潰し屋⑦
ボールがセットされ、すぐに試合が再開する。
「今の一回ごときで調子に乗るなよ!」
「今の一回だけで終わると思うなよ」
前線からボール奪取のために安達がプッシュをし、浮き足だったところを瀬賀がボールをカット、俺へボールを預けてくれた。
「高坂ぁ!」
黒宮が勢いよく突っ込んできたのでボールを少し押し出して股を抜き、手を使いながら黒宮自身の勢いを利用して俺自身は加速した。
「くそがぁ!」
安達にボールを預け、安達は一度瀬賀へと戻し、瀬賀は空へ、空は利空へそれぞれワンタッチでボールを繋ぐ。
安達を起点に四角形の動きでボールは右サイドへと展開され、安達とポジショニングが変わるように俺は最前線を走り抜けていた。
利空からスルーパスがグラウンダーで飛んでくる。
DFよりも先に俺が触れるイメージ通りの完璧なボールで、通れば完全フリーの状況だったが相手のキーパーの危機管理能力が高かった。俺がボールに触るよりも早く飛び出してボールをクリアした。
「ナイスボール利空!」
俺の言葉に利空は親指を立てて応えた。
再び利空からのスローインを受け、ボールを瀬賀へとはたく。
瀬賀はサイドを変えて近江先輩→恵比寿先輩へとボールを繋いだ。
俺も左サイドへ寄るが、黒宮が背後にキッチリとマークに付いていた。
恵比寿先輩から瀬賀→花咲先輩→空へとボールが渡る。
空は一度俺を見て黒宮がピッタリ張り付いているのを確認するとそのまま持ち運び、寄せてきた相手DFを利空とのコンビネーションでスルスルと抜けていった。
観客からは歓声が上がり、俺の背後からは対照的に怒声が響いてきた。
「何を簡単に抜かれてんだ! マヌケ共が!」
二人だけで右サイドを駆け抜け、俺や安達はクロスを待つために既にゴール前へと走り込んでいた。
黒宮も含め、俺と安達を見るために4人が中へと引っ張られたところへ空がクロスを選択した先はファー。
俺達の頭を大きく超えた先に走り込んでいたのは恵比寿先輩だった。
頭で合わせるにしてもゴールまでは距離がある。
俺は中への折り返しを想定してもらえる位置に移動しようとした。
「おらぁ!」
恵比寿先輩が選択したのはダイレクトのボレーシュートだった。
一瞬、上に浮きすぎるかと思われたボールはドライブ回転により大きく沈み、キーパーの伸ばした手をすり抜けゴール右サイドへ叩き込んだ。
中々お目にかかれないスーパーゴラッソだ。
「うおっしゃぁ!!」
観客とチームメイトが大喜びする中、安達はボールを回収し、中央へと持っていった。
これで2ー2。後半残り25分。
先輩達のプレーにも勢いが付いてきているのが分かる。とても良い流れだ。
相手のパスミスからボールを奪い、再びパスを受けた俺は相手を一枚かわした後、詰めてきていた黒宮の股を通して利空へとパスを出した。
「くそがぁ!」
黒宮が芝をスパイクのポイントでエグるように蹴り上げた。
マッチアップするたびに股を通され、黒宮の苛つき度合がピークに達してるのが分かる。
「黒宮、こんなもんじゃ済まさないぞ。お前にはこの後も何度だって恥をかかせてやる。お前のことを知る学校の友人達が観ている中で、お前だけをずっとコケにしてやる」
まるで血涙を流さんと言わんばかりに睨みつけてくるその眼光には、分かりやすく憎悪の色のみ映し出されていた。
ペナルティエリア付近まで運ばれたボールは安達へと渡り、シュートを放つも敵DFにブロックされ、こぼれ球が偶然俺の足元へと転がってきた。
黒宮がすぐさまマッチアップしてくる。
「抜かせねぇぞコラァ!」
ボールを一度ダブルタッチで左右に振った後、そのまま俺は黒宮の横をドリブルで素通りしていった。
散々股を通されてきた黒宮は今回も狙われると思い込み、ドリブルで抜く寸前に足を閉じたのでそのまま通過させてもらった。
周りの人達からすれば、黒宮がつっ立っているだけで抜かれたように見えたはずだ。
「馬鹿丸出しだな」
「高坂ぁぁぁぁぁ!!」
黒宮が俺の服を思いっきり掴み、右足で俺の足を狙って刈り取るようなスライディングをしてきた。
このまま黒宮の足に引っ掛かれば間違いなくPKになる。
それでも俺は跳んでスライディングをかわし、黒宮の掴んでいた手を引き離し、左足でシュートを放った。
鋭い弾道のボールがキーパーの手を弾き、こぼれ球を安達がダイビングヘッドでゴールへ叩き込んだ。
「逆転だぁぁ!!」
今度は誰もボールを拾うことはなく、安達の周りへと集まっていった。
その一方で黒宮は審判から最後の悪質なスライディングに対するイエローカードを提示されていた。
「無様だな黒宮」
「…………なんで最後のスライディングをかわせた」
「お前がその内削りに来ることなんて分かりきってたんだよ。どこかの誰かのおかげで俺は常に警戒心を持つ心構えを手に入れた。意識の外からのタックルじゃない限り俺は全てかわせる」
「そんな人間いるわけねぇだろ!!」
「できるんだよ、俺は」
俺が復帰するにあたってどれだけ怪我に対する警戒心にリソースを割いてきたか、イメトレをこなしてきたかお前には分からないだろう。
削る立場のお前にはな。
「黒宮ぁ! てめぇ最後のプレーはなんだ!」
キャプテンマークを巻いた帝東高校の選手が黒宮に詰め寄っていった。
「お前が試合にスタメンで出ることのできる理由を忘れたわけじゃないだろうな!? ラフプレーをしないことがお前に課せられた条件だぞ!」
「知るかボケ。テメェらがボンクラで情けねぇから俺がファール覚悟で止めてやろうとしたんだろうが」
「なんだとこの……!!」
唐突に笛が鳴った。
リスタートの笛ではない。
選手交代の笛だ。
タッチラインで表示されていたのは黒宮の背番号。
「な……に……!? …………ふざけるな!! なんで俺が交代なんだ!? このチームで一番上手いのはこの俺だぞ!!」
「早く出ろ黒宮! プレーの邪魔だ」
「監督の命令に従え」
チームメイトにすらも見放され、怒りで体を震わせながらも黒宮はピッチの外へと出ると、そのままベンチではなくロッカールームの方へと消えていった。




