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外伝 意思と思いと思惑と

登場人物


ルース・ライオス…祖国の英雄ベルフォードに憧れ聖騎士隊に入隊する、素質と体格に恵まれ世界最強の剣士を目指す

レインヘル・ベルフォード…数々の武勇伝を持つ祖国の英雄”覇剣鬼”の異名を持つ程激しい攻撃が特徴の最強剣士、回復魔法も使う事ができるベルドルア聖騎士団の団長

ベルゲン・アインゼル…ベルドルア聖騎士団の副団長、ベルフォードの愛弟子で秘剣”霞斬り”という技を使う

レインヘル・ジュリア…ベルフォードの一人娘、小柄で非常に美人だが父の名を継ぐ最強剣士を目指している

翌日、聖騎士団の朝の集会の際ジュリアの姿はなかった、不思議に思い


副団長であるアインゼルが皆の様子を見渡すとほとんどの者が普段通りの


態度の隊員の中で何かいつもとは違う者が二人いたライオスと


ベルフォードの二人である、いつもとは違う沈んだ態度で


皆の前に立ちあることを告げるベルフォード


「今日ジュリアは体調を崩し休みだ、各自そのように対応してくれ」


「はい‼︎」


隊員全員が力強く返事をしそれぞれが修練場へ向かおうとした時


ベルフォードが声をかけた


「アインゼルとライオスはちょっと私の部屋に来てくれるか?」


団長の呼び出しによりベルフォードの自室向かう二人、部屋に入ると


神妙な面持ちで二人に話しかけるベルフォード


「実はジュリアのことなんだが・・・昨夜から様子が変なんだ


 食事はとらないし私が何を言っても上の空で聞こえていない様子でな


 一体何があったのか・・・ジュリアは今朝も出てこようとしていた


のだが私が無理矢理休ませた・・・お前らに何か心当たりはないか?」


ベルフォードの問いかけに下を向き厳しい表情で答えるライオス


「実は昨日・・・」


ライオスは昨日あった事を二人に話し始めた、集中しきれないまま


席次順位戦を戦いジュリアの剣士としての誇りを傷つけて


しまった事、その後改めて戦い”お前では永遠に俺に勝てない”


と告げた事を、まるで懺悔でもしているかの様に重い口調で話した


それを聞いたベルフォードは目を閉じ大きくため息をついた


「なるほど、そんな事があったのか・・・」


「はい、あれ程真摯に、そして真っ直ぐ己の剣に向き合っている


 ジュリアに対してどうしても嘘や誤魔化しを言いたくなくて


 ・・・でもやはり言うべきでは無かったでしょうか?」


悲痛な表情で語るライオスの言葉にゆっくりと首を振るベルフォード


「いや、何も間違ってはおらん、己の力量を正確に認識する事は


 剣士として必須でもあるからな、しかしアレにとってはショック


 だっただろう・・・」


何とも重苦しい空気が部屋に漂い時間が長く感じる程であった


その時、沈黙を破るかのようにアインゼルが口を開いた


「団長、私から提案があります‼」


急に力強い言葉で切り出すアインゼルにベルフォードとライオスも


少し驚きいた様子を見せ思わず耳を傾けた


「どうしたアインゼル副団長!?いきなり唐突に・・・


で、提案とは何だ?」


アインゼルはチラリとライオスを見た後、力強い目で


ベルフォードに訴えかけた


「しばらくおこなっていなかった私とライオスの模擬戦をやらせて


 欲しいのです、私とて剣士の端くれ、二人がそのような戦いをしていた


のに私だけがぬくぬくと見ているだけなんて


 剣士として我慢できません、立場を考えずワガママを言っている


 事は承知ですが、どうかやらせてくれませんか!?」


突然の提案に戸惑うベルフォード


「う~ん、気持ちはわからんではないが、席次1位と2位


 が戦った場合、もしライオスが勝ったら規定により副団長の座を譲り


 現場の全軍指揮を任せる事になる、今魔族の勢いも日に日に


 強くなってきており魔獣騒動すら起こっているこの現状で


 現場の軍の指揮権が変るのはあまり好ましくないと思えるが・・・」


腕組みしながら渋い表情で思い悩むベルフォード、ライオスも驚きで


言葉が出ないでいた、そんな二人をよそにアインゼルは話を続けた


「ライオスも二番隊の隊長として経験を積み指揮官としても


 成長していると思います、ですからこういうのはどうでしょう?


実戦とは別の訓練や隊員の指導を一度ライオスにやらせてみて


 大丈夫だと判断したら全軍の現場指揮権も任せるというのは!?」


まだ納得しきれていない様子のベルフォードだったが


「うむ、お前がそこまで言うのならそうしてみよう、二人の勝敗に


 関わらず現場の指揮権はまだアインゼルに残し、試験として


 日頃の訓練と隊員への指導でライオスの指揮官としての


 適性を判断し私が良いと思えば現場の指揮権を譲渡するという


 方針で・・・ライオスもそれで良いな!?」


「ええ、俺はかまいませんが・・・」


アインゼルの気迫に押し切られるような形で話は進みベルフォードは


ふ~っと大きな溜息をつき一呼吸空けてから二人に告げた


「ならば今日の訓練終了後にお前らの模擬戦をおこなう


双方心して戦え、以上だ」


二人は礼をしてベルフォードの部屋を出た、扉を閉め歩き始めた時


ライオスが思わずアインゼルに声をかけた


「ちょっといいですか副団長!?」


「なんだ、今の決定に不満でもあるのか!?」


「いえ不満なんか無いですよ、寧ろ副団長と戦えるのはこちらとしても


望む所です、しかし現場の指揮権の事はいささか腑に落ちません


 今更俺の試験などせずとも誰がどう考えても軍の指揮


 に関しては副団長の方が向いているでしょう!?


 団長もそう思っているはずです、一体どういうつもりなのですか!?」


その問い掛けに真剣な表情でジッとライオスの顔を見つめながら口を開く


「まあ、そうだろうな・・・自分で言うのもなんだが


 指揮官としての能力なら長年勤めて来た経験も


 踏まえて私の方が適任だろう・・・」


「だったらなぜ!?・・・」


詰め寄るライオスに対し視線を外し前を見ながら


静かに話しはじめるアインゼル


「私は十年以上副団長を務めてきた、訓練内容や国の警備体制、隊員の


 指導内容も固定化されかなり私の方針でおこなっている事も多い・・・」


「はぁ・・・」


アインゼルが何を言いたいのかわからず戸惑うライオス、そんな


様子を無視するかのようにアインゼルは話を続けた


「今更私が新しい事を始めたら”魔王討伐部隊選出評議会”の連中に


 明らかに怪しまれるだろうが、新しい指揮官が今までとは別の


 新しい事を始めたとしても別段不思議では無かろう・・・」


黙って聞いていたライオスが堪らず問いかけた


「あの・・・副団長が一体何を言いたいのか


 俺にはさっぱりわからないんですが・・・」


ライオスの問い掛けにチラリと視線を向け再び話しはじめるアインゼル


「例えば今までやってなかった聖騎士団による町の巡回警護


 などを実施してみるというのも面白いかもしれないな・・・


 私が独自で調べた情報を元に分析してみた結果、ブランデルウッドの


森の魔獣はおそらくここ数日の内にバーデブルトの村に姿を現す可能性が


 高いそこを()()()()偶然通りかかった巡回の聖騎士団が


 ()()()()()魔獣と遭遇戦になってしまったとしてもそれは仕方ない事態だとは思わんか?」


アインゼルはそう言ってニヤリと笑った


「副団長、アンタって人は!?・・・」


ライオスにもようやくアインゼルの意図を理解した


「だがお前らの話を聞いて剣士として思うところがあったのも事実だ


 今となっては私がお前に勝てると思っている人間は隊員の中にも


いないだろう・・・私自身を除いてな、私は本気で勝ちに行く


お前もそのつもりで全力でかかって来い手加減や気遣いは無用だ


わかったな‼︎」


「はい副団長、全力でぶちのめします‼︎」


嬉しそうに答えるライオスの胸に軽く拳をぶつけるアインゼル


「お前の成長をこの私に見せてみろ、こちらも負けるつもりはない


全身全霊をかけてお前をぶちのめすから覚悟していおけ‼︎」


アインゼルはそう言い放ち立ち去った、その後ろ姿に大きく頭を下げた


ライオスであった




夕方になり修練場に向かってトボトボと歩いている者がいた


重い足取りでゆっくりと歩く一人の女性、ジュリアであった


『家に居てもやる事ないし、ついついここに足が向いてしまった・・・


剣でも振れば気がまぎれるかもと思ったけどライオス先輩がいたら


 どうしよう・・・なんか顔を合わせ辛いな、でもずっと避けて


逃げ回る訳にもいかないし・・・え~いウジウジ考えていてもしょうがない


 ライオス先輩になんと言われようと“ずっと貴方を目標に追いかけます‼︎”


って明るく宣言して、いつも通りに・・・ってあれ?』


ジュリアがそんな事を考えながら修練場に近づくと何やら大勢の人の


気配がして妙に騒がしいことに気がついた


『どうしたんだろう?いつもならもう誰もいない時間なのに・・・』


不思議に思い物陰から覗き込むと聖騎士隊員全てが修練場に残っていて


何やら異様な熱気が漂っていた、そんな中ベルフォードが全員の前に立つと


一瞬で静寂がおとずれる、皆が息を飲むようにベルフォードの一挙手一投足に


視線が集まりベルフォードはそれを確認するかのように左右を見回し


そして静かに宣言した


「これよりアインゼル副団長とライオス二番隊隊長の模擬戦を始める


 双方前へ‼︎」


その瞬間、場内を“ワアア〜〜”という歓声が包み込み皆がそれぞれ


思い思いの表情で両者を見つめる、久しく一番隊と二番隊のいがみ合いは


なりを潜めていたが両隊のトップ同士の戦いとあいなった今回は


その熱が再燃したかの様な盛り上がり方だった


事態を把握できないまま二人の様子を物陰からジッと見守るジュリア


『副団長とライオス先輩が模擬戦、一体何がどうして!?』


まさか自分にもその要因があることなど露とも知らず突然の事態に


戸惑うジュリア、そんな彼女の思いなど知る由もなく戦う前から異様な


緊張感と盛り上がりを見せる隊員達、しかし一番隊と二番隊の両陣営の


表情は対照的でもう戦いが待ちきれないといった表情でワクワクする


子供の様に嬉しそうに見つめる二番隊の面々に対し、悲壮感漂う表情で


祈る様に見つめる一番隊のメンバー達、その反応が現状の全てを物語っていた


アインゼルが言う通り戦場では常に先陣に立ち日に日に強さを増していく


ライオスに対し、戦場には出ているものの後方での指揮がメインの


アインゼルではもうライオスには勝てないだろうというのが


大方の予測であった、そんな中修練上の天井をぼんやり見つめるライオス


『何か不思議な感覚だな・・・』


ライオスはふとそんなことを考えていた、以前アインゼルとの模擬戦では


戦う前から自分でもわかるほど心が高ぶりギラギラしていたものだったが


今は自分でも驚く程落ち着いており気負うことなく心地いい程の


適度な緊張感で対戦に臨めていたからだ


『今から副団長と戦うってのにこの落ち着いた心境は・・・


 どうしたんだ俺は・・・』


そんな自分自身に自問自答していたところ二番隊の問題児コンビ


ラルフとブレッドが模擬戦用の木刀を持って来てライオスに差し出した


「隊長、今は誰が最強なのか我々に見せつけてください‼︎」


「勝ち負けじゃなくどう勝つかだけ注目していますから


ぶちかましてください‼︎」


部下たちの勝ちを確信しているかのような激励の言葉に応える事はなく


微かに微笑んだだけのライオス、そして聖騎士隊員全員とジュリアが


静かに見守る中で修練場中央にベルフォードが立ち両者を見渡し


上げていた手を振り下ろした


「それでは始め‼︎」


掛け声とともに模擬戦は始まった、しかし開始早々一気に攻めかかる


かと思われたライオスが皆の予想を裏切り静かにジッと構えていた


以前であれば開始の合図とともに嵐のような攻撃を繰り出していた


ライオスだっただけに見ていた皆も驚きを隠せなかった、その姿を見た


アインゼルは別の意味で驚いていた


『何という落ち着いた構えだ・・・以前なら今にも噛み付いて来そうな


闘気と殺気を隠す事なく撒き散らす獣のような剣士だったのに


この一部の隙もない重厚な構えに分厚い壁を相手にしているかの様な


 闘志と圧迫感・・・これ程の剣士となったかライオス!?


これは全盛期のベルフォード様、いやそれ以上かもしれん・・・


しかしどれほどお前が強くなろうと簡単に負けるわけにはいかんのだ‼︎』


そう考えたアインゼルは意を決したかの様に先に仕掛けた


閃光の様な連続攻撃がライオスに襲いかかる


以前と変わらず衰えを感じさせないその攻撃に


思わず見ていた者達から“おお〜”という歓声が上がる


不安げに見守っていた一番隊のメンバーの表情にもやや明るさが見えた


しかしそんな周囲の反応をよそにアインゼルの攻撃を難なく


受け切っていたライオスは冷静にその攻撃を分析していたのだ


『さすがに速くて鋭い連続攻撃、狙いも正確で美しい太刀筋、まるで


剣士の見本みたいな人だな・・・でも見える、初めて戦った時は


まるで剣筋が見えなかったが今なら見える、正直速さだけなら


 ジュリアの方が速い、正確さもジュリアと変わらない・・・


 副団長相手にこんな戦いができるなんて、これもジュリアのおかげかもな』


そんなことを考え思わず顔がほころんだ、その意味深な笑みが


アインゼルを始め見ていた皆には余裕で不敵な笑みに映ったのだ


思わず気負うアインゼル、その瞬間ライオスの猛攻が始まった


以前より荒さが消え鋭さを増したその怒涛の攻撃は徐々にアインゼルを


追い詰めていく、防戦一方となりジリジリと下がるしかできない


アインゼルの姿にもはや勝敗の行方は誰の目にも明らかと思われた


しかしその瞬間、嵐の様なライオスの攻撃がピタリと止まったのだ


対戦相手のアインゼルはもちろんの事、見ていた他の者達もなぜ


ライオスの攻撃が止まったのか理解できないでいた


そしてその理由にいち早く気付いたのはジュリアだった


『ライオス先輩の様子がおかしい!?』


ライオスは顔を歪め厳しい表情を浮かべていた


『何だ、急に目がくらみ出した・・・腕も体も痺れて来て力が入らない


一体俺の体はどうなってしまったんだ!?』


そうとは知らないアインゼルはここぞとばかりに反撃に出る


原因不明の体調不良で急速に失速してしまったライオスは防戦一方になり


攻守が入れ替わる、嵐の様に攻めまくるアインゼル


「どうしたライオス、一体どういうつもりだ‼︎」


相手の急激な失速に納得いかず苛立つアインゼルは思わず声を荒げた


苦悶の表情を浮かべ防戦一方のライオスは必死に考えていた


『益々めまいがひどくなる一方だ、体の痺れもどんどん広がるし


このままじゃいずれ・・・』


予想外の展開に呆然と見つめる二番隊の隊員達、逆に一気に盛り上がる


一番隊の面々、ジュリアだけが心配そうにライオスを見つめていた


『このままだとジリ貧だ、こうなったら一か八かだ‼︎』


ライオスは相手に鋭い眼光を向け目一杯の殺気を放った、その殺気を感じ取り


一旦間を開け仕切り直すアインゼル、激しい攻防から一転


静かな睨み合いの様な静寂が訪れた、皆息を呑み両者の動向を見守る


『何かあるのか!?』


アインゼルは目を細め警戒しながらライオスの一挙手一投足に注目した


するとライオスは大きな体を少し屈ませる様に体勢をやや低くし


剣先をアインゼルに向かって突き立てた、今まで見せたことの無い


その構えに一同がざわつく、そしてそれに一番驚いたのはジュリアだった


「あの構えは私の・・・」


ジュリアが思わず呟いた、ライオスは正体不明の体調不良に意識も


朦朧として来ており体も限界に近かった


『もう体に力が入らない、時間が経てば経つほど不利になるだろう


打ち合うことも動き回ることもできない今、この一撃に賭ける‼︎』


意識も混濁し始める中でそう考えたライオスは無意識の内に


ジュリアの構えを取っていたのだ、息苦しいほどの静寂が場を包み込み


重苦しい空気が二人にのしかかる、ライオスの構えから感じさせる


気迫と闘気”防御を捨てこの一撃に全てを賭ける“と公言している


かの様なその目に、思わず気圧されそうになるアインゼル


その気迫と意気込みに負けない為受けて立つしか無いと判断し決断した


永遠に続くかと思われた重苦しい空気を切り裂くかの様に


アインゼルが仕掛けた、自分の持てる力の全てを込め全身全霊の一撃を


ライオスに繰り出す、それに呼応するかの様にライオスも仕掛ける


防御も捨て力も込めずアインゼルの胸元ただ一点だけを目指し


剣を走らせる、両者が閃光のように交錯し一瞬で決着はついた


次の瞬間ライオスは片膝をつき蹲った、それと同時にアインゼルはライオスの


一撃を受け後方に吹き飛んでいた、5m程吹き飛び壁に激突し床に倒れて


動けなくなっていった


「勝負ありそこまで‼︎」


ベルフォードが高らかにそう宣言し勝負は終わった、床に倒れ込んでいる


愛弟子に駆け寄り回復魔法を施すベルフォード、しばらくすると


アインゼルはゆっくり起き上がり一、二度首を振った後、ライオスに


近づいて来て右手を差し出した


「負けたよライオス完敗だ、あの構えはジュリアのか!?


 まさかお前があんな攻撃をしてくるとは夢にも思わなかったぞ


 もしかして以前から考えていたのか?」


アインゼルが完敗を認め友好的に話しかけてきたが、ライオスの耳には


入っていなかった、もはや全身に力が入らず意識もおぼろげでアインゼルの


話し声もどこか遠くで聞こえてるかのような錯覚を感じていた、次の瞬間


ライオスは意識を失いその場に卒倒した、ようやくライオスの異変に気づき


慌てて指示を出すアインゼル


「おいどうしたライオス、しっかりしろ‼ 早くライオスを医務室に運べ


 ベルフォード様早くライオスに回復魔法を、それとこれは暗黒魔法


 による呪いもしくは毒である可能性もある、大至急神官を呼べ‼


 そして周囲を警戒し怪しい者がいないか二人一組で見回りを行え


 魔族の可能性も否定できない、いつでも戦えるように戦闘態勢を崩さず


 心構えだけはしておくように、以上だ‼」


先程までのお祭りムードはどこかへ吹き飛び、一転して緊張感漂う状況に


陥る、しかし皆慌てることなく指示通り的確かつ迅速に動く隊員達


それは百戦錬磨の経験と鍛え抜かれた精神、厳しい訓練の賜物と言えた


両手を口に当て小刻みに震えながら心配そうに物陰から覗き込む少女を除いて





「ここは・・・」


ライオスは医務室のベッドの上で目を覚ました、ふと横を見ると


アインゼルが付き添う様に椅子に座りながら見守っていた


「ようやく気が付いたか、神官の処置によりにより体は回復したはずだが


 もう少し休んでいるといい・・・」


まだおぼろげな感覚の中で力なく問いかけるライオス


「副団長、俺は一体どうなったんですか?」


「お前は私との模擬戦が終了と同時に倒れて意識を失ったんだ


 団長や神官達の処置によって事なきを得て今医務室で休んでいる


 という訳だ、神官達の話ではどうやら毒を使われたらしい


 今、聖騎士隊員全員が周りに怪しい者がいないか捜索している所だが


 まだ不審者や魔族は見つかっていない・・・」


その話を聞いてぼんやりと天井を見つめながら考えるライオス


『毒か・・・一体いつ毒を盛られた?模擬戦の直前には何も


 口にしていないし、毒ガスの様な物を使われたのなら俺だけ


 被害に合うのは変だ・・・はっまさか!?あの時の・・・』


ライオスがそんな事を考えているとアインゼルがスッと立ち上がり


ベッドの上のライオスを見下ろすような形で口を開いた


「もう大丈夫そうだなライオス、今日一日はここで休むといい


 私もこれから不審者がいないか見回るのと同時に皆に警戒を


 呼びかけるつもりだ、もう今日は仕掛けて来ないとは思うが


 念のためお前も警戒を怠るなよ」


そう言うと背中を向け部屋を出て行こうとする、しかし入口の所で不意に


立ち止まりボソリと独り言の様につぶやいた


「お前はそんな状態で私と戦い勝ったのか・・・本当に・・・」


絞り出すようなその声に何も声をかける事の出来ないライオス


その後はアインゼルは何も言わず医務室から立ち去って行った


そんな後姿を複雑な思いで見つめるライオスであった





結局不審者らしき人間や魔族は見つからずこの日は解散となった


そんな時、医務室の外で心配そうに見つめる人物がいたジュリアである


事の顛末をこっそり見ていたジュリアだったが出て行くタイミングを逃し


ライオスには会いそびれていたのだ


『どうしよう、ライオス先輩はもう大丈夫みたいだけど・・・』


先程まで城内を捜索していた隊員達と何度か出くわしたジュリアは


隊員達からライオスの状況を知り胸をなでおろしていた


”私が今日ここに来たことは父には内緒にしてくださいね”と


出くわした隊員達にはそう告げライオスの容体をこっそり聞いていたのだ


皆快くうなづき承諾してくれた、そんなジュリアが医務室に入って行くか


どうか迷っている時、ライオスが医務室から出て来たのだ


『あれ?今日は医務室で休む予定だと聞いていたけど・・・寄宿舎に


 帰るのかな?』


ライオス達聖騎士隊員はいざという時即座に出撃できるように城内の寄宿舎で


生活している、その寄宿舎に向かうライオスに声をかけようと思った


ジュリアだったが背中から感じるそのただならぬ雰囲気に声をかけられ


なかったのだ、ライオスは思い詰めたような表情でスタスタと早足で


歩を進める、元々歩幅が違うジュリアは付いて行くのがやっとだった


するとある部屋の前で立ち止まりノックもせずにいきなり乱暴に


ドアを開けた、部屋の中には二番隊の二人ラルフとブレッドがいて


ライオスの予期せぬ訪問に驚きの表情を浮かべていた


「隊長・・・もうお体はよろしいんですかい?」


「元気になって何よりです・・・心配したんですよ」


二人のそんな言葉に耳も傾けずズカズカと近づき二人の胸倉を掴んだ


「一体何をなさるんですかい隊長!?」


「放してください隊長、く、苦しい・・・」


片手づつでラルフとブレッドの胸倉を掴みそのまま持ち上げるライオス


両者とも180㎝以上ある屈強な男なのだが軽い荷物でも持ち上げる様に


二人の体は宙に浮き地面から離れた両足をバタつかせていた


「俺の質問に答えろ、今日の模擬戦で俺に渡した木刀の持ち手の部分に


 お前らが毒を塗ったな!?なぜだ、なぜそんな事をした!?」


一瞬ギクリとする表情を見せたラルフとブレッド、しかし顔を背け


とぼけ顔でしゃべり始める


「何の事ですかい?俺達にはさっぱりわからないんですが!?」


「その通りです、俺達がそんな事する訳ないじゃないですか!?」


すると右手で持ちあげていたラルフを壁に勢いよく放り投げたのだ


「ゲハッ!?」


壁に強烈に叩きつけられ床にうずくまるラルフ、背中から強打したため


一時的な呼吸困難を引き起し痛みと苦しさでもだえ苦しむラルフ


今度はそんなラルフの胸倉では無く両頬を右手で掴みそのまま持ち上げた


顎を掴まれているのでしゃべることもできずうめき声を上げながら


恐怖の表情を浮かべるラルフ


「もう一度だけ聞く、なぜあんなことをした!?答えないなら


 このまま顎を握り潰す、そうなったらもうしゃべれないぞ、幸いお前が


 しゃべれなくなってももう一人いるからな、さあ選べ理由を話すか


 顎を潰されるか、あと5秒だけ待つ、5、4、3、2・・・」


「ふぁきゃりました、ひゃべりまふ、ひゃべりまふから・・・」


ライオスはラルフを掴んでいた手を放し鬼のような表情で見下ろしていた


放されたラルフは床に座り込みゼイゼイと息を荒げながらも


静かに話しはじめた


「実は・・・俺達は命令されたんです、隊長の木刀に毒を塗れと・・・」


その言葉に再び怒りの表情を見せ胸倉を掴むライオス


「いい加減な事を言うな、副団長がそんな事する訳ないだろ‼


 一番隊の奴らに金でも積まれたのか!?」


「嘘じゃありません、本当に命令されたんです俺達の立場では


 断れなかったんです、わかってください」


「お前まだ言うか、自己保身の為にそこまで副団長を貶めようとするなら


 本当にその顎叩き割るぞ‼」


その時傍で見ていたブレッドが割って入る様に口を挟んだ


「副団長じゃありません、我々に命令したのは・・・」


「じゃあ一体誰の命令だというんだ、答えろ‼」


ライオスの質問に渋々ながら答えるブレッド、その名前を聞いて愕然とする


ライオス、しばらく呆けていたが思い立ったかのように部屋を


飛び出して行った





ライオスの後をつけていたジュリアはライオスがラルフとブレッドの部屋に


入って行った事は確認したが部屋の中にまで入って行く訳にはいかず


その後の話の内容はわからないまま部屋の外でジッと待っていた


部屋の中からはライオスの怒鳴る様な声や物騒な物音が度々聞こえてきており


ハラハラしながら見守っていたが突然部屋からライオスが飛び出してきて


入る時よりも鬼気迫る表情で廊下を走って行ったのだ、呆気に取られるも


再び追いかけるジュリア、ライオスはある部屋の前で立ち止まり再び


ノックもせずにドアを勢いよく開けた


「何だねいきなりノックもせず、何のつもりだライオス」


部屋の中にいたのはベルフォード団長であった落ち着いた態度で


ジッとライオスを見つめていた


「なぜですか団長!?ラルフとブレッドに命じて俺の木刀に


 毒を塗らせたというのは本当なんですか!?」


その言葉にしばらく無言で微動だにしなかったベルフォードだったが


静かに口を開いた


「そうだ、私が命じた・・・お前を負けさせるためにな」


そのベルフォードの言葉に信じられないといった表情を浮かべ


愕然とするライオスであった。
















 

 



 

 

 

 


 





ライオス編も4話となりました、いかがだったでしょうか?外伝もライオス編が終わると

トリは主人公格(それにしては存在感薄いですが・・・)のルキアのみです、ようやく

ルキア編も話の内容も決まりつつあり構想中ですので、また近い内に載せたい思います

もう少しだけライオス編が続きますので、また懲りずにおつきあいいただけると嬉しいです、では。

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