忍び寄る風魔
ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー
滝川一益…織田五大老の一人、関東軍の総司令官を命じられている、自分の武功が明智光秀や羽柴秀吉に
劣っている事に不満を持っている。
北条氏政…相模国と武蔵の国を治める戦国大名、外交と戦いと中々の手腕を発揮する曲者。
風魔小太郎…北条に仕える忍者組織〈風魔〉の頭領、怪し気で不思議な術を使う。
ゾフィやステイメン、フリニオーラが各地で死闘を繰り広げていた頃
相模国の国境では滝川一益率いる関東方面軍が徳川家康の力も借りて
睨みをきかせていた、そんな中でゼファーと共に行動をし
話をしているのは、家康より命じられた伊賀忍の者達であった。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけどさ、この相模国ってどんな所なんだい?」
「相模国は代々北条家が納めて来た土地であります、北条家は
室町の頃の北条早雲から始まり、早雲は戦国大名の祖とも呼ばれている人物です
北条家は代々外交も上手く戦上手でもあるという非常に厄介な相手でして
今川や武田といった強豪とも長年渡り合って来たほどです
あの上杉謙信の侵攻を退けたり、河越城の戦いでは十倍の
敵と対峙した時、”敵に領土を明け渡す”という全面降伏とも取れる
手紙を送って相手の油断を誘い、意表をついた夜襲で相手の
大将格を討ち取り敵軍を敗走させたという知謀も発揮しております
その後、今川、武田と三国同盟を結び今の統治を確固たるもの
とました、今川義元が桶狭間にて織田に討たれると、武田信玄が
今川領に侵攻し三国同盟は崩壊しますが、破竹の勢いで
今川軍を敗っていった信玄は北条家の治める武蔵の国にも侵攻を開始し
北条は武田、上杉、里見という三勢力と敵対するという
危機的状況に陥ります、しかしここで北条は上杉謙信に和睦を
申し入れ、これを成功させております、北条の居城には
難攻不落と言われた〈小田原城〉があり、武田信玄の侵攻を
徹底した篭城戦で対応し武田軍を早期撤退に追い込みました
今は先代の北条氏康より息子の氏政が家督を継いでおります」
「へえ〜中々やり手なんだね、俺好みというか、曲者というか
そういえば信長公から聞いたのだけれど、北条には“風魔”
とかいう忍者軍団がいるとか?」
ゼファーの問いかけに思わず眉を潜める伊賀忍者の者達
「あれ?風魔と伊賀忍者というのは過去に何か因縁でもあるのかい?」
その質問には首を振る伊賀忍者達。
「いえ、我ら伊賀忍と風魔にはその様な因縁はありませぬ
ただ我ら伊賀忍と風魔を同列の忍びとして語って欲しくはない
というのが偽らざる本音でございます」
「それはどういうことなんだい?」
「風魔というのは北条家に仕える乱波集団の総称です
まあ仕えるといっても奴らはどちらかというと北条と
契約している、といった方が適切かもしれません」
「ふ〜ん、じゃあ北条に対して忠誠心とは薄いのかな?」
ゼファーの質問に静かに頷く伊賀忍達。
「恐らくは、その方が都合がいいのでそうしているだけでありましょう
奴等は二百人からなる集団だと聞いております
その中で四つの組に分かれていて、“四頭”と呼ばれる四人の
組頭に率いられております、四頭とは別名“四盗”と言われており
それぞれ山賊、海賊、窃盗、強盗の役目を担っているのです」
「何だよそれ?完全な犯罪者集団じゃん、北条はそんなのと
組んでいるの?」
「はい、奴等は敵地に忍び込み重要人物を誘拐するといった要人誘拐
及び敵陣に潜り込んで馬を繋いでいる綱を切り放馬させつつ
馬を盗んだり、各地で放火しながら敵陣で“敵襲だ‼︎“と叫んで
混乱させるといった後方撹乱を得意としております」
「うわ〜やりたい放題って感じだな、そんな連中とはあまり友達には
なりたくないね~」
「さようでござる、我らと風魔を一緒にして欲しくない、と言った
意味を理解してもらえたと思います、そしてその風魔を
取り仕切っているのが頭目”風魔小太郎”なのです、我らが頭首
”服部半蔵”と同じく、歴代の風魔の頭目にはこの”風魔小太郎”という
名前が受け継がれているらしいです、あくまでうわさ話の域を出ませんが
今の風魔小太郎は忍術などとは違った不思議で怪しげな技を使う
と聞き及んでおります、そういった情報操作も得意としている奴等ですから
あくまで話半分、頭の隅に入れておく程度で良いとは思いますが・・・」
その話を目を細めて聞くゼファーが独り言の様に呟いた。
「不思議で怪しげな技・・・ねぇ」
その頃、北条の居城 小田原城では家臣たちが主君 北条氏政に対して
色々な報告や進言をしている最中であった。
「殿、織田の軍が、既に国境まで来ております、いかがいたしましょうか?」
「いやいや、織田とは同盟を結んでおる、心配する事ではなかろうて」
「この戦国の世に同盟などあって無いがごときモノ、ましてや織田は
”天下布武”を掲げ、この日の本をわが手に治めようとしておる
野心高き男ぞ!?いくら警戒しても足らぬ程じゃ‼」
家臣同士でも喧々諤々と言い合っていた、そんな様子をジッと黙って
見つめている北条氏政、そこに〈北条家三家老〉の一人である
大道寺政繁が氏政に話かけた。
「殿、織田の軍勢の件、どうなさるおつもりですか?」
その問いかけに氏政は淡々と答えた。
「かまわぬともよい、捨ておけ」
「しかしですな殿、織田は危険な存在でござるぞ、いきなり
一方的に同盟を破って我らが領土に侵攻してきたとしても
何の不思議もありませぬ、ここは何らかの手を打った方が
良いのではないでしょうか?」
すると氏政はニヤリと笑いこう答えた。
「もうすでに手は打ってあるわ」
その言葉に皆驚き、思わず顔を見合わせる家臣達。
「何と!?もうすでに手を打ってあると?」
「さすがですな殿、では一体どのような手を?」
家臣達が息を飲んでその答えを待っていると、氏政は静かに
語り始めたのである。
「織田の軍の事は風魔に任せてある、今夜にでもあ奴らが何らかの
行動を起こし、織田軍に手痛い一撃を食らわせるはずじゃ」
それを聞き、今度は北条家三家老の一人 遠山綱景が口を挟んだ。
「殿、前々から言いたかったのでござるが、あの風魔なる集団は
野盗のごとき無秩序な輩ばかりにございます、窃盗や強盗といった
被害や苦情が各所から耐えませぬ、元々忠義や信念など皆無の連中です
これ以上奴らをのさばらせておけば我等北条家の威信にも関わりますれば
このあたりで奴らを見限り、切り捨ててしまった方が良いかと・・・」
そんな部下の助言を一笑にふせる氏政。
「わかっておらんのう綱景、奴らとワシとは主従の関係ではない利によって
繋がっているに過ぎん、ワシも奴らを利用し奴等もワシを利用してる
相互利益の関係だからな、よく考えてもみよ、もし風魔を切って
奴らが徳川や織田とくっついたらどうする?」
その指摘に驚きを隠せない綱景と政繁。
「いや、いくらなんでもそんな・・・そこまで節操のない」
「風魔の奴らを甘く見るでないぞ、それぐらいの事はやりかねん
この国の事を知り尽くしている風魔が敵に回ったら・・・
考えただけでも恐ろしいわい、しかも徳川には日の本一と言われる
忍び衆、”伊賀忍軍団”がおる、奴らがそれとくっついたら厄介程度では
済まないぞ!?織田にしてもそうじゃ、織田は今までの常識を覆すような
やり方、奇抜とも思える様な手口も成功の為であれば平気でおこなう
現実主義という観点からいえば、ある意味風魔共と通じるところがある
どちらにしてもこちらの手のうちに入れておくことが重要なのじゃ
あいつら程度を使いこなせなくて何が天下じゃ?そういう訳じゃから
多少の事は目をつぶれ、それにお前らは風魔の・・・いや小太郎の
本当の恐ろしさを知らん、知っておればその様な考えにはならない
はずじゃからな、クックック・・・」
そんな氏政を茫然と見つめる家臣達であった。
夜になり兵達は夜営の準備を始める、ゼファーは今後の事を話し合う為の
作戦会議に参加していたのだが、ステイメンやフリニオーラと同様
あまり歓迎されている雰囲気ではなかった、関東軍司令官の
滝川一益は〈織田五大老〉と呼ばれる一員に含まれており
織田陣営の中でも最高ランクに位置する一人なのだが、正直
明智光秀、羽柴秀吉に比べると武功で劣っており
いつも忸怩たる思いをしていたのである
柴田勝家や丹羽長秀は先代から使える重鎮であり信長の信頼も厚い
つまり〈織田五大老〉の中では一番格下という位置づけに
なってしまっていた、だからこそ何とか武功を上げ皆に追いつき
追い越したいと焦っていた、だから作戦会議もピリピリとした
ムードが漂い、鬼気迫る態度で皆に話しかける滝川一益。
「良いか皆の者、我らがお館様に仰せつかった任務はあくまで
北条の牽制じゃ、北条が南下して来ない様に睨みをきかせておく
その為に我らは遥々この様な所まで来た、しかし皆も知っての通り
北条は一筋縄ではいかない曲者じゃ、これだけ圧力をかければ
必ずや何かの反応があるはず、我らはそれに乗じて一気に
北条を攻めこれを討ち滅ぼす、その覚悟だけは怠るでないぞ‼︎」
有無を言わせぬ一益の言葉に反論できない家臣達、そんな中で
一人の男が待ったをかける。
「お待ちくだされ一益様、その作戦には反対でございます」
その言葉にその場にいた一同が驚き空気が凍る、そして
一益の眉がピクリと動き険しい表情を浮かべたのである
一益の意見を真っ向否定したこの人物は木全忠澄という者で
元々浅井政貞に仕えていたのだが少し前から一益に
仕え、家老として取り上げられた人物である、政貞は〈木全の槍〉
と言われた槍の名手でありながら、知謀に優れ、小山の戦いでは
その知謀でもって十数倍の敵を打ち倒すという武勲も上げている
正に智勇に優れた勇将といえ、それ故に一益も一目置き自分の
家老としてそばに付けていたのである。
「反対じゃと申すか政貞?」
「はい、その作戦には同意しかねます」
一益の表情がますます険しく変わり、周囲はそんな二人を
固唾を飲んで見守っている。
「何故じゃ?理由を申せ」
「では恐れながら、まずお館様からの命令はあくまで“北条の牽制”
という事です、これを攻め打ち倒せとは仰せつかってはおりませぬ
そして二つ目は北条の居城〈小田原城〉は難攻不落、あの
武田信玄ですら〈小田原城〉攻略を早々に諦め撤退したほどの
固城にございます、我らが軍勢だけでとても攻略できるとは
思えません、そして三つ目が北条は名うての戦上手であり
ましてやここは敵地だという事です、地の利もなく敵情は堅固
その様な不利な条件で戦い勝てれば良いですが、もし負けた場合
お館様からの信頼は失墜し、明智殿や、羽柴殿との差はますます開き
決定的なものとなりますぞ、それでもよろしいのですか?」
一益に対し真っ向から正論をぶつける政貞、それが正論であるが故に
一益の感情は余計に高ぶる、無言のまま唇を震わせ政貞を睨む様に
見つめていた、政貞も目線を逸らさずジッと一益を見つめている
そんなピリついた空気の中、場違いとも思える口調で手を上げた男がいた
「あの〜お取り込み中すみませんが、ちょっといいかな?」
その声の方向に皆の視線が移る、その発言をしたのはゼファーであった
ピリピリとした空気の中、一人だけ関係ないとばかりに頭をかきながら
手を上げていたのだ。
「まあぶっちゃけ言っていることは政貞さんが正しいし
みんなもそう思っているだろうけど、とりあえず俺の話を
聞いてくれないかな?」
ゼファーの発言に皆が一瞬で凍りつく、一益も物凄い形相で
ゼファーを睨みつけた、しかしゼファーは信長より直々に命じられた
今回の助っ人であり、自分の部下ではない、どれだけ疎ましく思い
今までゼファーに対し冷たい態度を取ってきたとしても
無碍な態度で完全無視する訳にはいかなかないのである。
一益は何とか必死で感情を押し殺しゼファーに問いかけた。
「ほうゼファー殿は何か策があると申すのか?」
するとゼファーはフッと笑い諭す様に語り始めた。
「北条は一癖も二癖もある相手で、織田とは同盟関係にある
そんな相手が真正面から攻めてくるとは思えない、となれば
どうするか?正面から来ないとなれば搦め手で来るのが
定石というモノだよね?つまり特殊部隊によるゲリラ戦
この一手に尽きると思うんだけどどうかな?」
「げりら戦というのが何を意味するものか、ワシにはわからぬが
特殊部隊とは・・・風魔の事か?」
一益の問いかけにコクリと頷くゼファー。
「笑止、ワシとて忍びに関しては素人ではない、風魔への対策は
怠ってはおらん、必ず未然に防いでくれるわ」
元々滝川一益の一族は甲賀の忍者の流れをくみ、非常に縁が深い
一益自身も忍者だったという説もある。
しかしゼファーの意見はそんな一益を始め皆が仰天する内容だった。
「いえ、風魔の工作を防ぐのではなく、あえてやらせてしまおう
というのが私の策なのだけど・・・」
ゼファーの意見に絶句する一益と家臣達、その反応を見て
嬉しそうにニヤリと微笑むゼファーだった。
その深夜、滝川軍に忍び寄る複数の影があった、見張りの者数名を除いて
皆が寝静まったと思える頃、音も立てずに移動する怪しげな影
所々に設置されている篝火がパチパチと音を立てていて
影がスッと横切った時、篝火の炎がユラりと揺れた。
「クックック、皆呑気に寝静まっておるわ」
「放火するための火も向こう側で用意してくれるんだからな、楽なものよ」
「さて、いつも通り仕事に移るか・・・」
複数の影は示し合わせたかの様に散開しそれぞれの役割を果たすため
散り散りとなり素早く行動を始めた、影の一人は陣立ての奥に居る
ある人物を目標に進んでいく、その標的となる男は眠っていたが
ただならぬ気配を感じ両眼を大きく開けた、その瞬間左手で
男の口を塞ぐ影。
「滝川益氏殿とお見受けした、声を上げずついて来い、抵抗すれば
この場で殺す、いいな?」
首元に刀を突きつけられ口元を塞がれた滝川益氏は静かに頷く
影が滝川益氏を人質として連行しようとした、その時である
影の全身を細い糸が包み込み、一瞬んで拘束してしまったのだ
ミノムシのように拘束され地面に転がる影、驚きのあまり
両眼を大きく見開き滝川益氏を見上げる影、すると益氏は
ニヤリと笑い地面に転がっている影を見下ろした。
「おのれ〜貴様、滝川益氏ではないな?何者だ!?」
「捕縛された上に名を問うとは・・・やはり風魔とは相容れぬ」
その言葉を聞き、何かに気がついた風魔の男。
「貴様、伊賀者か!?」
「ようやく気がついたか、これは伊賀忍法 蜘蛛糸縛鎖よ
抵抗しても無駄だ、その糸は切れぬ、観念するのだな」
必死でもがきながら恨めしげに見上げる風魔の男だったが
どうすることもできずにただ睨みつけることしかできなかった。
一方では滝川兵の足軽の格好に扮した風魔の者が辺りを見回しながら
頃合いを図っていた。
「そろそろか・・・ではいくとするか」
その男は大きく息を吸い込み、大声で叫んだ。
「敵襲ーー‼︎みんな起きろ、敵襲だーーー‼︎」
静寂を切り裂くような叫びが辺りに響き渡る、それを聞いた滝川兵が
慌てて飛びきた、手元の武器を素早く手にして警戒するように
周りをキョロキョロと見回し始める。
『そうだ慌てろ、困惑しろ、そして暴走してしまえ、恐怖に駆られた
人間は周りが見えずに衝動的に行動するものだ、この暗闇
も手伝って同士討ちを始めてくれれば最高だ、さてトドメの
一撃をお見舞いしてやるか・・・」
滝川兵に扮した風魔の男は、思わずほくそ笑み、先程よりも
更に大きな声で叫んだのだ。
「敵襲ーーー‼︎敵襲だーーー‼︎戦えーーー‼︎」
しかしその声を聞いた滝川兵は予想外の行動をとったのだ
何と混乱するのではなく、迷うことなく一直線に自分に向かってきたのだ
今まで数々の撹乱作戦を遂行してきた風魔の者でも始めて
味わう経験であった。
「おい、何で俺に向かってくるんだ!?俺は味方だぞ、ちょっと待っ・・・」
あくまで滝川兵を装った風魔の男はそのせいで対応が遅れ
あっという間に数人の滝川兵に取り押さえられた、地面に組み伏せられ
縄で縛られた風魔の男は、吐き捨てるように問いかけた。
「何でだ、どうして俺が敵だと分かった!?」
それに答えるように一人の伊賀忍が近づき地面に組み伏せられている
風魔の男に向かって、覗き込むように話しかけた。
「簡単なことよ、兵達には眠る前に“敵襲だ”と叫んだ男こそ
敵であるから、すみやかに捕らえろと言い聞かせてある
本当に敵が来た場合は陣太鼓にて知らせるという手筈になっておるからな
ご苦労だったな」
悔しそうに歯軋りする風魔の男を嘲笑うかのように見下ろす伊賀忍
夜の闇は再び静けさを取り戻した。
「何かおかしいぞ、様子が変だ・・・」
別の風魔の者達がいつもと違う雰囲気を感じ取り警戒心を強める
「そんなことを言っていても仕方がない、我々は与えられた仕事を
するまでの事、いつもと変わらん」
この男達は、滝川陣営の各所で放火をする役目を帯びていた
早速篝火から火を取り次々と放火を始めると、その直後に
滝川兵が集まってきた。
「中々反応が早いな、しかしもう遅い、各所に火は放った
もうどうすることもできまい、燃え広がるのを
指でも加えて見ているのだなクックック・・・」
放火の混乱に乗じて逃げる準備を始める風魔の男達、すると滝川兵は
近くの地面に被せてあった黒い布を剥ぎ取った、するとその下には
水の入った大量の桶があったのだ。
「なっ、なんだと!?」
驚きを隠せない風魔の者達を尻目に、次々と黒い布を剥ぎ取っていく滝川兵
よく見るとそこら中の地面に黒い布が置かれており、どこも
その下には水の入った桶が大量に置かれていたのだ。
「図られたか!?」
風魔の男達は自分達が罠にハマったことに初めて気がついたが
もう後の祭りであった、周囲は完全に包囲され一斉に飛びかかってくる
滝川兵の前になす術もなく取り押さえられる風魔の男達
放たれた火もすぐに鎮火され、事なきを得た滝川軍、各所で
次々と捕縛されていく風魔の者達、放火作戦は完全に失敗に終わった。
一方で捕縛を逃れた数人の風魔の男達が走りながら
恨めしそうに後ろを振り返った
「クソっ、なんて事だ、これではお頭にどう報告して良いやら」
「済んだことを言っても仕方がない、我々だけでも逃げ帰り
この報告をしなくてはならん、馬を奪ってさっさと逃げるぞ‼︎」
数人の風魔達は馬が繋いである場所へと移動し綱を切ろうとしたが
いっこうに馬を繋いでいる綱が切れないのだ。
「何をやっておる、さっさと綱を切らぬか!?」
「切れないのだ、どうしてだかわからぬが、縄が全然切れぬ
一体何が!?」
焦りながら必死で縄を切ろうとする風魔の男達、しかしいくら頑張っても
切れない縄、もう諦めかけていたその時、後ろから声が聞こえてきた。
「その綱は普通の刀じゃ切れないよ、縄の中にミスリル製の糸を
織り込んであるからね」
驚いて後ろを振り返る風魔の男達、しかしその瞬間、全身に衝撃が走る
「あがっ!?」
糸の切れた操り人形のように力無くその場に倒れる風魔の男達
目の前には右手に数枚のカードを持ったゼファーが立っていた。
「アンタらに喰らわせたのはサンダーの効果を弱めたモノだから
しばらくすれば動くるようになるよ、あくまでしばらくすれば・・・
だけどね!?」
電撃の衝撃で指一本動かせない風魔の男達、パクパクと金魚の様に
口を動かしているが言葉にはならなかった、こうして風魔による
撹乱作戦は完全に失敗に終わった。
捕縛された風魔達は一ヶ所に集められた。
「何故だ、なぜ我らの作戦が!?」
一人の風魔が恨めしげに問いかけてきた、それに応えるようにゼファーが口を開いた。
「何故って・・・手口がわかっているなら防ぐことなんか簡単でしょ
タネがバレている手品を見破るみたいなモノだしね
観客側としてはやや興醒めの出し物って感じかな?」
それがさも当然と言った具合にさらりと言って除けるゼファー
悔しさで震える風魔達を尻目に、伊賀忍の一人が問いかける。
「で、コイツらをどうしましょうか?こんな奴らでも
忍びの端くれ、例え拷問をかけたとしても口を割るとは
思えませんが・・・」
ゼファーが滝川一益の重鎮、木全忠澄に話しかける。
「この連中を交渉材料として使い、北条と有利な話し合い
とかはできないかな?」
そんなゼファ=ーの質問に残念そうに首を振る木全忠澄。
「無理でしょうな、北条側はおそらく“その連中が勝手にやった事”
と突っぱねるに違いありません、もともと風磨は北条と繋がっていても
街で窃盗や強盗もやるような連中ですから、”勝手にやった“
と言っても辻褄は合いますからのう・・・」
それを聞いて大きくため息をつくゼファー。
「じゃあ見せしめの為に処刑するぐらいしか、この連中の使い道は
無いって事?俺の好みじゃないねえ、嫌だ嫌だ・・・」
両手を上げ、大袈裟に首を振る仕草を見せた。
その時である、上空から皆が聞こえるほど通った声が聞こえてきたのだ。
「嫌なら止めれば良かろう、私としてもその連中を殺されるのは
困るしな」
その声に皆が空を見上げると、そこには一人の男が宙に浮かんでいた。
「馬鹿な、人が宙に浮くなど!?」
「有り得ぬ、まやかしか?それとも幻術か!?」
戸惑う滝川兵には見向きもせず、その男は涼しげな表情で
滝川兵達を見下ろしていた。
黒と赤の衣装を身につけ、白い陣羽織を羽織った特異な人物
何より銀色の髪が月に照らされ、見ている者には何とも怪しく
幻想的に映っていた、それを目にした風魔の者達は
上空を見上げながら嬉しそうに叫んだ。
「お頭‼︎」
「お頭様、すみません‼︎」
「助けてください、お頭‼︎」
風魔達の反応から、その人物が風魔の頭領、風魔小太郎
その人である事が判明した、その瞬間ニヤリと笑うゼファー。
「真打登場という訳かい?中々の演出だねえ〜」
上空から皆を見下ろす風魔小太郎、それをジッと見つめるゼファー
二人の戦いはもうすでに始まっていた。
さて、今回から相模国編に入りましたが、この話はおそらく次話で終了し丹波編になると思います
史実では北条氏政が織田側と戦うのは〈本能寺の変〉が起こったからであり、この時点で事を構えることは
無かったのですが、そこはストーリー上の展開でやや歪めております、そして北条氏政の人物像も
完全な私のイメージです、そのあたりも含めて生暖かい目で見守ってください、では。




