敵は本能寺にあり
登場人物
アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・。ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持っている
ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在
ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている
ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー
ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた
クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い
織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児
秀吉と共に中国地方へと旅立つルキア達を見送り、信長と共に
一人本能寺へと向かうフリニオーラ、現地に着くと早速札の製作に入った
一方、信長は数人の招待した者達と共に茶の湯を楽しんでいた
その日の昼は何事もなく過ぎていき正に嵐の前の静けさといった
穏やかさを感じさせた。
「ふう、ようやく完成です、思ったよりは早くできましたね
でも今からルキアさん達を追いかけるにはちょっと厳しいかな?」
フリニオーラが札を完成させた時には既に日が沈み
暗くなり始めた頃であった。
「さて、これからどうしましょうか・・・このお寺には
お風呂とかあるのでしょうかね?」
札を作り終えやや暇を持て余したフリニオーラはそんな事を呟きながら
廊下をうろついていると偶然信長とばったり出会した。
「あっ、信長公、皆さんはもうお帰りになったのですか?」
「うむ、どいつもこいつも妙にペコペコしながら帰っていたわ
いよいよ天下の行く末がワシに傾きかけてきたからな
誠に狡っ辛い奴らよ、ところでお主はルキア達と共に
行かなかったのか?」
「ええ、私は別にやることがありましたから、でも先程それも終えて
これからどうしようか?と考えていたところです」
そんな彼女の言葉を聞き、無言でジッと見つめる信長。
「そうか、ならばちょうど良い、今から少し話をせんか?」
信長の言葉に驚きを隠せないフリニオーラ。
「えっ!?私と信長公がですか?」
「ワシが相手では不満か?」
「いえ、そんな事はありませんが・・・」
驚きを隠しきれないまま連れられる様に信長の部屋へと付いていくフリニオーラ
信長と二人だけで話す事など、この五年間で一度もなかっただけに
(どんな話をするのだろう?)と心にやや不安に感じたまま
信長の前にちょこんと座った。
「そうかしこまらぬでもよい、もっと楽にせよ、ところで
お主は幾つになった?」
「え!?ああ私の歳ですか、私は十九に・・・あれ?
信長公、今日は何日でしたか?」
「ん、今日か?確か六月二十一日のはずじゃが・・・それがどうした?」
「やはりそうでしたか、今日は私の誕生日でした、ですから
私は今日で二十歳になりました」
どこか誇らしげなフリニオーラの言葉に優しく頷く信長。
「ほう、それはめでたいの、しかし二十歳で独り身とは
少し遅いのう、何ならワシがよい相手を探してやろうか?」
口に笑みを浮かべながら話す信長の言葉に対し、少しムッとした
表情を浮かべるフリニオーラ。
「この戦国の世ではどうか知りませんが、私たちのいた世界では
二十歳で結婚はかなり早い方です、だから行き遅れとかじゃ
ありませんよ、まだまだピチピチのギャルなのです
それにやりたいことがまだまだあるので結婚なんかしていられません
せっかくのお話なのですがお断りさせていただきます」
「そうか、残念じゃ、そのぴちぴちのぎゃるとかいうのが
何やらわからぬがお主の意図は理解した」
口では残念と言いながらも元々断られる事を想定して話し始めた様子で
どことなく楽しそうな信長。
「お話とは私の縁談のことだったのですか?」
「いや違う、それは単なる戯言じゃ、ワシが話したかったのは
もっと別の話じゃ」
話す口調と表情がやや真剣なモノへと変わる信長だったが
フリニオーラは逆に釈然としなかった。
『私の縁談を戯言で話すなんて、私がその気になっていたら
どうするつもりだったのでしょうか?まあ信長公の様子を見る限り
私が断るだろうと見越して話したみたいですが・・・」
少しムッとしているフリニオーラを見て、信長は思わず問いかける。
「どうしたフリニオーラ、何か気になることでもあるのか?」
「いえ、何でもありません、で、お話とは何でしょうか?」
「うむ、実は今後の事でな、中国の毛利を降せば後は九州の
島津くらいじゃ、もはや天下統一も時間の問題となったと言っていい」
「私もそれは聞いています、少し早いですがおめでとうと
言ったほうが良いですか?」
「そんな事を言わせる為にお主を呼んだのではない、実は
この日の本の国を統一した後のことを考えているのじゃ」
「随分と気が早いですね、信長公らしいと言えますが・・・
この日本を統一した後といいますと、世界征服でも考えているのですか?」
「もちろんじゃ」
フリニオーラの冗談交じりの発言を真剣な表情でキッパリ返す信長
少し皮肉を交えたつもりが大真面目で答えられたので逆に
戸惑ってしまうフリニオーラ、しかし信長は話を続けた。
「この世界には他にもいくつか国があることを知った、海を渡った隣国の
朝鮮や大陸(中国)はもちろんの事こと、遙か欧州などは
この日の本の国より群雄割拠していると聞いておる
ならばこのワシがその全てを統一し人類の平和と秩序を
保たねばならぬ、それがワシの使命じゃと思うておるのじゃ」
壮大な事を真剣に語る信長を茫然と見つめるフリニオーラ。
『信長公の考える事は相変わらずスケールが桁違いですね
でも大言壮語に聞こえないのがこの人の凄さなのかもしれません・・・』
「聞いておるかフリニオーラ?」
「えっ、はい、ちゃんと聞いていますよ、それで私に話というのを
そろそろ聞かせてはくれませんでしょうか?」
「うむ、別に勿体つけた訳では無いのだがな・・・
先日、お主は勝家と共に越後へと向かったはずじゃ
聞いたところ、その戦で凄まじい魔法を使ったらしいな」
信長の目が鋭く光る、先程までの優しい目とは真逆の
まるでこれからフリニオーラを尋問するかの様な厳しい視線を向け
無言で(嘘を言うなよ)とでも圧力をかけている様にさえ見えた
一方、その信長の問いかけに眉を潜めるフリニオーラ。
『う〜ん、越後では鬼神化した巨人族の群れと、リッチとなった
上杉謙信との戦いでしたからね、【ジェノサイド ディビジョン】と
【ダークフレアストーム】という私の中でも二大超魔法を
使ってしまいましたから・・・勝家さんの様に魔法を知らない
人から見たらさぞかし驚いた事でしょう、もし信長公が
〈その魔法をワシの為に使え〉とでも言われると少々
面倒なことになりかねませんね、さてどうしたものか・・・』
そんな事を考えながら上目遣いで信長を見つめるフリニオーラ。
それを察したのか、少し表情を和らげ静かに口を開く信長。
「お主は頭は良い様じゃが嘘がつけない性格をしておる様じゃの
そう警戒せずとも良い、異形の力が働いた時のみ助力を
頼むとルキアと約定を交わしているではないか、今更
ワシの為に存分に力を貸せとは言わぬ」
信長の言葉にホッと胸を撫で下ろすフリニオーラ。
そして信長の話は続いた。
「勝家の奴が先日の越後での事を興奮気味で話してきよってな
〈魔法という摩訶不思議な力はとてつもないモノであると〉
つい最近までお主たちの事をよく思っておらんかった
あ奴が掌を返す様に褒め称えておったわ、逆に秀吉の奴は
ワシに詳しい話は一切せぬ、いつも結果だけを簡潔に報告してきよって
真相を知ればお主たちを自分の管轄から外されるとでも
思ったのであろう、全く・・・出世しても小賢しいサルよ」
部下のことをどこか嬉しそうに話す信長を見て、自分も
少し嬉しい気持になるフリニオーラ。
「そこで本題じゃ、ワシはこれから世界へと手を伸ばすにあたって
魔法の力は必要不可欠と考えた、しかしお主たちとの約定を
違えるつもりはない、そこでじゃ、お主に魔法を
教授してもらおうという結論に至ったという訳じゃ
どうじゃ、ワシに魔法を教えてはくれぬか?」
あまりに予想外の内容に驚きを隠せないフリニオーラ。
「私が信長公にですか!?」
「そうじゃ、以前ワシには魔法の才能があると太鼓判を押してくれたのは
お主自身ではないか、忘れたか?」
「いえ、忘れてはいませんが、あまりに唐突で・・・
しかし魔法の習得となると一朝一夕てはいきませんよ
最低でも二年、上級魔法を使いこなそうとなさるのであれば
三年は必要かと、以前信長公には〈そんな暇は無い〉と
一蹴されましたが?」
「うむ、あの時とは状況が変わったからの、この国を統一できれば
後は息子に任せ、ワシ自身は魔法の習得に時間をさいても良いと思うておる
何せ世界を相手にする訳じゃからな、その為の三年なら早いと言えよう
どうじゃ、ワシをお主の弟子にしてみぬか?」
「信長公が私の弟子にですか!?」
あまりの事に困惑するフリニオーラ、しかし以前から信長の才能は
惜しいと思っていた、これ程の才能ある者を自分で育ててみたいという
願望がなかったと言えば嘘になる、この時初めて師匠の気持ちが
少し分かった気がした、しかし現在の状況を考え断腸の思いで
信長に頭を下げた
「すみません信長公、私達はもうすぐ元の世界へと
帰る事になりそうなのです、私はその為の準備でここに
残ったものですから、お役に立てそうにありません」
「そうなのか、残念じゃ、お主達が帰ってしまうのであるなら
致し方あるまい、しかし寂しくなるのう・・・」
その信長の言葉には本当に寂しそうな気持ちが伝わってきた
だからこそフリニオーラには何も言えなかった。
信長の部屋を出て、自室へ戻るとフリニオーラは再び紙と筆を取り
慌ただしく作業を始めた、もうすでに辺りは完全に暗くなっていたが
魔道具による明かりを頼りに一心不乱に何かを書き始めた。
その頃、夜になってルキア達とゼファーがようやく合流した。
「随分と遅かったじゃねーか、何かあったのか?」
「いや、特には無いよ、特にはね」
ライオスの質問に相変わらず飄々と答えるゼファー。
「何も無かったなら何でこんなに遅かったのですか?道にでも迷いましたか?」
「どうせアンタの事だから途中でナンパでもしていたんじゃ無いの?」
ステイメンとゾフィの言葉にゆっくりと首を振るゼファー。
「そんな訳ないじゃん、俺の心はいつでも君のモノさゾフィ」
そう言ってウインクするゼファーに対し半ば呆れ顔でため息をつくゾフィ
「はいはい、そういうのもういいから、真面目に言う気がないなら
無理に言わなくていいわよ・・・」
ゼファーの言い回しが少し気になったルキアが口を挟んだ。
「なあゼファー、本当に何も無かったのか?」
「ああ、何も無かった事は本当だ、逆にそれが少し引っかかってね
ちょっと遅くなったという訳さ」
「逆に引っかかるとはどういう事ですか?」
ステイメンの質問にやや目を伏せ少し真剣な表情を浮かべるゼファー
「いや何も無いのだからそれに越した事はないのだけれど
今までは些細なことだとしても何らかの予兆みたいな気配は
あったんだ、越後の上杉謙信にしても相模の風魔小太郎にしてもね
そういった情報は服部半蔵さんから聞いてはいた、だけど
あれ以来、他の情報が全くなくなったんだ・・・
本来それはいいことなんだろうけど、あまりに無さ過ぎるというか
それが逆に不気味というか・・・ちょっと表現しにくいんだけどね」
珍しく歯切れの悪いゼファーの言葉にゾフィが堪らず口を挟み
ステイメンもそれに続いた。
「何よそれ、そんなこと言い出したらキリが無いじゃない‼︎」
「確かに気にしすぎだとは思いますが・・・」
するとライオスが待ったをかけるかの様に口を開く。
「いや、そんな事はないと思うぜ、コイツは情報のエキスパートだ
そんなゼファーが何か違和感を感じたというのであれば
そこにはおそらく何かあるはずだ、長年の経験から培ってきた
勘ってヤツはあながち馬鹿にできないぞ」
ライオスのフォローに少し驚くゼファー
「まさかアンタが俺のフォローしてくれるとは思わなかったよ」
ライオスを見つめて微笑むゼファー。
「なあゼファー、君の考えを聞きたい、俺もライオスと同意見だ
確定事項でなくとも良い、その違和感から来る君の推察を述べてくれ」
ルキアからそう促されるとゼファーは渋々ながら話し始めた。
「これは何の証拠もないし、あくまで俺の経験則から導き出した
推測に過ぎない事を頭に入れておいてくれ、今まであった
モノがなくなるというのには何か理由がある、こういった場合
一番に考えられるのは・・・撤退だ」
その言葉に驚く一同。
「撤退!?何よそれ、じゃあ例の銀仮面の男はもう諦めて
撤退したって事?」
「もしそうであれば警戒する必要もなくなりますし
これ以上厄介ごとに巻き込まれなくても済みます
いい事ずくめですが」
だがゾフィとステイメンの言葉に首を振るゼファー。
「裏で何かを画策している者が撤退する場合、理由は二つある
一つ目はゾフィの言う通り、目的遂行が困難だと判断し断念して撤退する時
それともう一つは、目的を完遂したから撤退する場合だ
前者であれば問題ないのだけれど、もし後者の場合・・・」
ゼファーの言葉に思わず息を飲むメンバー達。
「いやいやれは無いって、だって今まで全部私達に防がれてきたじゃない
これで目的達成とかどんだけよ、それ何がやりたかったの?って
レベルじゃない、いくらなんで考えすぎよ」
「さすがに俺もそう思うぜ、巨人属を復活させ鬼神化させてまで
信長公の邪魔をしてきたんだ、これで目的が達成されたとは
とても思えないぞ!?」
ゾフィとライオスが否定するがゼファーの表情は険しいままだった。
「それも引っかかるんだ・・・今までのやり方を見ていると
敵は信長公のことに相当詳しい、佐久間信盛さんを狙ってきたり
将軍足利義昭公を使ってきたりと絡め手も交えてくる様な
狡猾さも持っている、フリニオーラと同クラスの魔法を使えることからも
相当頭がいいはずだ、なのにワザワザ復活させた巨人属を
鬼神化で使い捨てる様な真似をするのはどうしても解せないんだよ
もしかしたらそれも全て敵の思惑通りだとしたら・・・
いや、自分で言ってても余りに突拍子がないし、考えすぎだとは
思うのだけれど、どうにも引っかかってね」
ゼファーの考えに皆言葉を失う、“考え過ぎだ“と言うのは簡単だが
それだけでは割り切れない何かを皆感じていたからだ
メンバー達の心に重苦しいものが漂い、言いようのない
不安と胸騒ぎが湧き上がってくる、そんな空気に耐えられなくなったのか
堪らずゾフィが口を開いた。
「もうワケわかんないわよ、復活させた巨人属を鬼神化したのは
戦闘力を向上させるため、それ以外考えられないじゃない
ねえステイメン、鬼神化以外に魔獣を強化する方法なんてあるの?」
突然の質問に少し戸惑うステイメンだったが、軽く頷き説明を始めた。
「もちろんありますよ、強化魔法で一時的に肉体を強化したりも
できますし、能力向上の武具やアイテムを身につける事で
目的に沿った能力を底上げする事はできます」
「そんな事は私でも知っているわよ‼︎私が聞いているのは
それ以外の方法よ、鬼神化みたいな特殊な術があるのか?
って聞いているの‼︎」
ステイメンは少し考えてから再び説明を始めた。
「無くはないですね、詳しくは知りませんがデーモン化と言って
暗黒魔法の一つであります、鬼神化ほどではない様ですが
一時的に肉体を変化させ大幅に身体能力を強化する事ができるそうです
ですがこれにもデメリットがありまして、デーモン化している時は
剣や魔法などの力は一切使えないと・・・」
話しながらステイメンが何かに気が付いたのか急に話を止め
両眼を大きく見開き何かを考え込む様に固まってしまったのだ。
「どうしたステイメン、何かあったのか?」
心配そうに問いかけるルキアの声も聞こえていないのか
その問いかけに全く答えずブツブツと独り言を言い始めた。
「まさか、いやでも・・・だとしたら・・・」
そして突然“あっ‼︎“っと大声を上げ皆の方に振り向いて叫んだ。
「フリニオーラが危ない、大至急戻りましょう‼︎」
その頃、時を同じくして明智光秀の軍は信長の命を受け
秀吉の援軍に向かう為、出発したところであった。
「殿、元気を出してくだされ、お館様の言った事を
あまりお気になされなくとも良いと思いますぞ」
先日の事で落胆している光秀に家臣の斎藤利三が励ましの言葉をかける。
「それに考え方によっては出雲石見を制圧してしまえば
ご領地が増えるのですぞ、これはお館様が皆の前で
そう宣言しておりますからな、今更撤回はしないでしょう」
利三の気遣いに優しい笑みを浮かべる光秀。
「そうじゃな、お主にも苦労をかけるな利三」
「何をおっしゃいますか、もったいないお言葉、私は稲葉殿と
ソリが合わず、露頭に迷うところを周囲の反対を押し切ってまで
私を召抱えてくれたのではないですか、どれほど感謝しても
しきれませぬ、この斎藤利三、生涯をかけて殿に
お使えいたしまするぞ‼︎」
利三の言葉に嬉しそうに頷く光秀、そんな時である
進軍中の先頭付近から何やらザワつく声が聞こえてきたのだ。
「どうしたのじゃ、何かあったのか?」
思わず利三が問いかけると一人の伝令兵が走ってきて報告を始めた。
「申し上げます、何やら怪しげな男が“殿に合わせろ“と
来ておる様です、名前も名乗らず“会えばわかる“の一点張りでして・・・」
その報告を聞いていぶかしげな表情を浮かべる利三
「何じゃそれは、名も名乗らぬとは・・・で、どの様な
風体をしておるのじゃ?」
「はい、それが不気味な銀の面を被っておりまして
もし本当に殿のお知り合いだったのならばいけないと思い
一応引き留めてはおりますが、どうしたものかと・・・」
利三が思わず光秀の顔を見るが光秀はゆっくりと首を振った。
「私にはその様な怪しげな者に面識はない、どこぞの曲者だろう
捕らえて役人にでも突き出すが良い」
「御意‼︎」
伝令兵は頭を下げた後、走って帰っていった、その次の瞬間
思いもよらない異変が起きた、光秀以外の人間が突然固まってしまったのだ
まるで自分以外の人間の時間が止まってしまったかのように
ピクリとも動かない兵士たち、隣にいる利三も口を開けたまま
硬直してしまっていた。
「どうしたと言うのじゃ、おい利三、どうしたのじゃ返事をせよ、おい‼︎」
光秀がいくら声をかけても誰からも返事が返ってこない
突如訪れた異変に困惑する光秀、そんな中で全く動かなくなり
オブジェと化した兵達をすり抜ける様に近づいてくる者がいた
銀仮面を被り黒マントを付けた怪しげな男が信じられない
速度で地面を滑る様に近づいて来たのである
そして無言のまま光秀の前に立ち塞がった。
「一体何をした?お主は一体・・・」
戸惑う光秀に無言のまま仮面を外す男、すると光秀は一瞬驚
愕の
表情を浮かべるが、次の瞬間には目がトロンと虚な感じになり
脱力し惚けた様な表情へと変わった。
「ハッ、わしは一体!?」
急に正気に戻った利三が慌てて周りを見渡すが先ほどと
何も変わった様子は無い
「どうした利三、寝ぼけておるのか?」
光秀の声に激しく首を振り両手で自らの顔を何度も叩く利三。
「申し訳ございませぬ、一瞬眠ってしまったのか
面目次第もございません‼︎」
「よい、そんなことを一々咎めはせぬ、だがここからは
気を引き締めていくのじゃぞ」
「もちろんにございます、羽柴殿の援軍として我々の懸命の働きを
お館様に見せなければなりませんからな」
「いや、そうではない、利三、目的地の変更じゃ京に戻るぞ」
「は?今何とおっしゃいましたか?」
突然の目的地変更に戸惑う利三、しかし光秀はそんな事は
お構いなしとばかりに馬を反転させ踵を返し兵達に号令をかけた。
「良いか皆の者、我らはこれから京都へと戻り敵を打ち倒す‼︎」
急激な変更に戸惑いを隠せない兵士たち、もちろん兵達は
誰を討ち倒しにいくかなど全く分かっていないのだ‘
「良いか、これから敵を討ち取った者には望むだけの
褒美をくれてやる、皆、見事手柄を立ててみよ‼︎」
光秀の言葉に兵たちの士気が一気に上昇する、その雰囲気に合わせ
自分すらも鼓舞する様に光秀は手に持っていた軍配を京都の方角に向け
兵達に向かって再び大声で叫んだ。
「敵は本能寺にあり‼︎」
光秀の思いもよらない言葉を聞き、利三が呆気に取られている中で
そう宣言した光秀の目は怪しく赤く輝いていた。
記念の100話目でしたがいかがでしたでしょうか?本当は〈本能寺の変〉自体を100話目にする予定でしたが
話の調整がうまくいかず次話へとなってしまいました(笑)ここから最後まで書ききれるよう頑張りますのでもう少しだけお付き合いください、では。




