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31話:悪役令嬢とカチコミ①

今宵はなんだか、月が赤いですわ。


「いい、夜ですわね。」


ワタクシは目の前にそびえ立つ屋敷を見る。


我らのアイドル犬、キャシーちゃん(♂)。

訓練されたこの子を頼れば、リシィの匂いを探すなんて簡単なことでしてよ。この子との出会いは、風で飛んで行ってしまったワタクシの下着を、口にくわえて屋敷まで来て下さったことから始まりますもの。今では、貧民街の番犬として。……いえ、全然、独特なニオイがあったからとかではないですわよ? 信じて?


ですが、ここからは戦場、バシュヌとキャシーちゃんにはお帰り願いましたわ。荒事は悪役令嬢に任せなさい。


「ふっ。」


手に持つ鉄扇が重く感じる。


横に立つ殿下とメイディの呼吸は整っている、なるほど、準備が完了しているのはワタクシだけではないということですのね。アベルは少々慌てているようですが、足手まといになるなら置いていくだけのことでしてよ。


「こ、この建物は! 殿下! アイリ! 騎士を呼びましょう!」


「「……。」」


「 分かってますか、ここは『ハースヴァン家』の屋敷です!」


「「……。」」


「公爵家ですよ、こ・う・し・ゃ・く! 政治的にヤバいですって! 陛下のご指示を煽ぐべきです! それに、あなたは王子なのですから、もしものことがあってはダメなのです! 聞こえていますか!? ねぇ!?」


「「待ってなどいられない。破滅を、今、すぐ。」」


「おい、そこのメイド、主人を止めろ!」


「お嬢様の輝きを享受し刮目せよ。今宵は血の宴なり――。」


「もぉ! やだ! 帰りたい!」


なにを心配しているのでしょうか。

公爵だろうが平民だろうが、殺せば肉塊ですのに。


わめくアベルを置いて、一歩を踏み出す。

そこにためらいなどありませんわ。


「お嬢様、戦闘は私に。」


「ダメよ、メイディ。最初の火付けは、悪役令嬢の勤めでしてよ。」


ズンズンと敷地へと入っていく。


この屋敷、なにかおかしいわ。

ピリリとした気を感じますもの。

ただの居住建物ではありませんわね。


そのとき――


「おい、止まれ。」


「あら、あなた、警備の者かしら。」


「そうだぜぇ、お嬢さん。ここはハースヴァン公爵家の建物だ、迷子で来るにゃ不幸ってもんだ。ほら、とっとと帰りな、今日は旦那様も来られている日だ、何かあっちゃ俺の首が飛ぶってもんよ。」


「ふ~ん…。」


明らかに騎士ではありませんわ。

ですが、武装している。


傭兵、ゴロツキ――そう呼んだ方がふさわしい風体。


「オホホホ! そうでしたか!これはとんだ失礼を!」


「ケッ、ほら、去った去った。」


しかしまぁ、相手が誰でも関係ありませんわ。

舎弟へ手を出した時点で、全員まとめて敵ですもの。


ワタクシは、鉄扇を手に取り――



「飛ぶのは首だけではなく、その臭い全身でしてよ。」



鉄扇が男の頬へと叩きつけるだけですわ。


「ぶごぁっ!?」


男の身体は地面を滑ることなく、そのまま宙を舞う。


背後の玄関扉へ叩きつけられ――


バキィィン!!


豪奢な両開きの扉が、木片を撒き散らして吹き飛んだ。あらあら、思ったよりも派手な登場になってしまいましたわ、悪役令嬢としては理想的ではなくて?


「さてと、入らさせていただきますわ。失礼しましてよ。」


「さすがお嬢様です。」


「うん、慈悲はいらない、行こう。」


「僕は殿下の護衛、僕は殿下の護衛、僕は殿下の護衛、僕は――。」


それにしても、やけに明るいですわね。


多くが寝静まる時間に関わらず、灯をつけっぱなし?


「妙ですわね…。」


扉を突き破った轟音に釣られ、奥から次々と男たちが駆け込んでくる。にしても、やはり、ただの屋敷ではない…だって…武装している者があまりにも多すぎますもの。


以前に、メイディから聞いた話に似てますわね。



――抗争の準備、だったかしら。



「なにが起きてやがる!?」


剣を抜く者。

棍棒を担ぐ者。

酒臭い息を吐きながら怒鳴る者。


しかし……随分とまぁ、雑魚ばかりを集めたものですわね。

さっさと片付けて、リシィを救出ですわ。


ワタクシは一歩前へ出る。


鉄扇を肩へ担ぎ、大きく息を吸うと――。


「おうおう! ウチのモンに手ぇ出した落とし前、どう付けてくれようかのぉ、ですわ! ガランデ組も舐められたものでしてよ!」


「……誰だ、テメェ。」


「ワタクシは、ガランデ組の悪役令嬢、アイリーン!」


「あぁッ!? ガランデ組……?」


あら、知らないのでして?


よろしくてよ、知りたくなくても知るしかない、そんな悪役令嬢っぷりを皆さんに叩きつけてさしあげましてよ。……と言いたいところですが、今日の主役はこちらの方を立てるのが『スジ』ってものかしら。


そう、隣にいる――


「そして、こちらにおわすは――王族組若頭、ダレン殿下でしてよ! 控えよ控えよ! 図が高いぞ!」


そして、鉄扇を優雅に掲げた。


フフッ……決まりましたわ。


「では、殿下。どうぞ。」


「あぁ、分かった。」


ワタクシの前に、殿下が出る。


「貴殿らが誘拐した少女を…大人しく返してもらおうか。」


殿下の気迫に静まり返るエントランス。


しかし、その静寂を破ったのは一人の大男。

赤ら顔で酔っぱらっでもいるのかしら、見るからに不潔ですわね。ここからの距離でも、コバエがたかっているのが見えましてよ、えんがちょ!


「王子だぁ? 馬鹿も休み休み言え。」


「お、おい、お前。」


「ぷっ、ぶはははは! まさか、てめぇら、信じていんのかよ! 王子様が? 平民一人のために? 堂々と乗り込むなんてよぉ!」


大男は大剣を構え、ゆっくりと階段を降りる。

そして、ワタクシたちへと、一歩また一歩と近づく。


まぁ? 信じられないのも無理はありませんけど?


殿下ほどのお方が、一人の少女のためにここまで来るなど。


ですが――。


「だがまぁ、侵入者には違いねぇ。」


その男は、足元に倒れる仲間を見る。


「だったら、することは決まってんだろ。」


「……。」


「まとめて死ねや。」


大剣が振り上げられた。


その瞬間――



「お見事ですわ。」



一閃。



大男の両腕が、宙を舞った。



「……え?」



今の殿下は、ワタクシも思わず唸る『悪役王子』状態でしてよ?



「そうか。」


殿下は静かに剣を構える。


返り血どころか、剣の錆にさえさせない。

思わずワタクシも見惚れる剣技でしたわ。


「要求は、飲まないということだね。」


大男の喉元へ、剣先が向けられる。


「なら、遠慮はいらないね。」


誰も動かない。

いや――動けないのですわ。


そりゃあ、ここには悪役令嬢に悪役王子、悪役メイドがいて、元・悪役令息を目指した過去がいる者がいるんですもの。ただの何の肩書もない悪役では、話が違ってものでしてよ。


仕方ありませんわね。


「ワタクシを、退屈させないでちょうだい?」


………フッ。


マランドラの真似ですわ。

人生で一度は言ってみたいセリフ、第8位。

やりましたわ…やりましたわ…。


そして、この言葉を受けたモブは――


「や、やっちまえぇぇぇ!!」


誰かが叫んだ。

その声を合図に、男たちが一斉に武器を構える。

モブの反応まで小説通りですわ!


「侵入者を殺せぇぇぇ!!」

「うおおおおおおお!!」


夜のハースヴァン公爵家。


その静寂は、完全に破壊された。


ワタクシは鉄扇を開く。


「さぁ――リシィを返していただきますわよ。」


今宵、この屋敷に踏み込んだ者の名を刻みなさい。


ワタクシは――悪役令嬢アイリーン・ガランデで


【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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