第十七話 不気味
馬を走らせ、エリスは急いで森に向かう。
森には多くの騎士団員がいるが、その気配を発するモノに太刀打ちできるとは思えなかった。
実際にあの気配を食らっただけのエリスですら、手が少し震えている。
それほどまでに、気配の発信者は卓越した人物なのだろう。
エリスは、すぐに森に着いた。
馬に乗っていたのでそこまで時間がかからなかったのだ。
しかし、気配の発信者の詳しい居場所は分からないので、エリスはとりあえず森にいる団員との合流を優先させることにした。
森にいる団員と安否を確認してから、後続の部隊と合流し、謎の気配の捜索を開始する予定だ。
エリスは、森に入る直前に今の計画を立てて森の中へと入っていく。
森の中は、先ほどの気配のせいかとても静かで、まるで自分以外生物がいないのではという錯覚に陥りそうだった。
どこまで進んでも音がせず、小鳥の鳴き声や木々のこすれる音すらしない。
聞こえるのは自分の足音と心音だけだ。それだけを聞きながら、エリスは盗賊団の拠点跡に歩を進める。
地図や案内人はいないが、一度通った道ならエリスはそれなりに覚えているので間違えない。
なので、一度も立ち止まることなくエリスは森の中を進む。まっすぐと進んでいく。
盗賊の拠点跡にもうすぐ着くであろうというときにかすかに物音がした。
先ほどまでほとんど環境音が聞こえていないかったので、より敏感に反応した。
エリス、団員かとも思ったがまずはいつでも剣が抜ける体勢取り、少し離れた位置から何者か聞いてみた。
「何者だ!姿を見せないのなら敵と見なすぞ!」
エリスは、はっきりと聞こえるように大きく声を張り質問する。
すると、そこから一人の男性が出てきた。
「だ、団長……」
それは、騎士団員の一人だった。
見た目はボロボロで全身血だらけになっており、鎧も傷だらけだ。生々しい血のにおいがし、目にはもうほとんど光がない。
「大丈夫か!」
エリスは、急いで団員の元に駆け寄り体を支える。
しかし、もうほとんど体に力が入っておらず、支えてもすぐに崩れてしまいそうだ。最後の力を振り絞ってここまで来たように感じられた。
「団長……すぐにここから逃げてください……ここにいる奴は──」
「しゃべるな!情報はありがたいが、すぐにこの森を出て後続の部隊に受け渡しを──」
「団長、自分の死に時ぐらい分かりますよ。だから、せめて役に立たせてください」
エリスは、団員からの言葉に口からでかけていた───ほとんど出ていた言葉を止める。
実際に、エリスから見てもすぐに死んでしまうだろうと予想できた。呼吸をほとんどできておらず、目をどこか遠くを見ていてエリスを目で捉えられていないようだった。
「分かった」
エリスは、渋々団員の言う通り従う。
最後の役に立ちたいという団員の願いを叶えるために。
「ありが──いや、すぐに言った方がいいですね。アイツは───
「─────なッ!」
団員はエリスに情報を言う前に、口から血を吹き出す。
それは体の損傷が激しいからではない。しゃべりすぎが起こした現象ではない。
彼は己の体に穴が開いたから。
穴が開いたせいで血を吹き出したのだ。
顔にある口と、たった今腹にできた。
新たな口から─────
その様子を間近で見たエリスは、団員に心の中で謝罪をしながら投げ捨て、すぐに抜刀する。
彼を大事に扱った方がいいだろうが、間違いなく敵がいる事が確認できたからだ。
それになぜ彼に穴が開いたのか、それがエリスには確認することができなかった。
目の前で起きた現象に全く反応できなかったのだ。
エリスの目に見えない速度で攻撃できる者なら、もうエリスに攻撃が来てもおかしくない。
そのことから、エリスは自分が生かされていることを理解する。
団員からの情報を得られなかった今、エリスは姿の見えない、能力も禄に分からない敵と戦わなければいけない。
敵と交戦する上で敵の情報はとても大事だ。それが分からない。それに、今の一瞬で相手の方が格上だとエリスは確信する。
「悪い子はぁ、早々に退場してもらいましょうねぇ」
エリスは、先ほどかすかに聞こえた声と同じ波長の声を聞き取る。
ゆったりとしており殺気のようなものを感じさせない声だ。優しさすら連想させられる。
その声ははっきりとどこから聞こえたか分からなかったので、エリスは全方位を警戒する。
物音ひとつせず、風が頬をすうっと流れる。エリスは一瞬それに意識を持って行かれる。少し粘り気を感じたからだ。
エリスが意識を持って行かれた瞬間───奴は動いた。
「団長ぅ、アナタはまだまだよぉ」
そう言われたとエリスが理解した頃には、エリスの足の鎧に傷が付いていた。
「チッ!!」
深くはないが、確実にエリスは己の認知できない速度で足を斬られた。
やろうと思えばやはり斬れたはず、エリスは今の攻撃での意図的に手加減されたのだ。それは、容易に想像できる。
エリスはその攻撃に驚きはしたが、負けてはいない。
まだ立っているし、剣はしっかりと両手が握っている。
己を鼓舞する意味を込めて、エリスは柄を握る手に力を込める。
精神を集中させて、全てに反応できるように目を閉じる。相手が見えないのなら、目を開けている必要はない。
「えらく主人公みたいね動きする人だわぁ。まあぁ、しばらく遊んで頂戴ねぇ」
そう言って、エリスの頬にまた新たな傷ができる。
その攻撃にも、エリスは反応できない。しかし、確実に動きを呼んだ。避けはしなかったものの、相手に動きを感じとる。
少しでも相手の行動や、能力の情報を探るのだ。
ここから、敵からの少しずつの攻撃をエリスは受けつつ、確実に敵の情報を回収する。
相手は見えないが、攻撃する瞬間のみ風の動きで動作が分かる。
エリスの体や鎧に傷は増えるが、そのときが来るのを待ってエリスは静かにその場にたたずむのだった。
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それではまた次のお話で会いましょう。




