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ゾフィ様は告らせたい

登場人物

アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・。ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持っている

ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在

ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている

ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー

ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた

クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い

織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児

木下藤吉郎秀吉…ルキア達の戦場での活躍を見て織田軍にスカウトした人物、後の豊臣秀吉

ねね…秀吉の妻、若い頃から秀吉を支えてきた良妻

召喚魔法師、使役系の魔導師の頂点にして宗家、その中でも歴代最強


と言われ“神に愛されし至高の召喚魔術師”と伝説にまでなった


人物こそ第十四代目当主ライドン・ゾフィその人である


炊事、洗濯、裁縫、歌、踊りマッサージに至るまで、男の望むものは


全て幼少の頃から叩き込まれ理想的な女“姫巫女”としても厳しい


教育を受けて来た、そんな考え方を嫌う彼女は今現在ではやや残念な


仕上がりを見せているものの,その美しい容姿はそれを補って


余りあるものとなっていた、そんな彼女が妹のように思い可愛がっている


者、それが同じメンバーのフリニオーラである、彼女も両親を早くに亡くし


義母に虐待を受けながら育っていただけに普段から何かと気にかけ


世話を焼いてくれるゾフィの事を姉のように慕っていた、今回は


そんな二人にまつわるハートフルで心温まるエピソードを聞いていただこう





ある日の朝、ゾフィはある屋敷を訪ねていた、その大きな屋敷の入り口で


ノックしようとしていた時、後ろからの声に不意に呼び止められた


「あれ?ゾフィさんじゃないですか、こんなところで会うなんて


奇遇ですね、どうしたんですか!?」


その声に振り向くとそこにはフリニオーラが立っていた


「えっ、あなたこそこんな朝早くからどうしたのよ?


なんでここにいるの!?」


思わぬ鉢合わせに驚きを隠せない二人、二人が朝早くから


訪ねた屋敷とは秀吉の屋敷であった


「私は秀吉さんから呼び出しを受けここに来たんですよ


でもゾフィさんも来るなんて聞いてませんでしたが!?」


「そりゃあそうよ、だって私はねねさんに


 呼ばれてここに来たんだもの」


ねねとは後に“北政所《きたのまんどころ》と呼ばれる事となる秀吉の妻である


後の秀吉の出世物語はこのねねの功績も非常に大きいとされており


陰ながらずっと秀吉を支えて来た良妻なのだ


ゾフィとねねは数度会っただけで妙に気が合い、それ以来、他愛もない


話からお互いの悩み事なども気さくに話す良き友人となっていたのである


「ねねさんとですか!?我々二人が別々に呼ばれたのに同じ日


同じ時間というのも何かおかしな運命を感じますね」


「そうね、でも何か困った事があったら私に言いなさいよ


 このお姉ちゃんがなんとかしてあげるから!?」


胸を張りながらドンと自分の胸を叩き得意げに言い放つゾフィ


そんな彼女の姿に思わず微笑むフリニオーラだった、二人は入り口の


扉を叩くとしばらくして扉が開き一人の若者が顔を出した


「おやゾフィ様、フリニオーラ様 こんな朝早くから


当家にご訪問とは、一体どうなされましたか?」


「私たちはそれぞれ秀吉さんとねねさんに


 呼ばれて来たのですよ、佐吉さん」


「そうなの偶然入り口で会ってね、時間通りに来たつもりだけど


ねねさんはいる、佐吉さん!?」


この二人に対応した佐吉は幼少の頃に秀吉に才を認められ


秀吉とねねの養子として屋敷に住んでいる少年である


後に西軍の総指揮官として徳川家康と関ヶ原にて


天下分け目の戦いをする事となる石田三成である


「親父様とおふくろ様でございますか!?


 在宅中ではありますが今はちょっと・・・」


歯切れの悪い言葉と共に目線をそらす佐吉、二人が不思議に思っていると


屋敷内から物騒な物音と女性の金切り声が聞こえて来たのだ


「またあなた様はよそに女子を作って‼︎どうして次から次へと


違う女子に手を出すのですかあなた様は!?」


「まてねね、話を聞け、まずは落ち着いて話し合おうではないか!?」


「またそうやって私を言いくるめようとしておりますね


 あなたさまの口八丁手八丁にはもう騙されません‼︎」


「まてねね、取り敢えず落ち着け、物を投げるな


 それは親方様から頂いた大事な茶器じゃ、頼むから投げるな!?」


屋敷内から聞こえてくる二人の会話と物音でどんな状況であるかは


おおよそ見当はついた、呆れるように目を細め思わず呟くゾフィ


「うわ〜とんでもない修羅場に来ちゃったみたいね、どうする


フリニオーラ、もう一度出直すって方法もあるけど・・・」


その時フリニオーラは微笑ましげに屋敷を見つめていた


「夫婦っていいですね、思った事を包み隠さず言い合える夫婦は


理想だと聞いたことがあります、二人は理想の夫婦って事ですね


いい事です、羨ましい・・・」


ほっこりとした表情で見つめるフリニオーラ


「この状況を見てどこにほっこりするところが?あんた根本的に


間違ってるわよ、思った事を包み隠さずと言うけど、浮気を包み隠し


きれなかったからこうなっているんだし・・・」


ゾフィは何気にフリニオーラが心配になって来た


『この子はどこかズレていると言うか、世間知らずなところがあるから


私がしっかり見ててあげないと・・・それにいくら夫婦といえど


全てを包み隠さずに話すなんてのはあり得ないのよ、円満な夫婦ほど


一つや二つはお互いに秘密を持っているものなの、全く誰がそんな


いい加減な事を吹き込んだのかしら、この子は馬鹿正直に信じちゃうから


言い方に気をつけてほしいわね・・・』


ゾフィは老婆心ながらフリニオーラの事が心配になって来た


二人は別室に通されしばらく待っているとボロボロになった秀吉と


精一杯の作り笑顔を浮かべたねねが現れた


「ごめんなさいねお待たせしちゃってホホホホ」


「遅くなってすまなかったでござる、ところでゾフィ殿は


一体何用ですかな!?」


「ゾフィさんは私が呼んだのよ、私達は友人ですもの


それより何故あなた様はフリニオーラさんを呼んだのかしら?


まさかフリニオーラさんにまで色目を使っているじゃ


ないでしょうね!?」


疑いの眼差しでジッと見つめるねねに対し、少し驚いたような


表情を浮かべ全力で否定する秀吉


「そんな訳なかろうが!?拙者は普通の男だぞゾフィ殿ならともかく


フリニオーラ殿に色目なぞ使う訳なかろうが!?」


「さあそれはどうでしょうか?あなた様は少々世間の常識より逸脱した


女好きのようですから、なりふり構わず手当たり次第に・・・という


事もあり得ますからね!?」


「お主は自分の亭主変態呼ばわりするつもりか!?いい加減にせいよ‼︎」


再び始まった痴話喧嘩に思わずツッコむフリニオーラ


「あの喧嘩するのは勝手ですが無意味に人を傷つけないでください」


ハッと気づいて同時に頭を下げる二人、ゾフィは笑いを堪えるので


必死の様子だった、ゾフィとフリニオーラはそれぞれ別の部屋に通され


話を聞く事となった


「御免なさいねゾフィさん、お見苦しいところをお見せしちゃって


実は折り入って貴方にお願いがあるのよ」


「何、お願いって、他ならぬねねさんの頼みなら余程のことじゃ


ない限り叶えてあげたいとは思うけど」


「ありがとう、実は今度我が家で酒宴を開くことになったの


ほら先日比叡山では色々あったじゃない・・・でも一応勝ち戦だし


色々なモヤモヤを吹き飛ばしたくて戦勝祝いも兼ねて


 気分一新してこれからも頑張ろう、みたいな・・・」


ねねの話を聞いて胸にチクリと痛みが走るゾフィ、おそらく自分の事も


踏まえての気遣いなんだろうと感じた


「いい事じゃない、でそれのどこに相談事があるの?」


「これはさっきの喧嘩にも関連している事なんだけどあの人・・・


秀吉の女好きが最近ひどいというか目に余るの、多少の事は目を瞑る


つもりなんだけど、ここのところ常軌を逸しているというか余りにも


というか、私腹が立って腹が立って・・・」


そんなねねの様子を見てニヤつくゾフィ


「ねねさん本当に秀吉さんの事が好きなんだね!?」


その言葉に赤面し顔を背けるねね


「そんな面と向かって・・・私とて武士の妻です、女遊びの一つや二つ


男の甲斐性だと頭ではわかっているのですが秀吉が他の女に


うつつを抜かしているかと思うと、どうにも我慢できないのです


それならわからないように裏で女遊びすれば良いものを少し質問する


だけで すぐ態度に出て私にはわかってしまうからタチが悪いのですよ」


少し微笑ましげにそして少し呆れ気味に笑うゾフィ


「で、私は何をすれば良いの?」


「そうね御免なさい本題に入るわ、今度の酒宴の際に京の都から


 一流の芸者とかも大勢呼ぼうと思っているの


 派手好きな秀吉にはお似合いだと思ってね・・・


 それでね、頼みというのはその酒宴の際に貴方に芸者に扮装して


 もらい秀吉を誘惑して欲しいのよ」


ゾフィにはねねの言っている事に仰天しその意味が全くわからなかった


「えっ!?ちょっと言っている意味がわからないんだけど、私が秀吉さんを


誘惑?なんでそんなことする必要があるの!?」


ねねの顔を覗き込むように聞き返すゾフィ


「実はさっきの喧嘩で秀吉は“もう二度と女遊びはしない”と誓って


くれたの、でも私はそんな事無理だと思っている・・・だけどね


私のわからないところでやってくれるなら目をつぶろうと思っているの


逆に我が家での酒宴ですら芸者に手を出すようなら・・・もう最終手段に


出ようと思っているわ・・・」


「最終手段?離婚届でも出そうっていうの!?」


ゾフィの質問に首を振るねね


「お館様に言いつけて説教してもらうのよ」


思わず息を飲むゾフィ


「信長公に!?それは・・・強烈ね、でも私が芸者に扮装しても


バレないかしら?」


「それは大丈夫よ、髪も服も変えてしまえばまずバレないから


それに貴方の芸者姿はさぞかし綺麗でしょうね、もちろんこの事は


誰にも言わない他言無用でお願いね、二人だけの秘密よ」


ゾフィは他ならぬねねの頼みであり、芸者姿にも少し興味もあったので


仕方なく引き受ける事とした




一方別室に案内されたフリニオーラはボコボコにされた秀吉を見ていた


まぶたは片方晴れ上がり引っかき傷のような爪痕がクッキリと頬に


刻まれていた


「大丈夫ですか秀吉さん、こんな事ならステイメンさんを


呼んでおけばよかったですかね!?」


「いやはやひどい目にあったでござる、女子というのは全く・・・


いや失礼した、ステイメン殿を呼ぶのはあまりよろしくない


これはフリニオーラ殿だけに頼みたい内密の話なのでござるよ」


「何ですかあらたまって、私だけにというのは何でしょう?


女の魅力など皆無の私に頼みたい事なんてあるんですか?


私にはいささか腑に落ちませんが!?」


先ほどの言動を皮肉っての言い回しに思わず苦笑いを浮かべる秀吉


「いやすまなかったでござる、お世辞でも何でもなくて今の


フリニオーラ殿は美人でござるよ、ただ拙者は最初にあった印象が


強くてそなたを普通の女子とは見れないでござるよ、ゾフィ殿にしても


最初にあった時から美人でしたがそういう対象としては見れないで


ござる、フリニオーラ殿やゾフィ殿に嫌われたらお館様からどれ程


お叱りを受けるか、拙者の出世にも関わる重大な事態ですからな」


その説明に何か納得のいかないフリニオーラだったが


軽くため息をつき話し始めた


「で、私に折り入って内密の頼みとはなんですか?」


「実はねねのことでござる・・・」


「ねねさんの?それは一体何ですか?」


「ねねは拙者が足軽だった時から支えてくれた拙者にはもったいない


ぐらいの良き女房でござる、しかし恥ずかしながら拙者の女癖の


悪さで度々怒らせてしまっているのでござるよ・・・」


先程の事も思い出しそんな秀吉を呆れるように見つめるフリニオーラ


「ビックリするぐらい自業自得じゃないですか、弁解のしようもない


 と思いますよ、ねねさんには同性として同情を禁じ得ません


 ただこの世界の殿方は複数の女性とも関わりを持つ習慣がある


 という事実は信長公を見てもわかりますし・・・


 せめてバレないようには出来なかったんですか!?」


「う〜ん、拙者は戦略、謀略という類であればどんな相手でも欺いて


みせるでござるが何故かねねだけには嘘がつけないでござる


嘘をつこうと思ってもどうしても態度に出てバレてしまうのでござるよ」


腕組みしながら首をかしげる秀吉、そんな秀吉を見て


目を閉じながらゆっくりと首を振るフリニオーラ


「で、私に一体何をして欲しいんですか?私だけに頼むという事は


魔法関連ですか!?」


その問いかけに左右に手を振り強く否定する


「いやいや違うでござる、実は今度我が家で酒宴を行う事となったのだが


その際に一流の芸者も呼ぶこととなってな、大勢の客を招待して


どんちゃん騒ぎをしようと思っているのでござるよ、ただ拙者は


酒が入って大勢で騒ぐとなると羽目を外して女癖の悪い虫が出てきたら


困るのじゃ、何せ我が家でやる宴会じゃ、ねねもおる、先程ねねの前で


“今後一切女遊びはしない”と誓ったばかりでござる・・・そこで


頼みなのじゃが、フリニオーラ殿には芸者に扮してもらって宴会の間


拙者のそばにいて欲しいのでござるよ」


秀吉の突拍子も無い頼みに頭が混乱し理解ができないフリニオーラ


「何ですかそれは!?一体何がどうなったらそんな


発想になるんですか!?」


「だから芸者に扮して拙者のそばにいてもらい、拙者が暴走


しそうになった時には止めて欲しいのでござる、幸いフリニオーラ殿は


 美人だが拙者が手を出す事は絶対にない、ゾフィ殿はねねと仲が良いので


 こんな事は頼めぬのです、これほどの適任者はフリニオーラ殿を置いて


 他に おりませぬ、一生の頼みでござる拙者を助けてはくれませぬか!?


 そしてこの事はなにとぞ内密で・・・」


頭を深々と下げて頼み込む秀吉、“自分に手を出す事は絶対にない”


という部分には物凄く釈然としないものの渋々ながら


引き受ける事としたフリニオーラ、こうして奇しくも同じ場所で


同じ人物に対して全く真逆のオペレーションを遂行することとなった


ゾフィとフリニオーラ、これがまさかお互いの意地と誇りをかけた


壮絶な女の戦いになる事を誰も予想だに出来なかった




そして酒宴の日の朝が来た、秀吉にバレないようにこっそりと屋敷に


招かれていたゾフィは複数の女性に衣装と化粧を施され見事な芸者姿へと


変身していた、それを見て嬉しそうに感心するねね


「素敵!?似合うとは思っていたけど想像以上ね、本当に綺麗よゾフィさん」


「本当に!?実は私、和服って一度来てみたかったのよ・・・でもねねさん


 もう一度聞くけど本当に秀吉さんを誘惑してもいいのね?」


「ええ、存分にやって頂戴、あの人が先日の約束を守れるか


 じっくりと見させてもらうから」


ねねの言葉に軽くうなづくゾフィ、しかしねねは知らなかったのだ


ゾフィはライドン家の姫巫女として幼少の頃から男を喜ばせる技を


叩き込まれており、その気になればどんな男も手玉にとれる程の


フェロモンと女子力を発揮できるという事に・・・


一方フリニオーラも別の屋敷で秀吉と落ち合い芸者への扮装を施されていた


「ほお~~これはこれは!?」


フリニオーラの見事な芸者姿に思わず感嘆の声を漏らす秀吉


「ど、どうですか秀吉さん!?」


普段オシャレや自分の容姿などに無関心なフリニオーラは不安げに問い掛けた


「いや~~見事でござる、美しい、実に美しいでござるよ‼」


満足げに何度もうなづく秀吉、普段そんな事を言われ慣れていない


フリニオーラは照れながらもボソリと質問した


「では、今日の酒宴で秀吉さんが暴走しそうになったら


 しかるべき手段を持ってそれを阻止すればいいんですね!?」


「えっ!?ああ、そうでござるな、そこのとこ上手くお願いするでござるよ」


ニコやかにそう答える秀吉、しかし秀吉は知らなかったのだ


フリニオーラは言われた事を杓子定規に受け取る人間だという事を


”秀吉の暴走を止める”というオペレーションに対し


”しかるべき手段をとっても良い”という条件を与えられた彼女は


目的に対し最も有効な手段をとるという事を、フリニオーラにとって


手段とはそれすなわち魔法である、芸者の扮装を終えたフリニオーラは


秀吉と共に他の芸者と合流すべく町を歩いていた、美しい芸者が


慣れない恰好でぎこちなく歩く、そんなフリニオーラの姿が妙に儚げで


道行く人々が思わず立ち止まり視線を向けた、その時秀吉が腕組みしながら


フリニオーラを見つめ首を傾げていた


「どうしました秀吉さん、やはり私 何かおかしいですか?」


「いや全然おかしくないし美しいでござるよ、十分美しいので


 ござるが何か今一つ足りないような気がするのでござるよ・・・


 そうだ、装飾が少ないのじゃ、かんざしでも買ってあげるでござるよ」


フリニオーラは聞きなれないその言葉に首を傾げる


「かんざし?かんざしとは何ですか?」


まさかの質問をされ少し戸惑う秀吉


「かんざしでござるか?う~ん何と言ったらいいか・・・


 まあ、女子が身に着けるだけでその子が可愛く見えるという


 不思議な道具といったところでござるよ」


ニコリと微笑みながらそう説明する秀吉、しかしフリニオーラは


その説明に目を丸くして驚いていた


『聞いた事あります、その昔、魅了《チャーム》の効果を持つ魔道具があり


 女性が身に着けるだけで対象の殿方の心を確実に射止めてしまうという


 伝説のアイテムがあると!?それゆえに世の女性達が血で血を争う


 争奪戦を繰り広げ、何人もの死者を出す悲劇になったと聞いています


 そのあまりに凄惨な結末に当時の王朝がどこかに封印したと


 聞いていますが・・・まさかこの世界には現存するとは!?』


その時何かに気が付いた秀吉が不意に立ち止まった


「ちょっとここで待っててくれでござる」


そう言うと今歩いている道に居並ぶ店の一つに向って駆け足で走って行き


しばらくすると戻って来た、その手にはかんざしが握られており


そっと優しくフリニオーラの髪にかんざしを付け微笑みながらうなづいた


「うん、やはり似合う、美人が一層引き立つわい、惚れてしまいそうじゃ」


そう言って満足げに自分を見つめる秀吉に対し驚愕の表情を見せた


「どうしたでござるか?拙者が何か・・・」


思わず問いかける秀吉の顔を凝視するように両目を見開き


羨望の眼差しで見つめるフリニオーラ


「私は秀吉さんを侮っていました、貴方は本当に凄い人だったのですね!?」


「えっ、何で?ていうか拙者を何だと思っていたのでござるか!?」


フリニオーラの反応に訳がわからない秀吉は戸惑っていたが


あるモノが目につき再び別の店へと駆け出して行き


戻って来てフリニオーラの髪に付けた


「これは?」


「これは櫛《くし》でござる、まあ・・・先ほどのかんざしと


 同じようなモノでござるよ!?」


さらに驚きの表情を見せ自分を見る目が尋常ではない事に気が付く秀吉


「秀吉さん、貴方という人は本当にとてつもない人だったんですね!?


 すみませんでした、私は貴方に対する認識が甘かったようです


 あなたは凄い人です、今までの非礼をご容赦ください」


「何で???ていうか拙者を馬鹿にしてるのでござるか!?」


二人の会話はかみ合わないまま、おかしな誤解を解くことも無く


そのまま秀吉の屋敷へと向かう、屋敷内にはすでに大勢の招待客が


来ており豪華な酒と食事が用意されていた、秀吉は主賓として


皆の前で立ち上がり挨拶をし始めた


「此度は先日の戦勝祝も込めささやかながら酒宴を開く事と相成った


 皆の者、今日は無礼講じゃどんどん飲んでくだされ、そして


 余興として京の都から一流の芸者も呼んでおいたので心行くまで


 楽しんでくだされ!?」


その言葉を皮切りに次々と部屋の中に入ってくる芸者たち


”おお~~”っと皆から感嘆の声が上がり喜びと感心の言葉が飛び交う


そんな中でひときわ目を引く芸者が二人現れた、皆が会話を忘れる程美しく


思わず手と口を止め見とれてしまう程であった、そうゾフィとフリニオーラ


の二人が扮した芸者である、二人は当たり前のように秀吉の両脇に座り


早速秀吉に酒を進めるゾフィ


「初めまして曽妃奴《そひやっこ》と申します、どうぞお見知りおきを


 秀吉様、さあ駆け付け三杯と申します、ささどうぞ」


半開きのうるんだ目で自然の科《しな》を作りながらそっと寄り添い


手慣れた手つきで酌をするゾフィ、思わず秀吉の鼻の下が伸びかかる


「あら秀吉様、この浮璃千代《ふりちよ》の差し置いてお痛ですよ!?」


フリニオーラが秀吉に近づきそう言いながら魔法を唱えた、それは微弱な


電撃だったが秀吉の気を戻すのには十分だった


「はうぅぅ~~‼」


奇声をあげ飛び上がりそうになる秀吉、思わずフリニオーラの方を向くが


当の本人は澄ました表情で”当然のことをしたまで”という顔をしていた


嫌な胸騒ぎが秀吉の脳裏を駆け巡る、ここに来てようやく自分の作戦に


重大な欠陥があったのかもしれないと気が付くが、もはや後の祭りであった


そんな事とは露知らず、まずは成功と思っているフリニオーラ


『ふう、いきなりピンチでしたが何とか阻止できました・・・』


そう思いながらいきなり秀吉に近づいた芸者を睨むように見つめた


『それにしても宴会の開始早々近づいて来たこの女は何ですか!?


 いきなり男に媚びるようなあの態度は恥ずかしくないんでしょうか!?


 いかにも頭の悪そうな女ですね、私の一番嫌いなタイプです』


一方、いきなり初っ端から出鼻をくじかれ敵意むき出しの視線で


自分を睨みつけるように見つめてくる女に対し不快感を感じるゾフィ


『何この女、見た目こそまあまあだけど、服の上から判るぐらい


 貧相な体してる癖に、この私と張り合おうっていうの!?


 身近にいたら絶対に仲良くなれないタイプの女ね・・・


 色気も可愛げもないお子様が、いいわ女の格の違いを見せてやるわ‼』


試合開始早々、いきなり火花を散らすゾフィとフリニオーラ


芸者の扮装でお互いの正体に気が付いていない事は言うまでもない


しかしフリニオーラの対応が自分の想像と違っていた秀吉は


顔を近づけ小声で耳打ちした


「フリニオーラ殿、もう少し違うやり方で頼むでござる!?」


それに対し無言でニコリと微笑むフリニオーラ、するとゾフィが


秀吉にすり寄り耳元でささやいた


「あら、内緒話ですか?私には聞かせてくれませんの?いけずですね・・・」


上目遣いのなまめかしい目でそっとつぶやくゾフィに再び秀吉の鼻の下が


伸びかかる、その瞬間ハッと何かに気づき嫌な予感が頭を駆け巡るが


時すでに遅かった


「熱っち~~~‼」


再び奇声をあげ飛び上がりそうになる秀吉、今度は極小の炎が秀吉の


臀部を襲った、文字通り尻に火がついたのである、思わず立ち上がり


信じられないと言った表情で横の芸者を見下ろす様に凝視した


「あら秀吉様、お痛ですよ!?」


再び何事も無かったかのようにそう言い放つフリニオーラ


『いや違うやり方って・・・違う魔法という意味ではないでござるよ‼』


そんな心の叫びが聞こえるはずもなく、ようやく自分の人選に


誤りがあった事を認識した秀吉だったがもはや手遅れであった


『う~ん困ったでござる、これでは宴会を楽しむどころか


 気が休まる暇もない・・・仕方がない不本意だがここは


 作戦変更してフリニオーラ殿には”何もしないでくれ”と


 伝えるしかなさそうでござるな・・・』


秀吉がそう決断しその事を伝えようとタイミングを計っていた時


隣にいたゾフィは明らかに苛立っていた


『何よこの女、何をどうしているか内容まではわからないけど


 明らかに私の邪魔をしてるわね!?女の魅力で勝負するならともかく


 何らかの卑怯な手を使っているのは明白だわ・・・


 いいわ、そっちがその気ならこちらにも考えがある見てなさいよ‼』


そう決断しスッと立ち上がるゾフィ


「すみません秀吉様、少しの間席を外させてもらいます」


ニコやかに微笑みながら頭を下げ静々と部屋の外に出て行くゾフィ


秀吉は周りに気づかれる事無くフリニオーラに作戦中止の司令を出す


タイミングを計っていたので、”これは渡りに船”とばかりにひとまず


胸をなでおろす、しかし部屋を出たゾフィはすぐさま両手を高くかかげた


「汝が主 ライドン・ゾフィの呼びかけに応えよ 来なさい


 サキュバリュアス‼」


ゾフィの頭上に魔法陣が広がりそこからゆっくりと姿を現す一匹の魔獣


見た目は女性の姿をしており大きさも人間とほぼ同じ


真っ白な体が薄く光っており黒い羽根が背中から六枚生えている


目は黒目部分は無く全体的に黄色い、怪しげな笑みを浮かべながら


フワフワと宙に浮いていた


「いいサキュバリュアス、貴方はここにいて頂戴


 そして私が合図したら行動を開始しなさいよ」


何やら指令を受けたサキュバリュアスと呼ばれる魔獣が小さくうなづくと


ゾフィはそのまま部屋に戻って行った


その頃、秀吉はキョロキョロと周りを見渡し、誰もいないのを


確認してからフリニオーラにそっと耳打ちした


「フリニオーラ殿、作戦変更でござる‼」


「作戦変更?一体どうしたのですか!?」


「今までのやり方ではマズイのでござるよ、できれば・・・」


秀吉がそう言いかけるとその背後から問いかける声が聞こえた


「あら、何がマズイのですか秀吉様?」


振り向くとそこにはすでにゾフィが立っていた


「は、早かったでござるな曽妃奴《そひやっこ》!?」


「ええ、秀吉様に早く会いたくてすぐに帰ってきましたのに・・・


 私に隠れて内緒話ですか?いけずですねぇ~」


そう言って背中から体を密着させるゾフィ、その瞬間フリニオーラの


目が鋭く光る、しかし今回は待ってましたとばかりに心で呼びかけるゾフィ


『サキュバリュアス出番よ、やっておしまい‼』


その指令を受け取ったサキュバリュアスは両手を合わせ歌い始めた


すると秀吉の態度が急変する、息を荒げ服を脱ぎ始めた


「ハヒ~~~何だ、急に体が熱くなって・・・


 ハアハアハア・・・」


秀吉のあまりの激変に茫然としてしまうフリニオーラ、それに対し


ニヤリと笑うゾフィ


『どう、私のサキュバリュアスは!?この子は淫魔《サキュバス》の亜種でね


 男性の性欲を異常な程に膨張させるのよ、この子の前ではどんな


 聖人君子でも色情狂に変わるわ、もう手も足も出ないでしょ


 ロリ芸者さん!?』


もはや本来の目的を忘れ完全に暴走するゾフィ、相手をフリニオーラと


気が付かないまま勝ちを確信しほくそ笑む、魔獣の力により異常なまでに


興奮していく秀吉、ギラギラと目を血走らせ涎《よだれ》を垂らしながら


飢えた獣のように今にも周りの芸者に襲い掛かろうとしていた


後の天下人 豊臣秀吉である


慌てたフリニオーラもこの状況を何とかしようと微弱な電撃や極小の炎を


秀吉に喰らわせるがすでにトランス状態の秀吉には全く効果が無かった


『何ですかこれは!?明らかに異常事態です、しかし魔法が使われた


 形跡はありませんし・・・一体何が!?』


もはや秀吉は夢遊病者の様にフラフラとゾフィの方へ近づいて行く


「曽妃奴《そひやっこ》かわいいよ曽妃奴《そひやっこ》・・・」


何かに操られているかのようにゾフィに吸い寄せられていく秀吉


「秀吉様、私の事どう思っているんですか?


 口に出してくださらないとわかりませぬ」


ゆっくりと指で手招きし、誘う様に甘い言葉を投げかけるゾフィ


『さあそのまま私に告白しなさい、そのほとばしる熱いパトスで


 ねねさんを裏切るなら それでミッションコンプリートよ‼』


 ゾフィの思うがままにヘラヘラと笑いながら一歩一歩近づく秀吉


「初めてそなたを見た時から・・・


 いや一万年と二千年前から愛しているでござる」


もはや崖っぷちのフリニオーラ、ゾフィが勝利を確信し満面の笑みを浮かべた


その時、先程秀吉が自分に言いかけた言葉を思い出したのだ


『そう言えばさっき秀吉さんは


 ”今までのやり方ではマズイのでござるよ、できれば・・・”


 と言ってましたね、はっ!?今までのやり方では生ぬるい


 徹底的にやってくれ‼ と伝えたかったのでは!?


 そうだそうに違いありません、スミマセン秀吉さん


 あなたの想い、しかと受け取りました‼』


するとフリニオーラは心の中で魔法を唱え始める、ゾフィの魔獣のせいで


もはやゾフィの操り人形と化した秀吉は、今にもゾフィに抱きつき


愛の告白を始める寸前だった、しかしその瞬間、秀吉の態度が急変した


その場で座り込み膝を抱えてしくしくと泣き出したのだ


「うっううう、拙者なんか、拙者なんか・・・」


あまりの急変ぶりに今度はゾフィが唖然とし困惑し始めた


『何これ!?一体何があったの!?』


それを見て今度はフリニオーラの口元が緩む


『見ましたか、私の暗黒魔法”絶意消沈《アブソリュートディプレッション》”を‼


 この魔法はどんなリア充ハッピー野郎でも一瞬で


 躁鬱引きニートに変えるというダウナー系精神破壊呪文なんです


 どうですか、アバズレ芸者さん?もう私の勝ちは決まったような


 モノでしょう!?』


こちらも本来の目的と秀吉の意思を大きく取り違え完全に暴走する


フリニオーラ 一方、絶意消沈《アブソリュートディプレッション》にかかった秀吉は


益々落ち込み、膝を抱えながら大量の涙と鼻水で顔面を染めていた 


後に歴史上最大の出世を成し遂げ、関白太政大臣にまで上り詰めた


天下人 豊臣秀吉である


今度はゾフィが忸怩《じくじ》たる思いで秀吉を見つめていた


まるで勝ちを確信したかのようにほくそ笑むフリニオーラの顔を見て


益々闘志を燃やすゾフィ、女同士の仁義なき激しい戦いは


まだ始まったばかりであった。


















 






今回は本編とは関係ないコメディ話ですがいかがだったでしょうか?

この話は3部構成になっておりますがなにぶんコメディですので

設定やキャラの性格、言動などはかなり大雑把に書いております

細かな事柄は大目に見ていただけると嬉しいです(笑)では。

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