第十一話 彼の思考
「この世界がどうか分からないから、前世の情報で話すけどいいな?」
「ええ、問題ないわ。早く話してちょうだい」
俺たちは、そのまま外で話を続ける。
ゼンは、かなり気になっているようだ。
今も俺の腕をかなりの力で掴んでいる。痛い。
「魔神具が、8つある事は説明したよな」
「ええ、されたわ」
「その魔神具のうち、発見されたものの4つを帝国が、1つをこの王国が、そしてもう1つを皇国が持っている」
「帝国は何で4つも?」
なんで……何でだろう。
そこまで帝国の内部情報は知らないが。
帝国の歴史書はさすがに王国になかったので知らない。
というか、仮想敵国の本を王国が置くことを許すわけないよな。変に帝国主義者が現れたらいけないし。
「たぶん、異世界人の召喚場所だからって理由が一番だとは、思うんだが」
「知らないなら、テキトーな情報流さないで」
「うっ、すまない」
なかなか厳しいな。
まあ、確証のない情報は許されないか。変に混乱しないためにも裏の取れてない情報は危険だからな。そうなるとあまり話せなくなるが、まあそれぐらいいいか。
「それで、何を持っているかは、分かる?」
「そこまでの情報は、開示されてない。その辺は国家秘密だろう」
「そりゃそうよね、一つあれば国の一つや二つ簡単に落とせるものね」
魔神具の能力は、物によって違うが全ての物が大国1個分の能力があると言われている。
なので、持っている事を公表するだけで周りの中小国の対応が変わってくる。仲良くなれば守ってもらえるし、最悪敵にさえならなければ安泰と言ってもいいだろう。
だから、帝国と対等な国はこの世には存在しないので、あの国は拡大欲求が強い。それは、王も国民も両方───殺し合いを知らないから
「じゃあ、アナタの前世の戦争は帝国からって事ね?」
「ああ、その通りだ」
帝国は、王国の資源ほしさにまず国境部の一部を要求してきた。
王国も帝国との戦争は危険と判断して、最初のその要求に屈した。そう、屈してしまった。
魔神具を保持していながら、王国は一度帝国に負けてしまったのだ。
外交によって、交渉の席で。
その結果、その一部割譲に味を占めた帝国はさらに王国の領土を要求。
おそらくそのときも王国が屈して、領土を寄越すと思っていたんだろう。また四つの魔神具に、ジュウの技術を流した異世界人。何かあっても勝てるという自信があったのだ。
しかし、それ以上の領土の縮小は王国の誇りが許さなかった。
王国だって魔神具を持っている、ならある程度は戦えるはずだとという王国貴族の訴えによりその要求を拒否。それに対して帝国は我々に宣戦布告。
というのが前世の戦争の開始までの流れだ。かなり大雑把になったが、大体の流れはこんな感じだ。
戦争は帝王の名をもって行われたが、風の便りで帝国の行政は異世界人が主に行い始めていたという噂を聞いたので、王はただの傀儡に過ぎないのだろう。
「でも、アナタの記憶には魔神具はいなかったけど」
「ああ、そんな超人的な能力を使う前に異世界の技術でやられていったからな」
魔神具を使うほどでは、無かったというわけだ。
王国の名が廃るな。
「それでも、王国も持ってたんでしょ。なんで使わなかったの?」
「それは……俺にも、分からない」
戦争中、どれだけ要請しても序列第一位の騎士と魔神具の戦闘は許されなかった。
いっそのこと直談判でもしようと思ったけど、その前に帝国の侵攻速度が速くなり、それどころではなくなった。
「ふーん、怪しさ抜群ね」
「そうだけど、これがこの国の守りの要でもあるから」
「そう、名前だけで国を守れる道具の騎士ねぇ……」
確かに謎だが、俺にはそこまでの情報はないのでこの話し合いは、憶測の域を超える事はないぞ。
どこまで考えたって、それはお前の妄想でしかないのだ。
「そうね、魔神具についてもう少し無いの?」
それ以上の情報……か……。
「そうだ、魔神具のマスターはいるの?」
「マスター?適応者の事か?」
「ええ、おそらくそれの事。教えて」
適応者とは、魔神具は使用者を自分で決める。なので、魔神具に選ばれた者を適応者と呼ぶ。
なので、爵位とかに関係なくなることができるので平民が恐ろしいほどの権力を握る事がある。帝国では一人爵位を持っていない人物がなったはずだ。
「適応者は、帝国は全ての魔神具にいる。王国も序列第一位の騎士が使い手だ。皇国は国を仕切っている家系が代々魔神具に認められて王位を継承する感じだった」
「ふーん、じゃあ……ブツブツ……」
何か考えを巡らせているようだ。
まともな事だと良いが。期待するだけ無駄か。
「分かったわ。アナタは─────」
ゼンは、そこで静かになる。
親からお叱りを食らった子供のように、キュッと黙ってしまった。
「何でも無いわ。ありがと」
そう言ってゼンは、壁を上り窓から部屋に戻っていった。
一体何を言おうとしたのだろうか。
それは、
─────俺には分からない。
「へっくしゅ!」
いくらなんでも、夜の外に居すぎたか。
俺は、後ろを振り返り、窓を見上げる。
入れねえじゃん。玄関……。
いや、玄関からって、こんな夜中に玄関開けてる家がどこにあるんだよ。不用心過ぎだろそんな家。
そんな事を思っていたら、玄関の方から鍵の開いた音がする。
「なにやってんのアンタ。早く入ってよ」
どうやら、窓から家の中に入ったゼンが、玄関の鍵を開けてくれたらしい。
本当に助かっ─────
「これで貸しは───返したから……」
それだけ残し、彼女は家の中に戻る。
それ、気にしてたんだ……。
☆☆☆
そして翌朝、朝食を終えた俺たちはナールの家に向かって歩いていた。
朝食だが、まあ美味しかったとだけ言っておこう。
「朝食のネタがないぐらい、はっきり言ったら?」
「黙ってろ!!」
と、言うわけで、俺たちはナールの家に向かっているというわけだ。
どういうわけか全く分からないが、取りあえず予定通りの行動はできている。
「お前、早速その服着てんのか」
ゼンは今、昨日街で買った服をさっそく着ている。
おしゃれって奴か。残念だが、俺はおしゃれが分からない人間だ。
「どう?かわいい?」
ゼンは、そう言ってクルっと一回転する。
最後にニコッと笑顔になる。
「か、かわいいんじゃね」
しどろもどろだ。
悲しきかな、俺も男の子なのであった。
「違うぞ!今のは決して、お前の仕草に心動かされかけた訳ではない!」
「ふーん」
ゼンは、ニヤニヤしながら俺の顔をのぞき込む。
今にもぶん殴ってやりたいと思うほどに、憎たらしい笑みを浮かべていた。優越感に浸っていやがる。
「そんなに顔赤くしちゃって、ふふ。ほら、早くナールの家に行くわよ」
「あ、ああ。そうしようか」
まったく、何がしたいのかよく分からない。
しかし、彼女は満足そうに笑っていた。
なら、いいのだろうか?
「そういえば」
突如、ゼンは急停止して俺の方を見る。
先ほどと違い、真剣な顔をしている。
「あの、ゴルグ・サーって男。どんな関係なの?」
ああ、それの事か。
こいつには説明してなかったか。
「そうよ。一人でなんか意気込んじゃって、私の部外者感と言ったら」
グチグチ言い始めそうなので俺は彼女の話を遮り、話し始める。
話の主導権を奪ってしまおう。
「あの男は」
アイツは
「ナールを」
俺の親友を
「「殺した男だよ」」
「そうゆうことね。復讐の対象ってわけ」
「いや、その説明は違うよ」
「違うの?」
ゼンは、首をかしげて聞いてくる。
いちいち仕草が男心をくすぐってくる。ぜひ、やめていただきたいものだ。
「俺が、アイツを殺すのは殺すべき対象なだけであって、俺が恨んでいるわけじゃない」
「ん~、よく分からないけど。結局は殺すのよね」
「まあ、最後はな。動機が違うってだけで、所詮人殺しに狂った持論だ」
「なんだか、悲しい考えね」
ゼンは、本当に悲しそうな顔をしている。
そこまで、お前が気にしなく良いのだが。
俺は、前からこんな人間だ。
「あまり自分を卑下する人間は好きじゃないわ」
「どうし─────」
「おーーい!」
俺は、疑問に思った事を聞こうとしたら、ナールの家の前で誰かが手を振っていた。
まあ、ナールなんだが。
そこで、自然と会話は終了してしまった。
あとで、また話せばいいか。
俺は、ナールに手を振り返すが、ナールは我慢ができずこちらまで走ってくる。
ナールは、相変わらず俺たち家に行く前に外で待っていたが、その辺にツッコむのは、意味が無いのでやめておこう。
「アイン、隣のその女の子は誰だ?」
早速ゼンに興味を持つナール。
好奇心の塊であるナールなら、当然気になるだろう。
「この子は──」
「私の名前は、ゼンよ。よろしくね、ナール」
いきなりため口かよ。
ゼンは、胸を張りながら自己紹介をし、右手を出す。
ナールは、その行動に首をかしげるが、何か理解したようで彼も右手を出し固い握手を交わす。
「違うわよ!」
しかし、ゼンは、気に召さなかったようでナールの右手を振り払う。
握手じゃないなら、何をさせようとしていたんだ?
握手以外の何があるのだろうか。
あいにくだが、俺はそこまでゼンの心理が読める訳ではないので、たまに理解できない。
たまに理解できても、それは悪知恵の働いているときであって、知りたくなかったことの方が多い。
「アンタすべきなのは、手の甲にキスでしょ」
なんてことを、さも当たり前にようにいうこの馬鹿の後頭部を俺はぶっ叩く。
それはもう全力で。決して日々の恨みとかそんなものは入っていない。
「痛いんですけど!」
「誰が初対面の相手に忠誠を誓わせる奴がいるんだよ!」
少し解説だが、手の甲へキスは忠誠や信頼とかを意味する。なので、王女や女王への謁見の時にあったりする。
男性から女性にするのが基本で、女性から男性へはまず無い。あるかもしれないが、俺は見た事がない。
と言う意味を持つので、むやみやたらにキスはしない(帝国と王国での話だ)。
勘違いがあってはいけないので、一文添えておいたが、こんな意味を持つ。
ので、コイツがさせようとしているのは、かなりやばいと思う。知り合って早々に忠誠を誓わせようとしたのだ。そのことすら知らないナールに。
「ふん!別に良いじゃない」
「良くないから、俺が怒ってるんだよ」
ゼンの血迷った行動に、俺はツッコみを入れる。
どこの誰が、初めて会った奴に忠誠を誓わせるんだよ。
「えっと……」
ナールが、完全に蚊帳の外状態だった。
俺とゼンのこのノリがよく分からないナールからしたら、入れないよな。配慮が欠けていた。
「仲良さそうだな」
「「違う!」」
しっかりと、俺たちの声は重なる。
それも、一言一句同じ言葉を言いアクセントも同じだ。
これでは、仲良しと言われてもしょうが─────
「はあ?」
ゼンの低い声が、俺に向かって放たれる。
それは、話の間に入ろうとしていたナールを黙らせ、涙目にさせるには十分な声だった。
補足しておくと、今の心の声もゼンにはダダ漏れである。
コワイネ。
「と、とりあえず、俺んちで話そうぜ」
「そうだな。ゼン、行くぞ」
「分かったわ」
ナールの提案というか、救済の一言のようなもので場の雰囲気を少し軽くする。
ゼンも特に俺の心の声については意識してないようだった。
そうして、俺たちは部屋へ移動する。
「じゃ、俺なんか飲み物取ってくるわ」
ナールは、そう言って部屋を出て行く。
部屋には、俺とゼンが残される。
「彼、すごいわね」
彼と言うのは、おそらくナールの事だろう。
「何がすごいんだ?」
「彼、三つの事を頭で考えてるわ」
「三つ?並列思考ってことか?」
「そうね。でも、三つはすごいと思うわ」
ナールは、ずっとそんな事を考えていたのか……。
だが、きっとナールの事だから考えがまとまらずに有効活用できていないのだろう。
「じゃあ、何考えてんだ」
どれだけ俺がナールと仲が良かったとしても俺はナールの考えている事は、分からないからな。
少し、興味がある。
「まず1個目が、昼ご飯なにかなでしょ」
「ん?」
「次に、あいつら仲いいなでしょ」
この場合、あいつらって言うのは私たちのことね、とゼンは続ける。
その顔は確実に不愉快そうであったことは付け加えておく。
「ん??」
「最後に……」
「最後に?」
なぜ間を開ける!
すごく気になってくる。いや、大方予想は付いているが、黙っておこう。
謎の間に、俺は固唾を呑む。
ゼンも、それっぽく重い顔をしている。
そんなにすごい事を考えているのだろうか?
「何の飲み物持って行こうかな、よ」
─────ゼンはキメ顔でそう言った。
即座に俺は、この馬鹿の後頭部を再び全力でぶっ叩く。
それが身の危険を感じたからなのか、はたまた内容がしょうもないのに期待させたからなのか俺には分からなかった。
ただ、本能が叩けと言って本能で叩いたから、俺は叩くのだ─────
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