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フルール

 ウルズ大陸に始まりの町と呼ばれる町があるのと同じく、ミーミル大陸にも始まりの町がある。

 その町は、『フルール』という名称がつけられていて、『ミレイユ』に負けず劣らずの、なかなか活気のある場所だった。


「……綺麗な町ね……ここって」


 高台に立つミナが『フルール』の町並みを眺め、そんな感想を述べている。


 確かに、ここは綺麗な町だ。

 都会というわけではないが、海岸に面した土地に作られた町で、非常に眺めがいい。


「私、おばあちゃんになったら、こういう町に住みたいな」


 サクヤもこの町が気に入ったようだ。

 塩害とか津波とかの心配はあるだろうけど、住む場所として憧れる立地であるというのは、俺も同意だ。


「綺麗だとか住みたいだとか、どうでもいいようなこと言ってんじゃねーよ」


 と思っていたら、白崎がミナたちにツッコミを入れてきた。


 白崎は俺たちの間で流れる呑気な空気がお気に召さなかったらしい。

 まあ、こいつの感想も、ごもっともだ。


 この町に来てからすでに3日が経過しているにもかかわらず……いまだに地下迷宮の在り処が特定できていないんだからな。

 今日も俺、ミナ、サクヤ、白崎の4人で聞き込みをしているが、収穫らしい収穫はなんにもない。


 ちなみに、フィルやクレール、それにマイは、火焔と一緒になって行動している。

 あっちは火焔の接待が主な仕事だ。


 火焔は俺たちのために便宜を図ってくれた。

 だから、彼女のワガママは、ある程度は聞き入れないとだろう。

 ということで、俺たち遠征組のなかでも火焔の接待に適したメンバーが集まって、彼女の要望を聞き入れている、というわけだ。


「俺らの目的は地下迷宮の攻略だろーが。なに、観光客気分で町ん中うろついてんだよ」


 白崎の口から、正論過ぎる言葉が出てきた。

 まさか、白崎から説教されることになるだなんて、思いもよらなかった。


「でも、地下迷宮の手掛かりはゼロなんだし、こうして足を使って情報収集するしかないんじゃないかしら?」

「そもそも、前からここで活動してた地球人(プレイヤー)が探し尽くして見つけられなかったわけだろ。こんなことしてて、本当に地下迷宮が見つかんのかよ」

「それは……そうなんだけど……」


 ミナも白崎に言い負かされている。

 というか、白崎が言っていることは、俺たちも十分理解していることだ。


 俺たちがあっさり地下迷宮を発見できるのなら、ミーミル大陸で活動している地球人(プレイヤー)がとっくの昔に発見しているだろう。

 なにか見落としがあることに期待してたんだが、やっぱり見通しが甘かったか……?


 クロス。

 お前はどう思う?


(ここに来た直後にも言ったことじゃが、1000年前と比べて地形が大きく変わってしまっているから、わしにはミーミル大陸の『ユグドラシル』がどこにあるのかわからぬ)


 そうか。

 この3日間の捜索で、なにかピンとくるものがあれば良かったんだけど、なにも思うところはないか。


(すまんのう……力になれなくて……)


 いや、いいんだ。

 もともと、お前の力は頼りにしてなかったからな。


(なんじゃと! お主、やはりわしのことを見くびっておるな! これでもわしは神じゃぞ!)


 あー、はいはい。

 わかったわかった。

 だから、脳内で喚くのはやめてくれ。


(もういいわい! そのうちお主をあっと驚かせてやるから、今に見ておれ!)


 うん。

 期待してるぞ。

 なにをやるつもりなのかは知らないけど、頑張れ。

 俺たちも俺たちで頑張るから。


「一之瀬くん、さっきからまたボーッとしてるけど、平気?」

「疲れてるのかしら?」


 サクヤとミナが心配そうに俺を見つめていた。

 クロスと話していると、いつもこんな反応をされてしまう。

 やっぱり、今の俺の状態をちゃんと説明したほうがいいのだろうか。


「大丈夫、疲れてない。それより、そろそろお喋りはやめて、聞き込みを再開しよう」


 ひとまず俺は、地下迷宮の発見を優先することにし、アース人のいる方向へと歩き出した。


 ここで時間を浪費し続けるわけにはいかない。

 アースの時間軸で、まだ半年猶予があるとはいえ、逆に言えば、半年しか時間がないとも言える。


 地下迷宮の攻略自体は、半年もあれば余裕で完了するだろう。

 今の俺たちにとって、地下90階層くらいまでは、あっという間に進めるだろうからな。


 問題は、さっきも白崎が言っていたように、地下迷宮の場所が掴めないことにある。

 はたして、地下迷宮はいったいどこにあるのやら……。


「あの、スンマセン」

「?」


 若干の焦りを抱いていたそのとき、俺たちに1人の男が声をかけてきた。


 見た感じ、地球人(プレイヤー)っぽいな。

 眠たそうなタレ目で、右目はすでに瞑った状態になっている。

 そして、その男の手には……カメラがあった。


「……アースにカメラなんてあったんだな」


 男が持つカメラを見ながら、俺はそう言葉を漏らした。


 デジタルではなく、アナログの一眼レフカメラだ。

 地球でも今時珍しい、骨董品の部類に見える。

 そんなカメラを、この男はどうして持っているんだ?

 アースにこんなものがあるだなんて、知らなかったぞ。


「ああ……俺、ジョブが『細工師』なもんで、自作したんス」


 じ、自作だと……。

 カメラを自作するとか、どんだけすごい技術を持ってるんだ、この男は。


「ほう……自作か……ちなみに、俺の銃もほぼ自作だったりするわけだが?」


 白崎が話に乗っかって、自分の銃を見せびらかしながらドヤ顔をしだした。


 自慢はいいから。

 それも何気にかなりすごいと思うけど、今は自慢しなくていいから。


「それで、お前は俺たちになんの用で話しかけてきたんだ?」


 俺は白崎をスルーし、右目を瞑った男に問いかけた。


「写真、撮らせてもらってもいいっスか? 無理なら無理で、全然構わないんスけど」


 ……写真だって?

 それって、この町の風景をじゃなくて、俺たちをってことだよな?

 いや、もっと具体的に言うと、おそらく――。


「……やれやれ。写真――だって? おいおい、そんなことを突然言われても困るな。だが、どうしてもっていうなら、撮らせてやっても――」

「アイドルのミーナさん……っスよね? 友達にあなたのファンだって女子がいて、その子に写真をあげたいんスけど」

「なるほど、そういうことね……でも私、一応もうアイドルは辞めたから、写真も遠慮させてもらいたいのだけど……」

「そっスか……残念っス」


 ミナに写真撮影を断られ、右目を瞑った男はガックリ肩を落としている。


 というか、白崎が2人からスルーされてて、ちょっと可哀想だな。

 でも、ヤロウがヤロウの写真を撮りたがるわけなんてないから、目当てはミナかサクヤだと普通は思うだろ。

 それを見抜けなかった白崎にも非はある。

 今さら顔を真っ赤にして自分の勘違いに気づいたとしても、それは白崎の責任だ。


「く、くそ! 紛らわしい奴だな! だいたい、なんだお前は! いったい何者なんだ! 名前を名乗れ! 名前を!」


 白崎が怒りながら男に詰め寄った。

 勢いでさっきの恥を上塗りするつもりか。

 あとで宿に戻ったら『写真撮ってもらえなくて残念だったな』って言ってやろう。


「俺は……アースでは『ミサキ』ってキャラネームで通ってる者っス」


 俺が白崎を見ながら悪だくみをしていると、右目を瞑った男は自分のキャラネームを口にした。


 ミサキか。

 それは、俺の網膜に表示されているこの男のキャラネームと一致するな。


「俺のことを知らないってことは、やっぱりあなたたちはウルズ出身の地球人(プレイヤー)っスね? 最近、地下迷宮を攻略するためにウルズ大陸から遠征組がやってきたって噂が流れてるみたいっスけど」

「ん、ま、まーな。そういうお前こそ、俺のことを知らないということは、ミーミル出身の地球人(プレイヤー)ってことで間違いなさそうだな!」


 ミサキという男の疑問に白崎が答えた。


「え、あなた、もしかして有名人なんスか?」

「超有名人だ! 俺を知らない奴なんてモグリだね!」


 おい白崎。

 なに、サラリとどうでもいいような嘘ついてるんだよ。

 白崎も俺たちの間で(ある意味)有名っちゃ有名だが、知らないだけでモグリ認定されるほどの知名度はないだろ。


「じゃあ、伺うっスけど、あなたのお名前は?」

「し……白崎(しろさき)耀(よう)だ」

「全然知らないっス。というか、それって本名っスよね? キャラネームのほうは? なんで伏せてあるんスか?」

「う、うぐ……」


 白崎が返答に困っている。

 素直に『ダークネスカイザーです』って言えばいいのに。

 アースに来るような奴なら、それくらいのキャラネームで笑ったりなんてしないんだから、多分。


「こいつのキャラネームはあんまり追及しないでやってくれ」

「はあ、なんかよくわかんねっスけど、了解っス。それで、あなたたちのお名前も聞かせてもらってもいいっスか?」

「俺はシン。ミナのほうは知ってるみたいだから省略するとして、こっちの女の子はサクヤだ」


 自己紹介のついでに、俺はサクヤの紹介も行った。

 すると、サクヤはミサキに軽く会釈をした。


「シン……っスか。つまり、あなたが《ビルドエラー》ってことで、間違いないっスね?」

「ああ、間違ってない」

「やっぱりっスか。ウルズ大陸の人で、黒い鎧を着込んでいるから、もしかしたらって思ってたんスよ」


 ミーミル大陸の人間でも、俺のあだ名を知っている奴がいるのか。

 いったいどんな情報と一緒に出回っていることやらだ。


「俺、《ビルドエラー》には個人的に興味があったんスよね」

「興味?」

「はい」


 男に興味を持たれて喜ぶ趣味はない。

 が、バトル的な意味で興味を持たれたならば、俺もやぶさかではない。


「で、ぶっちゃけどうっスか? 海王とは直接対決するんスか?」

「え? か、海王?」


 と思っていたら、話はバトル方面ではない方向へと飛んでいった。


 いや、バトルと言えばバトルか。

 直接対決とか言ってるし。

 でも、なんでここで海王なんて単語が出てくるんだ?

 意味不明だ。


「あれ? あなたたちって、地下迷宮を攻略しに来たんスよね?」

「ああ、その通りだ」

「だったら、海王と戦うつもりでいるってことっスよね?」

「どうしてそういう結論になるんだ?」

「え?」

「え?」

「…………あっ」

「…………」

「…………」

「…………」

「急用思い出したんで、この辺で失礼させてもらうっス」


 突如、ミサキは俺たちに背を向けてスタスタと歩き出した。


「待てい」


 俺はミサキの肩をガシッと掴んだ。


 逃 が さ な い ぞ。

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