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成果

 俺、アギト、ねこにゃん、クロード。

 4人が今まで育ててきた冒険者たちを戦わせることが決まってから、20分ほどが経過した。


「模擬戦に出るメンバーは1パーティーにつき5人。刃物類の使用はナシ。時間制限は10分。敵パーティーの誰かに『参った』と言わせるか、審判の判定で、勝敗を決めることとする」


 この20分間で決まったことを、アギトが復唱した。


 パーティーによって人数が5人だったり6人だったりするので、参加者は5人に限定することになった。

 また、これはあくまで模擬戦なので、木剣や木の矢などを使用する。


 時間制限については、設けなくてもいいんじゃないか、という意見もあった。

 けれど、そういう縛りがあった方が、より濃密な戦いができるとのことで、採用というかたちとなった。


 勝敗の決定方法については、これが落としどころだろう。

 シンプルなほうが好ましい。


「1戦目は俺のパーティーとシンのパーティーによる対戦だ。審判は、滝(たき)に務めてもらう」

「任せろ」


 アギトの視線を受け、ねこにゃんが前に出た。


 最初の審判役はねこにゃんに決まった。

 公平を期すため、当事者たる俺やアギトが審判にはならない。

 なので、審判役はねこにゃんかクロードということになる。

 そこでねこにゃんが選ばれるというのは、まあ、順当だ。


「2戦目は滝のパーティーとクロードのパーティー。審判は俺が務める」


 こっちの模擬戦の審判役がアギトであるのも、俺に異論はない。

 俺よりアギトのほうが、正確なジャッジを下してくれそうだからな。

 純粋に観戦もできるし。


「よっしゃ! 腕が鳴るぜ!」

「い……いつも通りいきましょう!」

「…………っ」

「先手必勝で私が光魔法をぶちかましてさしあげますわ!」

「うん、さっきも思ったけど、リアはちゃんと後ろで回復役に徹しようね」


 後ろを振り返ると、戦意マンマンといった様子のキィスたちが、戦闘準備を行っていた。

 一部、チームプレイを無視しそうなのがいて心配だけど、全員、万全の状態で戦えそうだな。


「しかし、いいんですか。冒険者ではない僕まで参加しちゃって」

「いいんじゃないか?」


 不安そうにしているリオに、俺は軽い返答を行った。


 リオも俺が育てているアース人であることに、違いはない。

 それに、模擬戦に参加するメンバーは5人って決めちゃったんだし、リオも出てくれないと、ちょっと困る。


 もちろん、無理強いはしていない。

 リオも、今出した疑問は、ただの確認程度にしか見ていない様子だ。


「シン。準備はいいか」


 アギトが俺に声をかけてきた。

 あっちのチームも、戦闘準備は整っているようだな。

 メンバーは……剣士、戦士、騎士、僧侶、魔術師の5人か。


 通常、戦士と騎士は盾役だ。

 だが、騎士のほうは槍だけで、盾を持っていない。

 盾役兼攻撃役といったところか。


「さっきまで走ってたから全力が出せなかった、なんて言うなよ?」

「当たり前だ。俺が鍛え上げた冒険者を舐めるな」


 俺が軽口をたたくと、アギトは心外だと言わんばかりに「フンっ」と鼻を鳴らした。


「それに、こいつらは全員、王国兵団志望だ。冒険者として戦闘実績を積み、いずれは国の兵士になろうとしている者たちが、そんな軟弱であるわけもない」


 王国兵団志望か。

 なるほど、それなら確かに、普通の冒険者とは日々のモチベーションが違うだろう。

 だからといって、キィスたちに勝てるかどうかは、戦ってみないとわからないけどな。


「お喋りもそれくらいにして、そろそろ始めよう。龍宮寺と一之瀬は下がれ」

「ああ、わかった」

「審判役、頼んだぞ、滝」


 ねこにゃんの指示に従い、俺たちは模擬戦の邪魔にならない位置へと移動した。


「……それじゃあ、龍宮寺パーティー対一之瀬パーティー。模擬戦開始!」


 こうして、キィスたちとアギトパーティーの模擬戦が始まった。


「……先手は取らせてもらう! 『シャウト』!」


 馬に乗ったリオが、模擬戦開始と同時に挑発(タウント)スキルを発動させた。


 挑発(タウント)スキルは、前方にいる生き物の注意を引くことができる。

 それは人に対しても、多少は効果がある。


 アギトチームは全員、リオを強く意識しているはずだ。

 今の状態でリオ以外のメンバーに攻撃しようと思ったら、集中をかなり乱されるだろう。


「な、なんの! 挑発には挑発で対抗させてもらう! 『シャウト』!」


 リオのスキル発動からワンテンポ遅れるかたちで、アギトパーティーに所属する戦士風の男も『シャウト』を発動させた。


 これは向こうもやってくるだろうと思っていた。

 挑発(タウント)スキルは優先的に使うべきだからな。


 ……まあ、それよりも優先して発動させるべきものがあったりするわけだが。


「『エリアプロテクション』! 『エリアブレッシング』!」

「っ! え、『エリアプロテクション』! 『エリアブレッシング』!」


 アギトパーティーの僧侶が範囲バフ(強化)の魔法スキルを発動し、リアナもそれに続いた。


 本来、まず最初にバフをかけてから挑発するのが定石だ。

 しかし、今回はリオが先走ったため、順序が逆になった。


 リオはリアナにバフをする様子がないのを見て、こうした動きに出たのか。

 緊張しているのか、今のリアナはどうも落ち着きがない。

 あとで反省会だな。


 また、リオの動きを見て焦ったせいか、向こうのチームもスキル発動の順序が逆になった。

 戦士の男を見るアギトの視線が怖いぞ。

 あっちもあとで反省会だな。


「『パワーアップ』! さあいくぜ!」


 キィスが攻撃力アップスキルを発動し、戦士の男の前に立ち、剣を振るった。


 ここは正々堂々といくつもりか。

 だが……。


「フンッ! やはり木剣ではその程度の威力しかでないようだな!」


 模擬戦で使用する武器は刃物厳禁。

 なので、キィスの持つ剣も、木でできた練習用の剣だ。


 木剣では軽すぎて、重量装備を着込んだ戦士の防御を突破できない。


「甘いぜ!」

「『ファイアーボール』!」


 キィスが飛び引くと、間髪入れずに炎の玉が飛んだ。

 その火の玉はエマが作り出したもので、戦士の男の腹に命中した。


 武器類は刃物厳禁となったが、魔法関連は制限しなかった。

 魔法はスキルと一緒の扱いだし、無理に縛ると、魔術師が活躍できなくなるからだ。


 そのかわり、魔術師は1パーティーにつき1人のみという制限がついた。

 俺たちのパーティーには魔術師が1人しかいないわけだから、むしろ願ったり叶ったりだな。


「ぐっ……! ……なかなかの連携だな……俺の隙を突くとは」


 戦士の男は苦悶の声を上げつつも、キィスたちを称賛した。


 確かに、今の連携は見事だった。

 リオの挑発も相俟ってのことではあるが、戦士の男に隙ができたのは、キィスの働きがあってこそだ。


 キィスが後ろに下がるタイミングと、エマが『ファイアーボール』を放つタイミング。

 その2つのタイミングがピッタシだったというのが、評価として高い。

 審判役のねこにゃんも、感心したように2人を見ている。


「魔法だったらこちらも負けぬ! 『アイスボール』!」


 エマの魔法に触発されたのか、アギトチームに所属する魔術師の男が氷魔法『アイスボール』を放った。


 標的はキィス。

 どうやら、リオの挑発は魔術師の男がいる後衛の位置まで届いていなかったようだ。


 だが、心配するほどのことではない。


「そんな魔法はもう見慣れてるぜ!」


 キィスは氷の玉を難なく避けてのけた。


 今のキィスには、単発の魔法であれば易々と回避するだけの瞬発力が備わっている。

 これは、アルフヘイムでの鍛練の成果だ。


「くっ……まだまだぁ! 『ファイアーボー……ぐあっ!?」


 再度、魔法を放とうとしていた魔術師に、木の矢が命中した。


 矢を放ったのはクーリか。

 なかなかの命中精度だ。


 このまま魔術師の男の攻撃を阻害し続けられれば、向こうはかなりつらいだろう。


「おい! あの弓兵をなんとかしろ!」

「わかってる!」


 クーリを脅威と見なしたのか、彼女のほうへ剣士の男と騎士の男が走っていった。


「そうはさせるか!」


 リオが後衛の危機を察知したようで、2人の男へ向かって馬を走らせる。

 足の違いもあり、すぐさま追いついた。


「邪魔だ! どけ!」

「どけと言われてどく盾役などいるものか!」


 その通りだな。

 盾役は壁になってナンボだ。


「だが、2人同時にとめられるかな?」

「うっ……」


 状況は1対2。

 リオのほうは馬に乗っているけれど、それで2人の敵を相手できるかというと、そうでもない。

 剣士は足止めできたが、騎士には抜かれてしまった。


「抜かれてますわよ! お兄様! なにやってんですの!」


 エマとクーリの前に、リアナが立った。


 リアナは回復魔法の効果を高める杖の他に、身を守るための盾も装備している。

 その盾は、いざというときは後衛を守ることにも使えるので、心強い。


「良い度胸だ! お嬢さん! 『パワースラスト』!」

「くっ!」


 騎士の男がリアナに槍スキルを振るった。

 その攻撃の威力は高そうに見えたが、リアナは盾でキッチリガードしたので、無傷だ。


「『我が身に眠るマナを贄として捧ぐ……魔の理を以って、今ここに紅蓮の業火を生み出さん……ヘルフレイム』!」


 そして、騎士の男に、エマが得意とする火の魔術が降り注いだ。


 魔術は詠唱時間が長いため、速攻で発動できる魔法と比べると、戦闘においては使い勝手が悪い。

 でも、魔術には、強力な攻撃を発動できる、という利点がある。


 騎士の男が近づくまで、若干の猶予があった。

 エマはその時間を使って、自分が使える最も強力な攻撃を放ってきたか。

 良い判断だ。


「ぐぅ……」


 炎の渦に呑まれた騎士の男は、苦悶の声を上げつつ膝をついた。

 命に別状はないが、回復魔法をかけてやらない限り、もうこの模擬戦で戦う力も残っていないだろう。

 エマの火力を甘く見たな。


「さあ! 今度は剣士の方が倒れる番ですわよ! 私の光魔法をお見舞いしてさしあげますわ!」

「だから、リアは後ろに下がってようね!」

「それよりキィス君にヒールをかけてあげて! リアナさん!」


 少しばかり脇が甘いところもある。

 でも、俺が育ててきた冒険者たち+1は、着実に強くなっていた。


 俺はキィスたちの戦いを見ながら、そう思った。






「……それまで!」


 模擬戦が始まってから10分が経過した。

 それにより、審判役のねこにゃんが、模擬戦終了の合図を出した。


「勝利パーティーは……シンパーティー!」

「よっしゃあ! 勝ったぜ!」


 ねこにゃんの判定を聞き、キィスが喜びの声を上げた。


 この判定は妥当だな。

 序盤にアギトチームの騎士の男を戦闘不能にできたのが大きく、戦況はキィスたちが優位に立っていた。

 まあ、途中から4人になったにもかかわらず、残り時間を粘り強く戦い抜いたアギトパーティーも、十分褒められるべきだけどな。


「……負け、か」


 アギトが呟き声をあげ、俺のほうを向いた。


「なかなかやるな、シン。さすがは、お前が育て上げた冒険者たちだ」

「そりゃどうも。アギトのほうの冒険者たちも、強かったぞ」


 そして、俺とアギトは互いのパーティーを称えあった。


「……しかし、やはり負けてしまったのは許せんな。残りの1ヶ月、俺も死にもの狂いであいつらを鍛えるとしよう」

「ほ、ほどほどにな……」


 負けたことで、アギトの心に火がついたようだ。

 なんというか……死ぬなよ、アギトパーティーの冒険者たち。


「それはそれとしてだ。俺のパーティーとシンのパーティーの模擬戦は終了したのだから、次の模擬戦に移ろう」


 アギトがそう言うと、ねこにゃんのパーティーとクロードのパーティーが対峙した。


「俺のほうのパーティーは全員女性だ。しかし、手加減は無用だからな」

「わかってますよ。できれば僕も、女性が傷つくところは見たくありませんけどね」


 どうやら、どちらのチームも準備は万端であるようだ。


「……よし、それでは、滝パーティー対クロードパーティー、模擬戦開始!」


 こうして、ねこにゃんパーティーとクロードパーティーの模擬戦も行われた。






 そうした模擬戦を交えて、俺たちはそれぞれが育ててきた冒険者の実力を知った。

 それにより、アギトたちも俺の知らないところで頑張っていたということがわかった。


 また、この模擬戦はキィスたちにも良い刺激となったようだ。

 模擬戦を終えた日から、あいつらは狩りと鍛練にこれまで以上の集中力を見せ、強くなっていった。



 ――そして、模擬戦を行った日から、さらに1ヶ月が経過した。

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