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リアはそのまま暗く、深い、巨大な目に触れる。


『……我に触れるな』


目は怯え嫌がる。


リアは構わず静かに声をかけはじめた。


「争いを嫌い、国を豊かに、平和にしたようとした、貴方はきっと優しい人だった」


「こんな力に頼ってしまうくらいに……」


巨大な目が、ぶるぶると震える。


リアは、まっすぐ見つめ続ける。


「貴方は、間違えちゃったんだね」


「気持ちは、声に出さないと誰にも届かないんだよ」


『お前に!!何が分かる!!』


あたり一面に轟音が響き、黒いインクのようなものが爆発するように吹き荒れた。


「リア!!」


レイが叫ぶが間に合わない。


黒いインクのような暗闇が、リアの姿を完全に包み込んだ。


視界が閉ざされ、周りから音が消える。


暗い


苦しい


自分の感情が沼の底に沈められていくようだった。


『争いを止めた』


『誰も傷つかぬ国を作った』


苦しそうな声が耳元で囁く。


『平和な国を作ったのに…』


『誰も、我を愛さなかった』


リアは闇の中で目を凝らすと、そこには玉座に座る、孤独な王の姿が見えてきた。


豪奢な王座


広い謁見室



騎士


貴族


大臣


王妃


子ども


全員が、まるで人形のように無表情で王を見ていた。


王は震えていた。


『何故だ』


『争いは消えた』


『理想の国になったはずだ』


『なのに何故、こんなにも苦しい』


『我は、正しかったはずだ』


『何が悪かったのか、正しき道を歩んだはずなのに』


リアの胸が痛む。


この人は最後まで、分からなかったのだ


人の心は支配するだけでは手に入らないと。


リアは、ゆっくり口を開いた。


「……ずっと、一人だったんだね」


王の目が見開かれる。


『違う』


「ずっと、怖かったんだ」


『違う!!』


「誰かに、ちゃんと愛されたかった」


「自分を見てほしかったんだね」


王の姿が、激しく揺らいだ。


『黙れぇぇぇぇ!!』


景色が砕け散り黒い感情が荒れ狂う。


リアが呑み込まれている間、レイたちは必死にリアへ近づこうとしていた。


「離れろ!!」


レイが剣でリアを包んでいる闇を斬る。


再生が早すぎて刃がたたない。


ルシナスが舌打ちする。


「キリがねぇ……!」


騎士たちも応戦しているが、押し返され始めていた。


アルヴェインが、確信を持った声で言う。


「今ここにいる“目”こそが、禁呪に飲み込まれた王の魂と呪いが融合した本体です」


その時、闇の奥が淡く、白く光が灯る。


「……!?」


レイが顔を上げる。


雪のように優しく静かな輝き。


闇が少しずつ解けていく。


リアの周囲には白い粒子が舞っている。


闇の中でリアはまっすぐに王を見据えて言った。


「私は、支配されるの嫌だよ」


涙を滲ませながら笑う。


「好きな人と、ちゃんと気持ちを伝え合って一緒にいたい」


巨大な目は怯えながら後ずさる。


『やめろ』


「怖くても、傷ついても、それでも一緒にいたいの…一緒に未来を切り開きたい。」


『来るな』


「だから私は、変えたい」


リアは、そっと手を伸ばした。


「貴方の、悲しかった気持ちも」


リアの光り輝く手が闇へ触れる。


その瞬間、巨大な目から、黒い涙のようなものが零れ落ちた。


リアは、巨大な目に抱きついた。


「だから……見てて」


「私達は必ず幸せになる」


「この国は終わらせない、大丈夫よ」


目が、泣いたまま震える。


『我は……どうしたら……』


『どうしたら良い……』


苦しげな声で呟いている。


『我を……貴様達の手で終わらせてくれ……』


リアは微笑みながら巨大な目から離れ言った。


「私達が貴方を終わらせてあげる、ちゃんと見守っててね。」


リアの隣にレイが並び手を握った。


「原初の王……」


「呪いに手を出し、後の国を混乱に導いたのは許せない。」


威厳のある声でいう。


「だが、この国を作ってくれたことは感謝する」


レイは目の前にいる“王”だったものを真っ直ぐと見る。


レイが小さく呪文を唱え手を翳し、力を込める。


光の球が、徐々に大きくなっていく。


リアは、隣にいるレイと視線を交わし、そっと目を閉じ祈る。


この孤独の王が解放されることを。


この国の未来を心配せず見守っていて欲しいと。


レイの光の球とリアの祈りの光が一つになり巨大な目を完全に包み込んだ。


次の瞬間、光は急激に萎み——弾けた


キラキラとした光の粒が辺り一面へ舞い散る。


静寂に包まれる。


王だった者の姿が消えた場所、そこには一つの棺があった。


最後の瞬間、リアにはユースティアの記憶が流れ込んでいた。


千年前


荒れ始めた国


争い始める人々


王へ忠誠が残っていた数人の従者と、王とユースティア。


ユースティアの力で、呪いが溢れ始めた始祖の棺を一時的に閉じる。


『ユースティア……すまない、君にこんな事を……』


王は、苦しそうにそう言った。


あの日、雪山でユースティアが助けた際に王と過ごした開けた空洞。


そこへ棺は運ばれ、封印の陣が張られる。


ユースティアは、王に最後の別れをした。


そして封印の“要”となった。


リアは、胸を押さえる。


「……そうだったんだね」


ユースティアの記憶を、大切に抱くように。


「私が、ユースティアの叶えられなかった想いを叶えるよ」


その呟きを聞きレイが、すっと目を細めた。


「それはどういうことかな?」


少しだけ、意地の悪い顔。


リアが、はっとする。


その横でルシナスは苦笑した。


(俺に勝ち目は無かったか、まだ諦めるつもりは無いけど。)


(幼い頃に助けてくれたあの日から、俺はずっと忘れられないのに…)


アルヴェインが、わざとらしく咳払いする。


「コホンッ……」


「終わりましたね。魂が墓に残り続け呪いそのものになっていたようです。」


「……この棺は、王宮に戻しますか?」


ルシナスが、棺を見る。


「……これと帰るってのか……」


「でも、この国を作った最初の王か…こんなところに置いておくわけにもな。」


レイが静かに言った。


「今、持って帰っても混乱するだけだろう」


「帰ったら、やらなければならないことが沢山ある。」


「そんな時に最初の王の棺など混乱が増すだけだ、後日で良い。」


「この場所は、村の長が知っていると言っていた」


アルヴェインが、じっとレイを見る。


「……殿下も棺と帰りたくないだけでしょう」


「まあ、それでも良いかと」


レイは、無言で睨んだ。


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