↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/115

乱世の梟雄

登場人物

アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持って

ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている

ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた

クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い

織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児

羽柴藤吉郎秀吉…ルキア達の戦場での活躍を見て織田軍にスカウトした人物、後の豊臣秀吉


村上水軍を中心とする毛利水軍を撃破した信長は補給が


ままならなくなった石山本願寺を追い詰め、遂に本願寺側は信長の


”大阪追放“という全面降伏とも取れる条件を飲むことを決意し


朝廷の力も借りて和議を結んだ、ここに長きにわたる一向一揆との


苦しい戦いがようやく終止符が打たれたかに見えた、しかし信長にとって


思いもよらないことが起きたのである


「何じゃと、顕如の息子教如が一向門徒の残党と共に石山本願寺に


 籠城しておるじゃと!?」


「はい、先日、本願寺宗主、顕如は我等との和議を受け入れ


 大阪より退去する事を約束しました、しかしそれに納得いかない


 息子の教如と徹底抗戦をとなえる一部の一行門徒共が


 本願寺に立てこもり徹底抗戦の構えとの事です‼︎」


連絡兵の報告に表情が険しくなる信長、家臣達もざわつき始める


「何をやっておるのじゃ本願寺は、宗主の言うことも聞けないとは」


「此度の戦で何人もの一向門徒が死んだからのう、納得できない


 者が居るのも理解できるが、それを抑えるのが宗主の役目で


 あろうに」


「まさか我等との和議とは偽りで息子を使ってまだ我らに


 弓引くつもりなのではあるまいな!?」


「それはなかろう、朝廷を使ってまで和議を結んだのじゃ


 舌の根も乾かないうちに約定を破ったとあれば、メンツを


 潰された朝廷は二度と本願寺の声に耳を傾けることは


 なくなるからな」


「それに今回の首謀格、息子の教如は勝手に宗主を受け継いだと


 偽ったせいで父である顕如から義絶(勘当)されたと聞いておる


 もし顕如が裏で糸を引いていた場合、そこまではせんじゃろう」


信長も家臣達の推測と同じ考えであった、ようやく終わった


一向門徒との戦いを再び引き起こす様な真似だけは


したくなかったのである、そこにもう一つ凶報が入ってきた


「申し上げます、松永弾正久秀、謀反‼︎本願寺を包囲していた


 軍を勝手に引き上げ、信貴山城に籠城したとの事にございます‼︎」


更にざわつく城内、先程より更に驚きの表情を見せる信長


「久秀が謀反・・・何故じゃ!?」


明かに動揺を隠しきれない信長に対し、その言葉にこそ逆に


驚く家臣達、なぜなら松永久秀という男は、元の主君である


三好を裏切り、仕えていた第十三代将軍足利義輝をも殺害


そして織田陣営に加わってからも一度謀反しているのだ


それは武田信玄が三方ヶ原に侵攻した時、当時の将軍足利義昭


の要望に応え、信長を裏切り挙兵していたのだ、久秀の謀反は


信玄の死によってアテが外れた形となり、織田の大軍に


包囲された久秀はアッサリと降伏した、しかしそんな久秀に対し


信長は特にお咎めもなく、そのまま家臣として使っていた


信長に対し“裏切り者は許さない”という印象を持っていた家臣達は


そのあまりに寛大な処置に驚きを隠せなかった、そして今回は


二度目の謀反である、家臣達は“またか” “やっぱりな”


という印象しかなかったのだが、ここでまたもや家臣達は驚く事となる


「光秀、松永久秀は何故裏切ったと考えられる?」


問われた光秀は一旦頭を下げ静かに答えた


「おそらくは此度、お館様が大和の領地を筒井順慶に


 任せたことが原因ではないかと・・・」


以前、大和の領地は松永久秀に任せていた、しかし一度目の謀反で


その地を取り上げられ別の者に任されていたのだが、その者が死に


信長はその後目を筒井順慶に任せたのである、筒井順慶と松永久秀は


それこそ宿敵とも呼べる間柄で長く大和の地をめぐり争ってきた


因縁がある、元々自分が治めていた大和の領地をライバルである


筒井順慶に任せたというのが我慢できなかったのだろう


というのが光秀の見解なのである、信長にしてみれば


謀反を起こしている松永久秀から領地を取り上げるのは当然であり


その様な者に大和の地を任せるわけにはいかないと考えるのは


自然の道理なのだが野心とプライドが高い松永久秀には我慢


できなかったのだ、光秀の言葉にしばらく黙っていた信長だったが


静かに口を開いた


「久秀は天下の名器“平蜘蛛の茶釜”を持っておる、それを


 献上するのであれば此度の件を許すと伝えい」


信長の言葉を聞き、皆に衝撃が走った一度ならず二度までも


裏切った松永久秀を許すと言っているのだ、驚きのあまり


言葉を失う家臣達、しかし信長の言葉は絶対である、黙って


それに従う家臣達


「まずは本願寺の事じゃが、佐久間信盛、これは貴様の管轄であろう


 どうなっておるか!?」


信長に苛立ち交じりの言葉を投げつけられた佐久間信盛は


焦りながら恐る恐る答える


「申し訳ありませぬ、直ちに本願寺に行き、教如を説得して参ります」


「当然じゃ、ようやくあの狂信者共との戦いが終わったのだ


 これ以上、長引く様なことは断じて許さぬ、よいな‼︎」


叱責とも取れるその言葉に只々平伏す佐久間信盛、そして信長から


更に厳しい言葉がかけられた


「教如との交渉にはルキア達を連れて行くがよい、また異形の者が


 裏で糸を引いておる可能性もあるからな、秀吉に頭を下げ


 ルキア達を借り受けるがよい」


これは佐久間信盛にとって大変屈辱的な事であった


信盛は先代からの重鎮であり最も長く仕えている織田家の


筆頭家老である、それが、今でこそ織田家の重鎮だが


百姓上がりの秀吉に頭を下げるというのはとてつもない屈辱なのだ


そもそも信長がそう指示すれば済む話なのにワザワザ信盛に


頭を下げさせるというのは明かに故意的であり、皆の前で


晒し者にしてやろうという信長の意思が感じられた、逆にいえば


それ程までに信長は怒っているのである、屈辱と不安の入り混じった


表情を浮かべる信盛、しかし何度も言うが信長の言葉は絶対である


唇を噛みしめ秀吉に向かって深々と頭を下げた


「羽柴殿、ルキア殿達をお貸しくだされ、この通りでござる」


急に頭を下げられた秀吉は恐縮してしまう


「いやいや、佐久間信盛殿、頭を上げてくだされ、勿論


 その様に手配いたしますのでどうか・・・」


周りの目を気にして困惑する秀吉、当然の様に家臣達の目が


秀吉に集まっているのだが、柴田勝家や滝川一益などは


怒りの視線を向けながら秀吉を睨む様に見ていたのだ


それには明らかな敵意も感じられた、思わぬトバッチリを


受けた形の秀吉、やり切れない思いを胸に心の中で叫んだ


『いやいや拙者のせいでは無いであろうが、全てはお館様の・・・』


そんな秀吉の思いを知る由もなく、続けて指示を出す信長


「久秀との交渉は光秀、貴様がやれ、元々久秀は貴様が


 連れてきた男、何としても説得し“平蜘蛛の茶釜”をワシの


 前に持ってこい、良いな‼︎」


「御意‼︎」


信長はそう言い放つとクルリと背を向け颯爽と立ち去った


その言葉と態度には明らかな苛立ちが感じられ“失敗は許されない”


という思いが家臣達に伝わる、特に佐久間信盛は悲壮な表情を浮かべ


“何としてもこの交渉を成功させねば”という思いを強くした


その翌日、佐久間信盛はルキア達を連れ本願寺へと向かう


その道中でルキア達は話をしていた


「ねえ今回はどんな用件で私達が同行するの?」


「何でも本願寺側が負けを認めて和睦が成立したのに、それに


 納得できない宗主の息子と一部の勢力が立て篭もって


 抵抗を続けているという話ですね」


「まあよく有りがちなパターンだな、上が勝手に戦争始めて


 勝手に終わりを宣言する、それに納得できない一部の


 将官と兵達が抵抗を続ける、ある意味戦争の被害者である


 者達の悲劇とでも云うべきかな」


「しかしそんなこと言ってたらいつまで経っても戦争


 終わらないじゃん、それこそ敵を皆殺しにしなければ


  気が済まないって事になるし、嫌だね〜〜」


「まあ人の感情というのは理屈じゃ無いですからね、自分の


 身近な人を殺された者は殺した者を決して許さない


 戦争という殺し合いの中ではお互いがそういう感情を持って


 戦う訳ですから、いわゆる憎しみの連鎖というやつですね」


皆の意見に耳を傾け黙って聞いていただけのルキアだったが


何かを思い付いたかの様にふと話し始めた


「どこの世界でもそうだが、人間は争いをやめない、これは


 人が人である以上仕方がないのかもしれない、だが信長公に


 してもそうだが、人間誰しも殺し合いがしたくてやっている


 者はいない、平和の為に戦う、一見矛盾している様だが


 これは真理だ、命と尊厳と権利と・・・人は自分の大切な


 ものの為に戦う、例えその為に他人の命を奪う事になっても


 俺たちはレスティアレ・ラドスからの介入に対し


 断固として戦うことを決めた、何者が何の為に信長公の


 妨害をしているのかは知らないが、その行為は明かに


 この乱世を混乱させ人々の平和を乱す行為だと


 俺は信じている、そして少しでも犠牲者が少なくなる様に


 力を貸せれば良いと思っている、だから基本的には


 レスティアレ・ラドスの介入がない戦いには手を出さないと


 決めているしみんなにもそれを求めている、しかし例外もある


 何度も言っているが自分たちの身が危ないと思ったら


 躊躇無く力を使ってくれ、こんな事を言うのは


 勇者として失格かもしれないが、俺にとって皆の命は何より大事だ


 例え何十人、何百人の命を奪う事になっても、身の危険を感じたら


 全力で戦ってくれ、繰り返し言っていることではあるが


 それだけは心に刻んでおいてくれよみんな」


口調は穏やかだがルキアが熱く語っていることが皆にはわかった


確かに何度も聞いた話だし、ルキアの思いはその都度皆に伝わっている


そんなルキアの思いを皆は嬉しく思っていた、何よりも


自分たちの事を大切に思ってくれている事が言葉だけで無く


日頃の態度で感じる事ができるからだ、お世辞にも協調性が


あるとはいえないクセの強いメンバー達だがそんなメンバー達を


まとめるリーダーがルキアで良かったと皆、心から感じていた


そんな話をしながらルキア達と佐久間信盛は本願寺に到着した


交渉がしたいという旨を伝言兵を使って本願寺側に伝える、すると


本願寺側の代表である教如からこの様な返答が来た


「交渉には応じるが人数は三人までとする、それ以上は認めない」


というモノであった、本願寺側の条件に頭を悩ませる信盛


自分と側近を連れていく為あと一人、ルキア達から選抜して


誰かついて来て欲しいとの事をルキアに伝えた


信盛にそう言われたルキアはメンバーの顔を見渡し考える


「誰が行くか・・・護衛ならライオス、謀略ならゼファー


 広範囲攻撃ならフリニオーラ、攻防一体の戦いとなるとゾフィ 


 邪悪な力が働いているのなら俺、だがここは・・・」 


その時、ルキアの考えを読み切ったかの様にステイメンが


ニコリと微笑んだ


「私ですね!?」


「ああ、頼むステイメン」


ステイメンは軽く頷き、信盛の所に行こうとした時、それに


納得がいかなかったのか、不満顔の者が二人いた


ゾフィとフリニオーラである、すかさずルキアの袖を引っ張り


顔を近づけて詰め寄った


「なんでステイメンなのよ、私じゃダメなの?」


「そうですよ、納得のいく説明を求めます‼︎」


ライオスとゼファーはヤレヤレといった表情を浮かべている


そんな女性陣二人に向かって優しく説明するルキア


「今回はあくまで交渉だ、敵を倒す事じゃない、となると


 一番重要なのは佐久間信盛殿を守る事、そして相手が


 何らかの術によって影響を受けていないか探る事にある


 守るという事に関してはステイメンの右に出る者はいないし


 魔術に関してもエキスパートだ、フリニオーラは人を守ることは


 苦手だろうし、寺の中でゾフィの魔獣を呼んだりしたら


 本願寺ごと壊れてしまうかもしれないからね」


優しく諭す様に説明するルキアにぐうの音も出ないゾフィと


フリニオーラ、渋々ながらも納得し引き下がった


「わかったわよ、今回は譲るわ、だけど次は私に出番を頂戴よ」


「何言っているんですか、ゾフィさんは前回海で戦ったじゃ


 ないですか!?ズルイですよ、次は私です‼︎」


「何言っているのよ、どうせアンタなんか、試したい魔法があるから


 その実験がてら戦いたいとか、そんな感じでしょ!?」


「うっ!?どうしてそれを・・・ゾフィさんは頭が悪いクセに


 どうしてそんなに勘がいいんですか!?」


「誰の頭が悪いのよ‼︎アンタ自分がちょっと頭がいいからって


 調子乗っているんじゃないわよ、貧乳のくせに」


「あ、すみません、つい本音が・・・って今胸は関係ないでしょ


 大体ゾフィさんは・・・」


何やら急にモメ始め、激しい口調で言い合う二人、だが


もはやいつもの事なのでルキアすらも二人を完全スルーの


態度で気にもしていなかった、後ろで騒がしい女性陣をよそに


ステイメンに近寄り、肩を軽く叩くルキア


「頼んだぞ、ステイメン」


「任せてください、佐久間信盛殿は必ずお守りしますし


 魔術の類が使われていたなら見破って見せます、それに


 国は違えども相手も同じ僧侶です、話せばわかってくれる


 可能性もあるでしょう」


ルキアを始めメンバー三人は暖かくステイメンを送り出した


寺の中に入ると既に寺院の中は怪しげな妖気のような気配が充満していた


『これは間違いなく何かありますね・・・』


本堂に案内されるとそこには十人ほどの僧侶と槍を持った


農民風の男達数人が待ち構えていた


「よく来たな信長の犬ども、我らは貴様らなどに屈服せん


 最後の一人となっても戦い抜き貴様らを皆殺しにしてくれるわ‼︎」


一人の僧侶がいきなりそう叫んだ、敵意剥き出しの態度と口調


交渉する気など鼻っからないと思わせる様な言動である


その僧侶を右手で制する男がいた、僧侶達の中心に座るその


男が周りの者に黙る様、目配せすると、静かに口を開いた


「この者が失礼いたしました、私がここの代表である


 本願寺宗主 教如と申します」


丁寧に頭を下げる教如、それにつられる様に頭をさげ


待ち切れないとばかりに早速話を切り出そうとした信盛だったが


その瞬間、右手の平を差し出し、”喋るな“という仕草を見せた


教如、出鼻を挫かれた信盛は口を開けたまま喋る事ができずに


アワアワしていた、そんな信盛を気にすることもなく語り始めた


教如、その内容は静かな口調とは全く違い、とても


激しいものであった


「先ほどはこの者達を制しましたが気持ちと伝えたい事は


 私と全く同じであります、一応交渉は受けましたが


 こちらに話す事などありません、来ていただいたのは


 正式な宣戦布告をする為なのです、わかりましたら


 早々にお引き取りを」


その言葉に顔面蒼白になる信盛


「ちょっとお待ちくだされ、父君である顕如殿ですら和睦を


 受け入れておるのですぞ、この本願寺の周辺は我が織田軍で


 完全包囲しており、補給すらままならないこの状態で


 どう戦うというのですか!?今一度お考え直しを‼︎」


まるで頼み事をするかの様に訴えかける信盛、戦力的には


圧倒的有利なはずの織田軍ではあったが、ここで交渉が決裂し


再び本願寺と戦うなんて事になったら信盛のメンツは丸潰れであり


信長よりどれ程叱責されるのかわからない、いや寧ろ叱責ですめば


マシな方であり、最悪降格や領地没収まであり得るのだ


泣きたい程の気持ちをグッと抑え、教如に対して再び


話しかけようとしたその時、信盛の肩に手を乗せ、静止する


ステイメン、驚いた様な表情を見せ、思わず振り向く信盛


「ステイメン殿、一体どうしたというのですか?」


「交渉は無駄です、教如殿は何者かによって術をかけられています」


「なっ!?それは誠ですか!?」


「ええ、今から私が術を解除します」


ステイメンはそう言って教如に対し右手をかざす


すると教如の表情から薄ら笑いが消え急に我に返ったかのように


周りをキョロキョロし始めたのだ


「私はなぜ・・・このような事を?」


教如の態度が急変したことに驚く信盛


説明を求めるかのようにステイメンの方に振り向いた


「教如殿は邪悪な術にかかっていました、呪いともいうべき


 恐ろしい魔術にね、今私がそれを解除しました」


まるで何事もなかったかのように静かにそう語るステイメン


逆に本願寺側はいきり立ってステイメンにかみついた


「貴様一体教如様に何をした!?」


「織田陣営には怪しげな術を使う異人がいると聞いたことがある


 貴様教如様に何らかの術をかけたな!?」


今にも襲い掛かってきそうな勢いでステイメンに詰め寄る


本願寺側の者たち、それを制したのは教如自身であった


「皆の者、落ち着け、この者が言ったことは誠である


 私はなぜか憎悪と憤怒に支配され良からぬ方向へと


 導かれていた、父顕如の意思通り、我ら本願寺は


 織田との和睦を受け入れる、お手数をおかけいたしましたな


 佐久間殿、ステイメン殿・・・」


そう言って丁寧に頭を下げる教如、本願寺との再戦という


最悪の展開から一転、和睦を受け入れるという言葉を聞き


安堵のあまりその場でへたり込む信盛、逆に怒りを抑えきれず


教如に詰め寄る一向門徒達


「気は確かですか教如様、もう一度お考え直しください‼」


「そうです、我らの同胞が何人織田によって殺されたと


 思っているのです、仏敵織田信長と和睦など有り得ません


 教如様、戦いましょう最後まで‼」


必死の訴えともいえる信者たちの言葉に教如は静かに首を振る


「これ以上は無意味です、ここで戦いを再開すれば


 また死人が出るのです、そして忘れてはいけません


 織田の方にも死人が出ていて我らを恨んでいる者がいる


 という事に、どこかで終わらせなければならないのです


 それに父顕如が和睦を受け入れた理由、これ以上は


 戦えないという事実を忘れてはいけません


 陸は織田軍によって完全包囲され、水路も絶たれました


 もう毛利から援助は来ないのです、武器も食料もなしで


 どうやって戦うというのですか?これ以上は無駄死にです


 もう止めましょう、せめて死んでいった者たちが


 阿弥陀様の救いを受けられるよう祈りましょう」


そう言って両手を合わせる教如、周りの信者達は唇を


震わせながら泣いていた、こうして本願寺側との和睦は


成立し事なきを得た佐久間信盛とステイメンは本願寺を後にした


待っていたルキア達は今回の交渉がどういった事だったのか


経過と内容をステイメンに尋ねた


「ご苦労さん、で一体何があったんだ?」


「ええ、まあ・・・交渉は上手くいきました、しかし


 由々しき問題があります・・・」


和睦が成立し戦争を回避できたのにもかかわらず、どこか


浮かない顔のステイメン、そんな彼にゾフィが思わず問いかけた


「なに浮かない顔しているのよ、交渉は上手くいったんでしょ?」


「はい、交渉自体は上手くいきました、しかし相手の首謀格


 教如殿は何者かによって術をかけられていました・・・」


ゼファーが呆れたように首を振った


「まあそんな事だろうと思ったよ、だからステイメンが


 その術を解除してハッピーエンドって事だろ?


 それに何か問題があるのか!?」


「はい、その教如殿にかけられていた術が問題なのです


 それは”悪意策励《マリスインダクション》”という


 とびきり邪悪な術でしたので・・・」


ステイメンの言葉に驚き飛び上がる様に立ち上がった


フリニオーラ


「”悪意策励《マリスインダクション》”ですか!?


 それは問題ですね・・・」


魔術のエキスパートであるステイメンとフリニオーラが


これほどまでに警戒する”悪意策励《マリスインダクション》”


という聞きなれない魔術、ふと疑問に思ったライオスが


二人に問いかけた


「なあ、その”悪意策励《マリスインダクション》”とかいう


 魔術は一体何なんだ?今までの”悪意的狂騒《マァリィストゥプロスぺス》”


 とかとは違うのか?」


その質問にコクリと頷くフリニオーラ


「”悪意的狂騒《マァリィストゥプロスぺス》”や吸血鬼などが使う


 魅了《チャーム》といった精神支配系の魔法には


 ある欠点があるのです、まず”悪意的狂騒《マァリィストゥプロスぺス》”は


 精神を狂気で満たし、人を恐怖を感じない兵に変えてしまいますが


 それは言い換えれば人を思慮の足らない猪突猛進型の


 兵にしてしまうという事です、魅了《チャーム》にしても同じことで


 魅了《チャーム》は人を自分の意思のない操り人形に変えてしまうのです


 だから動きは単純ですし臨機応変とか機転を利かす


 などといった対応力は皆無です、だから搦手に弱く


 策による罠に簡単にはまったり範囲魔法で簡単に


 カタが付いたりするのです、しかし”悪意策励《マリスインダクション》”


 は違います、恐怖、憎悪、憤怒などといった負の感情を


 糧にして魂を呪いでがんじがらめにし思考をある方向へと


 誘導するのです・・・」


皆はステイメンとフリニオーラの話を真剣に聞いていたが


疑問を感じたゾフィがフリニオーラに問いかけた


「あのさ、その両者の何が違うのか、全然理解できないのだけれど


 私にもわかる様に説明してくれない?」


ちらりとゾフィを見たフリニオーラは再び話を始めた


「わかりました、頭の悪いゾフィさんにもわかりやすく

 

 説明しますと、”悪意策励《マリスインダクション》”の特出すべき点は


 正に思考を誘導しているというところなのです、つまり


 歪められてはいますがあくまで自分の意思による


 モノだといえるのです、だから常に正常な判断や行動が


 取れますし、いざというとき臨機応変に対応できます


 戦いにおいてこれは凄く大きなことなんです


 これに比べたら”悪意策励《マリスインダクション》”は


 酔っぱらった様な状態、魅了《チャーム》は寝ぼけている様な状態といえます


 戦場で酔っ払いや寝ぼけている人間より遥かに危険なことは


 わかりますよね?だからこそ”悪意策励《マリスインダクション》”は


 暗黒魔法の精神支配系術式で最高峰といわれている由縁なのです


 正直この魔法は私にも使えません・・・」


フリニオーラの言葉にメンバー全員が驚きを隠せなかった


「マジか!?フリニオーラでも使えない魔法を敵が!?」


「こりゃあ、ますますヤバいねぇ~」


「ちょっと、それ大変な事じゃない、大丈夫なの?・・・


 ってアンタまた私の事を頭が悪いって言った?」


そこに捕捉するかのようにステイメンが話し始めた


「この”悪意策励《マリスインダクション》”が恐ろしい


 もう一つの問題はこの魔法は再発する可能性がある


 という点なのです、この魔法の基本構成は、心の奥底に


 芽生えた感情を媒体とする術式ですので、いくら解呪しても


 あるきっかけで再び再発し”悪意策励《マリスインダクション》”に


 かかった状態になってしまうという点なのです、人間の深層心理に


 深く刻まれた呪い、これが”悪意策励《マリスインダクション》”の正体です


 だから完全に解呪するにはしばらくの間、清らかな場所で静養を


 必要とします、神官クラスが三人がかりで付きっきりで看病すれば


 一週間ほどで完治しますが・・・」


「それは非現実的な話だねぇ~」


ゼファーが”お手上げ”とばかりに両手をあげる


そしてルキアが深刻な表情でボソリと呟いた


「そんな恐ろしい魔法があるのか・・・これ以上


 被害者が出なければよいのだけれど・・・」


そんなルキアの心配はすぐに現実的なものとなる


それから三日後、明智光秀は松永久秀との話し合いの為


久秀が立て籠もる信貴山城へと向かった、今回もルキア達が


同行したが前回の本願寺と同様、代表者三名のみ会ってもよい


との事でまたもやステイメンと光秀が久秀と会うこととなる


「此度の謀反、お館様は大変嘆いておられる、しかし


 貴殿が所有している”平蜘蛛の茶釜”を献上すれば


 此度の事は不問に処すとの寛大な言葉をいただいておる


 本願寺との和睦も成立し毛利の援軍も期待できない今


 いくら籠城したところで其方に勝ち目はあるまい


 ここは潔く”平蜘蛛の茶釜”を献上しお館様に謝罪することを


 勧める、聡明な貴殿ならその位の事、判断がつかぬ


 訳ではあるまいて・・・」


冷静に説得を始めた光秀であったが、久秀はニヤニヤと


含みのある笑みを浮かべ、光秀の説得に応じる気配はなかった


「信長公に伝えよ、”平蜘蛛も茶釜”もこのワシの首も


 貴方には手に入らぬと・・・」


久秀を見つめるステイメンの目が細く鋭く変わる


『これも”悪意策励《マリスインダクション》”ですか


 松永久秀殿は野心多き方と聞いています


 そこを付け込まれたのでしょうか?ならば


 早々に解呪して・・・』


その時である、ステイメンは松永久秀の体の中から異常な


魔力の高まりを感じ慌てて立ち上がった


「止めなさい、それ以上やれば・・・」


その時、久秀は動揺することなく満面の笑みを浮かべていた


「確信犯ですか、体内でその様な魔力暴走を続ければ


 あと十数秒で爆発します、これ以上馬鹿な真似は


 ・・・」


しかしその時点でステイメンは久秀の説得を諦めた


”悪意策励《マリスインダクション》”にかかっている以上


これは久秀自身の意思なのだ、残り十数秒でどうにかできる


モノではなかった、ステイメンは両目を閉じ悲しそうに


首を振ると光秀らを含めて防御結界を展開した


「残念です、本当に・・・」


久秀は魔力暴走で体が赤く変色してきていた、平蜘蛛の茶釜を


腕に抱きつつ、それでも笑みを浮かべながら光秀に言い放った


「信長に伝えよ、裏切られるのは弱いからじゃ


 信長はまだまだ弱い、そんな事では天下などとても・・・」


そして久秀は最後まで言葉を伝えることなく爆発した


凄まじい爆発音と爆風が辺りを巻き込み周りを吹き飛ばしていく


久秀の自爆による強力な爆発は信貴山城の上部を半壊させた


外で待っていたルキア達も心配そうに見上げている


乱世の梟雄といわれた松永久秀は世紀の名器といわれる


”平蜘蛛の茶釜”と共に自爆という壮絶な最期を遂げた


何が何だかわからない光秀は呆然として辺りを見回す


松永久秀の説得と”平蜘蛛の茶釜”の確保に失敗した光秀は


そのことを信長に伝えた、しかし信長は特に怒ることもなく


静かに一言だけ呟いた


「そうか・・・わかった」


家臣たちは不思議な感じで信長を見ていた、そして


信長が松永久秀という男を心底気に入っていたのだろうと


気づかされることになる、”金ケ崎の退き口”では信長の窮地を


救ったように、その能力は非常に高くそれ故に色々な人間に仕え


そして裏切ってきた、主君を殺し、室町第十三代将軍 足利義輝を


暗殺し、奈良の大仏を焼くというとんでもない所業の数々をしでかし


信長にして”この久秀に比べればワシのやった事などは悪事に入らぬ


誰もが犯していない天下の三悪をやってきた男だからな”と


笑いながら久秀の事を家康に紹介したというエピソードがある


破天荒で予想不能な行動と思想は”乱世の梟雄”


と呼ばれるのにふさわしく、非常に人気の高い武将である


最後も久秀らしい派手な死にざまを見せつけ、あざ笑うように


この世を去った松永久秀、その亡骸は裏切り者とは思えぬほど


丁重に扱われ、最後は宿敵であった筒井順慶によって


丁重に埋葬されたと伝えられている、そんな久秀とは対照的な


扱いを受けていた武将がいた、佐久間信盛である


その事件は本願寺との和睦が成立した三日後のことだった


本願寺の寺院が謎の失火によって焼失してしまったのだ


それには信長も激怒し佐久間信盛を呼びつけ激しく責め立てた


「貴様は何をやっておるのじゃ、そもそも貴様には


 織田軍一の兵力を与えているのも関わらず一向に結果を


 出していない、家臣筆頭とは名ばかりの無能者ではないか!?


 光秀や秀吉を見よ、貴様より短い期間でどれ程の武功を


 あげてきていると思っておる、貴様の顔など見たくもない


 追って沙汰いたす、城で謹慎しておれ、このうつけものが‼」


激しく叱咤される佐久間信盛、場内は静まり返り、信長は


感情むき出しの大股でその場を後にした、周りの者も庇える様な


空気ではなかった為、黙って見守る事しかできなかった


うつむき傷心しながら引き上げていく信盛、それを見ていた


ルキア達が小声で話していた


「おいステイメン、あれって・・・」


「ええ、間違いないですね」


「いったいどうやって?」


「それはわかりません、しかし我々の・・・いえ私の出番ですね」


そう言ってすっと立ち上がるステイメン、それを見た秀吉が


思わず問いかけた


「ステイメン殿、一体どこに行かれるのですか?」


「ええ、少し用を足しに・・・」


優しく微笑み出ていくステイメン、しかし無肩先はトイレではなく


佐久間信盛のいる部屋であった、信盛はガタガタと震えながら


右手に刀を持ち一人でぶつぶつと呟いていた


「お館様に叱られた・・・またもや叱られた・・・


 このままじゃ駄目だ、何故こんな事に・・・


 そうだ、秀吉と光秀、あいつらのせいだ


 あいつらさえいなければ・・・」


その瞬間、部屋のふすまが空き信盛の前にステイメンが現れた


「よもやとは思っていましたが・・・あなたまで


 ”悪意策励《マリスインダクション》”にかかっていたとは・・・


 本願寺に火をつけ焼失させたのはあなた自身ですね?」


信盛の目は既に常人の者ではなかった、ステイメンの方に


視線を向けることもなく独り言のようにぶつぶつと語り始める


「お館様を苦しめる本願寺、その象徴を焼いてしまえば


 もうお館様を苦しめる者はいない、それなのにお館様に


 叱られた、また叱られた・・・光秀と秀吉のせいだ


 そういえばお前も秀吉の仲間だったな、先日は秀吉と


 寄ってたかってこのワシをさらし者にした憎っくき男


 サル風情がこのワシを誰だと思っている、織田家一番の


 武将、家臣筆頭 佐久間信盛なるぞ‼殺してやるからな


 貴様の後は秀吉だ、死ねーーー‼」


信盛は刀を振りかざしステイメンに斬りかかってきた


しかしステイメンは悲しい目で信盛を見つめる


「信長公への思いと自分だけが武功をあげられないといった


 焦りを利用されたという訳ですか・・・卑劣なことを」


渾身の一撃がステイメンの頭に振り下ろされる、しかしその


刃がステイメンに届くことは無かった、直前で結界に阻まれ


刀をはじき返される信盛、しかし敵意丸出しの目でステイメンを


睨みつける信盛


「もう楽になってください、自分自身で己を


 傷つけることはありませんよ・・・」


そう言ってステイメンは右手を差し出した・・・


その夜、ステイメンとルキアは信長の元を訪ね事情を説明した


「なんじゃと、信盛が何者かによって操られていたと申すか!?」


「はい、残念ながらその通りです信長公、ですから先日の


 本願寺焼失も信盛殿自身がおこなった事なのです」


あまりの事に言葉が出ない信長、そしてステイメンが話をつづけた


「一応私がかけられていた魔法は解呪しました、しかし


 この”悪意策励《マリスインダクション》”という魔法にかかった以上


 もう佐久間信盛殿はしばらく使い物にならないでしょう


 どこか聖なる場所でゆっくりと静養させてあげてください」


頼み込むように頭を下げるステイメン、しばらく黙って聞いていた


信長だったが、ルキアとステイメンに問いかけた


「どうして信盛が狙われたのじゃ?こう言ってはなんだが


 敵が我が陣営を狙うのであれば光秀、秀吉、勝家、長秀


 一益辺りであろうが、なぜ信盛なのじゃ!?」


ステイメンは目を閉じ悲しそうに口を開いた


「佐久間信盛殿は焦っていました、家臣筆頭という立場にいながら


 何の成果もあげられていない事に、周りの武将たちが


 次々と武勲を立てて散るのにも関わらず自分だけが・・・


 という焦燥があったのでしょう、それを敵に付け込まれたのです」


険しい表情でステイメンを見つめる信長


「それが事実ならば、恐ろしいことじゃな・・・」


信長の言葉にうなずくルキア


「はい、信長公、敵は織田陣営を知り尽くしていると


 言わざるを得ません、ここまでの事態ですと


 内通者すら疑わなくてはいけないのかもしれません


 ゼファーにはそれとなく調べてもらいましょう」


その言葉に大きく頷く信長


「わかった、ワシも気に留めておく、ならば信盛は


 高野山に送ろう、あそこは我が国で一番強力な


 結界があると聞いたことがあるからな、そうか


 信盛がのう・・・」


信長は遠い目をしてそう呟いた、そして翌日、佐久間信盛殿は


今回の失態の責任で高野山への追放という措置が取られた


家臣筆頭である佐久間信盛の追放というのは少なからず


家臣たちに衝撃を与えた、もちろん信長が真実を語ることなかった


そして佐久間信盛のいなくなったことでまた新たな火種が


起きることを、この時点ではまだ誰も知らない。


 


 






 





今回は何か地味な話になってしまいましたがいかがだったでしょうか?この話を書かないと

後々辻褄があってこなくなってくるので頑張って書きました、それでこの話に出てくる

松永久秀という人物ですが、その壮絶な最期 爆死‼ 爆死って!?そんなのアニメや漫画の

ラスボスくらいしかしないじゃんってくらいインパクトのある死に方ですよね、ただこの爆死というのは

戦後に書き換えられた創作との事です、でも私的には松永久秀は爆死でいいと思っています

もちろん個人的見解なので異論反論は受け付けます、この話の中心は佐久間信盛ですが

題名に”乱世の梟雄”としたのも松永久秀リスペクトから来ています、違和感を感じた方はご容赦を

では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。