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36

そこに、彼女はいた。


雪のように白く、長い白銀の髪が風も無いのにゆっくりと揺れている。


その姿は人に似ているが人ではない。


触れれば溶けて消えてしまいそうな身体。


リアは、ゆっくりとその存在へ近づいた。


ユースティアは、静かにリアを見つめている。


敵意は感じられなかった。


ずっと、誰かが来るのを待っていたような目をしていた。


リアは彼女に声をかけた。


「……あなたがユースティアね」


白い女は、小さく頷いた。


「ずっと……私に話しかけていた……」


再び頷く。


リアはユースティアを真っ直ぐに見据え言った。


「ユースティア」


「私は…こんな…皆が苦しむ呪いを終わらせたい」


その言葉に、レイが目を丸くする。


「だから、私と一緒に終わらせよう」


「力を貸してくれる?」


周りを静寂が包む。


ユースティアはほんの少し目を伏せた。


まるで、遠い昔を思い出すように…


そしてそっと、リアへ手を伸ばす。


白い指先がリアの手に触れる。


凍えるほど冷たい感覚が走ると同時に、強い意思が伝わってきた。


一人でいた寂しさと、本当はこの国を終わらせたくないという願い。


リアは小さく息を呑む。


ユースティアが口を開いた。


『…来て』


一同は、祠の前へ立つ。


黒い呪いは岩の隙間からヌルリと漏れ出し、地面を這いずり空へ向かって伸びながら王都の方向へ流れていた。


ルシナスが眉をしかめ露骨に嫌そうな顔をした。


「……これを開けろっていうのか」


「こういう虫みたいなやつ苦手なんだよね」


リアが思わず少しだけ笑いそうになる。


そんなことを言いながらも、ルシナスはそのまま岩に手をかけた。


「……ったく、仕方がねーな」


騎士たちが慌てて駆け寄る。


「せーの!!」


重い音が響き巨大な岩がゆっくりと転がった。


祠を開けた瞬間、爆発したように呪いが噴き出す。


「っ!」


騎士たちが腕で顔を覆う。


呼吸が苦しい。


まるで、“憎悪”そのものが溢れ出してきたようだった。


迷っている暇は無かった。


リアは、ユースティアと共に祠の中へ飛び込む。


「リア!」


レイが即座に追う。


ルシナス、アルヴェイン、騎士たちも後に続いた。


全員が中へ入ったのを確認したユースティアは、白い指先で静かに宙をなぞった。


パキ……ッ


入口が、氷で閉ざされる。


騎士の一人が息を呑む。


「閉じ……!?」


アルヴェインが低く言った。


「他に人を近づけないためか……」


中は深く暗かった。


レイが呪文を唱えると、淡い光が祠の中全体を照らす。


数歩先には、下へ降りる階段のようなものが続いている。


階段はそう長くは無く、部屋のような場所へ辿り着いた。


レイとルシナスが自然とリアの前へ出る。


騎士たちも周囲を警戒する。


足元を良く見ると巨大な禍々しい物体を抑えるように、白の陣が地面いっぱいに刻まれていた。


呪いはその中心から脈打つように溢れ出し、まるで生きている心臓のようだった。


白の陣が今にも消えそうなほど弱く光っている。


リアは、無意識に一歩前へ出る。


ユースティアは、静かにその黒を見つめて言う。


『もう限界なの』


その声は、震えていた。

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