼に付けるかと言われたら断るだろう。 彼程度に、 副団長を付けられるほど今の状況は優しくないだろう。
だとすると、副団長には先ほどの指示を継続してもらって。
アーテーにはより警戒してもらうしかないだろう。急いでゼンを回収して、アーテーの部隊にゼンを入れればもう少し安心できるが。
やはり、アーテーの最初の仕事はゼンの回収になるな。
「アインくん?」
「あ、はい。それなら──」
俺は、考えふけっていたせいで人形のように生気のない目で机をただ見つめていた。
深く考えに浸り過ぎていたようだ。
先ほどから新人から不安そうな視線を向けられている。
何か悪いことでもあっただろうか、と。
「分かりました。特に変更はありません。副団長はここで情報の整理を」
「了解しました」
「アーテーの全員は中央部である少女を見つけてきてもらいたい」
「少女ぉ~?」
リンカが、不審者でも見るような目で俺を見てくる。
良くないことを考えていそうだ。
「何を考えている」
「誘拐の手伝いはしないわ」
「違うわ!俺の友人だ。彼女の回収を頼みたい。君たちの助けになるであろう人物だ」
「助け~?」
「お姉ちゃん。口調、口調が荒いよ」
妹のシャーミーが、リンカを止めようとする。
とても良い妹だ。根っからのいい子だろう。
「シャーミーは黙ってなさい!」
「そう言うことだ、ボルダン動き始めてくれるか?」
妹にキレているリンカを尻目に俺は、視線をリンカからボルダンへと向ける。
コイツと話していては埒があかないと思ったからだ。
実際このまま話していたら、おそらく殴り合いの喧嘩が始まるだろう。
「了解しました団長代理!ほら!君たち行くぞ!」
「え?本当にこんな奴に従って良いんですの!?」
「俺たちは軍人だ。上からの指示に従わなくて軍人が名乗れるか!ほら!早く!」
「ちょっ、痛い!痛いですわ!」
ボルダンは、リンナの耳を掴みながら部屋を出て行く。
リンカは、バタバタと暴れながらつれて行かれた。
「お姉ちゃん~、待って~」
その二人をシャーミーは、心配しながらついて行く。
あそこはあの三人の仲がいいようだ。
「じゃあ、僕も」
弱々しく、新人は一人細々と部屋を出ようとする。
コイツはアーテー内で仲がいい隊員はいないのか。
「あ!おい!新人!」
「はい?何でしょうか?」
「ゼンの特徴を言ってなかった。ゼンは、大食いで青髪だ」
「分かりました」
新人は、簡単にそう返事をして部屋を出て行く。
「みんな~、待ってよ~!!!」
扉の向こうで新人がそう叫んでいる。
バタバタと足音を立てて、離れていく。
色々とアーテーは問題がありそうだな。
たった五人しかいないのに派閥ができており、空気はいいが、緩すぎる。
しっかりと名前をもらっている割に、中身がスッカスカだな。
あの部隊の見張りが分かりやすかった理由が分かった気がする。
「問題児……そう思いましたか?」
「はい、はっきり言って今までどのように生き残ってきたのか分かりませんね」
この作戦で編成された部隊だが、依然あのような輩がどうやってここまで騎士団として働いてきたのか分からない。理解できない。
連携のれの字も知らなそうな奴ら。
もう少し戦闘もさせようと思っていたが、これではその計画は先送りだな。
「アーノさんは、入ってくる情報の整理の方に向かっていただいてもいいですか?」
「はい。お邪魔だというのなら、そのように」
そこまで言ったつもりはなかったが、どうやら込めた意は伝わったようだ。
言い方に少しとげを感じたが、まあいいだろう。
アーノさんは、とげのある発言して静かに部屋を出て行く。
ご丁寧に一度、頭を下げてから。アーノさんはきっといいところの人だろう。実は子爵辺りじゃないかと予測する。
しかし────
「また、静かになったな」
再び、その部屋は静寂に包まれる。
街での喧噪とは隔離され、静かに落ち着ける悲しい空間が自然と提供される。
そんな中で、一体どんなことを考えればいいのか。
考えるべき案件はたくさんある。
だが、たかが数分。されど数分。
俺は、激しい疲れを感じて眠りにつくのだった。
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それではまた次のお話で会いましょう。




