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腕試し

 『スイーヤ』にて旅の準備を整えた俺、クレール、キィス、エマ、クーリ、リアナ、リオの7人は、『ルルック』行きの貨物馬車に乗った。

 そして、ガタゴトと馬車に揺られながら、時折襲ってきたモンスターとの戦闘をこなしながら、2日ほどの時間を費やして、『ルルック』へとたどり着いた。


「ほえー……でっけー街だなー」

「こんなに人が多いところなんて……初めて来ました……」

「…………」


 街のなかに入るなり、キィスとエマ、それにクーリが目を丸くしている。

 こいつらにとって、この街の様相は驚嘆に値するみたいだな。


 街路はしっかり舗装されてるし、人々の恰好や建物もオシャレだ。

 そして人口も、ミレイユやスイーヤとは比較にならないほど多い。

 初めてここに来たのだとすれば、驚くのも無理はないか。


「そうやって、不躾に周りを見回さないでくれるかな。君たち」

「これくらいで優雅さを失しているようでは、私たちが低く見られてしまいますわ」


 どうやら、リオとリアナのほうは動じていない様子だ。


 まあ、こいつらは貴族階級だから、こういった街にもよく来るのかもだな。

 もしかしたら、ここ以上の街に行った経験もあったりするのかもしれない。


「この程度の街を見た程度で浮かれるとは、なかなかの田舎者であるな! 貴様たち!」


 クレールも、リオやリアナと同じ心境であるようだ。


 彼女の場合、700年も生きているのだから、大きな街くらい来たことだってあるだろう。

 それに、そもそもこの街へは以前、俺と一緒に来たりしたこともある。


 ガルディアやフィルと一緒に、先生から寄せられる依頼クエストをこなしていた頃の話で、すでにもう懐かしいとさえ感じる。

 まあ、それはどうでもいいか。


「それで、先生の先輩にあたる方々とは、どちらで待ち合わせを?」

「ああ、確か……こっちだ」


 リオが催促してきたので、俺はアギトたちが待っているであろう街の大広場に向けて歩き出した。






「1ヶ月ぶりだな、一之瀬」


 大広場に着くと、早速ねこにゃんと再会した。

 ねこにゃんの後ろには、以前に会った冒険者のお姉様方もいる。


「1ヶ月ぶり、ねこにゃん。元気そうでなによりだ」

「お互いにな」


 俺たちは互いに健勝であることを喜び合い、軽く握手を交した。


 ねこにゃんとは以前に『スイーヤ』で再会した。

 でも、ねこにゃんたちは、あのあとすぐにルルックへと旅立っていった。

 スイーヤにい続けてくれていれば、アルフヘイムに誘ったんだけどなぁ。


「フッ、随分ねこにゃんさんと親しい様子じゃないか。シン君」


 俺とねこにゃんが挨拶をしていると、クロードが声をかけてきた。


 クロードは、さっきまでねこにゃんたちとは少し離れた位置にいたようだ。

 一緒に固まっていれば、いることがすぐにわかったっていうのに。


「クロードか。お前も元気そうだな」

「元気でなければやってられないさ……なんたって、僕が担当した冒険者連中は――」


 と、そこでクロードの後ろから、野太い男の声が複数聞こえてきた。


「なんだなんだぁ? 女連れの次は、ガキの子守りかぁ?」

「クロードさんも一目置いてるっつぅから期待してたけど、ヒョロッちぃ奴だなぁ!」

「拍子抜けだぜぇ!」


 ……なんか、随分とガラの悪い連中だな。

 もしかして、こいつらがクロードの担当していた冒険者連中か。


 冒険者と言えば、粗暴な奴が多い。

 キィスたちや、ねこにゃんが担当しているお姉様方と比べると、一番冒険者らしい。


 だけど、こいつらはむしろ、山賊とかの呼び方が一番しっくりくるような気がする。

 多分、冒険者になる以前は、そういったお仕事をなされていたのだろう。


「こら! 君たち! 初対面の人に向かって、なんて言い草だ!」

「でもクロードさん。ホントにソイツ、強いんですかい?」

「こんなガキ、俺でも倒せそうですぜ」


 む。

 それはつまり、俺に喧嘩を売っているってことでいいのか?

 だったら俺も、出るとこ出るぞ。

 売られた喧嘩は買う主義だ。


「せ、先生。落ち着いて落ち着いて」

「……俺はいつでも落ち着いてる」


 リオになだめられてしまった。


 ふぅ。

 危ない危ない。

 ここで俺が言い返していたら、乱闘騒ぎになりかねなかった。


「ちょっとぉ、あんたたちはあっちに行っててくんないって、さっき言ったばっかでしょぉ?」

「汗臭いのが、こっちまで臭ってきそうだわぁ」

「あぁ!? んだとこのアマァ!」


 ……と思っていたら、お姉様方がガラの悪い男たちに喧嘩を売りだした。


 さっきまで、ねこにゃんとクロードが離れた位置に陣取っていたのは、これが原因か。

 ねこにゃんチームの女性陣は、クロードチームの男性陣がお気に召さないらしい。


「だから、やめたまえ君たち。ここは僕の顔に免じて、矛を収めてもらえないかな?」

「ちっ……クロードさんがそう言うなら、引き下がってやんよぉ……」


 一応、クロードは男連中をきちんと制御できるようだ。

 ちょっと意外だな。


「なかなか、冒険者たちに慕われてるみたいだな、クロード」

「……まあね。どうせなら、美しい女性たちに慕われたかったけど」


 クロードはそこで、苦い表情を顔に浮かべだした。


 冒険者たちと上手くいけてはいるようだが、男だらけのパーティー構成であることについては、いまだに納得がいっていないのか。

 ブレない奴だな。


「そういえば、アギトはどうしたんだ? ここにはいないみたいだが」


 俺は話題を変え、アギトについてをクロードたちに訊ねた。


 ねこにゃんとクロードはこの場にいるのに、アギトの姿だけは見えない。

 早川先生の話が正しいなら、この場にいるはずなんだが……。


「龍宮寺はまだ来ていない。先ほど来た連絡によると、そろそろ来るはずなんだが――」

「と言ってる間に来ましたよ、ねこにゃん先輩」


 クロードがそこで、俺の後ろのほうへと視線をやった。

 俺たちは全員、その方角へと視線を向ける。


 アギトが数人の男たちを連れ、こちらへと走ってきていた。


「はっ……はっ…………総員、とまれ!」

「サー、イエッサー!」


 そして、アギトたちは俺たちの目の前までやってきて、綺麗に整列しだした。


 ……随分、教育が整ってるな。

 どれくらい走ったのかは知らないが、アギトの背後に横一列となって並んだ男たちは、大量の汗をかいているし、息遣いも荒い。

 なのに、その疲れた様子を態度に表すことなく、姿勢がピシッとなっている。

 普段、どんな訓練を受けてるんだ、こいつらは。


 ちなみに、アギトのほうは涼しい顔をしている。

 このなかでも一番の重装備だっていうのに。

 ステータス補正もあるんだろうけど、素の体力によるところが大きいんだろう。

 俺も、こいつに負けないよう、頑張って鍛えないとだな。


「3人とも、久しぶりだな」


 アギトは、俺たちに乱れのない声をかけてきた。

 相変わらず、こいつの声には言いようのない圧力めいたものを感じる。


「久しぶり、龍宮寺」

「ああ、久しぶりだ、たき


 まず、ねこにゃんが挨拶を行い、アギトの視線がそっちに向いた。


 たきとは、ねこにゃんの名前だ。

 『ねこにゃん』なんて可愛らしいキャラネームをしているわりに、リアルネームはカッコイイ。


「時間通りに来たな」

「当然だ。俺を誰だと思っている」

「いのに高の生徒会長様?」

「その通りだ。しかし、その略称は好かん。我らが母校は、きちんと『国立異能開発大学付属第二高等学校』と呼べ」

「相変わらず固いな。それと、俺たちの学校の名前は長すぎるから、いちいち言ってられない」


 同学年だからか、2人のやり取りは自然なものだ。

 仲が良いなら、ねこにゃんも【黒龍団】に入ればいいのに。

 いまだにキャラネームでいじられるらしいから、入りづらいんだろうか。


 でも、俺が『ねこにゃん』と呼んでも、ねこにゃんはそこまで嫌がってないんみたいなんだよなぁ。

 キャラネーム自体は嫌がっているわけじゃない、ということか。


「お久しぶりです。アギト先輩」

「クロードか。お前も久しぶりだな」


 ねこにゃんの次は、クロードがアギトに挨拶した。


 クロードは『クロード』呼びのままだ。

 まあ、こっちは本名が蔵人くろうどであるらしいから、アギトにとってはその呼び方のままでオッケーなのだろう。


「クロード。俺の助言は役に立ったか?」

「はい……まあ……それなりに」

「そうか。ならいい」


 助言って、以前に通話で言っていた、冒険者は力を見せつければ従うようになる、とかいう話のことか。


 クロードが担当している冒険者連中は全員粗暴だ。

 けれど、それでもクロードの指示には従っているように見える。

 多分、アギトの助言通りのことをしたんだろう。

 どこまでやったかは、わからないけど。


「…………」


 ねこにゃんとクロードとの挨拶を済ませたアギトが、俺のほうを向いた。


 鋭い視線が俺を突き刺してくる。

 怖いからこっち見るな。


 ……まあ、目が合った以上は、俺も挨拶をするべきところか。


「久しぶりだな、アギト」

「そうだな、久しぶりだ。お前と会うのは、アース時間軸換算でいうと、156日ぶりになる」


 わざわざそんなの数えるな。

 おおよそ5ヵ月ぶりくらいなのはわかってるけど、日数で表されると、なんかやだ。


「さて……それでは、この場に俺たち4人と冒険者たちが集結したわけだが、俺のほうから一つ提案がある」


 俺が苦笑いを浮かべていると、アギトはそう言って、この場に集まった全員を見回し始めた。


「提案?」


 いったい、なにを言い出すつもりなんだ。

 俺たちはアギトの言葉に耳を傾ける。


「せっかく集まったのだから、各々が担当した冒険者たち同士で腕試しをしてみる気はないか?」

「冒険者たちを?」

「そうだ」


 ふむ。

 冒険者同士の腕試しか。

 なかなか興味深いな。


 キィスたちがどれくらい強いか、他の冒険者と比較して判断することができるし、悪い話ではない。

 もちろんそれは、キィスたちが首を縦に振ったら、という話だけど。


 俺はキィスたちのほうへと目をやった。


「面白そうだな! やろうぜ、それ!」

「が、頑張ります」

「…………」

「以前よりキレの増した光魔法をお見舞いしてあげますわ!」

「腕試しでしたら、僕も異存はありません」


 どうやら、キィスたちも乗り気のようだ。

 なら、やらせてみるのも一興か。


「クロードさん! やりましょうぜ!」

「あっしらの実力をこいつらに見せつけてやりやしょう!」

「へぇ……あんたたち、私らに勝てるつもりでいるのねぇ……」

「そういうことなら、一度痛い目に遭わせて、どっちが上か、その体にわからせてあげるわぁ」


 クロード側、ねこにゃん側の冒険者連中も、この提案に乗るつもりらしい。


「決まりだな。ではまず、細かいルールを決めていこう」


 アギトがそう言うと、俺たちは全員頷いた。


 こうして、俺たちは輪になって、話し合いを開始した。

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