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外伝 世界最強への道

登場人物


ルース・ライオス…祖国の英雄ベルフォードに憧れ聖騎士隊に入隊する、素質と体格に恵まれ世界最強の剣士を目指す

レインヘル・ベルフォード…数々の武勇伝を持つ祖国の英雄”覇剣鬼”の異名を持つ程激しい攻撃が特徴の最強剣士、回復魔法も使う事ができるベルドルア聖騎士団の団長

ベルゲン・アインゼル…ベルドルア聖騎士団の副団長、ベルフォードの愛弟子で秘剣”霞斬り”という技を使う

レインヘル・ジュリア…ベルフォードの一人娘、小柄で非常に美人だが父の名を継ぐ最強剣士を目指している

【思う想いは重く我が身も心も焦がすものなり】


聖教神師団聖書黙示録 第三章 


女神ミューゼの情愛 より抜粋



ここはベルドルア聖王国の居城メイラード城


世界では魔族の侵攻が続き人類存亡の危機を迎えていた頃


”人類最後の砦”と言われた城である、時はルキア達が


魔王アドギラルロックを倒す三年前に遡る、魔王の出現により魔族によって


次々と人間の国は滅ぼされて行く中でこのベルドルア聖王国だけが


魔族の侵攻を退け続けていた、その理由はメイラード城が難攻不落と言われた


名城という事もあるが、世界最強の軍団と名高い騎士団の存在が大きかった


その中でも聖騎士団長レインヘル・ベルフォードは別名”覇剣鬼”と


呼ばれており剣士でありながら回復魔法も使いこなす最強の剣士である


その武勇の数々は生きながらに伝説となるほどでこの国に住む者ならば


大人は勿論の事子供でも知らない者はいなかった、そのベルフォードが


徹底的に鍛えあげ作り上げた精鋭軍団がこのベルドルア聖騎士団であった


この国には一万人の兵が常駐しているのだがその中の最精鋭である


500人が聖騎士団に入隊する事が出来る


聖騎士と一般兵では待遇の差は勿論の事、聖騎士という称号は大変な


名誉であり聖騎士団の一員というだけで英雄扱いされる程であった


だからこそ他国からも多くの腕自慢が集まって来ては聖騎士団への


入隊希望者が後を絶たなかった、この国に住む男の子は誰もが聖騎士に憧れ


騎士団に入りたいという夢を持っていた、そんな子供の中の一人に


ライオス少年がいた、ベルドルア聖王国で生まれ育った彼はそれが


当然であるかのように自然と聖騎士団に憧れ入隊を夢見たのだ


彼の父親もベルドルアの兵であったがついには聖騎士になる事はできなかった


しかし一度だけ聖騎士への入隊試験を受けた事があった


結局聖騎士団への入隊こそ敵わなかったものの、その試験の際に


祖国の英雄ベルフォードに声をかけてもらったというのが父の自慢だった


母を早くに亡くし父も魔族との戦いで亡くすと身寄りの無かったライオスは


年齢を誤魔化してベルドルアの軍に入隊した、元々体は大きく年齢相応には


見えなかったのと入隊の審査はそこまで厳しい物では無かった事も幸いし


難なく軍に入るとあっという間に頭角を現す事となった


その大きな体に似合わず俊敏な動きができるライオスはメキメキと力をつけ


軍の中でも頭一つ抜けた存在となった本来、余程の武勲が無い限り


一般兵として一年在籍しないと聖騎士団への入隊試験は受けられないのだが


一般兵を指揮する分隊長からの強い推薦によりわずか半年で入隊試験を


受ける事となったライオス、本来ならば一般兵としても入隊できない


年齢なのだからどれほど高い素質を持っていたのかが計り知れた


そして聖騎士団への入隊試験というのは実戦形式の模擬戦でおこなわれる


聖騎士団員の定員数は500人と決められている為、一人入隊すると


いう事は一人がクビになるという事である、正確には一般兵に格下げになり


入れ替わる事になるのだ、聖騎士団員には毎月二度の模擬戦による順位戦が


義務付けられておりそれにより全ての隊員に席次が付けられる、その席次の


最下位である500番目の騎士が入隊試験の相手となるのだ


だからこそ相手も必死で戦う聖騎士になる事が大変な名誉である様に


一般兵に格下げになるという事はその者にとってとてつもない屈辱だからだ


それこそ死に物狂いで戦い自身の地位と名誉を守ろうとする


過去一般兵へ格下げとなった元聖騎士兵の中で屈辱に耐えられず


退役した者10名、自殺者すら2名出たほどなのだ、そんな中で事実上


史上最年少で聖騎士への入隊試験を受ける事となったライオス


相手は二度の入れ替わり戦を潜り抜けて来た席次500番目の聖騎士


ベラードという男だった、目を血走らせ息も荒げながら凄い目で


ライオスを睨みつけるベラード騎士団長ベルフォードを始め聖騎士全員


が見つめる中、入隊試験の模擬戦が開始された


「それでは始め‼」


ベルフォードの掛け声と共に模擬戦が始まった、開始早々の


速攻で一気に勝負をかけるベラードしかしその瞬間、ベルフォードを始め


聖騎士全員が信じられない光景を目の当たりにする、何とライオスは


たった一撃でベラードをねじ伏せたのだ強烈な一撃を喰らったベラードは


地面に大の字に倒れ完全に意識を失っていた


「勝負あり、そこまで‼」


通常の入隊試験ではこの開始早々の速攻で約8割の人間が倒され不合格となる


残り2割の者でもそのままジリジリと押され最後は押し切られる事も多い


実際に入隊試験の合格率は5%程度なのだ、そんな中あまりの圧勝劇に


言葉を失う聖騎士達、我に返った係の者が次の対戦相手を呼んだ


「で、では次の者サリエル前へ‼」


最初の対戦相手を倒した時点でライオスの入隊試験合格は決定したのだが


新しく入隊した者の順位を決める為に他の者と席次の順番通りに戦い続け


負けた時点でその者の隊の中での席次が決まるのだ連戦となる者には


回復魔法で体力や怪我を直し負けるまで続けるというのが


この聖騎士入隊試験のシステムである、席次499番目であるサリエルが


次の模擬戦の為に前に出ようとした、その時である


「少し待て‼」


ベルフォードが待ったをかけたのだ,今までの入隊試験の中で一度も


そんな事は無かっただけに皆が驚きの表情を見せる


そしてベルフォードの口から出た言葉に誰もが耳を疑った


「アインゼル、お前が相手しろ」


その言葉に皆が絶句した”ベルゲン・アインゼル”


ベルドルア聖騎士団の席次1位であり副団長を務める男である


幼少の頃その才能をベルフォードに見いだされそれこそ彼が自分の全てを


教え手塩にかけて育てた正に愛弟子ともいえる剣士である


近年ではベルフォード自身、後方で指揮したり実務や調整といった


仕事も増えて来ている為実質、聖騎士団のトップとして先頭で戦うのは


ほぼアインゼルに任されていた、今では聖騎士団最強の剣士は


このアインゼルであるという声も少なく無い、そんな男が


新入隊員の試験に指名されたのである、アインゼル自身も驚きの表情を見せた


が彼にとって師匠であり上司であるベルフォードの言葉は絶対である


指示通り素早く出るとライオスの前に立った


『すげえ、アインゼルだ!?あの”風の剣士”アインゼルが俺の相手に!?』


ライオスは心躍った”風の剣士”それはアインゼルの二つ名として


世に知られている異名である、師匠のベルフォードの剣は実戦的で荒々しく


相手をねじ伏せるようなスタイルなのだが、弟子であるアインゼルは


師匠とは対照的に非常に華麗で美しい剣技を誇る、特にそのスピードと


正確無比な連続技は相手に気付かれること無く切り裂くと言われ


そこからついた二つ名が”風の剣士”なのである、ライオスは思わず心躍った


「それでは始め‼」


開始の合図と共に今度はライオスが先に攻めた、若さを前面に出すかの


ような荒々しい剣撃を次々と繰り出し相手に襲いかかるがそれを全て


難なく捌いていくアインゼル、そしてアインゼルが攻撃に移ると


一気に劣勢に立たされるライオス、アインゼルの連続攻撃がライオスを


襲い両手足に次々と刀傷を付けていく、それを見た隊員達は少し安堵した


「ベルフォード団長がいきなりアインゼル副団長と戦えなんて言うから


 あの若造どれほど強いのか!?と思ったけど、さすがに一方的だな


 副団長の相手するのは百年早いぜ!?」


そんな声がこの勝負を見守っている隊員達からチラホラ聞こえてきた


しかしベルフォードとアインゼルは皆とは少々違う事を感じていた


特に直接手合せしているアインゼルは冷静さを装いながらも少し焦っていた


『私がこれほど攻撃しているのにまだ決められないとは!?


 コイツは技も知識もまだまだ未熟なのに勘だけでここまで


 やれるのか!?コイツがこのまま成長したら・・・』


そしてベルフォードが注目したのはライオスの表情である、一方的に


劣勢に立たされているのにもかかわらず嬉しくてしょうがないとばかりの


表情を見せるライオスにとてつもない恐ろしさを感じたのだ


目を細めジッとライオスの戦いを見つめていた


『こいつは・・・』


そして一方的に攻めながらも中々決めきれないアインゼルが


遂に本気になった、離れた距離からフェイントモーションの様な


仕草を見せ天高く剣をかかげると一気に剣を振り下ろす


「ぐああぁぁぁぁ~‼」


その瞬間、ライオスの肩口から大量の血が噴き出し、その場で膝をついた


「勝負あり、そこまで‼」


ベルフォードが叫ぶとアインゼルは何事も無かったように静かに剣を納め


その場をゆっくり立ち去った、治療の為に僧侶がライオスに近づき


回復魔法を施す、見る見るうちに傷口がふさがり血が止まった


傷だらけになりながらも目をギラつかせ、嬉しくてしょうがない


とばかりの表情を浮かべるライオス


『すげえ、やっぱアインゼルは強えぇぇ~でも俺は勝つ‼


 いつか必ずアインゼルに勝って”覇剣鬼”ベルフォードに戦いを挑むんだ‼』


完膚なきまで叩きのめされながらも嬉しくてしょうがないライオス


そんな姿を物陰からジッと見つめていた少女がいた事をこの時


ライオス自身も知らなかった





引きあげて来た愛弟子にベルフォードが小声でボソリと言葉をかけた


「秘剣まで使うとはな・・・どうだった奴は?」


そんな師匠の質問に対し少し恨めしそうに見つめるアインゼル


「ベルフォード様も人が悪い・・・”霞斬かすみぎりり”を使わなければ


 一気に勝負を決められませんでしたからね・・・あのまま


 戦っても勝てたんでしょうが長引くと苦戦しているように


 見えてしまいますから・・・」


そう言い放ち立ち去った




そして翌日からライオスの聖騎士としての生活が始まった、ライオスは正式に


聖騎士団に入隊するとメキメキと力をつけあっという間に頭角を現した


ベルドルア聖騎士団の使う剣の流派はベルフォードが幾多の戦いの中で


編み出した剣術で”覇剣流”と呼ばれていてとことん実践派を突き詰めた


剣術である、派手な必殺技とか奥義、秘剣などとは無縁の地味で泥臭い


内容の剣術である、ベルフォードの持論は


”人それぞれ体格や筋肉の付き方も違うのに誰にでも使える


 奥義や秘剣などありはしない‼”


というモノだった、だから基礎的な事を重視し実戦に合った技を地道に反復し


鍛錬を重ねたその上で”自分に合った剣術を磨け”という考えである


だからアインゼルの秘剣”霞斬り”も彼の完全なオリジナルであり


彼にしかできない技なのだしかしそんな”覇剣流”の考えと


鍛錬法はライオスの体と精神に非常になじんだ、そもそもベルフォード自体


荒々しく力でねじ伏せる戦闘スタイルでありそんなベルフォードの経験を元に


考えられたこの”覇剣流”はまるでライオスの為にある様な剣術だった


元々素質と体格に恵まれておりセンスとパワーだけで戦ってきた


ライオスに実践派の技が加わるとその成長は加速度的に伸びていき


半年後には二番目の席次を獲得したそれ以来、月に二度ある順位戦の最終戦は


席次1位のアインゼル対席次2位のライオスという対戦がもはや定番と


なりつつあった、今やこの二人は他の追随を許さない程抜けた存在となり


この頃になるとようやく入隊試験の折にベルフォード団長が


ライオスの相手に愛弟子アインゼルを指名した事を皆が納得する事となる


そして今回の順位戦もまたこの二人の対戦となっていた


隊員全員が見守る中勝負は10分を過ぎるという長期戦と


なっていた、最近のこの両者の戦いは攻めるライオスに守るアインゼル


という図式になっておりパワーと勢いで押しまくるライオスに対し


技とスピードで対抗するアインゼル、両者一進一退の攻防が続く


その時アインゼルが秘剣”霞斬り”のモーションに入った


『させるかよ‼』


ライオスは目をギラつかせ一気に距離を詰めるとアインゼルの秘剣を封じた


「くっ!?」


思わず厳しい表情を見せながら秘剣を出す事無く受け止めるアインゼル


これまでのこの二人の対戦では最後に必ずアインゼルの秘剣”霞斬り”が決まり


決着がついていた、しかし今回ライオスはアインゼルの秘剣を徹底的に


マークし”霞斬り”を出させない事に集中した、アインゼルのこの秘剣は


剣を持つ手を極限まで脱力し鞭の様にしならせることによって空間を切り裂き


真空の刃を発生させる奥義である、これはアインゼルの持つ筋肉の柔軟さが


あってこそ成せる秘剣なのだが、技を出す前に剣を高くかかげる


という独特のモーションがある為ライオスはその際に距離を詰め


秘剣を封じたのだ、アインゼルは再び距離を取り秘剣のモーションを


取った、しかし今回はライオスは不動のままジッとアインゼルを見つめていた


『くそっ!?なぜだ、なぜわかるんだ!?』


思わずアインゼルが歯ぎしりする、なぜなら今回のモーションは単なる


フェイントであり”霞斬り”の本当の構えでは無いからだった


アインゼル自身この秘剣の持つ欠点は重々承知しており、これまでもその事に


気付きそこを突いて来た対戦相手も数名いた、しかしそれを全て退けてきた


のはこのフェイントモーションを織り交ぜていたからである


見た目的には全く同じ構えなのだが偽装のフェイントを繰り出す


事によって相手を誘いカウンターで迎撃するという戦術である


このフェイントの長所は一度や二度相手が引っかからなかったとしても


何のリスクも無いという点である、相手にしてみればその構えが


本物か偽装かを二分の一の確率で当てたとしても有利になる訳でもなく


はずれた時には敗北が待っているという理不尽な賭けにしかならなかった


しかしライオスはこのモーションの真贋を100%の確率で当ててしまうのである


アインゼルのこの構えは本物かフェイントかは見た目では全く判断できない


それほどまでにこの”霞斬り”はアインゼルが心血を注ぎ築き上げた技なのだ


だからこそ不思議に感じ苛立つアインゼル


『この構えには癖など無いはずだ・・・アイツはどうやってこの構えの


 真贋を見分けているんだ!?』


そんな考えを巡らせながら必死で原因を模索していた、しかし


そんな考えは無駄であった、なぜならライオスは癖を見抜いて


真贋を見分けていたのではなかった単に”感じていた”のである


フェイントには無く本物にはある”殺気”である、ライオスはそれを


嗅ぎ分けていたのだ、秘剣を封じられたアインゼルは苦戦した


ライオスが一方的に攻め続ける中でそれを見守っていた全員に


”世代交代”という文字が頭に浮かぶ、その時である、勝ちを確信した


ライオスのわずかな隙を突きアインゼルの攻撃が決まった


「勝負あり、それまで‼」


勝負の決着を告げるベルフォードの声が響いた、思わぬ逆転劇にザワつく城内


「くそっ‼」


ライオスは叫びながら思わず剣を地面に叩きつけた


まだ戦い足りないとばかりに全身で悔しがる態度を示すライオスに対し


大量の汗をかきながら片膝をつきハアハアと息を切らせているアインゼル


どちらが勝者なのかわからないような両者の姿を見てその場にいた全員が


感じた事、それは”もうライオスの時代が来る”という動かしがたい流れ


であった、アインゼルは今29歳この10年ばかりは不動の席次一位を守り続け


円熟期を迎えているといってもよかった、対してライオスはこの時19歳


体もどんどん大きくなり鍛錬により剣技に磨きをかけ日に日に


強くなっていくのが目に見えてわかる程の成長ぶりを見せていた


今では稽古相手にも困るほどの戦士に成長しこれから更に強くなる


のは疑いようのない事実であろう・・・とそう思われていた


その翌日の事である、団長であるベルフォードが隊員全員に


集合をかけると皆の前で宣言した


「皆の者に良く聞いて欲しい、今おこなわれている月二回の


 席次順位戦だが現在一位であるアインゼルを永久筆頭位とし


 順位戦には参加させない事とする、そして今後の魔族との戦いでの


 前線作戦指揮は全てアインゼルに任せる、以上だ‼」


そう宣言しその場を後にするベルフォード、しかし残された隊員達は


その言葉にザワついた、何せ昨日の今日である、アインゼルとライオスが


今度戦えばおそらくライオスが勝ち席次一位の座はライオスのモノとなる


であろうと誰もが考えていたからだ、確かにベルフォードの措置も


わからなくはなかった、なぜなら席次一位というのは単に一番強いという


称号だけではなく魔族との戦いにおいて前線の総指揮を任される立場も


兼ねているからである、アインゼルは剣の強さだけでなく、指揮官としても


非常に優秀で常に先頭に立って戦いながら常に冷静沈着で的確な


指揮を部隊に出していたからだ、その為隊員からの信頼も厚く全員が


一丸となって戦う事が出来た、しかしこの総指揮が若いライオスに


代わった場合、本当にまともに戦えるのか?という不安が常に付きまとうと


同時にどう見てもライオスは冷静沈着に全軍の指揮を出せるようなタイプには


見えなかったからだ、そういう意味では今回の措置は極めて的確なモノと


言えなくもなかった、しかしこのベルドルア聖騎士団の根源は


”強い者が上に立つ”というベルフォード自身が決めた信念である


それを覆してまでのこの決定に隊員全員が理解はできても納得しかねる


という複雑な心境であった、特に頂点の座まであと一歩という


所まで来たライオスの気持ちを考えると皆いたたまれない気持ちにもなった


当のライオスが何も言わず不満な態度も一切見せなかった為、その後その事に


ついて誰も不満を口にする事は無かった






そんな事があってから二年の月日が過ぎた、ベルドルア聖騎士団では


あの日以来組織改編がおこなわれ新たな仕組みが確立した


それは500人いる聖騎士隊員を100人づつの中隊に分け


席次一位から五位までの者をそれぞれの部隊長に任命するというものであった


前線での全軍の総指揮は筆頭席次であるアインゼルが執るが


それぞれの部隊長にはある程度の裁量権を与えられ自軍を思う様に


動かしても良いという権限をもらったこれには隊員皆奮い立ち我こそは


部隊長に!?と競い合った、しかしそんな中で少々困った問題が起きて


しまう、その内容はこうである、席次筆頭のアインゼルは全軍の総指揮と共に


一番隊の指揮権も兼ねていた、席次が1~5位の者達は各部隊長に任じられる


が6位以降の者は入隊する部隊を自分で選択する事ができた、その結果


一番活躍できそうなアインゼル率いる一番隊に席次上位者が固まり各部隊に


明らかな実力格差が生じて来たのだ、アインゼルも実力者が多く完全な


自軍である一番隊は作戦上扱いやすい為、戦略も一番隊中心で立案する事が


多くなった、すると尚更一番隊に活躍の場が多くなり華々しい戦果を挙げる


のは一番隊に集中した、その結果一番隊はエリートの中のエリート


”華の一番隊”と呼ばれるようになる、そんな中で二番隊の隊長である


ライオスはその性格と戦闘力を生かし敵に対して先陣を切る”突撃隊”として


活躍する事が多かった、すると徐々に二番隊に入ってライオスと共に戦いたい


という人間も増え始めたのだ、元々一番隊はベルドルア聖王国出身者が多く


祖国の英雄ベルフォードに憧れ祖国の為に戦いたいという信念を持っている


人間が多く、他国から腕っぷし自慢で入隊して来た者達をやや蔑む傾向が


あった、そんな空気になじめず強さのみを信じる者達は一番隊では無く


ライオス率いる二番隊を希望した、その結果祖国への信念で戦う


エリート意識の強い一番隊と他国からの腕っぷし自慢のならず者集団


二番隊のライバル意識が高まり常にいがみ合う事となる


戦場では常に二番隊が先陣を切り敵の機先を制して相手の陣形を崩し


隙を見せた相手に向かって一番隊が掃討するという基本戦略が確立していった


両隊のお互いへのライバル意識が相乗効果を生みとてつもない戦果を挙げる


特に二番隊の勢いは凄まじくライオスを先頭に敵陣に斬りこむとそこには


例外なく血の雨が降り注いだ、二番隊の隊員達はライオスの背中について


敵に斬りこむ時感じる無敵感は麻薬の様な効果があるとも言っており


元々命知らずの荒くれ者が多い二番隊の戦いぶりは味方すら戦慄を覚える程


凄まじく、いつしか”鮮血の二番隊”と呼ばれることになる、そんな両隊が


一番いがみ合うのは月二回の席次順位戦だった、今までは自分の事だけで


精一杯だった隊員達が他の人間を気にするようになったのだ


特に一番隊員と二番隊員が戦う時などはものすごい盛り上がり様で


まるで他流派同士の対抗戦の様であった、その勝敗に一喜一憂し


今回は何勝何敗・・・とまで言い出す始末だった、そんなある日事件は


起こった、その日の席次順位戦で初めて二番隊員が一番隊員に勝ち越した


のだ、その時の二番隊員の喜び様と一番隊員の悔しがり様はあまりにも


対照的で涙まで流す者すらいた、そんな事があったその日の夜事件は


起こった、食堂で一番隊員が二人で食事をしていたところ二番隊員である


ラルフとブレッドという気の荒い二人が食堂に入って来た


一番隊員の二人は顔をしかめたが一度睨むような視線を向けただけで無言の


まま再び食事を続けた、そんな様子を見てニヤリと笑うラルフとブレッド


「あ~あいいよな一番隊の御方達は、いつも俺達が一番危険な仕事して


 いるってのに一番おいしいとこだけ持って行って・・・是非とも変って


 欲しいくらいだぜ!?」


「そう言うなよラルフ、俺達二番隊が血を流して頑張っているから


 一番隊の御方たちは楽に手柄が立てられるんだから・・・


 ”お花畑の一番隊”とはよく言ったものだぜ がっはっは~」


その挑発とも取れる言葉を聞いた一番隊の二人が激怒して立ち上がる


「何だと貴様ら‼祖国を守り続けてきた我等一番隊を愚弄するとは許さんぞ‼」


「その通りだ、祖国への忠誠も戦士としての信念も無いようなならず者共が


 貴様らの様な下賤な者に蔑まれる覚えはないわ‼」


その言葉に反応し怒りの表情を浮かべ思わず立ち上がるラルフとブレッド


「何だとやんのかコラ!?」


「もうお花畑部隊の時代じゃねーんだよ、弱い奴らはすっこんでろ‼」


そう言い放つとお互い駆け寄る様に近づき殴り合いを始める一番隊員の二人と


二番隊員の二人、その騒ぎを聞きつけ止めに入る者もいたが他の一番隊員と


二番隊員も次々とその喧嘩に参戦する形となり食堂は大乱闘になった


結局アインゼルが止めに入るまで乱闘は治まらず怪我人数十名


骨折した者すら三人も出てしまった





騒ぎが治まりしばらくするとその報告を聞いたベルフォード団長は


両隊の長であるアインゼルとライオスを自室に呼び出した


「はぁ~~ いずれこうなるのではと心配していたが・・・」


目を閉じ首を振りながらため息をつくベルフォード


「申し訳ありませんベルフォード様、一番隊を始め隊員達にはよく


 言って聞かせますので・・・」


頭を下げ謝罪するアインゼル、そして再びベルフォードが口を開いた


「今まではお互いのライバル心がいい方向に作用していたから放っておいたが


 こうなると作戦の連携にも支障が出るかもしれん、さてどうしたもの


 か・・・」


そこに緊張感の無い口調でライオスが口を挟んだ


「別にいいんじゃないですか?たまの喧嘩ぐらい、ちょうどいい


 ガス抜きになると思えば・・・喧嘩の怪我なんざいざとなったら


 僧侶に治してもらえばいいんだし」


その発言に厳しい表情を見せ睨むようにライオスを見つめるアインゼル


「軍隊には規律と統率が必要だ、兵が好き勝手やって互いの確執によって


 作戦に支障をきたすような事態になったらどうするつもりなのだ!?」


「でもよ副団長、戦いには士気というものが重要だ、今の体制ならば


 お互いの対抗意識やライバル心もあって兵達の士気は非常に高い


 下手な事をしてその士気を下げる事こそが問題だと思うぜ!?」


「いやそんな事は無い、軍というのは単なる暴力集団では無いのだ


 だからこそ規律と秩序が重要でありそれが無くなれば無法者の野盗と


 なんら変わらなくなってしまう本来軍隊とは弱き人の為にあるべき


 盾であり鉾でなくてはならん、民の為の武器である軍隊に


 己の意思など必要ない‼」


「そうかな?いくら相手が魔族とはいえ所詮戦いとは殺し合いだ


 ならば何の為に戦うか、どういう気持ちで戦うかが


 一番重要だと思うぜ、確かに一番隊の連中の様に祖国の為に戦うという


 気持ちは尊重するし立派だとは思うが強くなりたい誰かに負けたくない


 という気持ちだって立派な戦う理由に成りえると俺は思っている


 そんな気持ちを削ぐような対応は賛成できない、それが俺の見解だ」


二人の意見は正反対に分かれ結論は出そうになかった、聞いていた


ベルフォードとしてもどちらの意見も間違っているとは言えないだけに


しばらく無言で考え込んだ


「わかった両者の意見を考慮したうえでどうするかは私からいずれ通達しよう


 話し合いはこれにて終了する」


アインゼルとライオスは立ち上がるとベルフォードに一礼して退室しようと


背中を向けた、その時である


「ちょっと待て、ライオスは残ってくれるか?お前には別の話がある・・・」


「はぁ・・・わかりました」


ベルフォードはアインゼルが退室した後ライオスを見て静かに話しはじめた


「実はなライオス、その・・・お前に会って欲しい人間がいるのだ・・・」


「はあ、そうですか・・・」


何かベルフォードらしくない歯切れの悪い言い方が気になったが


人に会うだけなら・・・と特に気にすることも無く従うこととする


すると”コンコン”と部屋の扉をノックする音が聞こえた


「入りたまえ・・・」


ベルフォードの声にガチャリと扉が開いた


「失礼します、レインヘル・ジュリア入ります‼」


入って来たのは若くて小柄の女性であった聖騎士隊員の練習着を身に纏った


その美少女はベルフォードとライオスに向って一礼した


「彼女は今度、聖騎士団の入隊試験を受ける予定の者だ、


 合格した暁にはお前の二番隊に預けるからよろしく頼むぞ!?」 


「はぁ!?」


思わず驚きの声をあげるライオス


「いやちょっと待ってください団長、こう言っちゃなんですが俺達二番隊は


 気の荒い連中が多くこんな女性が入る様な隊では無いですよ!?」


「そんな事はわかっておる‼しかし本人のたっての希望なのだ


 ワシだってこれを二番隊などに・・・」


ベルフォードはややイラつきながら吐き捨てる様に言い放った


その時ライオスはベルフォードの言葉に引っかかった


『ん!?そう言えばこの女の名前はレインヘル・・・』


ハッと気づいたライオスは思わず問いかけた


「もしかしてこの女性は団長のお嬢さんですか!?」


その問い掛けに無言でコクリとうなづくベルフォード


ライオスはジュリアをジッと見つめ思わずベルフォードに話しかけた


「あんまり団長に似てないっすね?」


ため息交じりに答えるベルフォード


「まあな、この子は母親似なのだ、しかし早くに母親を亡くしてな


 私が男手ひとつで育てたんだが・・・どこをどう間違ったのか剣士に


 なりたいなどと言いだしてな・・・」


その言葉にクスリと笑い話しはじめるジュリア


「あら、私は武門の家の人間として当然の選択だと思ってますわ、ベルドルア


 の英雄”覇剣鬼”の名を継ぐのはこの私、レインヘル・ジュリアです‼」


自信満々にそう言い放つジュリアの姿に再び大きな溜息をつくベルフォード


これがジュリアとライオスの初めての出会いであった。






今回の外伝はライオス編です、ようやく外伝も5人目となりゴールが見えてきました

外伝シリーズを挟むことで本編の話のリズムを崩してしまうのでどうかとも思うのですが

個人的にはこの外伝シリーズは非常に気に入っており、ついつい書き込んでしまう事も否めません

もう少し私のわがままにおつきあいください、次の更新は水曜辺りを予定しています

(未確定ですが(笑))では。

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