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第三話 白銀の胡蝶

 1、2、3、4、5、6、7。一週間が経った。


 なぜこんなに話が省かれているのかだって?

 それは、全て虫取りのみで終わったからだ。話の進展でも期待したか?残念、全くない。


 それにしてもこの体はすぐに寝てしまうので、素振りをする時間が無い。

 あまり夜更かしはしたくないんだよ、成長がしにくくなるからさ。身長が伸びないのは誰だっていやだろう。


 しかし、ナールはなぜこんなにやる気になるのだろうか?

 本当に分からない。


「おーい、今日も虫取りにいこうぜ」


 まただ、今日も行くのか。

 この誘い言葉を何回俺は聞いたのだろう。一週間経ったから七回は聞いているのか。


「なあ、そろそろ今日ぐらい休まないか。俺、疲れてきたよ」


 おそらく、しばらくしても蝶はあそこにいるだろう。

 探せば見つかるはずだ。しかし、精神的にまいってきた。


 一日でいいから休憩がほしい。

 どうか素振りをゆったりとする時間を。


「いや、絶対に見つけるんだ」


 ナールは、真剣味を帯びた目で俺を見てくる。

 どうやら、ただならぬ理由があるようだ。


「分かったよ……ほら!行くぞ!」


「おう!」


 ナールは、うれしそうに頷きながら、俺の後を走りながら付いてくる。

 ここまで来たらやけくそだ。今日中に絶対に見つけてみせる。絶対に─────


 そういえばナールは、一度決めたら絶対に変えない奴だった。

 悪いところでもあるし、良いところでもある。


 なので、ただならぬ理由なんて物は存在しないだろう。

 今回ばかりは悪いところとして働いたが、いつか良いところとして働くと信じておこう。というか、信じていないと本当にこれで終わりそうだからな。


 ナールの後ろをついていくのだが森には、やはりすぐに着く。

 日の傾きすら感じない。時間の動きすら感じない程のあっという間に。誇張するなら、刹那だ。


 何もない、ナールとしょうもない話をするしかないので、この時間は嫌いだ。

 というか、ナールとの会話は何を言っているのか理解するのに頭を使う事が多いので会話をしたくないからと言う理由が正しい。少々酷いことを言ってしまったが、もしも、これを会話文だけ抽出しようものなら誰も読まなくなるだろう。


「じゃあ、今日も探すか」


 実際、最近の俺はほとんど休んでいるがそう言っておく。

 疲れたのだ。精神的に。


「ああ!行くぞー!」


               ☆☆☆


 あーあ、暇だ。

 三時間ぐらいだろうか?いや、そんなに経っていないかな。


 そんな事を思いながら、見失ったナールを探す。

 思った以上に奥に進んでいるらしく、なかなか見つからない。


 チュンチュンと小鳥が鳴き、カサカサと木の葉が揺れる。

 そんな心癒やされる音を耳にしながら、俺はぶらぶらと歩く。森の中ではあるが、ここは森の奥深くではないので危険な肉食はいない。


 これだけ時間をかけて言うのはあれだが、あの蝶は計画性もなく探すだけ見当たらないと思うんだよな。

 一人よりの二人なんて言うが、今回ばかりは一人の方が良い気がする。


 そんなとき、ふと右手を向くと。

 暗くなってきた森の中に煌めく、一筋の光が目に止まる。そこには、キラキラと日の光を反射させ、自分を彩るかのように飛ぶ、一匹の蝶がいた。


 パタパタと、ふわふわとそこに浮いていた。その蝶は白銀に輝き、俺はそれに引き込まれていく。白銀と言っても月のような輝きではない。銀細工のように精密に、一つの欠落も感じさせない美しさを発していた。

 その光景に俺は見惚れて、息をする事すら忘れてしまう。


 それほどまでに、その光景は幻想的で、美しく、そしてどこか儚げだった。

 白銀の蝶はふらふらと、どこかへ飛んで行ってしまう。それが当然であるかのように、俺はそれを見送ってしまう。


 俺はそこでハッと我に返り、あの蝶を追う。


 暗い森を俺は、必死に駆ける。前はろくに見えないし、日が入らないため地面はドロドロしていて足場が悪い。

 そんな中必死に走る俺は、きっとあの蝶に魅せられてしまったのだろう。


 そして、俺はあの蝶を目視で確認する。

 俺は、にやりと笑う。


 遅い、これならいける!!


 俺は、即座に間合いを詰める。

 地面は柔らかく力が入れにくいので、木を足場にして蝶へと迫る。


 こんな時に使って良いのか分からないが、完全に戦闘の動きだ。前世の知識をフル稼働して、気配を消して動く。

 殺気──は出していないが、少しの気配を漏れも許さない。


 そして、右手に握られた虫網を一気に振り上げ、全力で振り下ろす。


 すると、銀の蝶が網にはい──ることはなく、その輝く羽で網を切り裂いた。

 驚きの早業で、一瞬にして網が原型を失う。ものの一瞬で虫網は、ただの木の棒になりかわってしまった。


 しかし、俺は準備していた籠を蝶に向かって振り下ろす。虫取り網よりも射程が短いので、蝶との距離を詰めてから振り下ろした。

 逃げられないように、速さを重視し即座に蓋を閉める。


 中で凄い音が鳴っているが、木製なので簡単には壊れない。バコバコ、ボコボコと人でも殴っているのかという音が聞こえる。

 木でできた物は壊せない。そのはず……。


「今のうちに早く帰らなくては」


 しかし、ナールはどこだろうか?

 別れてから、一度もまだ会っていな─────


「ん?アインこんな所にいたのか。何やってんだ?」


 突然、ナールの顔が草むらから出てくる。

 音もなく、突然出てきたので驚いたが、こんな奥にいたのか。


 もう少しで川を渡ってしまうぞ。

 森の危険地帯と安全地帯を隔てる川を。


「ナール!蝶を捕まえたぞ!」


「えっ、本当!?見せて、見せて」


 ナールは、籠に入った蝶を見ようと俺に近づいてくる。

 そんな近づいてくるナールから遠ざけるように、俺は虫かごを隠す。


「ダメだ。この蝶は危険だから、家に帰ってから見せてやる。だから、すぐに、帰るぞ」


「えー、でも…………分かったよ。帰るぞ!!!」

 

 ナールは、残念そうな反応をするが、渋々納得したらしく走り出した。

 さすがに、こんな危険な蝶を簡単に見せるわけにはいかない。ナールに危険が及ぶようなことは、極力避けていきたい。


 俺は、爆音の鳴る籠を持ってナールを追いかける。

 蝶は脱走を諦めてないらしく、絶えず籠から嫌な音が鳴る。


 ナールは、気付いていないので大丈夫だが、静かにしてほしいものだ。

 騒がしすぎる。もう少しおしとやかにいてほしい。


 なんてことを思っていたら、俺への嫌がらせとばかりの勢いが増す。

 なんだコイツ、この籠地面に叩きつけてやろうか。


 俺たちは、日が沈む前に家に着いたが、テキトーに理由を言って明日にしてもらった。

 それまでに、この蝶をなんとかしなければ。


 少々可哀想だとも思ったが、これもナールのためだ。

 コイツを落ち着かせることが成功した暁にはナールにこの蝶の姿を見てもらおう。もし懐柔が失敗した場合は、諦めてもらうしかない。


 家に帰った俺は、籠を父さんの作業場に置き、夕食を済ます。

 本日の夕食は少量の干し肉が入った豆のスープとサラダだった。血と肉になってくれるか怪しい品物だった。


 その後、俺は蝶の入った籠と作業場にあった大きめの鳥かごのような物を手に取り、部屋に行く。

 木の籠は中にいる蝶のせいで壊れ始めており、木と木の間から中が見え始めている。まるで親の敵と言わんばかりの視線を中から感じる。


 それで、蝶を鳥かごの方に移す予定だったんだが……。


「こんな危険な蝶をどう移せと?」


 大きな壁にぶち当たっていた。


 鳥かごの入り口は、蝶の入った籠よりも小さいので籠は入らないし、蝶を手に持ったら切り刻まれて大変な事になるだろう。

 だからといってこのまま木の籠に入れていたら籠が壊されて出て行ってしまうだろう。おそらく、腹いせに俺を刻んでから。


「なあ、このままにしておいたら勝手に入ってくれないか?」


 俺は、蝶が入った籠を見ながら頭を悩ませる。

 蝶相手のこんなお願い意味ないのだが、動いてくれよという懇願にも近い言葉だ。


「ほんとに、いったいどうした─────


[私が、なんでアナタの言う事を聞かなくてはならないの?]


 突如、誰もいない部屋から声が聞こえた。

 透き通った声で、頭の中に響き渡る。俺は驚きつつ、声の主を探す。


 驚愕のあまり言葉が出ない。

 誰だか分からない相手に、余計な情報を与えないように静かに口を閉じる。


 この部屋には誰もいない、せいぜい俺と蝶が一匹いるだけだ。

 だとしたら─────


[アナタの目の前にいるのだけど?馬鹿なの?]


 なんなんだ、この口の悪い奴は。

 俺の目の前?俺の目の前には蝶が……


「おいおい、まさか…………お前か!!!!」


 俺は、蝶を指さしながらそう言った。

 かなりオーバーリアクションになってしまった。


[そうよ!頭を垂れて、忠誠を誓いなさい!!]


 俺の目の前にいる蝶が、さっきよりも強く羽ばたく。

 おそらく胸を張っているのだろう。


 全く面倒くさいのをまた拾った気がする。

 やはりたたきつけるか。よし、やるか。


[やめなさいよ!!]


「で、お前は誰なんだ?」


[なんでアナタに教えなきゃいけないの?名前を聞くならまず、先に名乗りなさい]


 こんな奴に常識を教わるなんて、屈辱だな。

 しかし、実際その通りなのでしょうが無い。ぐうの音も出ない。


「それは悪かったな。俺の名前は『アイン・イーノス』だ」


 俺は、こいつに名前を教えるのだが、蝶に名前を教える奴って……。端から見たらやばい奴以外の何者でも無い。

 今の俺から見てもやばい奴だ。是非、お引き取り願いたい奴だ。


[そうなの、良い名前じゃない]


 以外だな。

 てっきり[変な名前ね]ぐらい言うと思っていたのだが。


「それで、お前の名前を教えてくれよ」


 俺は、蝶に名乗るように言う。

 しかし蝶は─────


[は?なんで名乗るのよ]


 と、言ってくるのだった。

 ぶち転がしてやろうか。


 ふざけてるのかこいつは。

 明らかに名乗る雰囲気だっただろう。


 話の流れというものを理解していない。

 いや、理解はできるのだが意図的にそれとは違う行動を取っているな。面倒な奴過ぎる。


「はあ、もういいや。それでお前は何を食べるんだ?捕まえた以上、世話はしてやるよ」


 会話と籠の移動はしばらく諦めることにするが、捕まえた以上、そういった責任はしっかりと取ろう。

 どれだけこいつが嫌な奴でも、世話は俺の仕事だからな。


「野菜しかないが、それでいいな」


 俺は、答えを聞く前にそう言い切る。

 と言うか、ここには野菜しかないのでこれ以外となると草とかになる。それで良いのなら、その方が安上がりなのでそっちの方がいいのだが。


[えっ、肉は?]


 こいつ、当たり前のように肉を要求してきやがった。何を言っているんだか。

 蝶の餌に肉なんて買っていたら、家が一瞬で無くなってしまう。


「そんなのねぇよ。おとなしく野菜を食ってろ」


[私にそんな貧相な物を出す気なの!ふざけないで!そんなもの──]


 最後まで話を聞かずに、俺は扉を閉める。

 野菜なら、庭に何種類か植えてある。いくつ取っても問題ないだろう。それに好き嫌いは、良くないからな。


 そんな心優しい俺は、母さんを探して庭に出る。野菜は庭にあるのだが、勝手に取っていくのは気が引ける。

 そう思いながら庭に出ると、母さんは野菜の手入れをしていた。こんな夜にも畑の手入れとは、働き者な母さんだ。


「母さん、野菜持って行って良い?」


「良いけど、何に使うの?」


 母さんが、作業をしながら聞いてくる。

 顔は俺の方を向いているのに、その手はその道のプロのように俊敏に動いている。


 あの蝶のためとは言えないし、一体なんて言おうか……。

 うーむ。


「ナールにあげるんだ。良いでしょ?」


「そうなの?なら、美味しそうな奴を持って行ってあげなさい」


 母さんは、そう言って許してくれた。

 騙してしまって心が痛むが、致し方ない。


 蝶にあげるだけなので、少し形の悪い奴を取っていく。

 これが、少しでも贖罪になれば良いのだが。心の中で謝罪をしながら、俺は家に戻る。


 部屋の前まで行くと、野菜が落ちそうになる。

 落ちそうな野菜を拾い上げるように俺は、前にバランスを崩しながら扉を開ける。


 すると、ゴンッと鈍い音がした。


 野菜を扉にぶつけたかと思ったり、別に良いかと思ったりしながら、辺りを見渡してみると床に蝶が落ちていた。ゴミだろうか。


 「こいつ、もう脱走に成功したのか」


 周辺に傷が付いてないところを見るに、どうやら籠からは出れたが、その後に打つ手ないしで止まっていたようだ。


 俺は、野菜を机において蝶を拾う。

 そして、鳥かごに入れて丁寧に鍵を閉める。


 これで簡単には、この籠から出られないだろう。木の籠はボロボロなので、後でその辺りに捨てておこう。

 なんてことを思っていたら、蝶が目を覚ました。見た目通りの強度のようで良かった。


[あ……れ……何でここに]


 どうやら覚えていないようだ。

 やはり、かなり強めに打っただろうか。


「脱走したところを見つけたから、俺が入れてあげた」


 俺は親切に事の経緯を説明した。

 全く俺もお人好しだな、こんな奴に親切にするなんて。


[なにがお人好しよ。なら、私をここから出しなさいよね!]


 蝶は、荒い口調でそう言った。

 ぐるぐると空中を回りながら、こいつはそう言った。怒っている感じが伝わってくる。


「残念ながらそれは……あれ、なんでお前は俺の考えている事が─────」


[あ、やべっ]


 こいつ、何か隠された能力を持っていそうだな。


「話して貰おうか」


 俺は、蝶に笑顔で語りかける。

 確認は大切だからな。


[い、いやよ。絶対に嫌!]


「良いのか?この野菜を食べなくて?」


 俺は、野菜を蝶の前で揺らす。

 催眠術をかける催眠術師のように、ゆっくりと左右に揺らす。


 野菜の見た目もこの光景もひどいが、これはしょうが無いことだ。

 そう、俺は決して悪くないのだ。正当化ではない、事実である。


[くッ、卑怯よ!]


 煌めく羽を羽ばたかせながら、蝶は俺に罵声を飛ばす。

 親切に交渉という手段を取ってやっているのに、素直じゃない奴だ。おとなしく話せば簡単に食べられるのに。


「ほら、早くしないと捨てちゃうぞ」


 ニヤニヤと笑いながら、俺は野菜をさっきよりもゆっくりと揺らす。

 暗いおかげで野菜の傷が目立たないので、蝶の視点ではきっとこれがきれいな野菜に見えるだろう。


[分かったわよ!話すから!話すから早くちょうだい!]


 なんだか、危ない何かを求めているみたいになっている。

 一応言っておくが、俺の手にあるのは野菜だ。断じて危険な草ではない。ん?俺は誰に向かって言っているんだ?


「ほら、ちゃんと話せよ」


 格子の間から野菜を入れる。

 少し細かくちぎってから入れたので、全部きれいに入った。


[ヒャッハー!!最高!!]


 念のためもう一度言っておくが、俺が渡したのは野菜である。

 そして、あっという間に全て平らげた蝶は、満足したらしく勝手に話し始めた。


 話してくれるのはありがたいのだが、もう少し自分についての情報は大切にしたほうが良いと思う。

 まあ、今回は話してもらうがな。


「じゃあ、話しても貰うぞ」


[ええ、分かってるわよ]


 そう言って蝶は一呼吸置いてから、自分の力を俺に教えてくれた。

 人ならざる生物の、場合によっては忌み嫌われる対象になりそうな能力を。


[私はね─────







─────人の心が読めるのよ]



 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 それではまた次のお話で会いましょう。

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