第十話 釣り合わない天秤
「くッ」
戦いづらい、まだ目がチカチカする。
なんとか防御はできているが、反撃にでれない。
「おいおい、お前は弱いのか?」
ゴルグは、ニヤニヤと笑いながら俺に聞いてくる。
どうやら、先ほどのゼンと俺を比べているようだ。俺とゼンなんて比べるだけ無駄だ。
アイツは、人間が出せる能力の何倍もの力が出せる。
「こんなのまだまだ序の口だよ。俺の全力はもっとすごいぜ」
ここで、相手に弱さを見せるわけにはいかない。
相手をこれ以上やる気にはさせてたくない。
剣と剣がぶつかり、火花を散らす。
ゴルグは、剣を即座に引き次の行動へと移る。
「くそッ」
目は、もう治ってきた。
しかし、攻撃に転じれない。
俺は、一撃一撃に重さを重視した攻撃だ。
ゴルグはその反面スピードを重視し、一発の重さを犠牲にした攻撃になっている。なので、俺が反撃する前に攻撃が来る。
それに、まだこの体で本格的な戦闘は早かったようだ。
幾千もの回数、剣がぶつかり合い、火花を散らしながら時間が過ぎていく。
すると、突然扉が開く。
「アイン!他の奴らが帰ってきた、早くしないと私たち全員逃げられない!」
「分かった!」
限界か。
俺は、剣を力任せに振り後ろに飛ぶ。
こいつらの仲間は、大体40人ぐらいいたはずだ。それが、全員帰ってきていたらすごい人数だ。
もしそうなら、早く逃げないと逃げ切れない。
「逃げるのか!悲しいなぁ!」
ゴルグは、笑いながら俺にそう語りかける。
その瞳は、戦いに快楽を得ている者の瞳だった。
腐ってるな、前から─────
「また、早いうちに会えるさ!!」
俺は、そう返して剣を投げる。
ゴルグは、剣を回避するために後ろへ下がる。
その瞬間、俺たちは廊下へと逃げ走り出す。
「倒せてなかったんですけど!あれぐらい倒せないの!?」
逃走を開始してから早々に、ゼンは俺に文句を言い始める。
まあ、あれだけいい場を用意して貰って、倒せなかった俺が悪いんだが。
「いろいろと問題があったんだよ!次は、絶対に───殺す」
俺は、気持ちを込めてそう言い放つ。
アイツは、俺が必ず殺さなくてはいけない人物の一人だ。
「と言うか、出口分かってんのか?」
俺は、先を走っているゼンについて行っているが、こいつは目的地が分かっているのだろうか。
「もちろん。アナタが一人で負けている間に私は働いていたわ」
僅かな会話の間にも、俺に対する嫌みは忘れないらしい。
全く変わらない奴だ。
「時間稼ぎと言え。とりあえず、目的地が分かってるならいいや。そこまでの案内は任せたぞ」
「ええ、任せてちょうだい。誰かと違って、私は仕事を果たす人だから」
「悪かったな!仕事も果たせなくて!」
少し前より、元気になっている気がする。
何かあったのか?
俺たちは、そんな言い合いをしながらこの建物を後にする。
そのとき、ゼンの口元にパンくずが付いていた事に俺は、家に帰ってから気づくのだった。
☆
「ボス!大丈夫ですか!」
静かになった部屋に、たくさんの男たちがなだれ込んだ来る。
この建物のいつもと違う気配を感じ取り、ここまで走ってきたのだ。
各々バラバラの装備を着ており、血が付いている者もいた。
みなここまで鎧を着ながら走ってきたようで息が上がっている者も多い。
「ああ、平気だ。それより、来る途中に子供に会わなかったか?」
「子供……ですか?会ってませんが、子供がなにか?」
「いや、何でも無い」
ゴルグは、子供たちを逃がして事を少し残念に思ったが、ここまでの高揚感を与えた、アインという少年に興味を持った。
自分とは違った太刀筋、そしてたくさんのモノが混ざった歪な剣術。ゴルグの興味を大変そそる人物であった。
「あの剣筋は、普通じゃねぇ。きっと成長するな」
ゴルグは、ボソリとそうつぶやく。
あまりの興奮に思っていたことが言葉に出てしまう。
「ボス、何か言いました?」
「何でもねぇ!こいつら片づけろ!臭くて、たまったもんじゃねぇ」
「分かりました、ボス!」
男たちは、そう返事をしてバラバラになった遺体の片付けを始める。
その手際は、慣れたもので速やかに片づいていく。
「ちっ、途中で逃げるとは……今度は、俺がお前を殺してやる」
ゴルグは、にやりと笑っている。
彼の思考は再び彼───アインと会い。殺すことしか考えていなかった。
「クハハッ、面白いなぁ。やっぱり戦いとはこう盛り上がらなくちゃ」
男たちが片付けを終え、立ち去り一人残った部屋でゴルグは、高らかに笑うのだった。
☆☆☆
俺たちは、こそこそと隠れながら家に帰る。
今の俺には、返り血が付いているので誰かに見られて大変だ。
「こっちには、人がいないわ」
俺は、ゼンの案内を受けながら、街の外へと脱出する。
帰り道の途中の川で血を流し、体をきれいにする。
そこで気づいたのだが、どうやらゼンは、探索の最中に自分の服を見つけて、持ってきていたようだ。
ちゃっかりした奴だ。
そのまま俺たちは、特に問題なく家に着いた。
ナイフなどの武器は、ゼンが片付けていた。自分で片付けぐらいできるわ、と言って持って行ってしまった。
それで俺たちは無事、家に帰る事ができた。
しかし、家が安全とは限らない。
俺たちが帰ったときには、空は青く透き通ったきれいな空ではなく、あかね色に染まりキラキラを輝く夕焼け空だった。
そんな時間まで外にいた子供を、母親は許すだろうか。
否、叱るだろう。
そうして、母さんにこっぴどく叱られた俺たちは、夕食を食べ部屋に戻る。
「疲れたわねえ。いやー、私ったら働き者だわ」
ゼンは、ベッドで横になりながら満足そうにそう言う。
ベッドの上に気持ち良さそうに体を伸ばしている。
「こんなことになる理由を作ったのは、お前自身なんだぜ。知ってたか?」
俺は、ゼンを小馬鹿にするように話しかける。
少しぐらい反省してもいらいたいのだが、
「何のこと?アナタの不注意が呼んだんでしょ」
と、記憶から自分の罪を全て消し去っていた。
なんて野郎だ!
自分の罪を無かった事にし、あまつさえ他人に押しつけるとは。ひねくれた奴だ。
「ふざけんな!お前のせいでどれだけ俺が傷ついた事か」
「その割に、かっこいいセリフ吐いて楽しそうだったわね」
「うっ」
痛いところを突いてくる。
気分が少し高揚していた事は認めよう。しかし、俺はまだ完全ではない。
今の俺では、前世の10分の1に力も無いだろう。
そんな俺に戦闘をさせるなんて、鬼畜だ。
「アンタから、戦いに行かなかったかしら」
「いや、その……はは」
「見苦しい」
ゼンは、そんな俺をバッサリと切る伏せる。
ゼンに優しさを期待するだけ無駄なのだ。
こいつは、そういう奴なのだ。無慈悲だ。
「何、俺は彼女を理解しています、みたいなセリフ言ってんのよ」
「人の心を許可無しに覗くんじゃねえ!」
「いやなら、心の入り口に鍵でもかけてなさい」
そんな言うんだったら、かけてやるよ!
……いつか……必ず……。
残念ながら、心に入り口に施錠方法は知らない。
なので、そんな希望的なことしか言えないのである。残念な男だ。
「とりあえず、服は買ったから明日は、ナールのとこにでも行くか」
「ナール!ナールの所へ行くの!?」
急にベッドから起き上がり、前のめりになりながら聞いてくる。
なぜ、そんなに反応が変わるんだ。
「そんなの、私を褒めてくれたからに決まってんじゃん」
決まってんのか。
そして、単純か。ご飯をくれる人間が好きみたいな猫のようだ。
「ちなみに、アンタの評価は最低、というかマイナスよ」
こんなに親切にしているのに、なぜなんだ。
俺ほどのコイツを理解していて、尽くしている人物はいないと自負している。
「評価を上げたかったら、私を褒め──」
「それは、無理だな」
俺は、断言する。
こいつにごますりをするぐらいなら、俺は一日断食をする。
「一日って、そこまで決意は固くないのね」
くッ、俺にはそこまでの断食はできない。
最近、良くおなかがすごく減る。子供の体というものは、不便なものだ。
「じゃ、そういうことだから。おやすみ」
「えっ、寝るの?」
「ああ、今日は疲れて眠かったんだ」
そう言って俺は、床で眠りにつく。
今の体で初めての戦闘で、体がかなり疲れている。今日は、早く寝て体力を回復した方が良いだろう。
堅い床が冷たく眠りにくいが、なんとか眠りにつこうと頑張る。
寝るのを頑張るとは、どういう意味か分からないがその辺は気にするだけ無駄だろう。
そうして、俺は眠りについた───が、すぐに目を覚ました。
いや、正確には2時間34分後だが。誰も気にしないし、寝て起きたら一瞬に感じるので知っていても使い道は今のところないの。
と、そんな事は良いとして。
俺は、部屋で誰かが動いたのを感じ取り、目を覚ました。
おそらくゼンだろうと思い、ベッドを見てみると案の定おらず、部屋にもいなかった。
どこだろう、そこまで感じ取ってから時間は経っていないはずだが……。
ふと、俺は窓が開いているのに気づく。
以前の部屋斬撃事件の中でも無傷だったカーテンが揺れており、月明かりが部屋の一角を照らしている。
「あそこから、出ていったのか?」
俺は、起き上がり窓をのぞき込む。
すると、庭にゼンが立っていた。
彼女は、降り注ぐ月明かりで自分を着飾るように立っていた。あのときと同じように、しかし今回は日の光ではなく、月明かりで。
その光景は、美しいの一言では片付けられない。だが、その光景を美しい以外で表現する方法を俺は知らない。
突如、彼女は振り向く。そして、ゼンと目が合う。
どうやら、心情把握でゼンに向かっている心を感じ取ったようだ。
警戒は、怠ってないようだ。
「何覗いてんのよ」
俺は、窓から屋根に飛び乗ってから地面に着地する。
「悪いな、覗く気は無かったんだ」
「あっそ。……なら、別に良いわ」
ゼンは、そう言って俺から視線をそらし、再び月を見始める。
「月がきれいだな」
「ひぇッ!?」
月の感想を言ったら、ゼンが変な声を出した。
どうしたんだ?
「な、何でも無いわよ!勘違いさせないで!」
「か、勘違い?」
何のことだ?
勘違い?どこの勘違いするような要素があったんだ?
「うるさい!!」
俺の全く分からない事でキレだしたゼンを、テキトーになだめてから会話を再開する。
少し時間がかかったが落ち着きを戻してくれた。
「なんで外に出てたんだ?夜の外は、肌寒いだろ」
実際、俺も少し寒い。
何か羽織る物を持ってこれば良かった。
「寒さなんて気にならないわ」
ゼンは、静かにそう言った。
その声に、何の感情も感じられず、心さえも感じる事はできなかった。
「ねえ。アナタは、魔神具の存在って信じてる?」
「信じてるよ」
俺は、間を開けずにそう言い切る。
俺は、魔神具の存在を信じると、そうゼンに向かって言い切る。
「あっそ、そんな信じるなんて子供ね」
ゼンは、少し笑いながらそう返してくる。
どうやらゼンは、知らないようだ。
「あのな、ゼン」
「ん?何。魔神具については知らな──」
「魔神具はさ、もう6つ発見されてるんだ」
「えっ」
俺の発言に、ゼンは完全に静止する。
どうやらかなり衝撃的だったようだ。
「そ、それ本当?」
ゼンに動揺が走っている事が見て取れる。
髪の毛をいじりながら、俺に聞いてくる。
「ああ、前世では6つをいくつかの国が保有していた。この世界がどうかは分からないが、おそらく持っているはずだ」
「じゃあ、私が最後って事!?」
何言ってんだこいつ。
最後って……いや、もういいだろう。
「私だけ一人残ってたの?最悪!」
ゼンの調子が急におかしくなる。
夜中だというのに大きな声を出すので、母さんの聞こえそうで少し冷や汗をかかされた。もしもこっちに来たらどうするんだよ。
「その話詳しく聞かせて!」
「わ、分かったよ」
突如意味の分からない発言をし始めたゼンが、俺に説明を求めてくる。
そんな彼女の有無を言わさない圧に俺は負けてしまい、ゼンに分かりやすいように説明し始めた。
ここまで見ていただきありがとうございました。
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もちろん、感想等も送っていただければ自分が大変喜びます!!
それではまた次のお話で会いましょう。




