外伝 決意そして旅立ち
クルム・ハイドニール…世界最強と言われている魔法使い”クルム魔法学校”の総帥
ビル・フリニオーラ…後のクルム・フリニオーラ、義母に虐待を受けていた所をハイドニールに拾われる
バレルダイン…事務能力に長けていてよく気が付く男子生徒、ハイドニールの頃から補佐役を務めている
レイム…クルム魔法学校に入学してきた女子生徒、明るくて積極的な性格、フリニオーラに憧れている
ベルゲンバッハ…他校から編入してきた優秀な生徒、負けん気が強く現在の主席
フリニオーラは部屋に戻りバレルダインに
散々説教された後休息を取っていた
3時間後には再びグランドに戻らなければならない為
体力回復を図っていたのだが約束の時間になっても回復しきれず
フラつきながら部屋のドアから出てきた
そんな様子を見たバレルダインがため息をついて話しかけた
「まだまだ回復しきれていませんね・・・
そんな調子じゃグランドまで行くことすら
ままならないでしょう」
そう言うといきなり背中を向けしゃがんだのだ
「私がグランドまでおぶっていきます
背中に乗ってください」
さすがに全校生徒の前におぶられていく自分の姿を想像し
恥ずかしくて躊躇していたのだが
”早く乗ってください‼”というバレルダインの強い口調に
抵抗できずそそくさと背中にもたれかかった
そのままおんぶされる格好でグランドに到着すると
全校生徒はキッチリ整列しながらすでに待っていた
気恥ずかしさで顔を伏せたまま登場したフリニオーラは
グランドの中央に降ろされると
まだ足元もおぼつかない程フラついていた
しかしその直後大きな声で皆に語り始めた
「私はこの”クルム魔法学校”の責任者に就任しました
しかし先ほども言った様に魔王討伐の為の
研究に入りたいと思っております
したがって中々学校の管理運営にまで
手が回らないことが考えられる為
事務的な事はここにいるバレルダインさんに
一任しましたがその他の事を任せる人間を
今から人選したいと思います
方法はいたって簡単です
今から全員で私にかかって来てください
そして一度でも私に攻撃を当てる者ができた者
もしくは最後まで立っていられた者を
私の代理人として任命したいと思います
その人は校内席次の順位には関係なく
私と同等の権利を与えますから
よろしくお願いします」
フリニオーラのその発言にザワつく生徒達
彼女と同じ権利を与えられるという事は
ここでは神にも等しい存在になるという事である
いくらフリニオーラが凄まじい力を持っているとはいえ
ここには100人を超える生徒がいる
しかも彼女は先程魔力切れをおこし倒れたのだ
それからわずか3時間しかたっていないのである
多人数で一斉に仕掛ければさすがに一度攻撃を当てるぐらいの事は
可能だろうと皆考えたのだ
つまりほとんどの者が”早い者勝ち”ととらえていた
開始の合図を待ちわびる生徒達
そんな空気の中バレルダインがスッと手をあげ叫んだ
「それではいきます、用意スタート‼」
その声を皮切りに一斉に動き出す生徒達
その場で魔法を唱える者
一気に近づき近距離から仕掛けようと考える者
まずは様子を見る者と様々だったが
その瞬間フリニオーラが手に持っていた杖を
地面にコンッと落としボソリとつぶやく
「エクステンド ショックウェーヴ‼」
その声と同時にフリニオーラを中心に衝撃波の波が波紋状に広がった
攻撃を仕掛けようとしていた者達はこの衝撃波により後ろへ吹き飛んだ
しかし吹き飛ばされながらも再び立ち上がって来る者
何とか耐えた者、魔法によって相殺した者と
様々だったが最初の一撃で100人以上が脱落した
「じゃあどんどん行きますよ
エクステンド ショックウェーヴ‼」
フリニオーラの繰り出す衝撃波の第二波
第三波が次々と生徒達を襲う
倒れながらも立ち上がって来た者や
肉体的に耐えていた者はこの時点で脱落していった
残った10名程の生徒は魔法で相殺している者達だけとなった
この魔法学校では先代のハイドニールの代になって
色々な方針を変えた事があったが
その内の大きな一つに”防御魔法は一切教えない”
というモノがある
それは”相手の攻撃に対しては攻撃魔法で迎撃し相殺せよ”
というモノで、いわゆる”カウンターマジック”である
”安易な防御魔法を使うのではなく
攻撃魔法による相殺をおこなう事によって
即座に次の攻撃に移れるし攻撃魔法の腕もより上がる”
という理屈から来ているのだがこれには
高度なテクニックを必要とされる
相手の攻撃のタイミングに合わせて攻
撃魔法を仕掛けなければならないという点と
相手の攻撃の威力を瞬時に見極めそ
れに合わせた攻撃魔法を仕掛けないと
相殺できずにダメージを受けてしまうからである
それを確かめるるようにフリニオーラは
魔法による衝撃波の威力を毎回調整しながら変更していたのだ
残っている者の中で、もはやフリニオーラに
攻撃を加えようなどと思っている生徒は一人もいなかった
次々とくりだされる衝撃波の波に一人また一人と脱落していく
気が付くと残っている生徒は二人だけとなっていた
席次トップのベルゲンバッハとフリニオーラに憧れているレイムである
現主席の意地と生来の負けず嫌いで踏ん張っているベルゲンバッハと
フリニオーラに少しでも近づきたいがため頑張っているレイム
二人とも精神力で耐えていた
ベルゲンバッハはそんなレイムの姿をチラリと横目で確認し話しかけた
「よう頑張るじゃねーかガキ!?
無理しないでさっさと倒れちまいな
良い子はもう寝る時間だぜ!?」
「私は”カウンターマジック”だけは得意なんですよ
貴方こそ顔色悪いですよ
もうお休みになった方が良いのでは!?」
二人だけになってからすでに10回以上の衝撃波を耐えていた
残っている生徒を確認した時その一人がレイムなのに驚くフリニオーラ
「へぇあの子頑張りますね
じゃあこれで試してみましょう
”エクスプロード ビックウェーヴ‼”」
今までよりもさらに大きな衝撃波が二人を襲う
その際に巻き起こった砂煙で辺りの視界が一瞬ゼロになってしまった
砂煙が収まり一人の姿が見えてきた、レイムである
最後まで争っていたベルゲンバッハは後ろに吹き飛んでいて
地面に大の字になりながら気を失っていた
「勝負あり、魔法学校責任者代理は
レイム・ストリアニスに決定しました‼」
バレルダインの終了の宣言と共に
フリニオーラもヘナヘナと座り込んだ
慌てて駆け寄るバレルダインとレイム
「大丈夫ですかフリニオーラ様!?
バレルダインさん、早くフリニオーラ様を
部屋に運んでください‼」
「わかりました、しっかりしてください
フリニオーラ様、全くあなたという人は
言ったそばからまた無茶をして・・・」
力なく笑いながら再びおぶられて戻って行くフリニオーラ
部屋に帰るとバレルダインがまた厳しい目で
フリニオーラを見下ろしていた
そんな厳しい目線にフリニオーラはまた説教を喰らうのかと
上目づかいでバレルダインの顔を覗き込み小さくなっていた
するとその様子を見てレイムが口を挟んだ
「フリニオーラ様に対して意見する事は
この私が許しません‼
いいですねバレルダインさん!?」
先程の試験により責任者代理の権限を手に入れたレイムと
バレルダインの立場は入れ替わり逆転してしまったのだ
アタフタしながら話始めるバレルダイン
「しかし、フリニオーラ様はいつも無茶をして・・・」
「私はいいですね!?と言ったんですが
聞こえませんでしたか!?」
モノを言わせぬレイムのその口調に頭を下げるバレルダイン
「はい了解しました
申し訳ありません・・・」
自分より年下のレイムのその毅然とした態度を見て
逆にフリニオーラは感心してしまった
そんなレイムの心遣いもあり
その日から研究に没頭するフリニオーラ
しかし研究を重ねれば重ねる程あの魔法
”ダークフレアストーム”を使いこなす事が
いかに困難かを思い知ることになった
『あの”ダークフレアストーム”という呪文は
術が発動している間は際限なく魔力を供給しないと
魔法を持続する事ができないという
非常に特殊な術式だ・・・だからあっという間に
術者の魔力が枯渇してしまう・・・
解決方法は魔力の供給をいかに抑えつつ
術式を維持するか、その一点にかかっている
でも・・・』
フリニオーラがいくら考えてもその答えは出なかった
これ以上魔力を抑えると魔法自体が発動しない
そして魔法の途中で魔力供給を抑えると術式を維持できないのだ
以前師匠ハイドニールが口癖のように言っていた言葉があった、それは
「いいかいフリニオーラ、魔法ってのは
少しの素質があってその原理を理解すれば
誰にでも使う事ができる、でも
いかに少ない魔力消費で大きな効果を得られるか!?
いうなれば魔術の追及ってのはそこに尽きるんだよ
徹底した効率の追求、究極の合理こそ
魔術の神髄だと私は考えているんだ・・・」
フリニオーラにとって師匠ハイドニールの言葉は絶対である
しかしあのハイドニールさえ
魔王アドギラルロックを倒すまでは魔力が持たなかった
彼女に比べ魔力的なスタミナに劣るフリニオーラならばなおさらである
それから一週間ありとあらゆる角度から検討し
研究してみたものの結論は同じであった
フリニオーラは思わず天井を見上げため息をついた
「やはり最初に試してみた時の魔力供給が
ベストの様ですね・・・
あの魔法はアレで完成形のようです
魔法自体に変更の余地が無いのであれば
問題は私自身という事になりますね
全く別の角度からアプローチしない限り
今の私には手に余る魔法の様です・・・」
フリニオーラは師匠の残した遺産ともいうべき魔法
”ダークフレアストーム”の実戦投入を一旦保留した
それは悔しくもあり苦渋の決断ではあるものの
フリニオーラにとって一番の目的はあくまで
”魔王アドギラルロックを倒すこと”なのだ
それにフリニオーラには師匠が命がけで残してくれた
データがある、どの呪文が有効でどういった
攻め方をすれば最も効率的なのか
シュミレーションするには十分だった
そして魔王攻略においてハイドニールと
フリニオーラの考え方には大きな違いがあった
ハイドニールはあくまで一対一の”タイマン勝負”で勝つ事にこだわった
しかしフリニオーラの考えは違う
”どんなやり方でも勝てればよい”と考えている事だ
『師匠と共にアドギラルロックに挑んだ
メンバー達は残念ながらレベル的に
魔王と戦えるほどではなかったようです
しかし他メンバーが魔王と戦えるだけの
強さを持っていたら!?
個で勝てないのであれば
数で勝負すればよいのです
そもそもあの師匠が勝てなかった魔王相手に
私一人でどうにかしようと考えるのも
おこがましい話なんですから・・・』
そんな事を考えながら魔王と戦った時の事を想定し
頭の中でシュミレーションを繰り返していた
師匠であるハイドニールの事を崇拝しているフリニオーラにとって
師匠はあこがれの存在であり自分は師匠より
ずっと劣っていると考えていた
しかし師匠であるハイドニールの考えは違っていた
彼女が弟子であるフリニオーラとあれ程
喧嘩したがっていたのには理由がある
同じ魔法使いと言っても二人には決定的に違う点があった
そもそものタイプが全く違うのだ
フリニオーラは瞬発力と爆発力に優れている魔法使いである
具体的にはハイドニールとフリニオーラが
全く同じ魔法を同時に使用した場合
わずかではあるがフリニオーラの魔法の方が早く発動するのだ
そして同じ魔法でもフリニオーラの方が威力がやや大きいのである
それは自分の感情を魔法に反映させる事ができる
フリニオーラの特徴であり長所でもある
しかしそれには欠点もあり感情によって魔法の発動を
加速したり増幅したりできる反面、魔力の消耗は激しくなるのだ
それに比べハイドニールは常に一定の威力と魔力消費で戦える為
フリニオーラに比べ魔力的なスタミナに勝り魔法に対する耐久力も高い
例えるならフリニオーラは100m走を走る短距離選手
ハイドニールはフルマラソンを走る長距離選手の様なものなのである
自分が師匠よりも優れている点があるなど
考えもしないフリニオーラは結果的には良い方向で考えることになる
「とにかく一緒に魔王と戦えるレベルの仲間が必要です
それを想定してシュミレーションしてみましょう」
そう言いながらフリニオーラは魔法の研究に没頭した
しかしその間も様々な葛藤があった魔王討伐の為に
『ベルドルア聖王国”が選抜したメンバーでも
レベル的に全く役に立たなかったのだ
魔王と戦えるだけの人間なんて本当にいるのだろうか?』
という思いがいつも頭をよぎった
そして”いっそ自分一人で魔王に挑んでしまおうか!?”と
衝動的に考えてしまう事もしばしばあった
そのたびにハイドニールの最後の言葉が頭に浮かんできた
”魔王、いずれアンタの前に”クルム”の名を継いだ者が必ず現れる
その時がアンタの最後だよ‼”
繰り返すがフリニオーラにとってハイドニールの言葉は絶対である
師匠の最後の言葉は魔王と対峙する時は必ず勝てる
という勝算無くして挑んではならない
という歯止めになっていたのだ
でなければハイドニールが敗れた直後に感情に任せて
魔王に挑みとっくに玉砕していたはずである
そんな思いを抱きながら数か月が過ぎた
フリニオーラがいつもの様に魔法の研究の為自室にこもっていた時
部屋の扉をノックする音が聞こえた
「フリニオーラ様、貴方に面会したい
という方がみえていますが
いかがいたしましょうか?」
というバレルダインの問い掛けに
「どのような方がみえているのですか?
”ベルドルア聖王国”の人ですか?」
「いえ男性二人組の方々です
若い男性と三十代半ばくらいの
男性二人なんですが・・・」
”ベルドルア聖王国”の人間でないと聞き少し落胆したが
しばし考えてから
「わかりましたお会いましょう
校舎の応接室の方へ案内してください
私もすぐにまいりますからとお伝えください」
「了解しました」
そう言ってバレルダインの立ち去る足音が聞こえた
『私に会いたいなんて一体誰なんだろう?』
そんな事を考えながら急いで着替えるフリニオーラ
魔法の研究に没頭するあまり
ずっとパジャマ姿のままだったからだ
すぐに着替えた後応接室に入ると
二人の見慣れない男性が二人座っていた
一人は三十代半ばで聡明そうな出で立ちであり
一人は二十代前半で非常にすがすがしい瞳をした青年という印象だった
「お待たせして申し訳ありませんでした
私がビル・フリニオーラ・・・
いえクルム・フリニオーラです
今日はどういったご用件でいらしたのでしょうか?」
フリニオーラの問い掛けに若い青年が無言で
立ち上がりスッと右手を差し出した
「初めまして、私はアドリアン・ルキアと申します
こちらはロット・ステイメンです
今日あなたを訪れたのは他でもありません
魔王アドギラルロックを倒し人々に平和をもたらす為
貴方の力を貸してください」
その青年の真っ直ぐな目を見て体中を電気が走る様な
衝撃を受けたフリニオーラ、そして同時に確信した
『ああこの人達だ、私が待ちに待った人たちが
ようやく来てくれた・・・』
フリニオーラの目にはすでに
大粒の涙が浮かんでいた
返事など考える必要はなかった
ルキアの差し出した右手を両手でガッチリ掴むと
「こちらこそよろしくお願いします・・・」
フリニオーラは感激のあまりルキアの右手を掴んでいる
自分の両手がかすかに震えている事にすら
気づいていなかった
そんなフリニオーラの返事に嬉しそうにうなづき
微笑んだルキアだった。
今回でフリニオーラの外伝は終了です、長くても3部くらいで終わるだろうと思っていたのですが
4部になってしまいました、他メンバーの人物紹介的な外伝もルキア以外はもう考えていますので
今後もちょくちょく挟んでいきたいなと思っています、また懲りずにおつきあいください、では。