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第二話 見世物と傍観者

 俺たちは、森の前にいる。

 ただそれだけだが、一応状況説明として言っておく。


「ねえ」


 ゼンが、俺の横でぼそぼそとつぶやく。

 なにかナールに秘密で話したいことだろうか。


 俺は、ナールに悟られないように耳を傾ける。


「忘れてるかもしれないから言っとくけど、私ここに住んでたんだけど……」


「あ……」


 忘れていたわけではない、偶然記憶から消去されていたのだ。

 これには、俺もびっくりだ。そんな事を忘れ───じゃなくて……。


「それを忘れてるって言うんだし、忘れてること否定したせいで言葉続けられなくなってるし」


 ゼンが、厳しいツッコミを入れてくる。

 その通りだが、それを認めてしまっては俺の知的キャラが……。


「最初からそんなもの無いから、気にしなくて良いわよ」


「良くないよ!?無いの!俺の知的設定存在してないの!?」


「無いに決まってるでしょ。いつからあると思ってたの?」


 ゼンが辛い現実を突きつけてくるが、どうしようか。

 予定的には、ここでナールにいろいろと紹介してもらおうと思っていたんだが。


 それっぽく演技してもらうか?

 ゼンならできるだろう。しかし、それにナールが気づいたとき……。


「よし。ゼン、演技しろ」


「えっ、今のナールがって話は??」


「いや、よくよく考えてみたらナールそんな事に気づくほど洞察力無いわ」


「ナールのこと馬鹿にしてない?」


「そんなわけ無いだろう」


 ということで、ゼンには今からそれっぽく演技してもらうことになった。

 捨て子のゼンの時に辛い思いをしてここに逃げてきてたら、ここ森が恐怖の対象になっているのではという面白い考えの持ち主は、今すぐそれを捨ててください。余計な考えです。


 打ち合わせも終えたので、俺たち森の中へと入っていく。

 この森は木々が生い茂っているが、暗闇で歩けないほどではないので、奥へ奥へと進んでいく。


 名所というか、観光できるような場所は少し奥にあるので、どんどんと進む必要がある。

 あまり移動に時間を使いすぎると、森の中で日が暮れるなんて最悪な状況になってしまうので、急いで動いている。


 道なんてものはこの森にないので、ナールが森の生物の解説を簡単にしながら、歩きやすそうな所を選んで進んでくれている。


 ナールの解説はこんなこと言って悪いが、わかりにくい。

 しかし、知識の量は森に一時期入り浸ってただけ合ってそれなりだ。まあ、何言ってるか分からないので意味ないが。


 ナールの解説を頑張って頭の中で整理しながら聞いていると、第一の目的地が見えてきた。

 目的地と言っても人もいなければ、看板があるわけではないのでなんとなくの場所だ。


「これが、俺たちの家の近くに流れている川だよ。この川がそのまま流れてるんだ。この水は取ってもきれいで、この森の動物のたくさん呑んでいるし、僕たちも色々とお世話になることの多い水だよ」


「ふーん」


 ゼンは、ナールの解説(今回は、かなり分かりやすかった)を素っ気ない返事で反応する。

 そんな反応をするゼンに全くへこむことなく、ナールは次に進んでいく。とても楽しそうな顔をしている。


 目的地に一つしては解説が足りない気がするが、この川に神の伝説やロマンチィックな物語もない。

 開発して観光名所でも作ればいいのだが、そんなお金もこの街になければ治安もあまり良くないので、名前もないようなただの川でしかない。


 なので、数年に一度大雨で氾濫したり、木が倒れて川がせき止められたりと問題が起きる。

 そのような問題は、辺境伯が動いてくれるから別に問題にならないんだけどな。


「じゃあ、次に行こうか!次はこの国一番の大木だよ!」


 地方が苦し紛れに言いそうなセリフを言うナールの後ろを、俺たちはついて行く。

 ちなみに、本当にこの国一番かは分からない。そんな事気にする奴はいないからな。テキトーに言っているが、あの木ほど大きな木はないと言っても過言ではない。


 俺たちの街のクリークも、この森にさっき言ったお金の問題の他にも、危険な動物のせいでなかなかこの森の開発ができないのだ。

 前々から、この森の木を伐採して外に売ろうとしていた。しかし、森の地盤や動植物の観測に調査隊が街から派遣された。


 しかし、その調査隊は全員この森の動物に───殺された。

 もちろん、護衛の兵士もそれなりの数いた。街の今後に関係していたので、これには辺境伯も一時的に守りの兵士を割いて、調査隊に割り振った。


 それが全て殺されたのだ。そのせいで森の開発は白紙に、街の兵士の5分の1を失ったことで伯爵に対する反乱分子を生む結果になってしまった。

 しかし、一部の人々は森の平穏が保たれたことに安堵していた。


 そんな過去をこの森は持っている。

 なので、その事件からしばらくは森への立ち入りが厳しく規制されていたが、今はそれも解かれ、暗黙の了解として森の半分より奥には行かないことになっている。


 かなり長文の解説になってしまった。きっと、読者も飽きてしまう頃だろう。

 ここで知的な俺は、ギャグパートを挟んで読者を釘付けにするのだ。


「ゼン」


「なに?」


 俺の前をつまらなさそうに歩いているゼンに、俺は声を掛ける。

 本来はゼンとナールの会話を、俺のツッコミを挟みつつ聞く予定だったが、うまく歯車が噛み合わずダメそうだ。


「私は、暇そうに見えたと言いたいわけ!?」


「その通りだ、なんなら暇だろ」


「乙女は忙しいの!アンタみたいな人間、人気が無くて主人公下ろされればいいのよ。次の主人公は、私に決定ね」


 右手の人差し指で俺のことを指しながら、ビシッとポーズを決めるゼン。

 心なしか、どや顔をしているように見えるが、実際にしているのだろう。


「確かにお前にギャグパートを求めたが、メタ発言から始めるんじゃねえ!この作品一応ファンタジーだよ!?ギャグのジャンルじゃないよ!?」


「そのツッコミからそう続けたら、またメタの世界に落ちていくわよ」


「ハッ!」


 危ない、ゼンの罠にはまるところだった。

なんて策士だ。この俺を罠にはめようとするなんて……。


「いや、そんなベル○イユのバラみたいな顔されても……」


 そのなんとかのバラがなんのことか分からないが、読者の皆さんに驚愕の感情を伝わっただろう。

 ってダメだ、ダメだ。他の作品にボケを頼るなんて。これからは、自分たちで鉄板のボケを作らなくてわ。


「簡単に言うわね。そんなものがあったらもっとこの作品のギャグは面白いわよ」


 ゼンに横から、今までの努力を全否定されたがここは、真面目に一考してみてはどうだろうか。

 今後多くの読者層を抱えてほしい身としては、誰でも分かるような何かがほしい。


「私がいるじゃない」


 そう言って、ゼンが胸を張る。

 偉そうに、どこか嬉しそうに胸張っている。なんなんだ、コイツわ。


「ちっちゃい」


「はあ?」


 おっと、思っていた言葉が、口から溢れてしまった。

 これには、ゼンが言語化できないようなこちらを顔で見ている。しいて言うのなら、悪魔のような顔だろうか?


「あ゛?もう一回言ってみ?」


 ゼンが、聖母のような微笑みで俺に問いかけてくる。顔こそ笑っているが、発言はこわいお兄さんだ。

 そんなゼンに馬鹿正直に答えるほど、俺は脳なしではない。発言に細心の注意を払わなければ。


 しかし、このままではゼンのイメージ(清楚らしい)が壊れてしまうのではないか?

 今のゼンに清楚に欠片もないじゃないか。


「それはアンタが取り戻すのよ」


「なんで、俺がお前の清楚を取り戻すんだよ」


「アンタの冒険は私の清楚を取り戻す物語よ」


 心の底からつまらなさそうと思ってしまった。

 というか、それの終着点はどこだよ。


 話が進めば進むほど清楚から遠ざかっていきそう。

 終わりの見えない旅させられそう。


 ゼンがふざけた事を話に付き合っていると、彼女が突然上を向いた。

 大きく目を見開き、少し嬉しそうだった。


 その視線の先には、天を貫きそうな大木がそびえ立っていた。

 どこまでも成長し続けている、木がその存在を俺たちに見せつけていた。


「この距離からでも分かるぐらい大きいわね。見上げなきゃ上が見えないわ」


「そうだろうな。あの木の高さは異常だよ。森の栄養の半分を使ってるんじゃないかって、言われているよ」


 ナールが、先を歩いて安全と確かめているので、代わりに俺がゼンに解説しておく。

 あれ、でもコイツってここに住んでたんだよな。なら、知ってないのはおかしいんじゃないか。


「基本的に蝶で生活していたから、あまり高いところは見てないのよ」


 確かにな。俺と会ったときもコイツは蝶の状態だったし、蝶の状態でわざわざ高くまで飛ぶ必要もないか。

 お前が蝶の生態の何を知ってるんだ、という意見が飛んできそうだが、その辺はご愛敬をいうことで。


 それに、コイツの性能に性格なら、わざわざ高いところに飛ばずとも飯は手に入るし、面倒くさくてそこまで飛びたがらないだろう。


 そんな事を考えながら、草のかき分けながら俺たち進む。

 さっきも言ったが、ナールに案内を任せているので会話には入ってこない。どちらかというと、入ろうとしないと言って方が正しいだろうか。


 ここに来るまでのゼンの冷たい対応のせいで、ナールの元気が少し失われている気がする。

 さすがにナールでも、ほとんど無視されては悲しいようだ。

それに、基本話をしっかりと聞いてくれる俺としか話さないから、自分の話が無視されるのが初めてのようなもので、いつも以上に気にしているのだろう。


 ゼンに直すようにお願いしたところで直さない(憶測ではなく、絶対に)ので、ナールに慣れてもらうか、何か仲が深まるような出来事でもあればいいのだが……。


「その出来事を起こすためにアンタがいるんじゃないの?忘れたの?馬鹿なの?」


「余計な言葉が多いな!!」


 ぼろくそに言われたが、その通りだ。

 その出来事を起こすために俺はここにいるんだ。


 なんだか、もうすぐこの物語の終わりにでも入るかのような意気込みだが、まだまだ続く。

 というか、ここで終わったら物語の終わりとしては最悪な終わり方になってしまうので許されない。


「おっ、見えた!!」


 ナールが突然大きな声でそう言って、走って去る。

 その後ろをついて行くと、開けた場所に出た。


 先ほど話に出ていた、大木を頂点にするようになだらかな丘ができており、そのせいで大木がさらに高く見えていたらしい。

 前世の記憶がある俺でも、子供の時の記憶をそこまで鮮明に覚えてはいないので初めて知ったような言い方になってしまった。


 実際覚えていないので、初めて知ったんだが。

 ここまで大きい木だったとは、素直に驚きだ。大きい、大きいとは聞いていたが、実物を間近で見た記憶がない分、かなりの衝撃を感じている。


「この木に逸話とかはないの?」


 この大木の逸話……。

 あー、あれがあるな。


「この大木には、確か─────」


 ゼンに言われて、俺はナールの仕事であるはずの解説を始めてしまうのだった。

 俺は本当に二人を仲良くさせる努力をしているのか、とても不安だ。

 


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 もちろん、感想等も送っていただければ自分が大変喜びます!!


 それではまた次のお話で会いましょう。

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