↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/72

淑女への道

翌朝から早速、レティシアによる本格的な礼法指導が始まった。


一昨日の付け焼き刃の指導とは、比べものにならないほど厳しいものだった。


あれは所詮、その場しのぎでしかなかったのだ。


リアは今、それを身をもって実感していた。


「そこの壁際から、こちらまで歩いてみてくださる?」


朝食後に始まった歩き方の練習を、リアは軽く考えていた。


ただゆっくり、優雅に歩けばいいのだと思っていたのだ。


「……歩幅が広すぎますわ」


「背筋が曲がっていますわ。前をしっかり見なさい」


「足元ばかり気にしすぎですわ」


リアは小さく頷いた。


少しでも気を抜けば、すぐにレティシアの叱責が飛んでくる。


歩き方ひとつにしても、頭の先から指先まで、油断することはできない。


長く平民として生活してきたリアには、それが難しかった。


歩き方など、今まで意識したことすらない。


額には汗が滲んでいた。


家では父の仕立て仕事を手伝い、忙しいときは店の中をせかせかと動き回っていたのだ。


「……私の反応を気にしながら歩かないでくださる?もっと堂々となさい」


レティシアは、リアの歩みをじっと見つめた。


「あなたが不安そうな顔をしていたら、周囲の者まで不安になりますでしょう」


レティシアは、少しだけ声を低くした。


「殿下に恥をかかせるおつもり?」


レティシアの言葉に、リアははっとした。


(……そうだ。私はもう、ただの町娘じゃない)


(レイ様の隣に立つのなら、ちゃんとしなくちゃ。辛くても、逃げちゃだめ。レイ様に恥をかかせるようなことだけは、したくない)


「はい」


リアは、今度は力強く返事をした。


「……その意気ですわ」


レティシアは短く頷いた。


「では、もう一度」


リアは背筋を伸ばし、今度は足元を見ないようにして歩き出した。


「先ほどより良くなりましたわね。その調子ですわ」


些細な一言だったが、リアの表情が少しだけ明るくなる。


「歩行のコツはつかめてきましたわね。そのままカーテシーの練習もしましょう」


「王宮内では、誰と出会うか分かりませんわ。挨拶ひとつで、その人の印象は変わります。しっかり覚えてくださいませ」


「相手に敬意を表すときほど深く。普段の挨拶は、そこまで深くする必要はありませんわ」


「私に続いてやってみてくださる?」


そう言って、レティシアはドレスの裾を軽くつまみ上げ、膝を曲げて優雅に腰を落とした。


完璧なカーテシーだった。


リアも見よう見まねでお辞儀をする。


「……浅すぎですわ」


「もう少し深く。けれど、腰を折るのではありません。背筋は伸ばしたままですわ」


レティシアの動きを思い出しながら、リアはもう一度カーテシーをする。


「まだ少し硬いですわ……もっと自然に」


それから何度も繰り返し、レティシアが納得するまで練習は続いた。


そうしているうちに、いつの間にか昼になっていた。


「レティシア様、リア様。昼食のご用意ができました」


侍女が声をかけに来たとき、リアはやっと休めると思った。


食卓に着くなり、リアは椅子に深く腰を下ろし、ほっと息を吐いた。


「……座り方がなっていませんわ」


レティシアの声に、リアはびくりと肩を震わせた。


「人前で気を抜くことは許されませんのよ」


「……ごめんなさいっ」


(さっき、ちゃんとしようって思ったばかりなのに……私、だめだなぁ……)


リアは自分が不甲斐なく感じ、俯いた。


「謝ることではありませんわ。次から気をつけてくださいませ」


レティシアはそう言ってから、リアを見つめた。


「もう一度、お立ちになって」


言われるまま、リアは椅子から立ち上がる。


「椅子を引いてくださった侍女に、軽く会釈を」


リアが会釈をすると、レティシアは頷いた。


「席に着くときは、ドレスの裾を軽くまとめてから、静かに腰を下ろしなさい」


「背もたれに寄りかからず、背筋は真っ直ぐに」


リアは一つひとつ言われた通りに動いた。


今度は、先ほどよりもずっと丁寧に椅子へ腰を下ろす。


「……そう。それでよろしいですわ」


レティシアの言葉に、リアはほっと胸を撫で下ろした。


食前の飲み物として、果実水が運ばれてきた。


前菜を食べている間は、しばらく注意されることもなかった。


メインの肉を切ろうとして、リアはナイフをカチャカチャと皿に当ててしまった。


静かな部屋に小さな音が響いた。


「力を入れすぎですわ」


レティシアがすぐに指摘する。


「ナイフは押しつけるのではなく、刃を滑らせるようにして切るのです」


「先日、教えたはずですわ」


そう言って、レティシアは自らナイフを手に取り、軽やかな手つきで肉を切ってみせた。


リアはその動きをじっと見つめる。


(まだ慣れていないだけなのに……)


わずかな苛立ちが、つい表情に出てしまった。


レティシアは、そんな些細な表情の変化も見逃さなかった。


「……何か言いたいことがありまして?」


「……いえ、何もありません」


リアは小さく息を吐き、平静を装う。


レティシアはしばらくリアを見つめていたが、それ以上は何も言わなかった。


ただ、静かに食事を続ける。


まだ半日しか経っていないというのに、リアはすっかり疲弊していた。

時間かかってしまった( ´ 'ω' ` )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。