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職業『勇者』って言われたのですが、一緒に転移した同級生いわく違うらしい ~正しい職業を知りたい今日この頃~  作者: 有馬 茶


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第1話:その召喚、いっそテンプレに非ず(?)

連れずれなるままに書き進めてみました。

完結目指して頑張ります。応援よろしくお願いします。

表現や誤記など至らぬ点ありましたら申し訳ございません。改善していきます。

視界を埋め尽くした白光が、ゆっくりと粒子になって霧散していく。

床から伝わるのは、ひんやりとした大理石の感触だった。


「――う、嘘だろ……?」

「ここ、どこ……? さっきまで大学の講義室にいたはずじゃ……」


ざわめきが、波のように広がっていく。

神崎優斗は、急速に覚醒していく意識の中で、まず自分の両手を見た。汚れのない、見慣れた自分の手。五体満足。痛みはない。


ゆっくりと上体を起こし、周囲を見渡す。

そこは、天井がかすむほどに高い、厳かな大聖堂のようだった。

ステンドグラスから差し込む七色の光が、床に描かれた巨大な幾何学模様――魔法陣のようなものを照らし出している。


周囲に倒れ込んでいるのは、見知った顔ぶれだった。

同じ大学の、同じゼミに所属する十四人の同級生たち。


「皆さん、ご無事ですか!? 怪我はありませんか!」


優斗はすぐさま立ち上がり、声を張り上げた。

大学三年生、ゼミ長。それが優斗の肩書だった。

サークルの代表や学業の調整など、面倒な役回りをいつも「自分がやらなきゃ誰もやらないから」と引き受けてきた苦労人としての本能が、この異常事態でも真っ先に働いた。


「おいおいおい……マジかよ……!」


優斗の声に反応したのではない。

ゼミ生の一人、高橋翔が、震える手で自分の顔を覆いながら、しかしその隙間から狂喜に満ちた目を覗かせていた。


「魔法陣、大聖堂、見知らぬ衣装の連中……これ、完全に『アレ』じゃん! 異世界召喚キタこれ!!」


高橋の叫びを皮切りに、数人の学生たちが目に見えて色めき立った。

現実世界の講義ではいつもスマホでネット小説を読みふけり、優斗がレジュメを配っても生返事しかしていなかった面々だ。


「嘘、本当に異世界!? じゃあ私、聖女!? それとも悪役令嬢転生ってやつ!?」

地味だがプライドだけは高かった相沢美月が、自分の服を確かめながら甲高声をあげる。


「ククク……国家の犬になるのは御免だね。まずはギルドに直行して登録だな……」

黒田蓮は早くもポケットに手を突っ込み、ツンとすました顔で周囲を睨みつけていた。


優斗は彼らの反応に強烈な違和感を覚えた。

ここは見知らぬ土地だ。

拉致、あるいはテロの可能性だってある。

なぜ彼らは危機感を持たず、まるでアミューズメントパークにでも来たかのように はしゃいでいるのだろうか。


「みんな、落ち着いてくれ! まずは状況を把握するのが先だ。あそこに人がいる」


優斗が指し示した先――大聖堂の奥、壇上に数人の人物が立っていた。

中心にいるのは、息を呑むほどに美しい、豪奢なドレスを纏った金髪の少女。

その背後には、きらびやかな甲冑に身を包んだ騎士たちと、ローブを着た魔導士らしき老人たちが控えている。


ドレスの少女は、痛ましいものを見るような、それでいて並々ならぬ悲壮な決意を秘めた瞳で優斗たちを見つめていた。彼女の肩は、かすかに震えている。


「……異界の勇者なる皆様。突然の無礼、平に平にご容赦を」


鈴を転がすような、しかし凛とした声が大聖堂に響いた。


「私は聖王国レイヴァルト第一王女、リエル・フォン・レイヴァルトと申します。

 我が国、いえ、このアルスレイア大陸は今、復活せし魔王軍の脅威により滅びの淵にあります。

 勝手極まる願いであることは百も承知……どうか、皆様の力を貸してはいただけないでしょうか」


深く、深く、王女が頭を下げた。

一国の王族が、見ず知らずの異邦人に平伏している。

その事実だけで、この状況がどれほど切迫しているかが分かった。


しかし。

優斗の背後から、緊張感の欠片もない笑い声が漏れた。


「おいおい、やっぱりテンプレ通りの展開だな」

高橋が、肩をすくめながら前に歩み出る。


「ま、呼び出されたもんはしょうがねえ。で、王女様? 俺たちの『ステータス』はどこで見られるんだ? ほら、頭の中で『ステータスオープン』って念じればいいのか?」


その不躾な態度に、王女の背後に控えていた女騎士――燃えるような赤髪をポニーテールにした、美しくも苛烈な目付きの騎士が、即座に腰の長剣の柄に手をかけた。


「貴様、王女殿下に向かってその口の利き方は――」

「セレナ、控えなさい」


リエル王女が手制し、辛うじて一触即発の事態は免れた。

だが、女騎士セレナの目は、完全に高橋たちを「無礼極まる不審者」として捉えていた。


高橋はそんなセレナの視線に気づく風でもなく、「ちぇ、融通の利かない騎士様だな。後で俺が強くなったら手のひら返すくせに」と小声で毒づいている。


優斗は、胃がキリキリと痛むのを感じた。

まずい、ここは日本じゃない。法律も、マナーも、力関係も違う場所だ。

彼らの態度は、現地の人間――それも国家の要人に対して、あまりにも不敬が過ぎる。

もしここで処刑だと叫ばれても文句は言えないのだ。


「――皆さん、一旦ちょっと」


優斗は一歩前に出ると、クラスメイトたちを背に、壇上のリエル王女に向かって深く頭を下げた。


「レイヴァルト王国、第一王女リエル殿下。私は神崎優斗と申します。こちらの十四人の仲間を代表して、ご挨拶申し上げます」


「え……?」

リエルが驚いたように目を見開いた。


「突然の事態に、一同、混乱しております。先ほどの不躾な言動、深くお詫び申し上げます。

 私たちは軍人でもなければ、戦いの心得があるわけでもない、ただの学生です。

 ですが、殿下が命がけで私たちをここに呼んだ理由、そしてこの世界が直面している危機については、真摯に受け止めたいと考えております」


優斗は顔を上げ、リエルの目を真っ直ぐに見据えた。


「まずは、私たちが何をすべきか、この世界のルールを含めて教えていただけないでしょうか。彼らの命を預かる身として、まずは対話をお願いしたく存じます」


優斗の言葉に、大聖堂の空気が張り詰めた。

先ほどまで敵意を隠さなかった女騎士セレナが、驚いたように優斗を凝視している。

リエル王女は、胸に手を当て、そっと息を吐いた。

その表情には、明らかな安堵の色が浮かんでいた。


「……感謝いたします、神崎様。貴方のような理性を備えた方がおられて、救われる思いです」


「おいおい、ゼミ長。何勝手に代表面して頭下げてんだよ」

後ろから、高橋が不満げな声を出す。

「こういうのは、最初に偉そうにしてる王族の鼻を明かすのが定石だろ? お前、本当に頭が固いっていうか、空気読めねえな」


「そうだぞ神崎、お前は現実世界でもそうやって綺麗事ばっかり言ってさ。ここは異世界なんだよ。元の上下関係なんて関係ねえんだわ」

黒田も鼻で笑う。


優斗は彼らを振り返り、静かだが、拒絶の意志を込めた声で言った。

「高橋、黒田。ここはゲームじゃない。僕たちは今、一国の最高権力者の前にいるんだ。

 言葉一つで僕たち全員の首が飛びかねない。元の世界だろうが異世界だろうが、相手に敬意を払うのは当然の義務だ」


「ちっ、これだから真面目クンは……」

高橋は吐き捨てるように呟き、腕を組んだ。


その様子を見ていたリエル王女が、悲しげに目を伏せながらも、毅然とした態度で声を張り上げた。


「皆様、混乱されるのも無理はありません。まずは、皆様がどのような『加護』を神から授かったか、それを確認いたしましょう。宮廷魔導士、鑑定の儀を」


老魔導士たちが一歩前に出ると、詠唱を始めた。

直後、優斗たちの目の前に、淡い光で構成された半透明の板――【神託のステータスボード】が出現した。


「うお、本当に出た!」

「私の職業は何!? あ、聖職者……? 普通ね……」

常識人の宮本真菜が少しホッとしたようにつぶやく。

「俺、重装騎士だって! うお、なんか筋肉が引き締まった気がする!」

体育会系の石田翼が自分の腕をさすりながら興奮気味に言った。


学生たちが次々と自分のステータスを確認し、一喜一憂する。

優斗もまた、自分の目の前に浮かぶ文字に目を落とした。


【名前】カンザキ・ユウト(神崎 優斗)

【職業】勇者

【固有スキル】聖剣適性、勇気、統率、人望、成長加速

勇者。その重々しい響きに、優斗はめまいを覚えた。

決して、最強の力を得て嬉しいという感情ではない。

この世界の人々が、どれほどの藁をも掴む思いでこの職業を求めていたか。

その責任の重さに、胃が圧迫されるような感覚を覚えたのだ。


「おい、俺の職業は……『剣士』?」

高橋が自分のボードを見て、呆然とした声をあげた。

「固有スキルは……『剛力』と『高速剣』? ……チートスキルは? 『無限収納』とか『全属性魔法』とか、もっとレアな固有のユニークスキルはねえのかよ!」


高橋の職業は、ごくありふれた「剣士」だった。

宮廷魔導士の一人が、申し訳なさそうに告げる。

「……今回の召喚では、皆様に様々な適性が割り振られております。勇者としての適性は、皆様の中にただ一人……」


「ただ一人? 誰だよ、そのSランクのチート持ってる奴は!」

高橋が周囲を見回す。


優斗は静かに手を挙げた。

「……僕のボードには、職業『勇者』と書かれている」


その瞬間、クラスの空気が凍りついた。

特に高橋、黒田、相沢の三人は、信じられないものを見るような目で優斗を見た後、その顔に確信と侮蔑の笑みを浮かべた。


「ハハッ、ハハハハハ! マジかよ!」

高橋が突然、大爆笑した。

「おいおいおい! 出来すぎだろこれ! なぁ黒田、相沢、お前らも分かっただろ!?」


「ああ、完全に『あのパターン』だな」

黒田がニヤニヤしながら頷く。


「ええ、間違いないわ。なろう小説の読みすぎじゃないかしらって思うくらい、テンプレ通りね」

相沢も口元を隠してクスクスと笑った。


優斗は眉をひそめた。

「……何が言いたいんだ?」


高橋は優斗に歩み寄り、その肩をポンポンと叩いた。その目は、完全に優斗を見下している。


「いいか、ゼミ長。ネット小説の王道ってやつを教えてやるよ。

 クラス転移で、最初に『勇者』とか『聖騎士』とか言われてチヤホヤされるクラスのリーダー枠はな――『偽物の勇者』なんだよ!」


「……何?」


「お前は現地の奴らに騙されて、都合よく使われて、最後は無様に死ぬか闇堕ちする噛ませ犬枠なんだよ。」


「最初に『ただの剣士』とか『無職』とか言われて追放された俺みたいな奴が、隠されたチート能力に目覚めて、後からお前らを全員見下す本物の主人公になるのさ!」


高橋の妄想は、完全に暴走していた。現実世界では特筆すべき才能もなく、いつも優斗の影に隠れていた。その反動か、自分の「剣士」という平凡な職業こそが、これから始まる大逆転劇の伏線であると、本気で信じ込んでいるのだ。


「そうよ」

相沢美月がリエル王女をキッと睨みつける。

「その王女だって、裏では腹黒いことを考えてるに決まってるわ。

 最初は神崎くんを優遇して、私たちを奴隷みたいに扱うつもりでしょ? 悪役令嬢のテンプレよ。私は騙されないから!」


「俺は国家の犬になる気はねえって言っただろ」

黒田蓮が冷ややかに笑う。

「俺のスキルには『隠密』がある。アサシン系の最強職ってことだ。

 こんな窮屈な城、今夜にでもおさらばして、冒険者ギルドで一気にのし上がってやるよ」


彼らの言葉は、大聖堂にいる現地の人間全員に聞こえていた。

リエル王女はショックのあまり顔を青ざめさせ、女騎士セレナは今度こそ完全に剣を抜こうと、柄を握る手に青筋を立てている。

宮廷魔導士たちは「異界の人間は皆、狂っているのか……?」と怯え、困惑していた。


正気じゃない。


優斗は、彼らの姿に暗澹たる気持ちになった。

ネット小説の知識を現実に持ち込み、目の前にある生きた人間たちの感情や、国家の法を完全に無視している。

彼らはここを「自分が主人公になるためのゲームの世界」だと勘違いしているのだ。


だが、優斗は彼らを見捨てるわけにはいかなかった。

どれだけ愚かであろうと、彼らは同じ日本から来た同級生なのだから。


「みんな、目を覚ますんだ。ここは物語の世界じゃない。生きた人間が暮らす、現実の異世界だ」


優斗の声は、しかし、テンプレの全能感に酔いしれる高橋たちには届かなかった。


「へえへえ、偽物勇者様は言うことが違いますねぇ。まぁ、せいぜい王女様に騙されて、精一杯頑張ってよ。俺は俺のやり方で、この世界の主役トップに登り詰めるからさ」


高橋はそう言い残すと、他の数人の学生を促し、勝手に大聖堂の出口へと歩き始めた。


「待て! まだ話は終わって――」

優斗が止めようとするが、それを遮ったのは、静かに歩み寄ってきたリエル王女だった。


「……神崎様。もう、よろしいのです」

リエルの瞳には、涙がたまっていた。しかし、優斗を見る目だけには、確かな信頼の光が宿っている。


「彼らは……我が国の危機を、私たちの苦しみを、娯楽のように捉えている。それは、召喚した私たちの責任でもあります。ですが……貴方だけは違った」


リエルは優斗の両手を、そっと包み込んだ。その手は小さく、ひどく冷たかった。


「神崎様。貴方が、この世界にとって本物の『勇者』です。どうか……私たちを、お助けください」


その言葉と同時に、優斗の脳裏にシステムメッセージのようなものが響いた。


――固有スキル『人望』が発動しました。

――固有スキル『統率』が発動しました。

――固有スキル『成長加速』が休止状態から解除されました。


派手な光も、爆発的な魔力の向上もない。

ただ、体の中に、泥臭く、しかし決して折れない頑強な「核」が形成されたような感覚。


分かった。やってやる。


優斗は腹を括った。

調子に乗って暴走を始めた同級生たち。彼らがこれから直面するのは、ネット小説の甘い展開などではなく、冷酷な「現実の壁」だ。彼らが犯すであろう過ちの責任を、そしてこの世界の命運を、自分が背負う。


「――リエル殿下。まだ何もわからない私ですがこれより、勇者として頑張ります」


優斗は片膝を突き、王女の前に跪いた。

その姿を、近衛騎士副団長セレナは、先ほどまでの侮蔑を消し去り、値踏みするような、しかし確かな敬意を孕んだ目で見つめていた。


これが、後に「真の勇者」と呼ばれる男の、泥臭くも正当なる歩みの第一歩だった。

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